第31回:皮むき間伐で森づくり、人づくり
NPO法人森の蘇りが進める皮むき間伐
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

「皮むき間伐」という言葉をご存知だろうか。夏に杉や檜の皮をむき、1年以上立ち枯れさせた後に間伐する。間伐時にはすでに材の水分が抜けているため、力を合わせれば女性でも子どもでも丸太を運び出せる。林道も重機もいらない、人力さえあれば誰でも楽しめる新しい林業スタイル。NPO法人森の蘇りが主催する”きらめ樹”体験に、日本中からの注目が集まっている。

 

皮むき間伐では、女性一人でもラクに樹木を担ぐことができる

 

■女性ができる山仕事

 

山仕事は男の世界ーー。

そんな常識を覆す光景が、そこにはあった。

 

華奢な女性が一人で丸太を肩に担ぎ運んでいる。二人組の女性が腰にロープをくくりつけ、力いっぱい引いて木を倒している。女性が自走式製材機を操り、丸太を製材している……しかも皆、笑顔だ。

 

静岡県は富士宮市、朝霧高原にある森のなかでおこなわれた”きらめ樹”体験。NPO法人「森の蘇り」が主催する皮むき間伐の体験イベントで、東京や神奈川、そして遠くは広島から10人が集まった。男女比は半々。女性が伐採の「見学」ではなく、間伐の「実践」に参加するというから驚きだ。森の蘇り代表・大西義治さんは言う。「この森はボーイスカウトの少年たちが”きらめ樹”しました。4ヘクタールの森を4日間かけて、子どもたちが皮むきしたのです。小学校の環境教育でも皮むき間伐体験を受け入れています」。女性だけでなく、子どもでも参加できる間伐体験とは!!

 

“きらめ樹”とは大西さんの造語で、木が水を吸い上げる夏までの時期に間伐したい樹木の表皮をむき、ひと夏以上そのまま立ち枯れさせて、翌秋以降に伐採をする「皮むき間伐」と、運び出しまでの一連の流れのこと。

 

樹木は表皮に近い層で地中から水分を吸い上げ、成長し太っていく。表皮をはぐことで水分の吸収を止め立ち枯れさせることができる。皮むきした樹木の重さは立ち木の3分の1以下になるため、伐採する時にはすでに乾燥状態。その場で玉切り(伐採した木を丸太に切ること)すれば、女性一人でも担いで運べるのだ。

 

自走式製材機で切り出した材木をその場で簡易製材する

 

■人力さえあれば、林道も、重機も、大型トラックもいらない。

 

この日おこなわれた間伐体験で、大西さんが披露した伐採道具はチェーンソー、ロープ、木回し、そしてクサビだけ。実に身軽な装備で間伐に入る。

 

木を倒す方向に直径の4分の1以上の切れ目を入れ、斜め45度上から三角に切り「受け口」をつくる。そして反対側から「追い口」を入れ、木を倒していく。ここまでは通常の間伐と同じだ。

 

普通は、ある程度まで追い口を入れると木が自らの重さでメリメリと傾いていき、ズドーンと大きな音を立てて倒れる。切り株からは水が染み出てきて、木がまだ水を吸い上げているのがわかる。そのままでは重くて運べないので、倒してからしばらくその場に置いておき水が抜けてから運ぶ、あるいはそのまま放置されることも多い。

 

皮むきされた木は葉が枯れているため重さがなく、木がなかなか倒れない。そのため、追い口を入れたらロープをたくし上げて人力で引っぱり、倒していく必要がある。大きな力はいらず、女性二人でも力を合わせれば木を倒すことはできる。倒れた木の切り株はほんのり湿っている程度で、その場で木を玉切りして、人力で運び出す。水をバケツにくんできて、運び出した丸太をたわしで磨けば、その場で美しい磨き丸太ができる。磨くほどにピカピカツルツルに輝く丸太磨きは、子どもたちに大人気だそうだ。

 

“きらめ樹”体験の現場では、チェーンソーではなくのこぎりを使う。徹底的に、「人力主義」なのだ。

 

今年7月には、森の蘇りで自走式の製材機を導入した。軽トラ2台で運び出せ、伐った木を山の中で製材できる。これがあれば、山林での間伐から製材まで、その場で一気におこなうことができる。最終製品は、町場の木工所で磨きをかけたり、調整すればよいので、大規模な製材工場を建てる必要がない。山から木を運び出すための林道も必要ない。つまり、人力さえ集まれば、大きな重機やトラック、工場なしで、誰でも林業で食べていける。

 

森の蘇り代表の大西義治さん

 

■見捨てられた木を内装材に再生する

 

皮むき間伐は、これまで手入れされずに荒れてきた山林の再生のためにおこなう。通常15年くらいで間伐をしていくべき森が、20年も30年も放ったらかしにされている。本来であれば構造材としても十分に利用可能なはずの40-50年生の木も、放置されたため十分に育っていないので、間伐の対象になる。間伐材とはいえども木の径がある程度大きくなっているため、床材や壁材など、住宅建材に使える程度の大きさに育っている。

 

しかも、皮むき後1年以上立ち枯れさせているため、製材時には水分がほとんど抜けていて、含水率は15%以下に下がっている。内装材に求められる含水率の低さを、人工乾燥をすることなく実現できている。エネルギーも重油のコストも節約できるし、天然乾燥材ならではの木の艶、粘り、美しさが残っている。

 

根本から2メートルに玉切りした丸太は、直径15cm以上あればフローリングの原板がとれる。直径15cm以下で12cm以上あればその先2.6メートルずつ玉切りし、壁材をとる。先端の木は直径4.5cm以上で床下の構造材・根太をとる。どうしても使いきれない材は、チップにしてバイオマス利用を目指す。間伐材でも用途に応じてとことんまで使い切るのが森の蘇りのスタイルだ。

 

材木の価格も明朗会計で、1坪あたりの床材の単価は2万2000円。木を伐り森から運び出して木工所にセットするまで、最終製品として製材加工するまで、運搬して設営するまで、そして経費という4つのプロセスで値段が明快にわかれている。木材の卸を通さず、”きらめ樹”材を求める消費者に直接材を手渡し、時には施工までを担う。

 

「これまで捨てられ、あるいは放置されてきた間伐材を、床材や板材などの建築材として活用する。木の皮や葉などはペレットにする。山の手入れができて、新しい雇用を生む”きらめ樹”は、日本すべての森を蘇らせる可能性がある」と大西さんは熱弁する。「汗の値段を積み上げていったら、杉も檜も値段は一緒」と、杉檜で値段に差をつけないのも特徴だ。

 

皮むきした木は軽くなっているため簡単には倒れない。ロープで引っ張ったり、木回しをしたりして、ようやく倒すことができる

 

■人手は”皮むき間伐体験”で集める

 

人力をいかにして集めるかが、皮むき間伐での林業を成立させるポイントになる。木そのものの値段よりも人件費の方が高くつき、山の手入れのコストが出せないという異常な状況の日本の林業。皮むき間伐であれば、女性でも子どもでも参加できるので、「環境教育」「自然体験」「林業体験」という形でイベントを組み立てて、人を集めることが可能だ。

 

「”きらめ樹”は、高度な技術もマッチョな体力もいらない。素人でもできるし、誰もが参加できるため、そのぶんたくさんのアイデアが生まれ、仕事づくりや、モノづくりの幅も広がる」と大西さん。例えば、現在ほとんどが安価な輸入材でつくられている卒塔婆。輸入材よりは若干高いが、”きらめ樹”材を使えば日本の森を守ることにもつながり、ご先祖様も喜ぶだろうというアイデアが生まれている。

 

皮むき間伐が生み出す新しい生業の可能性は無限大だ。大きなサプライチェーンをねらわずに、小さなビジネスを積み上げていくことで、日本全国各地に雇用を生み出してゆく。そこに必要なのは柔軟な発想力と、森の魅力を伝えおおぜいの人を集めるマネジメント能力なのだろう。

 

“きらめ樹”された森は葉っぱが落ちて光が差し込み、明るく、また足下の土もふかふかしている。春には杉檜以外のたくさんの植物が萌え出て、それは美しいという。週末にNPOの手伝いをしている星野智子さんは、普段は静岡市内で化粧品販売をするOLだ。「皮をむいた木の肌はツルツルで、森はキラキラ輝いて、とても素敵です。これまで男の人にしかできないと思っていた山仕事が、女性にも子どもにもこんなに楽しくできるなんて」と、活動の魅力を語る。いつか自分の山を持ち、自分の山の材を”きらめ樹”して現金収入を得て、小さな畑と田んぼをつくって自給自足するのが星野さんの夢だそう。”きらめ樹”体験をして山仕事に魅せられ、それを本業にした青年もいる。少しずつ、業が生まれてきている。

 

日本は国土の7割が森林で覆われている、世界でも有数の森林国。しかし、その森が泣いている。人に見放され、放置され、材としても、森としても、価値をなくした樹木が、声を上げている。これまで特殊な世界と私たちから縁遠かった林業の世界を、”きらめ樹”という手法で女性や子どもにも近づけた大西さん。「日本すべての森を人の手で蘇らせたい」。”皮むき間伐”という言葉が広がっていくにつれ、その夢は少しずつ実現に近づいていく。

 

皮むきした森は葉が枯れ間伐前でも十分に明るく、下草が生えて土がやわらかい

 

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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