第23回:原発はいますぐ、即刻全廃すべき。
京都大学原子炉実験所 助教 小出裕章さんインタビュー
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

 

「私はどんなことがあっても原子力だけはやってはいけないと思っている人間です。福島原発事故は言葉にできないほど無念で、どうしたらいいかわからずに立ちすくんでいます……」。研究生活のほとんどを反原発活動に掲げてきた不屈の研究者、小出裕章氏。原発を過疎地に押し付けてきた日本の原子力政策を「原発は、差別の象徴です」と一刀両断する。原発事故以前から核廃絶を訴え続けてきた小出氏は、「原発は即刻全廃すべきだし、今すぐに止めても日本は困らない」と断言する。

 

超党派議員連盟「人間サイエンスの会」(NS)で講演をする小出裕章さん

 

■石油が枯渇するから原子力……の嘘

 

私は1949年、東京の下町で生まれました。空襲で焼け野原にされた東京の復興とともに成長し、原爆を含めた戦争の恐ろしさを一方に感じ、一方では成長していく社会のために原子力こそ未来のエネルギー源だと信じ、大学では原子核工学科に進みました。

 

私たちはこれまでずっと、石油がいずれ枯渇すると脅かされてきました。石油可採年数推定値の変遷を見ると、世界大恐慌の翌年、1930年には残り18年と言われていました。エネルギー資源に乏しい日本は侵略戦争を始め、1945年に東京大空襲、広島・長崎に原爆が投下され敗戦を迎えます。1960年になるとあと30年分残っているとされました。オイルショックを経て1990年に入ると石油はあと50年もつと言われるようになり、おそらく2040年までの50年間、石油可採年数は50年で推移するでしょう。学会の定説では石油はピークを過ぎ、石油は再生不能資源としていずれはなくなるにしても、じつはそれほど簡単に枯渇するわけではない。そこに国家の命運をかけてはいけないのです。

 

原子力の資源であるウランは石油に比べても数分の1、石炭に比べると数十分の1しか存在しません。核分裂性のウラン235はウラン全体の0.7%しかなく、残りの核分裂しないウランをプルトニウムに変換すればエネルギー量は膨大になるから、プルトニウムを取り出すための高速増殖炉が必要であると、日本ではもんじゅの開発だけでも10兆円の多額の費用をかけました。しかし、もんじゅはこれまでたったの1kWhの電力を生み出していません。これは詐欺です。高速増殖炉の開発は超優秀な核兵器材料である核分裂性プルトニウムを生み出すことを示しています。日本がいつまで経っても高速増殖炉をあきらめない理由はこれだろうと思います。

 

 

■原発1基を1年動かすと、広島原爆の1000倍の死の灰を生み出す

 

広島原爆で燃えたウランの重量、つまり核分裂生成物の重量は800gです。今の日本で標準的な100万kWの原発1基が1年間運転するごとに燃やすウラン(核分裂生成物)の重量は1トン。つまり、原発を1基1年間運転するごとに、広島原爆の1000倍の死の灰が生み出されるわけです。日本では1966年に最初の原発が稼働して以来、累積発電量は70兆kWhと膨大なエネルギーを生み出してきました。それだけたくさんのウランを燃やしてきたということでもあります。広島原爆に換算した核分裂生成物の量は広島原爆110万発分。代表的な核種であるセシウム137の半減期が30年なので、いま現在の核分裂生成物量は広島原爆85万発分です。便利で豊かな生活がほしいがためにこれだけの量の死の灰が生み出され、いまなおそれが残っていることの恐ろしさを想像できますか?

 

私は1億数千万人のすべての日本人に等しく死の灰に対する責任があるとは思っていません。原子力の旗を振ってきた人もいるし、何も知らされないまま単にありがたがって電気を使ってきた人、何の選択権もないままの子どもたち。責任の度合いに応じて放射能の責任を取るべきです。ウランは元々毒性を持っている鉱物ですが、核分裂させた途端に毒性が強大になり、ウランに比べて1億倍も危険な核分裂生成物になります。元々のウランと同じくらいの危険度に下がるまでは数万年から数百万年かかります。そういう毒物を私たちは日々つくっています。

 

■過疎地に追いやられた原発

 

毒性が何万年も消えず、無毒化すらできない放射能の処分はどうすればいいのでしょうか。宇宙処分は現実的ではないし、海洋底処分もロンドン条約で禁止、氷床処分も南極条約で禁止されています。なすすべのない日本では地層処分を検討しています。深さ300−1000メートルの穴を掘って横穴を通して放射性廃棄物を埋めようと。しかし日本では四六時中地震が起きます。深さ何十キロの地底で地震が起きて岩盤を破りながら地盤が動くのです。それでも日本は地層処分を行おうと、貧しくて財政破綻した地方の自治体に放射性廃物を押し付けようとしてきました。巨額の補助金に福井県、高知県、熊本県、鹿児島県、長崎県などにある地方都市が手を挙げてきましたが、いずれも住民の反対により計画は頓挫しました。日本国内での処理は難しいと政府はモンゴルでの地層処分を検討し始めています。涙が出るほど愚かなことだと思います。

 

原発は時に事故を起こします。原発は機械であり、人間は神ではありません。日本政府は原発を都会にはつくらないと原子炉立地審査指針で定めています。原子炉からある距離の範囲内は非居住区域で、その外側は低人口地帯であること、原子炉敷地は人口密集地帯からある距離だけ離れていること、と。

 

東京電力は自分の給電責任範囲にたくさんの火力発電所を林立させています。しかし原発だけは東電の供給範囲内にはありません。福島県の福島第一・第二原発と、新潟県の柏崎刈羽原発から長い送電線で電力を送っています。

 

原発はこれまでにも様々な事故を起こしてきました。1999年に茨城県の東海村で起きたJOCの臨界事故で、二人の作業員がたいへん悲惨な亡くなり方をしました。これを受けて2000年に原子力安全委員会が「原子力安全白書」を発表しました。そこにはこう書かれています。

「多くの原子力関係者が「原子力は絶対に安全」などという考えを実際に有してはいない」

 

それにも関わらず「絶対に安全だ」と騙し続けてきた。このような「安全神話」をつくってきた理由に、設計への過剰な信頼や、長期間にわたって人名に関わる事故が発生しなかった過去の実績に対する過信、過去の事故経験の風化などを書き連ね、最後には「絶対的安全への願望」と記しています。ものを考える時間がある人ならば、このような理由を読めば即刻原子力をやめるという決断をすべきはずです。

 

 

■ものすごい汚染地帯を生み出した福島原発事故

 

そして福島第一原発でとてつもない事故が起こりました。

 

「万が一のことを考えて」と避難指示が出た原発から半径20〜30km圏だけではなく、はるか彼方までものすごい汚染地帯が広がりました。北西に位置する飯館村のようにこれまで原発からの恩恵を受けてこなかった山間の村が全村離村になりました。現在約10万人が避難していますが、その人たちの追われた土地の汚染度はチェルノブイリ原発事故の強制避難区域とほぼ同じ、琵琶湖の約2倍の面積です。

 

いま福島の汚染地帯では放射線管理区域の基準を超えて大地が汚染されています。放射線管理区域では飲食できません。当然、子どもを入れて遊ばせてはいけません。チェルノブイリ原発事故の避難基準を適用すれば琵琶湖の2倍の面積、もし日本の法令を厳密に適用すれば福島県全域に匹敵する地域を放棄しなければいけません。

 

私は放射能を扱っている人間として、被ばくはとてつもなく恐ろしいことだと思います。被ばくによる健康被害を避けるには逃げるしかありません。大地が汚染されているのでどんな除染も実質的にはできません。でも避難をすれば生活は崩壊してしまいます。それまで働いて仕事をしてきた人が、その場を離れて仕事が成り立つのでしょうか? 特に農業や酪農など、土地が命で、土とつながって仕事をしてきた人たちは? 子どもは放射能の被ばくに敏感だからせめて子どもだけでも逃がしたいと思いますが、そうしたら今度は家族が崩壊してしまう。一体どのようにすればいいのでしょう? 私にはわかりません。

 

この損害は東電だけを倒産させたところでどうしようもないほどの被害で、たぶん日本の国家が倒産しても購いきれないほどの被害です。そのことに皆さん気づいていません。

 

 

■原発は今すぐ、即刻全廃すべき

 

私は、原発は即刻全廃すべきだと考えます。原発がなければエネルギーが足りないと言われますが、私の意見は違います。このような事故が起きたからには即刻やめるべきですし、日本の発電設備の容量からすればそれが可能です。

 

日本では水力発電所、火力発電所、原子力発電所、その他にも企業が所有する自家発電所があります。水力発電所は設備容量のうち20%しか動いていません。ほとんどが揚水発電所で、電力消費量の少ない夜にフル出力で動いている原発の電気を使うためにポンプで水を汲み上げ、日中は高いところから水を落として発電します。1サイクルやるごとに3割の電気を捨てるというバカらしいものです。原発は一度動かすと止めることができません。トラブルや定期点検で止まっている原発以外、ほぼフルパワーで出力するので稼働率は70%で、結果的に日本の発電電力量の約30%を賄っています。火力発電所は48%しか動いておらず、それでも発電電力量の6割を閉めます。では原発がなくなるとエネルギーが足りなくなるのかというと、火力発電所が止まっている分で十分賄え、なおかつ設備容量の3割分も余裕があります。

 

これを私が指摘すると、真夏の一番たくさん電気を使う時に発電所がなければ困ると国は言います。1930年代からの日本の発電設備容量と最大需要電力量の推移を見ると、真夏のピーク時でも火力発電+水力発電の設備で十分電力を賄えます。1990年代に何年かが足りなくなっていますが、企業の自家発電分を融通してもらえれば足ります。もっと言えば、真夏のピーク時は数日間の午後の数時間という非常に特殊な時だけなのだから、企業の生産調整やエアコンの温度調整をすればいついかなるときも何も困らずに済みます。今すぐ全ての原発を止めても何も困りません。それでも日本はいまだに原発を止めると停電になる、だから節電しようと毎日脅かしているのです。

 

日本以外、米国もヨーロッパ諸国も、原子力が非常に馬鹿げたものだということをとうの昔にわかっています。1960年代後半から原子力に夢を抱いた期間も確かにありますが、米国では1970年代前半、ヨーロッパでは1970年代後半に建設と計画のピークがきて、それ以降はほとんど増えていません。ドイツやイタリア、スイスでは脱原発を決めました。いまだに原子力に夢を抱き騙している国は日本くらいしかない、それほど世界の中で異常な国になってしまいました。

 

広大な宇宙の中で奇跡のように存在する美しい星・地球。悠久の歴史のなかで、人類が生まれ、エネルギーを使うようになったのはごく最近のことです。約200年前の産業革命以降、人類が膨大なエネルギーを使う時代に入って、地球環境をとことん破壊しようとしています。多様な生物が絶滅に追い込まれるようになりました。原子力は最悪です。化石燃料も湯水のように使い豊かに生きればいいという考え方を改めるべき時です。

 

私がある集会で講演した時に、主催者の女性がこう挨拶をしました。「私は子どもたちに嘘をついてはいけないし、間違えた時は謝りなさいと教えてきました」と。これを守るのであれば、原子力なんて絶対にあり得ません。嘘をつかない。間違えたら謝る。謝るというのは生き方を変えることです。それをいっさいしないままにここまできてしまったのが日本の原子力です。ここまでの事故が起こり、ここで原子力を止めさせられないのであれば一体どうするのだろうと思います。私は何としても原発を廃絶したいと強く願っています。

 

※2011年8月4日、衆議院第一議員会館で開催の、超党派議員連盟「人間サイエンスの会」(NS)主催の講演と、講演後のインタビューにより構成。

 

Information

小出裕章(こいで・ひろあき):

京都大学原子炉実験所 助教 専門は放射線計測、原子力安全

 

1949年、東京の下町生まれ。1968年、東北大学原子核工学科に入学。1970年、女川での反原発集会を機に原発をやめさせるために原子力の研究を続けることを決意。1974年より京都大学原子炉研究所助手、2007年4月より大学教員の呼称変更により助教。研究テーマは核=原子力施設に夜環境汚染の解明、原子力施設事故の解析、原子力を含めたエネルギー問題など。著書に『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)、『放射能汚染の現実を超えて』(河出書房新社)、『原発のウソ』(扶桑社)などがある。1987年版から年度版百科事典『イミダス』の原子力の章を執筆している。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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