第33回・グリーン復興が日本の未来を左右する
エコプロダクツ2011」レポート
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

今年で第13回目となる日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ2011」。12月15日(木)〜17日(土)の3日間で会場の東京ビッグサイトには18万1487人もの来場者が訪れた。7、8年前は企業の社会・環境貢献PRやビジネス向けの展示が多かったが、近年では小中学生の社会科見学・環境教育に力を入れており、特に木・金の平日2日間は子どもたちの集団で会場がたいへん賑わう。また、ここ2、3年の傾向として、主婦のグループや、土曜日には家族連れでの来場が目立つなど、「エコ」「環境」というキーワードが広く一般に開かれてきたことがうかがえる。

 

今年のエコプロダクツ展のテーマは「Green For All, All for Green」。毎年各社が競うように最新技術を展示し、未来のエコ社会を仮想するテーマパーク的な色合いが濃いが、今年は東日本大震災や東電福島原発事故、そして停電や節電の春夏を過ごした影響からか、出店規模も各社が発するメッセージも、控えめさが感じられる印象だった。省エネを徹底しながらよりスマートに、コンパクトに暮らしを展望する……ここ数年肥大化した「エコ」という概念が、シンプルなメッセージとして原点に戻ったような印象を受けた。

 

今年は各社がスマートコミュニティを競った。写真は日経新聞社と経済産業省資源エネルギー庁の「生活者のためのSmart Community 2011」

 

■「スマートコミュニティ」が来年のキーワード

 

東芝や三菱電機、パナソニック、NEC、日立など、電機・家電大手を中心に、NTTグループなどの通信事業者や積水ハウスなどの住宅業界など、今年は各社が「スマートコミュニティ」「スマートハウス」を全面に押し出す展開となった。震災以降、自然エネルギーの開発や、電力の需要把握や制御(デマンド・レスポンス)の必要性が再認識され、家庭やコミュニティ単位でのエネルギーの相互利用の技術開発・躍進が求められている。

 

日本経済新聞社と経済産業省資源エネルギー庁の共同出展ブースでは、「生活者のためのSmart Community 2011」という近未来年をイメージしたテーマ展示が行われた。来場者がタブレット端末の拡張現実アニメーションを見ながら20年後のスマートコミュニティをバーチャル体験できるというもので、特にビジネス層を中心に長蛇の列をなしていた。

 

NECは日産自動車とともに合弁会社を立ち上げ、リチウムイオン電池の開発に取り組んでいる。今年は「家庭用蓄電池元年」とも言える年で、NECでも2012年には高性能かつ小型で安価なバッテリーを一般市場へ投入するという。家庭用太陽光発電設備と家庭用蓄電池が広く普及することで、家庭単位でのエネルギーの自給自足も夢ではなくなる。

 

TOTOの「トイレバイク」は燃料をバイオガスで賄う

 

JX日鉱日石エネルギーでは、エネファーム(家庭用燃料電池)のPRを行っていた。2008年の市場投入後少しずつ裾野を広げてきたエネファームは、震災以降需要が急増したという。エネファームは水の電気分解を逆の仕組みで、天然ガスや石油を利用して水素と酸素から電気をつくり、同時に発生した熱で給湯利用ができるため総合エネルギー効率が非常に高い。新しいエネルギー源として注目を集める水素。一気に水素社会にシフトチェンジするのは難しくとも、天然ガスを使いながら系統からの電気使用量を減らしてエネルギーシフトしていくには、家庭用燃料電池は有効な技術と言える。

 

NTT Docomoでは、消費電力が気になる家電に取り付けるスマートタップの展示を行った。Z-Waveという無線規格でブロードバンドルーターに接続し、インターネットを介して家電ごとの消費電力量や日次、月次のグラフを提示するなど、電力の「見える化」をいますぐ始められる機器である。今年はスマートハウスが普及し始めたが、ほとんどすべての既存住宅で過度な工事や設備投資なしで「見える化」ができる機器として期待大だ。

 

 

NECの省電力サーバとオフィスのPCを見える化する「エネパル」システム

 

スマートコミュニティへの取り組みを2006年から始めてきた東芝。同社では電気や水などインフラ開発技術があることから、横浜市のYSCP(横浜スマートシティプロジェクト)でもCEMS(Community Energy Management System)分野で積極的に技術展開を行っている。HEMS(Home Energy Management System)への取り組みも早く、同社のホームITシステム「FEMINITY」は一般のコンシューマー向けの分かりやすいインターフェイスで、さらにスマートコミュニティでのデマンド・レスポンス(電力需給調整)にも対応している。スマートコミュニティの最小単位である家庭がスマートハウスとして技術的に先行しているいま、あらゆる業界が一丸となって「スマート化」に取り組んでいく必要がある。

 

今後、スマートコミュニティが広がるにつれ、各社が独自に技術開発したままで連携がとれなくては普及の妨げになる。今年7月に電力、電機、家電、通信など10社が共同でHEMSとスマート家電普及の環境整備を目的にHEMSアライアンスを立ち上げた。HEMSとスマート家電やEVの連携、相互利用や、各種機器の使用状況の可視化などに共通のプラットフォームができれば、HEMSの普及、ひいてはスマートコミュニティの浸透につながっていくだろう。

 

会場内エコツアー「Smart Japan スマートエネルギーの活用を探る」のナビゲーターを務めたGovernance Design Laboratory 代表の石橋直樹さんは、「これまで過剰にハイクオリティな電気が供給されており、停電リスクがなかった日本で、今年始めてスマートコミュニティの必要性が認識された。個別技術を磨き高める面はもちろん大切だが、今後はESCO事業などサービス面を強化して展開していくことが大切だ」と話した。

 

NTTグループではインターネット通信網を利用したスマートコミュニティのあり方を提案

 

■東北の復興のあり方が日本の未来の道標となる

 

今年のエコプロダクツ展がいつもと違うのは、いまの日本が経験した大きな痛み、東日本大震災と原発事故が現在進行形であることが大きい。「記憶–忘れてはいけないこと 東日本大震災報道写真ギャラリー」では、日本経済新聞社写真部の記者が地震直後から復興に向けて歩み始めたいま現在までを撮りためた写真を展示。多くの人が足をとめ、言葉を発せずに、写真と向き合うーーそこには大規模な展示会の喧噪とはまったく異なる空間が存在し、またエコプロダクツ展の存在意義を問う役割を果たしていた。

 

「記憶 – 忘れてはいけないこと 東日本大震災報道写真ギャラリー」では多くの人が足をとめ写真に見入った

 

「復興に邁進する東北」をテーマに、宮城県、岩手県、福島県など東北地方の自治体、東北経済産業局、東北地方のグリーンベンチャーらの出展もあった。福島県の担当者は「福島県では農業や観光業の落ち込みが激しい。いまは企業誘致に力を入れ、工業、ものづくりから福島県の復興を目指してゆきたい」と語った。

 

毎年エコプロダクツ展で最終選考が行われる「eco japan cup」。今年は「エコ復興 元気な日本を創ろう!」を掲げ、復興支援につながる環境ビジネスを積極的に募集した。被災地からは、財団法人みやぎ・環境とくらしネットワーク(MELON)の宮城県七ヶ浜町の海岸清掃活動や復興イベント「七ヶ浜再生プロジェクト」や、東京都のNPO法人農商工連携サポートセンターによる、塩害農地での作付けに適した作物を植え付ける「よみがえれ農地!復興トマト、復興キャベツプロジェクト」などの活動が展示されていた。

 

来年2012年6月にブラジル・リオデジャネイロで地球サミット「リオ+20」が開催されるにあたり、そのPRブースも設けられていた。地球サミット2012 Japan創立メンバーの設楽恵美さんは「グリーンエコノミーには二つの方向性がある。農林水産業の持続可能性と、製造業のなかで環境負荷を低減し効率を上げていく方向性。特に省エネ分野では日本企業が貢献できる部分が大きい」と言う。そして、日本がリオ+20でどんな発信をしていくのか。東北のグリーン復興のビジョンは、世界的にも大きな注目を集めることになるだろう。

 

エコロジーの原点とは……今年ほどそれを考えさせられた年はない。東北の復興の道筋は、これからの日本の未来像と重なっていく。エコプロダクツ2011の752社・団体、1747小間の出展者と、18万人超の来場者は、どんな未来を描いたのだろうか。来年、その真価が問われる。

 

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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