第26回:一度、ゼロにしてみよう。本当に大切なものがわかるかもしれない。
映画『地球にやさしい生活』
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

 

ノー・インパクト・マンことコリン・ビーヴァン家族(提供:アンプラグド)

 

『地球にやさしい生活』は、ニューヨークの五番街に住む共働き夫婦+2歳の娘の3人家族が、「地球環境に影響を与えない生活」を実験してみた、究極の省エネ・節電ムービーだ。都会の真ん中で、電車もクルマもエレベーターも使わず、外食もせず、ゴミを出さず、電気を使わない生活にチャレンジ。1年の実験を経て、”ノー・インパクト・マン”ことコリン・ビーヴァン一家が出した結論とは……?

 

※映画『地球にやさしい生活』は、2011年10月8日(土)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町を皮切りに全国で順次公開予定。

 

■「節電の夏」を過ごした日本人なら共感できる?

 

2011年、いままでにない「節電の夏」を過ごした私たち日本人。これまで、暑い日はエアコンで部屋をキンキンに冷やし、真夏なのにオフィスでブルブル震えながらブランケットにくるまったり、ちょっと買い物に行くのにもクルマを乗り付けて……なんて生活を当たり前に謳歌してきた。原発事故後の今夏、初めて、こまめに照明を消したり、コンセントを抜いたり、冷房の設定温度を高くするなど、涙ぐましい努力を始めた人もいるだろう。駅や商業施設の照明は暗めで、電車もほんのり汗をかくくらいに涼しくなくて、「これでも、十分じゃない?」ということに、改めて気づいた人も多いはず。電力が足りなくなるかもしれない危機意識がきっかけにせよ、今夏の節電は、日本人の価値観を変える大きな一歩になった。

 

実はいまから5年前に、都会の真ん中で、「究極の節電」に挑んだ家族がいる。この映画『地球にやさしい生活』の主人公・コリン・ビーヴァンは、ニューヨークの五番街にある自宅で地球環境に影響を与えない生活実験を2006年11月より始める。1年間という期限を設け、実験の様子をブログで公開。ブログは1年半の間に1300万アクセスを突破、ABCテレビを始めとするアメリカの主要メディアや、フランスなど海外からも取材が殺到し、「ノー・インパクト・マン」として一躍時の人となる。

 

 

■エレベーターを使わずゴミを出さず、ついに電気も使わず……

 

コリンは環境意識の高い小説家で、独自の人生哲学を持つ。「自分ではなんにもしないのに、世界のあらゆることについて文句を言っている、そんな自分が嫌になった」と考え、実験を決意。妻のミシェルも付き合うことになるが、彼女は「テイクアウトジャンキー、買い物とテレビが大好きな、典型的な消費者」と自らを評する通り、自分が何を買い込んだのかも把握することができないほどの浪費家。一日にコーヒーを何杯も飲まずにはいられないほどのカフェイン中毒だが、『Business Week』誌の売れっ子ライターとして活躍するキャリアウーマンでもある。

 

 

電気を使わないのでキャンドルの灯火が照明代わり(提供:アンプラグド)

 

そんな2人が、どこか地方に引っ越して自給自足的な生活を始めるわけではなく、ニューヨークのど真ん中で、これまで通りの仕事を続けながら実験を始める。電車もクルマもエレベーターも使わず、高層の集合住宅の階段をせっせと上る。テレビも手放す。食べ物はすべてファーマーズマーケットで調達し、エコバッグを持参してゴミは出さない。地産地消を心がけ、自宅の半径400km以内で採れた食材のみを選ぶという条件をつける。そのため、コーヒーは飲まない、外食もしない。コリンは家中の洗剤やミシェルの化粧品を捨てる。ついにはミミズを飼ってきて、家で出た生ゴミを土に戻す。ミシェルはだんだんイライラし始めて、些細なことで怒ったり落ち込んだりする。実験を始めて半年後、ついに「電気を使わない」ことに挑戦。友人たちとのささやかなパーティーの後、ブレーカーを落とすコリン。しかし時は真夏……。

 

『地球にやさしい生活』というほんわかとしたタイトルとは裏腹に、映画で描かれているのはシビアな現実。都市生活で真夏に電気が使えないとどうなるのか? カフェイン中毒者がいきなりコーヒーを止めた時の精神的影響は? ムダな消費をしないためにトイレットペーパーを使わないとなると? 「ノー・インパクト・マン」としてメディアに引っ張りだこのコリンは、時に「資本主義を破壊するエコ・テロリスト」と揶揄され、「古くさいシットコム」「自己PR活動にすぎない」など、ブログはしょっちゅう炎上することに。

 

■この映画は、家族の物語で、社会全体の縮図でもある。

 

3人の生活は好奇の目にさらされ賛否両論を巻き起こす(提供:アンプラグド)

 

日本では、食の安全を気にしたり、節電やエコロジーを大切にした生活を始めるのは女性であることが多い。一方で、男性が本気になると「とことん」まで突き詰める傾向があり、それについていけない妻……(コリンとミシェルはこの関係だ)。一方が新しい価値観や暮らしを提案し始めると、他方がそれについていけずに衝突を繰り返す、夫婦間のズレや溝が生じるということも。今夏の節電にしても、「どこまでするのか?」その意識や程度の差に議論が勃発した家庭も少なくないだろう。

 

「調理で出た生ゴミをどう処理するのか?」「電気を使わずに洗濯をするには?」「照明無しでどう夜を過ごすのか?」といった、生活課題の一つひとつに、個人の価値観、生き方が反映される。しかも、単なる個人的課題として解決すればいいわけでなく、家族をどう説得し、巻き込んでいくのか、その手法が試される。コリンとミシェルは、時に衝突し、混乱しながらも、実験を最後まで放棄しなかった。起こっていく一つひとつの「事件」に向き合い、選択し、課題解決を試みるなかで、夫婦の関係にも少しずつ変化が訪れていく。

 

市民菜園で野菜づくりを始めるコリン(提供:アンプラグド)

 

この映画は同時に、「一人の人間に何ができるのか?」ということを問いかけてもいる。映画のなかで、コリンのアドバイザー的な存在になるガーデナーが、「本当に社会にインパクトを与える存在なら、とっくにつぶされているさ」と一言投げかける。「一人が何かをやってもムダ」なのか、それとも、「一人の行動が社会に影響を与える」のか……。

 

ニューヨークの真ん中で、電気を使わない究極のエコ生活。ゼロベースの実験の最後に、本当に大事なもの、そして現代生活に最低限必要なものが見えてくる。

 

『地球にやさしい生活』は、いま、私たちがいちばん共感できる映画かもしれない。ちょっぴり、笑って、泣ける映画だ。

 

青空市場で買い物を楽しむミシェル(提供:アンプラグド)

 

 

Information

【上映情報】

映画『地球にやさしい生活』

2011年10月8日(土)より全国順次公開

2009年/アメリカ/カラー/92分/ステレオ/アメリカンビスタ

©Oscilloscope Laboratories,2009

監督・プロデューサー:ローラ・ギャバート

監督・撮影:ジャスティン・シャイン

出演:コリン・ビーヴァン、ミシェル・コンリン

提供:メダリオンメディア

配給:アンプラグド

公式サイト http://yasasii-seikatsu.com

当日料金:一般1800円

 

※ 2011年10月8日(土)10:00〜の回上映後、マエキタミヤコさん(サステナ代表)×末吉里花さん(フリーアナウンサー)によるトークショーあり。

※ 2011年10月15日(土)、23日(日)にも豪華ゲストによるトークショーあり。詳細は公式サイトのニュースページにて。

 

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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