横浜発祥のケチャップ復刻のカギは調査!横濱屋本舗・丸山和俊さん
「清水與助(よすけ)という人がいて、横浜発祥のケチャップを作った。その事実を伝えたい」
清水屋ケチャップを復刻した丸山和俊さんのもっとも印象的な言葉でした。
復刻までに2年の歳月を費やし、調べに調べた清水屋ケチャップにまつわる物語を、横濱屋本舗の丸山さんから伺ってきました。(写真:北原まどか)

すべてのはじまりは、季刊誌『横濱』で目にした、とあるラベルでした。

SHIMIZU’S TOMATO CATSUP。復刻版清水屋ケチャップのラベルは明治時代そのままのデザインが採用されている

横濱屋本舗取締役CEO・丸山和俊さんは当時、長野県でトマトを栽培し、トマトソースを作っていました。

ふとトマトはどうやって日本にやって来たのだろうとその歴史を調べていた頃、丸山さんは『横濱』で清水屋ケチャップのラベルにまつわる記事を見つけました。『横濱』を担当する横浜市広報課に記者を紹介してほしいと頼むと、横浜開港資料館(以下、資料館)の研究員の方でした。

その方を訪ねて横浜開港資料館(以下、資料館)に足を運びます。

「そこで地下に眠っていたこのラベルに出会ったんです」

当時の感動をそのままにケチャップのラベルを指さす丸山さんでした。

丸山和俊さん。以前、コーヒーショップ大手チェーンの創業メンバーとして、工場長や海外視察などを担当。当時は1日にコーヒー200杯を口にしたとか。とことん調べる習慣は、この時代に培われた

資料館の研究員の方に、ラベルについて丸山さんが詳しく聞くと、「このラベルを資料館で保存してほしい」と、秦野市に住む金子とよ子さん(故人)が持って来られたものでした。

その明治時代のラベルは、ていねいにフィルムにはさまれ、製造から百何十年経ても、まるで新品のようだったそうです。

丸山さんの行動力でひも解かれていく歴史に、私も次第に引き込まれていました。

当時のケチャップ瓶詰めの様子の写真。資料を交えて説明してくださるので、イメージがつかみやすい。丸山さんの手(ジェスチャー)は表情豊か

丸山さんの調べる精神と行動力は、さらに発揮されます。

ラベルを資料館に寄付した金子さんは清水與助さんのお孫さんにあたる方でした。この方を訪ねて、秦野に足を運びます。

そして、清水屋ケチャップに魅せられた丸山さんはケチャップの復刻をお願いするのでした。

「おばあちゃん(金子さん)は非常に喜んでくれて、『どうやって作るか分からないが、あなたがやるならお任せします』と言ってもらえました」と丸山さん。

その後、清水家の人々にも了承を得て、横浜市や、資料館の研究員の方の協力のもと、丸山さんのケチャップ復刻作業が始まりました。

清水屋ケチャップ(チューブタイプ)。化粧箱には明治時代の新聞のコピーや明治時代の横浜でケチャップができるまでの物語が描かれている

次は、材料の調査です。当時の新聞にも作り方が載っていましたが、参考にしたのは秦野で金子さんから伺った小さな頃の思い出でした。

「おばあちゃんが小さい頃、ビール瓶にケチャップを詰める手伝いをしたり、宮内庁御用達のシールを貼ったり、かごいっぱいの調味料のズクを運んだ思い出があるそうです。おばあちゃんにズクって何? って聞いたら、『分からない』と。

ズクは大きくて生姜みたいにごつごつしたもので、海外から横浜港に運ばれて来ていた。それを仕入れて、すりおろしてたっぷりケチャップに入れていたそうです」

おばあちゃんの記憶から謎の調味料「ズク」が現れ、丸山さんはまたしても調査に乗り出すのです。

いろんな調味料会社に問い合わせ、調味料博士と呼ばれる年配の方に尋ねても結局、「ズク」の正体は分からずじまいでした。

「ズク」は南洋から仕入れていたというおばあちゃんの記憶が手がかりでした。南洋はパラオなどを指すけれど、台湾にもあるのではないかとアタリを付け、丸山さんは台湾にも行きました。

「通訳をつけて、台湾の市場をくまなく回りました。最終日に調味料がずらっと並んだお店で、ショウズクと書かれた香辛料(カルダモン)をやっと見つけたんですよ。ただ、おばあちゃんは大きいって言ってたのに、小さな玉だった。それを買って帰って、おばあちゃんに見せると、これじゃないって(笑)」

さらに丸山さんは「豆蔲(ズク)」という文字をヒントにインターネットで検索してみると、「肉豆蔲(ニクズク)」にたどり着きました。そして、「ニクズク」を求めて、再び台湾に向かいます。

「持ち帰ったニクズクをおばあちゃんに見せるとこれだって。ニクズクはナツメグのことだったんです。ナツメグはそれほど大きくないけれど、おばあちゃんは当時子どもだったから大きく見えたんでしょうね(笑)」

横濱屋本舗では食堂も運営。横浜産こだわりのメニューが多く並ぶ。昼どきには席を待つ人で混雑するほど人気ぶり(写真:横濱屋本舗)

まぐろ(金はらも)の西京焼き定食、1500円。丸山さんが開発したマグロの漬けだれが魚のくさみを消し、上品なうまみを引き出す

小柴産活〆大穴子天重、1300円。岩井の胡麻油を使いカラリと揚げた穴子天と甘いたれが絶妙

材料はそろい、いよいよレシピ作りです。

「昔はトマトそのものがまずくて、いろんな添加物を入れてケチャップを作ったそうです。最近は品種改良されてトマトそのものがおいしい。だからレシピをそのまま再現するのではなく、トマトや香辛料、玉ねぎもすべてオーガニックにこだわった、素材を活かしたものにしました」と丸山さん。

清水屋ケチャップ(ビンタイプ)。最初にできた商品で、贈答用に人気。おばあちゃんがビール瓶にケチャップを詰めた思い出をもとにして、丸山さんが先細のガラス瓶を採用した(写真:横濱屋本舗)

2年の歳月を経て復刻版清水屋トマトケチャップがようやく完成しました。

発売当初、短期間で売り切れてしまうほどの人気ぶりでした。

「清水與助(よすけ)という人がいて、横浜発祥の清水屋ケチャップを作った。その事実を伝えたいんです。

日本でトマトをつくり、ケチャップを作った、その清水さんの開拓者スピリッツを伝達していくための商品なんです」と丸山さん。

丸山さんが調べることで見えてきた先人の想い。

商品を通じて、お客様に伝わっていくにちがいありません。

横浜産のトマトを100%使ったトマトソース。市場に会社があることを最大限に活用されている

金沢区の南部市場の一角に横濱屋本舗の本社をかまえる丸山さん。市場ならではの特性をいかした商品づくりを行っています。今後どんな商品が開発されていくのか、今どんな調査がすすんでいるのか、楽しみでなりません。

丸山さんのよくとおる声、時には資料を交えてのテンポのよいお話は、絵本をめくるように明快で、合いの手をいれながら、次の展開をせがむ子どものような心持でお話を伺うひと時でした。

そして、その日の食卓には清水屋ケチャップ!

ナツメグの味わいはするだろうか? 現代のトマトのおいしさは感じるだろうか? 五感や記憶を頼りに家族とともに味わう食卓は、いつもより奥行きがあって、楽しく、おいしいひとときでした。

地産地消の講師としても大人気の丸山さん、今度、森ノオトの「地産地消の調味料講座」にいらっしゃいます。みなさん、ぜひ直にお話を伺って、味わってみてください。

Information

地産地消の調味料講座 第7回

講師:丸山和俊さん

日時:2017216日(木)10:00-12:30

料金:各回3,500

定員:15

会場:「古今」ショールーム(神奈川県横浜市青葉区青葉台2-32-5

東急田園都市線「青葉台」駅より徒歩10分 ※公共交通機関をご利用ください

申し込み方法:

参加希望回、氏名、生年月日、住所、電話番号、E-mailアドレス、参加の動機を記入のうえ、event@morinooto.jpまでお申し込みください。通しでのお申し込みも可能です。

横濱屋本舗食堂

236-0002 神奈川県横浜市金沢区鳥浜1-1

営業時間:ランチ11:00-15:00(L.O14:30) カフェ10001600

定休日:日曜・祝日(南部市場の休場日)

TEL0457787660

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この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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