こころ病む人が元気になれる居場所が誕生。 里山風景の色濃く残る青葉区寺家町に
こころ病む人、こころ疲れた人が、やりがいや生きがいを感じられる「地域活動支援センター:寺家ハーベスト」が2020年に青葉区寺家町に開所予定です。特定非営利活動法人都筑ハーベストの会・理事長の佐々木秀夫さんにその活動への思いをお聞きしてきました。(ローカルライター講座修了レポート:取材・文=大橋ちよみ)

私が佐々木秀夫さんをインタビューしたのは、2019年12月のことでした。それまでに、都筑ハーベストの会の活動に参加したり、佐々木さんのお話を聞く機会はあったのですが、あらためて活動の原点や、今後の展望をうかがうことにしたのです。

佐々木さんは、「都筑区で心の障がいを持っている人の支援を19年間続けてきた中で、彼らにとって、農作業をすることがとても大切だと強く思うようになりました。地域の人と一緒になって、農に関わることで、障がい者自ら、やる気が出てきたり、元気になっていく姿を見てきました」と、19年間の活動を振り返ります。

さらに障がい者のこころと丁寧に向き合うために、農作業に適した場所を探していたという佐々木さん。里山の風景が色濃く残る青葉区寺家町の田んぼを2017年から、古民家を2019年より借りることができました。「田んぼで一緒に汗を流す人、古民家で手仕事をする人……ただそこに居るだけでもいいんですよ。ゆったりした時間とその場を共有することができる居場所が、彼らには必要です」と語ってくれました。

 

そんな佐々木さんが精神障がい者に興味を持ったのは、大学生の時だったといいます。

精神科医の大平健さんの著書を読んだことがきっかけで、精神を患う人と接したいという思いが芽生え、会社勤めをしながら、西区の精神障がい者のための小規模作業所でボランティアを続けていました。その後、農を切り口とした地域支援の場を自分で作りたいとの思いで、平成13年に「都筑ハーベストの会」を立ち上げました。

 

「現在の福祉制度は、30年~40年前と比べると、雲泥の差で進歩しています。職員やスタッフは資格を取って入社してくるし、行政ともしっかりと連携できるしくみがあります。グループホームの入居者に対しても手厚く面倒をみることができます。しかし、施設のすぐ隣に困っている人がいても、制度の中では、登録者以外に対して直接手助けできません。高齢者はこちら、精神障がい者はこちら、認知症はこちら、子どもはこちら、など線引きされてしまいがちです」と、福祉行政の課題について語る佐々木さん。

佐々木さんがボランティアとして活動していた当時は、今のようなしっかりとした制度がなかったので、隣近所に問題を抱えた人がいて支援しようとした時にも、市民との連携においても自由度が高かったそうです。そんな経験から、現在の進歩した福祉制度を生かしながらも、「枠組み」や「線引き」を外して交流しあえる場所作りに挑戦したいと考えているそうです。そんな佐々木さんの思いを実現するのが、「寺家ハーベスト」です。

 

スタッフと、メンバーさん(精神障がい者として通う人をそう呼ぶそうです)が一緒になって古民家に残されていた古い器具で手作業の脱穀を楽しみました


 

寺家ハーベストでの活動の対象者は、高齢者、認知症の方、重度身体障がい者、精神障がい者、子どもなど、あらゆる人たちです。活動内容は、里山に囲まれた田んぼで、自然を感じながら米作りをしたり、農に関わるさまざまな作業をします。150年の伝統ある古民家の雰囲気の中で、「味噌づくり」や「団子づくり」などを予定しています。

この地域は、雑木林の丘に挟まれた「谷戸田」と呼ばれる水田が幾筋もあり、その奥には溜め池が点在した「昔ながらの横浜の田園風景」が色濃く残っているところです。

ここでの「お散歩会」に参加して四季折々の風景を感じることもできます。

 

「寺家ハーベスト」は2017年の秋から開設の準備をしてきました。

3カ所の田んぼを借りて、精神障がい者の方たちと共に手作業で行う米作りを学び、試行錯誤を続け、2019年秋には、3回目の収穫をすることができました。

11月中旬に、その収穫した米を脱穀するというので、その様子を見に行き、体験させていただきました。私は、手作りの素朴な脱穀機を見るのも使うのも初めてで、昔の農家の人たちを思い浮かべながら、気持ちがゆったりとしていくのを感じました。

 

12月14日には、寺家の田んぼで穫れたもち米で「初餅つきとギターライブ」がありました。開所前の準備段階で縁のあった方や、SNSで知って来た人もいました。

スタッフと一緒になってこの場を盛り上げようとするメンバーさんたち、田んぼ作業に参加した重度身体障がい者とその家族や、近所の子どもたちや、とにかく寺家が好きなのでやってきた人、古民家に興味を持った方、米作りに取り組んでいる女性たちなど、さまざまな人たちが参加していました。

 

障がい者の子どもと餅つきを楽しむ光景

 

縁側で日向ぼっこをしながら歌う大人と子どもたち

 

この古民家は、明治維新の頃に建てられ、2階では養蚕が行われていたそうです。大家さんは、下の階にある囲炉裏を囲んで、おばあさんから昔話を聞いていたそうです。

 

古民家の玄関先でおしゃべりするスタッフの鈴木さんとお母さん方


 

かつて日本人が自然と共生していた「暮らし方を体感できる場」が、ここにあります。

佐々木さんは「無心にもくもくと行う農作業の中で、その作業を得意とする人が出てきて、その場の先輩として、新しくやってきた人に教えていく環境、そこには、障がい者とか健常者とかいう線引きのない関係性が生まれます。障がい者と定義づけられてしまっている人たちも主役になれる場ができるんです。こうしたことで線引きや枠を外したいですねぇ」と言っています。

そんな環境の中で、「何かに気づき、自分から変わっていくこと」が大切なんだ、と私は感じました。

 

「平日の会社勤めでは、利益追求の仕事をし、土日の地域活動では、多様な心と向き合っているんです」と、「福祉の在り方」を語る佐々木秀夫さん

 

佐々木さんが理事長として、19年間継続している「都筑ハーベストの会」では、最初は、「畑で良いものを作って付加価値を上げ、売り先では効率よく販売し、メンバーさんたちに高い賃金が支払えるようにすることを目指していた」とのことです。

しかしある時期から、「経済軸」の考え方を少なくし「こころ軸」に重きを置き、一人ひとりの心と向き合うことにしました。

すると、会の運営自体にも大きな変化が起きて、「その考え方で良かったんだ」と実感した出来事があったそうです。

 

「ある時、病院から出て体力も気力もなく、人が怖いなどもあり、ほとんどうつむいたままだった精神障がい者が、母親に連れられてやってきたんです。都筑区での畑作業を通して彼がだんだん変わってくる姿を丁寧に観ていると、大きな変化がやってきました。まず僕に挨拶をするようになってきたんだ。うつむいていたのが、ふっと笑顔が出るようになったんですよ。そうやって人って変わっていくんだなぁと思ったんです。そこには、お金はどこにも登場しないんですよ。無表情の精神障がい者たちが、笑うようになるんだ!と感動しました。僕は、人が農と関わる中で、自分で変わっていくのがとても嬉しかったんです。ですから、もっとそっちに力を入れようと思ったんです」

と、佐々木さんは穏やかな語り口で熱い思いを語ってくれました。

私は、この話を聞いて、「佐々木さんのやさしいお人柄が表れているなあ」と思いました。

 

「都筑での活動」から一歩進んで「寺家での活動」を準備してきた背景には、「誰もが人の役に立つことができる」という確信があるからです。

佐々木さんは「寺家ハーベスト」の活動で、農ある暮らし方のモデルを創り、豊かな社会の在り方を示そうとしているのだと思いました。

私は、将来の社会を背負って立つ子どもたちとその母親にも、障がい者を含めた人たちと多世代で、共に過ごす暮らし方を体験してもらいたいと思っています。

 

そして、子どもたちに、社会には、自分とは違う個性の人たちがいて、それぞれの在り方で協力し合って暮らしいけることを実感してほしいと思います。

現代に生きる子どもたちは、開発され整備されたまちなかで、同学年の友だちとだけ過ごす時間が多いのではないでしょうか?

自然の中で年齢も経歴も多様な人と一緒に手作業をする時には、助けたり助けられたり、教えたり教えられたりの関係が自然と生まれます。こんな暮らし方の中で、他人を思いやる心・感謝のこころ・生きる力が育つのだと思います。

 

障がい者も健常者も、呼び方はどうであれ、こころが病んだり疲れることはありますよね。

「寺家ハーベスト」が行う農作業は、来たい時に来たい人が好きな関わり方で参加できます。

自分が作業をしなくても、ぼーっと眺めているだけでもよいそうです。ぜひ、田んぼに吹く風を感じに来てみませんか?

または、田んぼに入って、土の感触を足裏に感じながら、無心になって汗を流してみませんか?

 

2020年には、「寺家ハーベスト」が本格始動します。そこでは、いろんな暮らし方を提案します。

古民家も改装され、作業場と交流の場として開放されます。

農に関するいろんな手仕事なども計画しているそうです。

私は、梅干し作り・食べられる野草探し・昔話・紙芝居・昔遊び・里山遊び・手作りなど、いろんなアイディアが思い浮かんできます。

私たちから、「こんな心豊かになれる暮らし方はいかが?」などの声を届けると、それがここで実現するかもしれませんよ。

「農」と「里山での暮らし方」を障がい者と一緒になって自分たちで創る「寺家プロジェクト」の趣旨に賛同する人は、誰でもが参加できるそうです。

ボランティアとして一緒に活動してみるもよし、ちょっとのぞいて遊んでみるもよし、心地よいスタンスで関わってみませんか?

それぞれが「豊かさとは」や「居場所の在り方」を考えるヒントがたくさんありそうです。

 

数年後にこの活動がどのように展開されているのかが楽しみですね。

Information

★特定非営利活動法人都筑ハーベストの会:http://www.tuduki.jp/nc/index.php

★寺家ハーベスト:https://jikeharvest.wixsite.com/jikeharvest

活動場所:寺家ふるさと村バス停から徒歩10分の里山に囲まれた棚田

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