第19回:時代は“サスティナブル”、そして“ローカリゼーション”へ
映画『幸せの経済学』に見るネクスト・スタンダード

5月21日に東京渋谷・アップリンクで皮切りとなり、そして翌5月22日には全国同時113カ所での自主上映会が行われるなど、現在話題のドキュメンタリー映画『幸せの経済学』。真の幸せと豊かさの概念について問いかけ、全国で大きな共感の輪を読んでいる。

グローバリゼーションとは、世界的な事業展開のために規制緩和をし、多国籍企業が市場を独占することを意味する。世界の貧困解決をうたい文句に進んできたが、逆に貧富の差の拡大や人々の対立、心の病、気候変動などさまざまな問題を生み出すことになった。

本作では、グローバリゼーションの対案としての「ローカリゼーション」という、新しい概念を提案している。便利さや快適性を損なわずに、地方の活性化と自立した自由を獲得することができる。このキーワードに、ローカル・エネルギーの可能性を探る。

 

映画『幸せの経済学』の案内役は、監督でもあるヘレナ・ノーバーグ=ホッジ。スウェーデン生まれの言語学者で、英国に本部を置くISEC(International Society for Ecology and Culture=エコロジーと文化のための国際協会)代表を務め、1986年には持続可能で公正な地球社会実現のために斬新で重要な貢献をした人々に与えられるライト・ライブリフッド賞を受賞した。

ヘレナは1975年にインド北部の小チベット・ラダックに入り、何世紀もの間外の文化の影響を受けずに暮らしてきた人々の慎ましやかな生活が、観光地化と開発によって変化していく様を追いかけてきた。グローバル経済の強烈なインパクトに対し、ラダックの伝統文化を守り自立と誇りを強化するヘレナの草の根の運動は、世界的に評価を受けている。

ヘレナが初めてラダックを訪れた時に地域を案内した青年は「ここに貧しい家はない」と言った。近代化の嵐が押し寄せた数年後、同じ青年は「ラダックは貧しい家ばかり。援助してほしい」と言った。自らの生活を「時代遅れで貧しい」と蔑み、まちには貧富の差ができ、失業者が現れるようになった。大気汚染や水質汚染も進んでしまった……。

 

世界各国の環境活動家らの語りによって、次々と明らかにされるグローバリゼーションの「不都合な真実」。人々を不幸にし、不安を募る。失業者が増えて生活が破綻する。対立を生む。地球環境への影響も甚大だ。気候変動の原因となり、自然資源を消失する。そして大企業によるお金のばらまきと、誤った会計のうえに成り立つ、それがグローバリゼーションである。

ヘレナがラダックで目の当たりにした変化は、世界で「貧困」とされる国や地域だけでなく、日本各地でも同じように起こっていることである。地方の豊かな文化と方言を「恥ずかしい」と感じ、若者の多くは東京を目指す。食料の60%を海外からの輸入に頼っているにも関わらず、毎日大量の食品廃棄物が出る。うつ病や自殺者の増加。減る気配のない失業者の数。日本社会に停滞感が蔓延している。

そんな矢先に起こった[3.11]東日本大震災と東電福島第一原発の事故で、目を覚ました日本人も多い。このまま、同じように走り続けられるはずがない、と。

 

今回の原発事故で、大規模集中型エネルギーの脆弱性が明らかになった。極度に複雑化した「人の顔をしていない」エネルギーは、人の手で直すことすらできず、今なお成すすべなく放射性物質を放出し続けている。地方に押し付けられた負担の結果は、福島という豊かな大地が汚染され長期間立ち入り禁止の地区を生んだ。同時に、エネルギーの受益者であったはずの首都圏が汚染に巻き込まれるという最悪の事態を引き起こしている。

3.11以降、自然エネルギーを普及し脱原発を目指していく“エネルギーシフト派”が勢いづいている。放射性廃棄物の管理などのバックエンドコストや、税負担で賄ってきた原発立地買収、見通しも立たないほどの巨額の賠償額を鑑みるまでもなく、原子力エネルギーは高コストであることが明るみに出た。発電効率わずか35%、遠隔地からの送電によるエネルギーロス、原発維持のために必要な揚水発電などを考えれば、高効率ですらない。

 

「自然エネルギーは高価で効率が悪く、不安定なエネルギーである」として開発に乗り遅れた日本は、これまで世界で飛躍的な普及を果たしてきた自然エネルギー市場で完全に遅れをとっている。

自然エネルギー買取法案の成立の可否が、今後の日本での自然エネルギー普及の道筋を分けていくことになるだろう。現時点で買取制度と補助金の対象となっている太陽光発電分野での経済効果は、経済産業省の試算によると、2020年で最大約10兆円、11万人の雇用効果を生むとしている。

地球温暖化で石油の価値は高騰しており、可採年数もあと40年程度であることと、グローバル化が石油の大量使用を前提に進んでいる現実には、大きな矛盾がある。環境省は今年4月に、日本の風力エネルギーのポテンシャルを、最大で原発40基分と試算する結果を公表した。風が吹いていない時は発電しないため、稼働率を24%と見積もったとしても、日本全体で約2400万〜1億4000万kW分を賄うことができるという。

石油や原発に依存しない新しい方向性に舵を切るべき時が来ている。

 

 

自然エネルギーは地域の活性化と再生に結びつく。なぜなら自然エネルギーは地域に存する資源に依拠し、地域に雇用を生み出すからだ。

山間部であれば間伐材や風倒木、製材時に出る端材などの木質バイオマスが活用できる。林業が盛んな岡山県真庭市では、地元の多業種で木質バイオエタノール、檜の間伐材を利用した道路舗装材、木質コンクリートなど、様々な木質バイオマスを利用した製品化が行われ、それらの技術が注目されて全国各地からの視察ツアーが後を絶たない。市町村合併によって、酪農や農業のバイオマス利用という形でメニューが増えたのもツアーの魅力につながっている。

沿岸部や離島では、波力や潮力・海流エネルギーなど、今後飛躍が期待される海のエネルギーの実証実験のフィールドとして地域活性につながる可能性がある。

 

 

地熱や風力など自然エネルギーが豊富な東京都の八丈島では、地元の建設業者や電気事業者を中心に、小型風車を島のあちこちに立てていきたいと目論んでいる。「本土から技術者を呼び寄せて大規模な風車を設置するのではなく、地元の事業者が小さな風車の立地調整、建設、運用、メンテナンスに関わり、その地の風の性質に合わせてチューンナップして発電効率を上げていく技術を持つ。地元で運用できなければ長続きせず、実証データ提供によって本土のメーカーの実利にもつながる」と、地元電気業者の奥山勝也さんは話す。

太陽光発電や太陽熱利用は全国あまねく場所でポテンシャルがあるが、そのほかにも都市ならではの未利用エネルギーがある。例えば大都市では下水処理の規模も大きい。毎日大量の浄化水が海に放流されるが、その落差エネルギーで小水力発電を行うことができる。下水処理時に発生する下水汚泥や、食品廃棄物をメタン発酵させたガスでの発電は、廃棄物の再利用と温暖化係数の高いメタンガスの有効利用という意味で幾重ものメリットを生み出す。駅の改札口や、スポーツ観戦時の振動を利用した振動発電も、現在研究中だがあなどれないエネルギー源と言える。

 

 

消費者の節電努力、企業のCSR的な環境対策。これらは決してムダではないが、もはや「目先のエコ」では今の地球が抱える本質的な問題は解決し得ない。グローバリゼーションがその根本的な原因であるとするなら、その対極にあるローカリゼーションこそが、問題解決につながる新たな方向性であるはずなのだ。

映画ではローカリゼーションの定義を、経済活動の規模を地域化し、持続可能な経済を求めていくとしている。それは国際的な貿易を排除するものではなく、地域の需要を掘り起こすものである。地域で必要なものを地域でつくる。地域の需要を最優先にするという、極めてシンプルなもの。国はこれまで大企業を中心に行ってきた支援を、地域密着型の中小企業に振り分け、社会の崩壊や環境問題を食い止めるために公平な競争を行うべきだとしている。

地域の資源を使い、地域の人たちが自ら出資し、地元金融は低利融資する。出資者は経済スキームを利用して売電収入を得る。エネルギーの地産地消とともに、地域循環型の経済活動が行われるようになる。

 

 

今日本が置かれている状況を客観的にとらえれば、フレッシュな放射能が毎日放出され続け、食品や海洋への放射能汚染範囲が日に日に広がっていくなかで、どこまでも悲観せざるを得ないほどの厳しい状況だ。

一方で、これまで声を上げてこなかった市民たちが立ち上がり、学び、変化を求め、声を上げている。地方自治体が積極的に自然エネルギーの推進を掲げ、上関原発建設予定地周辺では地方議会が計画の凍結を求める動きを見せ始めた。確実に変化は起きている。最も難攻不落とも思えるエネルギー政策の根幹が、揺らいでいる。エネルギーから始めるローカリゼーション。巨大な震災と甚大な事故という大きなショックがあったからこそ、これを契機に日本を変えようという大きな動きが起き始めているのだ。

この10年の間に、エコロジー、LOHASやスローライフ、サスティナビリティという言葉が浸透し、それを志向する人々が増えてきた。ポスト3.11を生きる私たちにもたらされた新しい概念「ローカリゼーション」。地域の誇りと文化を取り戻し、真の豊かさを地域からつくり出していく。そんな時代を象徴するキーワードになっていくのだろう。

 

Information

ドキュメンタリー映画『幸せの経済学』公式サイト

http://www.shiawaseno.net/

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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