横浜市都筑区で茅葺屋根の葺き替え?!都筑民家園
大塚・歳勝土遺跡公園の中にある都筑民家園では、年中行事を始め様々なイベントが開催されています。この都筑民家園にある江戸時代の民家「旧長沢家住宅」の茅葺屋根の葺き替え工事が4カ月に渡り行われました。茅葺屋根、そして屋根の材料である茅の貴重な話を、富士かやぶき建築茅吉の杉嵜靖司さんに聞きました。

(text,photo:牧志保)

 

横浜市営地下鉄「センター北」駅から歩いて8分の場所に、緑豊かで、芝生の広場や弥生時代の遺跡が残る大塚・歳勝土遺跡公園があります。この公園の中ほど、竹林に覆われた一角に都筑民家園はあります。

 

都筑民家園には美しく管理された庭や畑、茶室、そして江戸時代の民家である旧長沢家住宅があります。この都筑民家園は、私と娘のお気に入りのお散歩スポットです。5月には庭に泳ぐ沢山の鯉のぼりを見にいったり、7月には七夕の短冊を笹にかけにいきます。暑い夏の日には、ひんやりしていて気持ちの良い畳にごろりと寝転がるのが娘のお気に入りです。季節ごとに私と子どもたちは都筑民家園を訪れ、のんびりした時間を過ごしています。

江戸時代の民家「旧長沢家住宅」は現在の都筑区牛久保町にあった旧家。昨年初春に民家園を訪れた際の写真

 

2010年に建設された茶室。季節の草花を見ることができるのも楽しみのひとつ

そんな私たちの憩いの場所である民家園が、昨年の10月から今年の1月まで休園するという張り紙を見て残念に思ったのも束の間、休園中に旧長沢家住宅の茅葺屋根の修復工事が行われると知り、見てみたくなりました。私はすぐに民家園の管理棟へ行き、取材を申し込んだのでした。

丁寧に分かりやすく、笑いを交えながら茅葺屋根、茅について説明してくれる杉嵜さん。朝霧高原活性化委員会として茅刈り講習会や茅葺体験講座や、茅場を利用した地域の活性化を目指した活動を行っている

今回の茅葺屋根の修復工事を行う富士かやぶき建築 茅吉の杉嵜靖司さんは、茅葺屋根の職人でありながら、富士山麓の朝霧高原で茅葺屋根の材料となるススキを生産し、維持管理も行っています。

 

茅葺屋根に使われる「茅」とは、屋根を葺く植物材料の総称で、ススキ、稲、麦など、主にイネ科の植物を指すそうです。都筑民家園の旧長沢家住宅のこれまでの屋根には、北関東で採れるオギという茅が使われていたそうですが、今回の修復工事では朝霧高原のススキが使われます。

朝霧高原から運ばれてきたススキ120束。ひと束におよそ600本のススキが束ねられている

「今回の茅葺屋根の修復工事は、屋根の下地である“のべ”という部分は残し、上の茅だけを葺き替える工事です。のべは建物を新築する際に作られ、その後ずっと使い続けられるものがほとんど。古いものは400年経っているものもあります。それほど長い時間が経過しても腐らずに使い続けることができるのが、茅が長い間、屋根の材料として使われてきた理由でもあるのです」(杉嵜さん)

茅葺屋根の修復工事は新築工事と同じくらい時間がかかるそう。修復工事では元の屋根の様子を探りながら、慎重に下から上に茅を葺いていく

今回の修復工事で、屋根から取り除いた古い茅材を見せてもらいました。長い間、雨風にさらされていたにも関わらず、茅はしっかりと固く、全くかび臭くないことに、私はとても驚きました。「冬にススキは枯れ、栄養素は全て根にいきます。刈り取るススキは栄養素が抜けきっているために、腐ることがありません」(杉嵜さん)。ススキを始めとする茅で屋根を葺いてきた昔の人々の知恵に改めて感心しました。

屋根から取り除いた古い茅材。古い茅は最後は畑でたい肥として使われ、土に還る

「ススキは1年に1成長をとげます。冬の刈り取り期間が終わると、4月初旬に草原の野焼きを行います。地上から30cmのところは300℃と高温になり、地上の植物は燃えてしまいますが、地中1cmの地点は温度変化はありません。そのためススキの根は枯れることなく、春にはまた新芽を出します。そして秋には草丈が1.5mから2.0mくらいになります」

杉嵜さんは、続けます。草原は人間が野焼きなどの管理を行わなくなると木が生えて、およそ100年で森になっていくそうです。富士山地域ではここ数十年で草原が大幅に減少して森林化が進んでいます。草原が無くなると、水の流れが変わり、生態圏も変化していきます。

「茅葺屋根の材料となる茅を確保するためには、草原を維持管理する必要があります。朝霧高原の草原を守るためにも、茅葺き屋根の文化を残していきたい」と杉嵜さんは言います。「自分の仕事が、草原の維持、環境保全と大きな話につながっていると思うと、とても面白いのです」と、杉嵜さんは熱を込めます。

12月18日に民家園で杉嵜さんが講師を務める茅葺補修工事見学会が行われた

茅葺屋根の構造模型。1.2mもの長さの縫い針を使い、茅を止めていく

茅葺屋根工事で使われる道具たち。初めてみる道具がたくさん

都筑民家園を管理・運営している岡本さんと木村さん。昨年10月には大塚・歳勝土遺跡公園で「遺跡オーガニックマルシェ」が行われた。来場者の8割が公園、民家園に初めて訪れた人だったそう。

都筑民家園は平成9年に開園、今年で20年目を迎えます。いつ訪れても気持ちよく掃除され、楽しそうに活動をされている方を見ます。

 

野草を育てている団体、畑を管理している団体、そば打ちを行う団体など15の団体が民家園を拠点に様々な活動を行っているそうです。

 

「民家園のことを多くの人に知ってもらい、たくさんの人に民家園を訪れてほしいのです」と、NPO法人都筑民家園管理運営委員会の岡本みどりさん。そんな思いから、民家園では年中行事をはじめ様々なイベントが開催されています。「民家園の開園当初から行われている“ハギレで草履作り”は、90歳のおばあさん3人が始めた教室ですが、教室に生徒として参加した人が次は教える側にまわるといった感じで、20年間ずっと続いています」(岡本さん)

 

都筑民家園では、年間で300ものイベントが開催され、7万人弱の来客があるそうです。同じく、運営団体の木村格さんも、「多くの方々、特に若い人たちに、民家園のことを知っていただきたい」と、続けます。

昨年民家園を訪れた際の写真。茅葺屋根の際は美しい! 「茅葺屋根は下から上に葺いていき、仕上げは上から下におりてきます。『大工と燕は軒で泣く』という言葉があるほど、軒の刈込はとても大変な作業です」(杉嵜さん)

 

昨年の2月に撮影。旧長沢家住宅の入り口に置かれた大きな釜に設えられた梅の花

茅葺屋根の軒の美しさに私はいつも感動します。軒の刈り込みは茅葺職人の一番の腕の見せ所なのだそうです。旧長沢家住宅の屋根も1月に軒の刈り込みが終了し、屋根の修復工事は完了です。梅の花が咲く季節、新たに葺かれた美しい茅葺屋根を見に都筑民家園へ足を運んでみてはいかがでしょう。ヒバリが鳴く朝霧高原に思いを馳せながら見る茅葺屋根は、これまでよりダイナミックなものに感じるかもしれませんよ。

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