地図が子育て世代の孤独を防ぐ?! ママのための地図づくり「つるみままっぷ」
親子で行ける施設やお店、ベビーカーで通れる道やお散歩コース……、子どもを産む前と後では、まちの見え方はガラッと変化します。横浜市鶴見区で、ママ目線の情報をとことん落とし込んだ地図を企画製作・発行している「NPO法人つるみままっぷ」を訪ねました。

関東地方が異例のスピードで梅雨明け宣言した6月末。私は森ノオトの拠点がある横浜市青葉区からちょっと遠出して、鶴見区にある寺尾地域ケアプラザを訪れました。

 

「ちょっと前まではあの角の看板にバレエ教室があるって書いてたんだけど、なくなっちゃったね」

「あそこに新しくコンビニできていたよね?」

「あの施設は夏になったらプールを出してくれるから、今度一緒に行こうよ」

 

 

鶴見区内の子育て情報を盛り込んだ地図を企画から製作・発行しているNPO法人つるみままっぷ(以下、ままっぷ)。この日は、つるみままっぷ2018年度版をつくるためのミーティングが行われていました。地図をテーブルの中央に広げながら、新たに追加する情報や削除や変更する情報を、赤字で書き足していきます。

 

お店が開店したり閉店したり、毎年変化する情報の更新作業

 

「ミーティングはいつも『結局なにしてたんだっけ?』って感じで雑談で終わることが多いんですよ」と笑うのは、代表の今井幸子さん。2018年度版を更新するために、子育てに役立つまちの情報を1年間かけて100件近く集めてきたのだそう。ミーティングでは、どの情報を更新、新たに掲載するのかを中心に話していきます。

 

この日はNPOの理事でもある4人のメンバーに加えて、ままっぷが開催するイベントに参加して知り合った地域のママたちも子連れで参加していました。テーブルの横には、フロアマットが敷かれ、ちょうど歩きはじめ頃の元気な男の子たちの声が響いています。家族の近況、子どもたちの成長の様子、何気ない会話の中にも、「そうそう、耳鼻科ができてたよね」「あのお店、オムツ替えの台あったけ?」と、まちの情報がとにかく盛りだくさん。今井さんは「地図をつくることが目的というよりは、ここに集まって、子育ての情報を知ってもらう時間になるといいなと思っています」と話します。

 

この日参加した地域のママは、鶴見区出身。「結婚してから地元に戻ってきたんですが、子どもができてから地域のことを再発見しています。ままっぷさんのイベントに参加して、そこで知る情報に助けられています」

 

 

スマートフォンひとつあれば、地図もお店の情報も目的地への到着予定時刻さえも手軽に調べることはできます。ですが、そこに「子連れ」というフィルターを加えた途端、画面の情報がフィットしなくなる経験があるという人は、私に限らないと思います。

 

ままっぷの地図は、0-3歳の親子にとって役に立つ情報を、地図の中にこれでもかというほど細かく落とし込んでいます。

 

「座敷あり」「祝い膳あり」といった子連れでのお店選びの参考になる情報から、「湧き水出てるよ」「ざりがに!」「長いすべり台が人気!」とお散歩にも役立つ口コミがそこかしこに、可愛らしい書体で書き込まれています。目を凝らして読みこんでいくと、まるで地図から話しかけられているような気になってきます。ままっぷのメンバーが実際に歩いて、情報を確認して、掲載する際は、必ずお店や施設側にも確認してもらっているのだそう。

 

 

細かく記された坂の矢印。「急だがベビーカー可」といった子育て世代に嬉しい情報がままっぷならでは

 

 

特に驚くのは、「坂」「急坂」「階段」「スロープ付き階段」の情報を色分けして表記していること。坂に関しては、矢印で登り坂の方向も記されています。鶴見区は坂や細い道が多く、ベビーカーで出かけたのはいいが、下ろうと思ったら階段になっていたり、突き当たりだったり……道を知らないと、子連れでのお出かけにハードルの高い要素が多々あるのだそう。

 

この日参加していた、鶴見区在住歴4年目になるという親子は、「鶴見に住みはじめた頃は、道もよくわからないから、細い道で突き当たって迷子になったりしてました。地区センターでままっぷを見つけてから、子どもとどんぐり拾いに行ったり、お散歩コースを考えたり、とても参考にしています」と話していました。

 

代表の今井幸子さんは、横浜市内の子育て当事者による市民活動をネットワークする「みんなで話そう!横浜での子育てワイワイ会議」実行委員会のメンバーの1人でもある。森ノオトからは理事長の北原まどかも参加している

 

 

今井さんが子育てをはじめた頃、心の拠り所にしていたのが地域の育児教室。

「1歳になって育児教室をもう卒業しなくちゃいけなくなって、“明日から私どこに行けばいいんだろう”ってものすごく不安になったんです」

 

その育児教室で、たまたま隣のアパートに住んでいるママと知り合いになり、そのママから「地区センターにいつでも行ける子どものスペースがあるよ」と教えてもらえて、救われたとのだと言います。

 

 

「子どもと一緒にいると、外出してもせいぜい1時間くらいが限界ですよね。近所に住んでいたとしても、少し時間が違うだけで、知り合うことすらできないのかもしれない。あの時、あのママと知り合えていなかったら、私どうしていたんだろうって今でも思い出します」と当時感じた孤独を振り返ります。

 

 

「私、立ち話の輪が苦手なんです。いつ抜けていいのか分からなくって。でもその輪の中の口コミから子育ての情報って得られるものですよね。子育ての情報が得られなかったらどんどん外に出られなくなる負のスパイラルになってしまう。私と同じように、社交的でない人でも等しく情報が得られるといいのにと思ったんです」(今井さん)

 

 

子どもと行ける遊び場を知り、ママ友ができて、徐々に世界が広がっていった今井さんは、「人に教えたくなるクセがあって」と、自治会館で月1回開かれる子育てサロンで、地域の子育て情報をまとめた壁新聞を独自につくって貼り出すようになります。その頃から「いつか地図をつくりたい」と会う人、会う人に自分のアイデアを伝えていたと言います。

 

 

地域ケアプラザのコーディネーターさんに相談したところ、てらお子育て支援会議「てらおS☆MAP」の活動をしていた兼子潤子さんとつないでもらいます。

「兼子さんに話したら、『地図? じゃあつくろうよ!』って言われて。兼子さんの行動力が本当にすごいなと思いました」と、周囲の人たちの協力を受けて、今井さんの「地図をつくりたい」という夢が動き出します。

 

 

NPOつるみままっぷの理事を務める4人。左から郡幸乃さん、兼子潤子さん、今井幸子さん、金岡真由子さん。郡さんはコミュニティカフェ「よつばカフェ」を自宅で開いている。ままっぷの初版から一緒に製作してきた兼子さんは、「てらおS☆MAP」という子育て支援団体の代表も務める。金岡さんはマップのデザインを担当している

 

 

2008年に8人のママたちが集まり、地図づくりはスタート。それから半年後の2009年3月に初版の「てらおままっぷ」が完成しました。最初は寺尾地区の徒歩30分圏内の範囲での子育て情報を掲載しました。「いつか鶴見全体に広がるといいなって妄想話をしていたんですよ」と懐かしむ今井さん。

 

初版発行後、他の地区からも「ままっぷを自分の地域でつくりたい、つくってほしい」といった声がかかって徐々に地区が広がっていき、2015年に鶴見区全域版を発行するまでに至ります。

 

 

掲載している道は、メンバーで分担して実際に歩いて坂道や階段の情報を調べたり、子連れにやさしいお店にはみんなで行って、口コミに反映させていくという、とことん地道な情報の積み重ねをしてきたままっぷ。だからか、「この道を歩いているほかのママもいる」という足跡が見えてくるような温度感があります。

 

 

外国にゆかりのある住民も多く住む鶴見区とあって、2016年には英語版のままっぷも発行。ままっぷは区役所や地区センター、地域ケアプラザなどで手にはいるほか、厚生労働省の「こんにちは赤ちゃん訪問事業」の訪問員さんの手によって、鶴見区で毎年生まれる約2700人の赤ちゃんのいるほぼすべての家庭に、手渡しで配布されています。

 

 

地図づくりからスタートした活動は、他の地域団体とコラボした自然体験イベント、ママと赤ちゃんのための居場所づくりや幼稚園情報の冊子製作などに広がりをみせ、今年2月にはNPO法人つるみままっぷとして法人化も果たしました。これまで区の助成金や補助金などでまかなっていたままっぷの製作・印刷費ですが、自立に向けて模索する中で、昨年からクラウドファンディングに挑戦。今年も2018年のままっぷ改訂版、そして秋に発行する中国語版の印刷費調達のため、7月15日までクラウドファンディングで支援を呼びかけています。

 

「子育て中のママたちが人か場所につながることが大事。ままっぷを見て、『外に出よう』と思う人が1人でもいてくれたら嬉しい」と今井さん。自分の経験した孤独や不安を次のママたちが繰り返さないために、ままっぷが家の外とつながる一つのきっかけになってほしい。そう願う今井さんの真っ直ぐであたたかな思いが、周囲の人やまちや行政を動かして、子育て世代にやさしいまちを育んでいるのだと感じました。

 

 

ママによるママのための地図「ままっぷ」は、子育て世代自らが取り組む、まちの情報の再編集。子育て環境の改善を国や地方に求めることも大切ですが、必要なものを自分たちで生み出していく、そんな市民力こそが、子育てしやすいまちづくりの一番の近道なのだと感じました。

 

「今後は地図を活用して、もっと鶴見という地域を知ってもらえるような企画につなげていきたい」。内に秘める情熱を静かに実直に語る今井さんの言葉から、我が町・青葉区の子育て支援にも生かしたいたくさんのヒントを得ることができました。

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この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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