第6回:大都市の下水道はアクティブなエネルギー資源

東京都大田区昭和島。工場群が立ち並び、羽田空港を離発着する飛行機が眼前を行き交う臨海部に位置し、昭和島内の東施設、海を隔てた大森側にある西施設、合計41万5309m2の東京都下水道局の森ケ崎水再生センターは、1967年に運転開始した日本最大級の下水処理施設である。

1日の下水処理能力は154万m3。処理された下水は最終的に東京湾に放流する。大田区全域、品川・目黒・世田谷区の大部分を中心とする1万4675ha分、都区部全体の約4分の1の面積を担当する。

 

放流渠では大量の水が流れている。この未利用落差エネルギーを発電に利用。画面右上にあるブルーのパイプがサイフォンで、海側にある発電機に水を流す

 

一般に、下水は以下の行程で浄化される。

家庭や工場から出た排水は雨水とともに下水道管に入り、地下深くを流れて下水処理施設にたどり着く。集まった下水はまず沈砂池に入り、柵で大きなゴミを取り除き、砂などの大きめな固形物を沈殿させる。

その後、第一沈澱池で固形物を時間をかけて沈める。反応槽で微生物の入った活性汚泥を加えて空気を送り込んで下水をかき混ぜ、下水中の汚れを微生物によって分解し、さらに細かい汚れは微生物に付着し沈澱していく。

反応槽でできた泥は第二沈澱池でさらに上澄み水と汚泥に分離させ、最終的に上澄み水を塩素で消毒して海中に放流、または一部を再生水として下水道局内や近隣施設で再利用する。

水再生の過程で出てくる汚泥は、メタン発酵させて消化ガスとして空気中に放出したり、脱水してセメントや軽量骨材の原料としてリサイクルする。

 

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森ケ崎水再生センターでは、下水汚泥メタンガス発酵させる消化槽を3基有し、消化ガスを燃料とする専用の高効率ガスエンジンで発電し、処理場内の動力の一部を賄っている。下水道事業としては国内初となるPFI(Private Finance initiative=民間企業の資金やノウハウを利用して公共施設の建設や運営を行う)事業で、発電事業は森ケ崎エナジーサービス(東京電力と三菱商事の合弁会社)が行う。

PFIの仕組みはこうだ。下水道局は、下水処理のノウハウはあるものの、発電は分野外の事業。そうであれば、発電における設備導入や運営は専門の事業者に任せ、下水道局は下水汚泥消化ガスを無償で提供する代わりに発電した電力を安く購入する。発電事業者は自前で設備を導入するが電力供給による対価を確実に継続的に受け取ることで事業を回していくというものである。

 

下水汚泥は巨大な消化槽に集められ、約50℃の高温で温められる。空気を遮断することで嫌気性の消化菌が活性し、メタンガス発酵が始まる。森ケ崎水再生センターには12000m3の消化槽が4槽ある

 

この下水汚泥消化ガスによる常用発電設備の出力は3200kW、24時間365日フル稼働している。これによって賄える所内動力は2009年度実績で16〜17%。残りは東京電力からの系統電力と、NAS電池(ナトリウム:Naと硫黄:Sを使用した、高エネルギー密度、高効率、耐久性の高い蓄電池)4基合計8000kWに蓄電した深夜電力を組み合わせ、コストパフォーマンスとエネルギー効率の最適化を目指している。「下水処理は人々の生活と経済活動に直結している。一瞬たりとも休むことのできない必要不可欠な事業」と、森ケ崎水再生センタースラッジ管理係長の渡邊正人氏は強調する。

NAS電池は2000kWが4基。深夜電力を蓄電する

 

下水汚泥消化ガスによるバイオマス発電は、下水処理汚泥がエネルギー源である。もう一つ、下水そのものが資源となる発電設備が森ケ崎水再生センターにはある。

東設備に2台合計95kW、西設備に1台4kW、合計100kWに満たない小さな水力発電設備だ。とはいえ、年間の発電量は約80万kWh。一般家庭約230世帯の電力使用量に相当し、それによって削減できるCO2量は約300tである。

「最終処理水を東京湾に放流する際の2.5メートル程度の落差を、何とかエネルギーに変えられないものかという発想から生まれた設備」

こう話すのは、森ケ崎水再生センター運転調整担当係長の中村正紀氏。確かに、放流渠では滝のように処理水が流れ落ち、しぶきを上げている。これをサイフォンで吸い上げて毎秒約5m3の水量を流して水車を回転させ(東施設。西施設の発電機は毎秒0.3m3)、発電に利用する。

 

常用発電設備は3200kWの出力規模。下水汚泥消化ガスと灯油のどちらでも発電できるDual Fuel方式である

 

下水処理によって発生する温室効果ガスは、CO2だけではない。2009年度の都下の下水道局全体の温室効果ガス排出量の内訳を見ると、水処理と汚泥処理に伴う電力使用によって約38.0万tのCO2を排出し、その割合は44%である。汚泥焼却と水処理に伴うN2O(一酸化二窒素)の排出量は、CO2に換算すると約38.1万t。N2OはCO2の約320倍の温室効果があるとされ、下水処理ではN2Oの削減も重要課題となる。

砂町水再生センターに付設する東部スラッジプラントでは、汚泥炭化行程で窒素(N)分を含んだ熱分解ガスを高温で焼くことによってN2Oを大幅削減。さらにそこで発生した炭化汚泥を高温で蒸し焼きにして炭化させ、炭化汚泥を石炭火力発電所で石炭と混焼することで、CO2の削減を図る。

 

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ほかにも、芝浦水再生センターでは下水がもつ熱を熱交換することでセンターの空調に生かす、多摩川上流水再生センターでは汚泥焼却の燃料源として下水汚泥と間伐材の木質バイオマスを混合焼却し、都市ガスの使用量を減らすなど、都全体でさまざまな温暖化防止策を推進している。

これらの施策は「下水道事業における地球温暖化防止計画 アースプラン2010」の一環で行われている。アースプラン2010では、下水道事業における事務・事業から発生する温室効果ガス排出量を、2020年度までに2000年度比で25%以上削減するという目標を掲げている。その初年度である今年は、徹底的な省エネ、下水処理行程と方法の見直し、未利用エネルギー・再生可能エネルギーの活用、技術開発や民間との協同事業などを強化事業として取り組んでいる。

東京都下水道局計画調整部計画課基本計画主査の石黒雅樹氏は、「東京都では全国に先駆けて最先端の技術を導入し、その成果を積極的に発信していくことで、日本の下水道事業の環境対策をリードしていきたい」と意気込みを語る。

 

敷地内には多くの水鳥やトンボが姿を見せるビオトープがある。また、センターの屋上では、絶滅危惧種である渡り鳥のコアジサシが、春から夏にかけて営巣する

 

このように、下水処理時に発生する処理水や汚泥を有効利用している施設は、実は全国に点在しているものの、それらはエネルギー資源として注目されているとは言いがたい。

下水汚泥消化ガス利用のバイオマス発電に関しては、消化槽を有していることが前提となり、放流水による小水力発電は海岸付近に立地していることなど、条件が揃う施設は多くはない。設備導入のコストや敷地の条件、運用のコストパフォーマンスを考えると、事業採算性とどうバランスするかは簡単ではない。

しかし、森ケ崎水再生センターで行っているPFIのように、民間の発電事業者との共同事業で設備導入を行い、運用の手間とコストを抑える方法や、国の補助金利用など、対策を後押しする手段はある。

人間が活動している限り必ず発生する下水をエネルギーに活用する機会を細々でも広げていくことは、地球温暖化防止という観点からも、エネルギーの有効活用という面からも、これからの時代に必要不可欠ではないだろうか。

 

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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