地元の特産品で伝統文化に新たな風を吹かせる~横浜わかやぎの浜なし染め~
かながわブランドである浜なしの剪定枝を使って、浜なし染めの着物などを作る青葉区藤が丘のきもの屋「横浜わかやぎ」。地元の特産品を作る農家と地元で活躍する染織家をつなぎ、オリジナルの染物が誕生するまでを追いました。(2021年ライター養成講座修了レポート・富岡仁美)

淡いピンクやグレーに染めた絹糸で着物や帯、さらにショールやマフラーに織る「浜なし染め」がここ、横浜にあります。浜なし染めは、横浜市の特産品でかながわブランドである浜なしの剪定枝で染めた草木染めの糸で織ったものです。これを手掛けるのが、青葉区にあるきもの屋「横浜わかやぎ」です。

東急田園都市線・藤が丘駅から徒歩3分のところにある「横浜わかやぎ」

 

横浜わかやぎは、店主佐々木俊美さん曰く「職人さんとお客様をつなぐお店でちょっと変わったきもの屋」とのこと。店の間口からは、季節の置物が並び和風小物雑貨の店と思ってしまいそうです。入ってみると圧倒的な量の手ぬぐいが陳列されています。もちろん、和風小物雑貨も手ぬぐい・風呂敷も横浜わかやぎで扱っている商品です。しかし、本業は着物や帯、帯締め、帯揚げなど着物や帯に関連する商品を扱う、れっきとした呉服店です。

店主自ら企画し、染織家に着物や帯の反物を発注することもあります。特に帯締めは、わかやぎオリジナルを職人に発注しており、人気商品になっています。

 

淡い色に染まったマフラーとショール

 

浜なし染めは、お客さんとのつながりから生まれました。ある日、佐々木さんがお客さんの浜なし生産農家、三澤百合子さん宅を訪ねた際、偶然、浜なしの剪定枝を目にして、これで染物を作ったらどうだろうと思いつきました。かねてから、横浜にこだわった染物を作りたいと思っていた佐々木さんはすぐに行動に移します。かれこれ10年以上前のことです。

 

浜なし生産農家から梨の剪定枝を分けてもらい、それを染織家が染め、ショールや反物に織ります。ショールは淡く優しい色で、すぐに人気が出ました。以降、ショール・マフラー類は年に10枚ほど、着物・帯の反物を56反作っています。すべて職人の手作りによるもので大量生産できませんが、毎年作り続けています。

 

浜なしの剪定枝は、最初に佐々木さんが剪定枝を見つけた浜なし農家の三澤さん(三澤総合農場)の協力を得て毎年調達しています。20212月、佐々木さんが剪定枝を調達しにいく機会に運よく同行させていただきました。畑ではちょうどネギの収穫出荷時期で、三澤さんはその作業中でした。浜なしの剪定した枝は、きれいに束ねられて出番をまっていました。

三澤総合農場は、浜なしの他、米、大豆、野菜の栽培を行っています。築150年以上の母屋の裏山には、三澤百合子さんの趣味である椿が何種類も植わっているそうです。大豆はかながわブランドである津久井在来大豆を作っているそうです。

浜なしは「梨三水(幸水・豊水・新水)」を栽培しています。染めに使う枝は品種を区別していないとのことです。剪定は、梨の品質を大きく左右する冬の大事な作業です。もともと剪定枝はミンチにして畑の肥料にしており、今も、浜なし染め用に使う以外は肥料にしています。

 

束ねられ出番を待つ浜なしの剪定枝

 

剪定枝は、佐々木さんの手により、地元横浜の染織家・鐵屋(てつや)園子さんに届けられます。鐵屋さんは草木染研究所柿生工房(草木工房)で草木染めを学び、現代手織物クラフト公募展でグランプリ、国展に入選歴のある染織家で、以前から横浜わかやぎの草木染め着物・帯を手掛けていました。

 

今回、佐々木さんから、鐵屋さんに浜なし染めで淡い色の帯を作ってほしいとの注文があり、その糸を染めるところを鐵屋さんの工房で見学させていただきました。

経糸は生糸、緯糸は紬糸を染めます。細かくした浜なしの剪定枝を煮だした染液につけたあと、経糸は鉄、緯糸はミョウバンで媒染すると、見事に色が変化します。媒染後再び染液に付け、最後は水洗いをして干します。

 

染液を煮だすために浜なしの剪定枝を細かくする

 

染作業中の鐵屋さん

 

染め上った糸。同じ染液だが媒染で色が違う

 

染め上った糸を干す

 

基本、淡い色が特徴の浜なし染めですが、色の違いは、媒染や染液の濃度で出すそうです。過去に染めた糸を見ながら、「染め時間、媒染液が同じでも、年によって、必ずしも同じ色が出るとは限らないのが難しくもあり面白いところ」と鐵屋さんは笑顔で語ってくれました。

 

浜なし染めのバリエーション

 

糸が乾いた後はデザインにそって織りあげていくのですが、今までの作品を見せていただき、この糸はどのように織りあげられるかとても楽しみです。

 

浜なし染め紬着尺「雨の雫」

 

浜なし染めロートン織帯「満月の雫」

 

地元農家と染織家をつないでできた横浜の新たな名産品「浜なし染め」は、決して大量にはできないませんが、毎年織りあげられ、着々と支持を広げています。

 

「ちょっとかわったきもの屋」と店主自らいう通り、日本の伝統技術・手仕事にこだわり、様々な形でその魅力を伝えようとしています。

 

横浜わかやぎのFacebookページで、「きものお話会」という魅力的な催しを開催していることを知り、参加してみました。かれこれ6年前のことです。充実した内容に魅了され、それ以降、月1で開催されるきものお話会にほぼ毎回参加するようになりました。

 

呉服屋で、和裁教室や日本刺繍教室、着付け教室を開催するのは、まぁ、あまり不思議ではありません。横浜わかやぎではそれ以外に、書を楽しむ会、お茶ごっこなど、堅苦しくなく和文化にふれることができる催しを定期的に開催しています。さらに、小鼓教室では、重要無形文化財保持者の久田舜一郎先生の指導が受けることもできます。

 

私が魅了されたきものお話会は、着物に関する書物の朗読と着物に関する歴史や知識を学ぶ会です。時には小千谷縮の雪晒し(新潟)、紅花染め(山形)、結城紬(茨城)、桐生織(群馬)、江戸小紋(東京)などの産地見学や美術館にも行きます。

 

何もしなければ消えてしまいそうな伝統技術を守り、さらにはそれに新しい風を吹き込む。それを地域に根付かせながら人々の手をつなぐべく、今日も横浜わかやぎには伝統と革新の風が吹いています。

Information

横浜わかやぎ

住所:〒227-0043 横浜市青葉区藤が丘1-15-3

電話:045-973-5981

URL:https://wakayagi.info/

営業時間:午前10時~午後7時

定休日:火曜日、第3月曜日

富岡 仁美
この記事を書いた人
富岡仁美ライター
横浜市青葉区在住、長野県飯綱町出身。マンション住まいながら、故郷を思い、土の匂いを感じながらの生活をしたく、ベランダは実生で育てる植物のプランターで埋め尽くされている。好きな書くことで、長年暮らす地域でいろいろな発見があるといいなと思い、森ノオトのライターに。 
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