Vol.14 横浜シュタイナー「どんぐりのおうち」の大木尚子さんです!
青葉台駅からバスで15分ほどのところにある、横浜シュタイナー学園。子どもを学園に通わせたいとわざわざ転居してくる人がいるほど、「子どもの育つ力」を重視した独自の教育理念に注目が集まっています。十日市場駅にほど近い横浜シュタイナー「どんぐりのおうち」は、3歳から6歳の就学前の子どもたちのもう一つの「おうち」として、子どもたちの育ちを見守っています。どんぐりのおうち担任教師の大木尚子先生に、お話をうかがいました。

「模倣」と「模範」が基本の子育て

横浜シュタイナー「どんぐりのおうち」の大木尚子先生。とても穏やかで物静かにお話をされる

 

ーーシュタイナー教育を取り入れた幼稚園と、一般的な幼稚園にはどのような違いがあるのでしょうか?

 

大木尚子さん(以下、敬称略): 「どんぐりのおうち」には、普通の幼稚園と同じ3歳児から6歳児までの3学年の子どもたちが通ってきます。しかし、その育て方は、一般的な幼稚園とは対極にあると思います。

 

シュタイナー教育では、人間の成長段階を7年周期でとらえます。

0歳から7歳までが「第一・7年期」で、からだをつくることと、人間の「意志」を育てることを重視しています。

7歳から14歳までが「第二・7年期」で、ここでは感情を育てます。

14歳から21歳までが「第三・7年期」で、この段階でようやく論理的な思考や「知」を育てるのです。

 

ところが、一般的な教育課程では知を最重要視する「知上位」で、幼児教育でも知識を教え込むことから始めるところが多いようです。

 

シュタイナー教育では、まず人間の第一・7年期では、その子の意志、つまり人間の根っこの部分をしっかり育てることから始めます。家でも、土台や基礎がしっかりしていれば、ちゃんとした家が建ちますでしょう? それと同じことです。

 

幼児期、特に小さい子どもほど、まだ体も心もぼんやりと眠っているような状態です。大人が無理矢理目覚めさせて知識を詰め込むのではなく、自発的に動き学んでいくことで、必要な時に適切に知を身につけていくようになります。

 

ーー具体的には、どのように子どもと接しているのでしょうか?

 

大木: 私たちは「教える」ということはしません。小さな子どもでも、自己教育ができるのです。自己教育とは、受け身ではなく自ら学んでいく教育のことです。

 

生まれてから最初の7年間は、子どもはまわりの大人や年長者を模倣して自ら学んでいきます。そのため、大人たちは模倣しやすい環境をつくってあげることが大切です。つまり、自ら子どもの「模範」として、生活、立ち居振る舞い、言葉使いなどをしていくことです。

 

子どもに対しては、言葉を使ってものを教えるのではなく、極力言葉も使わず、行動で示します。言葉を使う時は、簡単な、少ない言葉で穏やかにものを伝えていきます。

 

例えば、子どもたちが元気に騒いでいる時に、教師が大声で「うるさーい! 静かにしなさい!」と怒鳴ったら、子どもたちはそれでおとなしくなるでしょうか? むしろ逆効果で、かえって悪ふざけをしたり、大声で叫んだりすることの方が多いです。そういう時は、落ち着いた小さな声できちんと諭す方が、子どもはその声に耳を傾けようとして、静かになるのです。

 

子どもたちは大人の一挙一動を見ています。それだけに、大人が首尾一貫した態度を取ることがとても大切なのです。

 

 

どんぐりのおうちは、十日市場駅近くの住居用マンションの一室にある。自然素材の温もりにあふれたやさしい空間

 

 

毎日ひたすら決まったリズムとパターンで過ごす

 

子どもたちの持ちものには、それぞれマークが決まっており、お母さんたちはマークに合わせて刺繍をする

 

ーー「どんぐりのおうち」では、子どもたちは一日をどんな風に過ごすのですか?

 

大木: だいたい朝9:00前後に登園します。朝はまだ子どもたちは目覚めきっていない状態。とろーんとした夢のような世界を崩さないよう、目覚めない環境をつくって迎え入れます。

 

その後1時間半くらい、自由遊びをします。木切れ、ひも、布などの素朴なおもちゃで、見立て遊び、ごっこ遊びなどをします。子どもたちが本来もっているファンタジーの世界を体現するのに、素朴なおもちゃはとても役立ちます。例えば、布をかぶって頭に紐を巻き付ければ、冠になります。お姫様にもなれます。

 

遊んだ後は、毎日同じように、同じ場所で、いつも同じやり方で、お片づけをします。子どもによっては、板だけを集める「板屋さん」、ひもを片付ける「ひも屋さん」、木の実を仕分ける子、椅子を片付ける子など、自ずと役割分担がなされていきます。部屋がきれいになったら、みんなで歌いながら布をたたみます。

 

その後、ライゲンといって、歌いながら輪舞をします。これは、教師の身振りに合わせて子どもたちが踊るもので、模倣の一種です。

 

おやつは曜日ごとに穀物のテーマに添ったおやつを与えています。月曜日は玄米団子、火曜日はハトムギ団子、水曜日はきびがゆ、木曜日はライ麦パン、金曜日はオートミールかゆと決まっています。子どもたちは「今日はオートミールだから金曜日だ。明日はお休みだ」などと、穀物で曜日感覚を得るようになります。

 

外遊びは、道路をはさんで向かいにある石田公園の砂場で遊んだり、水曜日には近くの恩田川を散歩するなど、1時間強外で遊ぶようにしています。

 

外遊びから帰ってきたら、教師が「すばなし」をします。昔から語られてきた同じ話を、2週間毎日続けます。途中で、人形劇にするなどして展開します。

そうして、お昼ごはん(お弁当)を食べて、お迎えになります。

 

ーー 毎日毎日、決まったパターンで過ごしているのですね。

 

大木: 毎日同じです。シュタイナー教育では、繰り返しのプロセスをとても大切にしています。子どもは次に何をするのかをわかっており、徐々に子どもたちは自発的に動けるようになります。

 

3歳の子どもたちは徐々に5歳6歳の子どもをまねするようになります。上の子どもがしっかり育っていれば、自ずと年少児は年長児を模倣していくようになります。

 

毎日、毎週、決まったパターンで過ごすので、子どもたちは「そういうものなんだ」と思って日々を過ごします。子どもは、繰り返しが好きなのです。変わらない安定感が心地よく、安心して過ごすことができます。

 

シュタイナー教育のおもちゃは、自然素材の布やフェルト、そして無垢の木など、自然な素材がほとんどだ

 

家庭での時間は子どもの呼吸を大切に、手仕事をしながら過ごす

 

部屋の片隅には、教師たちがしつらえた季節感あるモチーフが飾られている

 

ーー大人も自らを律して生きていく覚悟が求められそうですね。

 

一般的なご家庭では、子どもの食べたいもの、着たい服など、何でも子どもの要望を通すことが多いようですが、シュタイナー教育では「子どもの要望は通らないもの」であるととらえています。

 

1枚服を着せるだけでも、毎日とても大変な思いをしているお母さんもいらっしゃるようですが、「洋服はお母さんが選んだものを着る」と決めて、そのリズムをつくっていけば、過度にがんばらなくても、子育てはとても楽になっていくようです。

 

「選ぶ権利は子どもにはない」と言ってもいいかもしれません。子ども自身が人生で大きな決断をするということは、少なくとも0〜7歳の第一・7年期にはありません。大人が決めてあげる。大人が言ってあげる。親が模範として首尾一貫とした態度を取ることで、子どもは大人のことを信じることができます。

 

そのためには、親自身が迷わずに行動することが大切です。よく、シュタイナー教育をしている家庭ではテレビを見ないと言われますが、あふれる過度な情報やモノから子どもを守ってあげるために、親自身が自ら決めてテレビに依存しない生活をしているから、ということです。

 

ーー「どんぐりのおうち」にはどのようなご家庭の子どもたちが通ってくるのですか?

 

大木: 2005年、十日市場に横浜シュタイナー学園が開園して、翌2006年にどんぐりのおうちができました。学園に通っている子どもの弟妹が多いですが、ほかにも子どもさんがアレルギーで食べられるものが少ないと食から入ってくる親御さん、知識偏重の教育に疑問を持っていらっしゃる方、ともかく小さいうちはお子さんとのんびり過ごす時間を大切にしたい方など、さまざまです。

 

ーーシュタイナー教育では、無垢の木や布、石など、自然素材のおもちゃを大切にしていると聞きします。

 

大木: 子どもはフィルターがないので、いいものも悪いものも、何でも素直に取り入れてしまいます。それだけに、物質的な、できあがったおもちゃを与えるのでなく、木や布、ひも、あみぐるみなど、自然素材のおもちゃを遊びに用いています。それに、公園に行けば、木でも石でも落ち葉でも、何でもおもちゃになります。子どもたちはファンタジーと発想力を駆使し、能動的に遊ぶことができるようになるのです。

 

子どもは、自分の遊びに、現実に体験したものを取り入れていきます。お家で親と過ごす時には、お母さんはぜひ手仕事をやることをおすすめします。針仕事、編み物、料理など、お母さんが何をやっているのかが子どもたちが理解できれば、その隣で子どもたちはよく遊んでくれます。逆に子どもの隣で雑誌などを読んでいると、子どもはお母さんが何をやっているのかわからないので、かえってまとわりつきます。家では、大人は子どもが模倣するのに値する仕事をする、それが近道です。

 

子どもたちの呼吸を大切にする暮らしがとても大切です。吐く息は十分な拡散、吸う息は集中力という意味合いがあります。小さな子ほど、拡散の時間が大切です。拡散と集中のリズムを生活に取り入れてみると、いつしか子どもたちは自分で能動的に動き、必要な時期に知がぐんぐん心身に染み渡っていきます。

 

幼稚園の中では、いつも同じリズムで子どもたちに過ごしてもらいます。それが健全な心身をはくぐむことにつながるのです。

 

 

ーーありがとうございました。

 

子どもたちを温かく見守る大木先生

 

##取材を終えて……(一言)

 

4月のある日、朗らかで温かな声の女性から受けた一本の電話。ちょうど1年前にお宅訪問コーナーで取材をさせていただいた、袴田範子さんからでした。「この方に子どもを見守っていただけることに毎日喜びを感じているんです。尊敬している大木先生をぜひ取材してほしい」とおっしゃった袴田さん。期待に胸をふくらませうかがった「どんぐりのおうち」は、袴田さんのお宅で感じた心地よい安心感と温もりを持つ「家庭」のような空間でした。

 

「大人が子どもの模範として首尾一貫した行動をとる」という言葉を裏打ちするような、大木先生の凛とした美しさ。我が身を省みると……恥ずかしくなるばかりですが、大木先生を取材できた幸運をかみしめながら、子育てに生かしていきたいお言葉でした。

Information

シュタイナー幼稚園「どんぐりのおうち」

横浜市緑区十日市場町871-10 ウィライブ十日市場103

TEL 045-985-7634(電話応対時間 平日13:30〜14:30)

URL:http://www.y-donguri.org

E-mail:info@y-donguri.org

http://yokohamadonguri.blog82.fc2.com/

 

十日市場のシュタイナー幼児教育協会会員幼稚園「どんぐりのおうち」担任教師。ドイツでお子さんを出産し、シュタイナー教育に出会う。その後渡米し、シュタイナーの幼児教育の指導者としてのプログラムを学ぶ。帰国後、あざみ野の「青葉シュタイナーこどものいえ」に勤務、2005年の横浜シュタイナー学園の開設の際に近隣で乳幼児をもつ保護者の呼びかけから親子教室を主宰し、1年後の2006年より「どんぐりのおうち」園長としてシュタイナー教育を取り入れた幼稚園を運営。

 

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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