『子どもの気持ち、大人の気持ち』〜その狭間で〜
1月に、再び緊急事態宣言を受けましたが、子どもたち(親子)の居場所としての重要性が認められ、プレイパークは「もう一度気を引き締めよう!」ということで開催を続けることができました。「自分たちで、今できる事を考えて、楽しむ」。そう思うと、そよ風の心地よさ、冬の陽だまりの暖かさ、水の優しい流れ、鳥のさえずり……。心が安らぐ気持ちのよいものは、身の回りにたくさんあります。その気持ちのよいものの中に、「子どもたちの笑い声や笑顔」が含まれることを願って、今回もこの森ノオトを書かせてもらおうと思います。子どもたちも、自然の一部だから。

(文=山﨑佳之(はんす)/写真=まさみっちょ(妻))

*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

 

「私は、やりたい!」

 

ある日の夕方、子どもたちに「蜘蛛の巣(ロープを蜘蛛の巣状に張り巡らした遊具)作ってほしい!」と頼まれました。しかし、プレイパークの終わりの時間も近かったので、「すぐ作れる遊具なら」ということで、スラッグライン(ピンと張ったラインの上を渡る遊具)を2つクロスさせて、トランポリンを作ることにしました。

 

すると、「ここに布を張って足場(ジャンプする所)を作りたい!」と言い出した子がいたので、私が「ロープの方が安定すると思うよ」と言ったら、「私やりたい!」と、一人の女の子が作り出したのです。

その子は長いロープを上下にクロスさせながら、丁寧に足場を作っていきます。でも、他の子たちは、早く遊びたいから「もういいよ」とか、「そんなにやっても意味ないよ」とか、文句を言います。しかし、その女の子は、聞く耳をもたずに、目をキラキラさせて、黙々と作っているのです。

 

しばらく経ちました。周りの子たちの文句は、止まりません。すると、それを見かねたのか、その女の子のママが「もういいんじゃない?遊ぶ時間なくなっちゃうよ」と、言っていました。

私は、「この子には、この作るのが遊びなんだけどな」と思いましたが、そのママは、それまでもじっと、その女の子のやることを見守っていたので、「やめられない自分の娘の性格」をわかった上で、「周りから言われてやめられなくなっているから、止めてあげているのかな」とも思いました。

 

ロープを1本使い切った所で、その女の子は足場を作るのはやめ、他の遊びに移っていきました。

文句を言っていた子たちも、トランポリンを楽しんでいました。

よく、子どもが夢中でやっていること(遊び)を止める大人がいて、「もったいないな」と思うことがあります。

でも、止める大人側にも、ちゃんとした理由があることがほとんどなので、その駆け引きって難しいなと、常々思うのでした。

 

イベントともなると、大型のロープ遊具に、これでもかというぐらい、人が群がる。でも、子どもたちが本当に好きなのは、一緒に作っていく過程と、最後に解くのを手伝ってくれる時だったりする

 

宝物は誰のもの?

 

1月に緊急事態宣言が出てからの土日は、どこのプレイパークも人で溢れています。遊びに行ける場所をみんな探しているといった感じです。初めての親子も多いので、「プレイパーク楽しい!とここで思ってもらえたら、また来てもらえるよな」という気持ちで、日々動いています。

ある日のこと、ガチャガチャのカプセルを使って、宝探しをすることになりました。遊びに来ていた人たちが、その遊びに乗っかってくれて、カプセルの中にビー玉やベーゴマ、なんと100円玉を入れてくれる人もいました。

 

そして、話を聞きつけて、参加者もたくさん集まり、めちゃくちゃ盛り上がったのでした。ちなみに、宝物は落ち葉や砂場に埋めるなど、結構難しくしたつもりでしたが、人数も多かったので、あっという間に見つけられてしまいました。そして、「もう一回やりたい!」と、2回目は全部、子どもたちの進行で行われたのです。

 

そんな中、あるママが見つけたカプセル(ベーゴマ)を巡って、トラブルがありました。そのカプセルをどうしても欲しかった幼稚園児(そのママの子どもではない)がいて、あまりにしつこいので、そのママがカプセルを渡してしまったというのが、ことの始まりです。

 

そのママと、幼稚園児の一連のやりとりを見ていた別の小学生たちが、「あっ、あげた!」とか「この子が、奪ったんだよ!」とか「それはない。返せよ!」と、文句を言い始めたのです。理由は、「みんなその宝物が欲しかったから」と、「みんな一生懸命探したのでズルはなし」と思ったからでしょう。

といっても、もらった(?)当の幼稚園児は、周りの大きい子たちが何で怒っているのか、あまりわかってない様子に見えます。

「カプセル(宝物)は欲しいけど、みんなが怒っている。どうしたらいいんだろう?」といった様子です。

 

だからこそ、みんなの近くで、わざと関係ない「変な事」を言ったり、「変な態度」をとったりし始めました。しかし、その様子で、ますますみんながイライラしてしまいます……

 

そんな中、周りの子たちが、ガチャガチャのカプセルの投げ合いを始めました。もちろん、中身の景品は抜いていて、軽く投げ合っているのですが。

それを見たその幼稚園児も、「一緒にやりたい!」と思ったのでしょう。真似をして、カプセルを投げたのです。しかも、ベーゴマが入ったまま、ある少年めがけて、本気で投げたのでした。

 

見事に顔面命中……

 

ちなみに、その子がとっている態度に、一番イライラしていたのが、その少年だったので、私は100パーセント殴り返すと思いました。

現に、少年はブチギレた表情で、その顔面に当てられたカプセルを握りしめ、思いっきり振りかぶったのでした。

私は「やばい!」と思いましたが、なんとその少年はとっさに、カプセルを地面に叩きつけて、その場を立ち去ったのでした……

めちゃくちゃ、かっこいいと思いました。相手が小さい子だからといって、よく、あの一瞬で気持ちを切り替えられたなとも思います。

 

私は、その幼稚園児に「もうやめな。今のは、殴られても仕方なかったよ」としか言えませんでした。

そして、殴るのを我慢した少年を褒めに行ったのでした。

 

人が多かったので、その後、その幼稚園児の中で何があったかわかりません。でも、その幼稚園児も帰ったあとの片付けの時に、ベーゴマの入った宝物のカプセルが、そっと倉庫の中に置かれていたのが発見されたのでした……

 

子どもたちが、茂みの中で、大きなスズメバチの巣を見つけた。中は空だったので、みんなで解体することに。ドキドキ、ワクワク……。こういう遊びには、子どもだとか大人だとか関係ない

 

小学生が見つけたシール。「剪定」の印なのだが、小学生からしてみたら「前刀。「どういう意味だ?」と、謎解き遊びが始まった

 

「今年の『一文字』はこれだ!」と言って、コロナ禍(か)の『か』を書いた。子どもたちに、「平仮名かよ!」と、突っ込まれるのが楽しい

鬼の気持ち 

 

まんまるプレイパークには、毎年、節分の鬼が来ます。他の季節のイベント(七夕やクリスマス等)は、やりたい人がいればやる感じの、流動的なものですが、節分だけは、ここ10年来ずっと力を入れています。まあ、その理由は、うちの妻(まさみっちょ)が、節分が好きなだけなのですが(笑)。

 

ちなみに、私の前任(前コラム執筆者)の西田さんは、なぜか、七草粥に力を入れていて、その魂も、節分同様、今もまんまるプレイパークに根付いています。

 

さて、節分の当日。例年なら、しっかり告知もして、朝からたくさんの親子が集まるのですが、今年はコロナの影響を考え、口コミだけの告知にしておきました。それでも、230組の親子が来てくれて、豆の準備をして、鬼の登場を心待ちにしていたのです。

 

そこで、鬼登場!

 

いきなり登場すると、トラウマになってしまう子もいるので、わざと遠く離れたところで叫び、鬼が来たことを知らせます。

 

それでも、当たり前ですが、ほとんどの子が、ママの後ろに隠れたり、逃げたりします。

 

そして、その中の何人かが、勇気を振り絞って、豆を投げて来ます。その姿を見ると、こっち(鬼)も、本気で対応したくなります。

 

「豆が当たったら、逃げる」

 

当たり前のことですが、この「子どもと鬼との暗黙の約束」を破ったら、節分のイベントは成立しません。

あとは、鬼と子どもの、本気の心の戦いです。

 

頃合いを見て退散を考えるのですが、チラッと大人の姿を見ると、豆を投げたり、子どもを必死で守っている姿よりも、笑いながら子どもの様子や、鬼の写真や動画を撮っている姿の方が目立ちます。もちろん、本物の鬼(化物)でないと分かっているので、大人たちは余裕なのですが。

 

しかし、鬼と子どもは本気の戦いです。

こんな時、鬼の私は思うのです。

 

「そんなことしてないで、豆を投げてくれ!子どもを守ってあげてくれ!」と。これが、「鬼の気持ち」です。

 

汚ねぇ足……。家に上がる前に絶対洗えよな

 

お寿司とポテトチップ 

 

夕方5時ごろのことです。

プレイパークの片付けも終わり、差し入れでもらったポテトチップを、みんなで食べていたら、その中の一人の子が「今からお寿司食べに行くんだ!」と教えてくれました。

だから私が、「こんなの食べてていいの?」と聞くと、その子は笑って「大丈夫!」と答えました。

 

そこに、その子のママが迎えに来ました。一緒に来たお兄ちゃんは、ポテトチップを見て「いいの食べてるじゃん」と、ボリボリ食べ出しました。

 

私は、そのママに「今からお寿司食べに行くんでしょ?」と苦笑いして聞くと、そのママは笑いながら「こいつら死ぬほど食べるから、こういうの食べて少しお腹膨らませておいた方がいいのよ」と言い切ったのです。

 

そして、「私も食べよ」と、ポリポリ、ポテトチップを食べ始めたのです。

 

「もうすぐご飯だから、お菓子食べちゃだめ」って、子どもなら一度は言われたことがあると思うし、大人なら一度は言ったことがあると思います。だからこそ、このママの言動に、「なんかいいいな」と思いながら、私も一緒にポテトチップを食べたのでした。

 

冬の夕暮れのことです。コロナが落ち着いたら、またこういうことしたいなと、心から思います。

 

壁があったら、登りたい。

 

水があったら、入りたい。

 

一期一会だからこそ 

 

プレイパークのある1日。卒業遠足で来ていた保育園の子たちと一緒に、ロープ遊具を作っていました。

そして、ロープを結びながらおしゃべりを楽しんでいると、「お弁当のおかず何だった?」という話題になりました。

 

ある女の子が「8文字で、『あ』から始まるおかずだった」と言うので、私が「アメリカンドッグ!」と自信満々で答えると、「それはコンビニでしょ!」とツッコまれました。ちなみに答えは、「アスパラベーコン」でした。……難しい。

 

そこから将来のやりたい仕事の話になり、「私がやりたいのは、今、大変な仕事」と言う子がいるので、私が「医療関係?」と聞くと、それは見事正解でした。

ちなみに、その子が「私が『か』から始まる仕事で、この子は『い』から始まる仕事」と言っていました。

正解は「看護師」と「医者」だったのですが、別の男の子が真顔で「患者?」と答えたので、周りにいたみんなで大爆笑したのでした。将来の夢が「患者」はつらいよな……(笑)

 

昨年度は、コロナ禍で遠出ができずに、近くのプレイパークに遠足に来る団体が本当に多かったです。まんまるプレイパークの近隣の小学校では、昨秋に遠足で遊びに来たのが本当に楽しかったらしく、つい先日「100日間、クラスの全員が宿題を提出できたので、今日はご褒美なんです」と言って、遊びに来たクラスもあったほどです。

 

先生も本当に大変だった(今も大変)と思うけど、こんな状況だからこそ、一期一会で出会えた子も多く、そこから始まった、「普段は出会わないだろう、たくさんの子どもたち」に出会えた1年だったと思うと、コロナ禍も悪くないかなとも思うのです。

 

その日の空も『一期一会』。時には、こんな不思議な空に出会うことも。

 

子どもの気持ち、大人の気持ち 

 

先日、プレイパークではない親子の集まりに行く機会がありました。といっても、そこに来ている子はほとんどプレイパークの常連なので、いつもの感じで私に戦いごっこを挑んできます。もちろん、私も遊ぶ気満々なので、その戦いに答えます。そして、思いっきりキックしてくるヤンチャ坊主を捕まえては、逆さづりにして、グルグル回してあげるのですが、その時、私に向かってくる子どもたちの後ろに、ちょっと悲しい顔をして見ている私の娘の姿に気がついたのです……

 

その時、私は「あぁ、しまった」と思いました。ここがプレイパークなら、私は「プレイリーダー」です。でも、今日は「父親」だ……

もちろん、一緒に遊んでいる子たちには、そんなこと関係ありません。でも、その時、私の娘は「いつも我慢していたんだな」と思ったのです。

 

「今日は仕事(プレイリーダー )じゃない。父親だ」。そう自分に言い聞かせて、私は他の子と同じように、娘を捕まえて逆さづりにして、グルグル回してあげたのでした。

娘の「やめて~」の中から、少しだけ嬉しい気持ちが伝わって来ます。

そして、プレイパークでは絶対に戦いごっこに入ってこない娘が、他の子と一緒になって私に戦いを挑んできたのでした。

 

きっと、大人たちが思う以上に、子どもたちは大人の顔色を伺って、本当はやりたいのに我慢して、一生懸命「子どもを演じている」のかもしれません。

 

もしそれが、子どもの「大人に対する優しさ」だったとしたら、ちょっと胸が苦しくなります。

 

子どもが、子どもらしく居られる場所。言葉で言うのは簡単かもしれませんが、本当に、そういう場所が一人一人の子どもの中に、どれだけあるか?と思うと、大人たちにできることは、もっともっとあるのでは?と思う今日この頃です。

 

大きくなっても遊びたい! 時折、こんな泥投げが始まることも……

 

春の嵐の後に、大きな虹がかかっていた

Information

YPC(横浜にプレイパークを創ろうネットワーク)

プレイパークは「子どもがもっと自由に遊べるように!」という想いをもとにつくられた、野外の遊び場です。

横浜には現在、25箇所のプレイパークがあり、そのまちに住むひとびとが 主体となり、行政(横浜市)の協力と支援を受けて開催しています。

遊び場作りを専門とするプレイリーダーも活躍しています。

https://www.yokohama-playpark.net

 

 

はんすプロフィール20歳の時、子ども向け劇団に所属し日本を旅周りしたのち、その時の仲間と劇団を結成して活動。30歳になった時、もっと子どもの世界を勉強したいと、探求していた中で、プレイパークに出会う。こんな世界で生きていきたいと思い、40歳になった今、仕事も子育ても、生活のすべてがプレイパーク中心でまわっている。

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