TEDって何?「広める価値あるアイデア」を共有する場
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを使っていると、時々目にする「TED」という文字。TEDに参加した、知り合いが出た、スピーチに感動した……などという感想を聞きますが、いったいどんなイベントなのでしょう。学識経験者、デザイナー、環境活動家など様々な分野で活躍する人が、テーマに合わせてプレゼンテーションを行い、聴衆とアイデアを共有する場で、TEDの精神「広める価値あるアイデア」を共有する世界各地のコミュニティを「TEDx(テデックス)」と言います。森ノオトのキタハラも今年10月、故郷である山形県で開催された「TEDxTohoku」に参加してきました。

2013年10月13日(日)、この日、わたしは生まれ故郷・山形市の蔵王山麓に抱かれた東北芸術工科大学にいました。森ノオトで今年8月に行った映画『よみがえりのレシピ』上映会でお招きした、映画監督で友人の渡辺智史さんがTEDxTohokuに出演する、と聞いたからです。

TEDxTohokuのテーマは「まだ見ぬ“みちのく”へ、ともに。」

「みちのく」は、文字通り東北だったり、わたしの故郷・山形だったり、もしかしたらいま住む森ノオトエリア=「都市郊外の農的空間」かもしれないし、それぞれのみちのくと出会い、探す、そんな示唆に富んだ時間でした。

 

会場となった東北芸術工科大学。建築、アート、クラフト、まちづくり、コミュニティデザインなどの最先端の取り組みが行われている

 

TEDxTohokuは、2011年、東日本大震災の経験を内外に伝え、震災前から若者の流出などの課題を抱えていた東北の問題が顕在化した3.11を踏まえてスタートした、東北の学生発のイベントです。カリフォルニアで始まった「世界を変えるよいアイデアを広めよう」というTEDの精神を、世界各地で地域に根ざし独立した運営態勢によって実現しているプログラムです。入場料と企業スポンサー、物資提供、情報発信や配信・メディアパートナーによって運営されています。

協賛金を集めるのも、物資提供を募るのも、ゲストを招聘しプログラムを組むのも学生スタッフ(TEDxTohokuの場合は、です)。プログラムを見て、よくもこれだけの方を集めたなあ、と感心しました。東北に暮らし、東北に関わり、東北を元気にする、まさにキラ星たちがそこに集まっていました。

 

TEDxTohoku代表の渡辺絵里さんは、東北大学の4年生。「震災での経験を内外に伝え、同時に震災で顕在化された東北が抱える問題の解決に向けたソリューションを発信していきたい」とTEDxTohokuを立ち上げ、今年で3年目だ

 

いよいよセッションのスタートです。この日の登壇者は12名ですが、4名ずつ、3つのセッションが行われました。

セッション1のテーマは「それぞれの物語」だったように思います。

我が師・羽黒山伏の星野文紘先達のお弟子さんであり、イラストレーターでもある山伏・坂本大三郎さんは法螺貝の音とともに登場。「四季」という季節の感覚は京都発祥の中央集権的な概念という坂本さんの分析は新しく、地域や歴史により季節の感性は異なる。東北という概念もまた、同じであると。農耕により食べ物を備蓄することが可能になりそこから富や権力が生まれたという話。山伏は別名「日知り(ひじり)」。自然と社会、聖俗をつなぐ媒介者。自分自身の物語を見つける、自立とはすなわち自然を知ることであるという話は、今年わたしも山伏修行をしただけにすとんと腑に落ちる言葉でした。

 

■坂本さんのアーカイブ動画

 

東北芸術工科大学の三浦秀一先生とは、エネシフ山形を通じておつきあいがありましたが、この日、ようやくお会いできました。いま話題の『里山資本主義』を、山形をフィールドに実践されています。石油から薪炭へ、化石燃料から森林へ。資本を石油メジャーに流出せず地域で回す、ヨーロッパ先進国のモデルを山形で実現しそれを各地に広げるビジョンが語られました。

 

■三浦さんのアーカイブ動画

博報堂CSR部長でCBD(生物多様性市民ネットワーク)代表、写真家でもある川廷昌弘さんとも、これまでいろんなイベントでお会いしていたけれどもようやくご挨拶できました。美しい写真とパーソナルなストーリーから成るスタイリッシュなプレゼンテーションに魅了されました。地球温暖化や生物多様性などグローバルな言語変換に翻弄されているいまこそ、日本の伝承や方言に残り伝わる知恵を見直し、地球の生き物としてのしなやかで美しい物語を伝え、未来の伝承者になろうという呼びかけは、森ノオトの主婦レポーターのみんなの日々の実践そのものと思いました。川廷さんは「いただきます」の話をされましたが、森ノオトのあおばECOアカデミーで出てきた「ほどほど」「にこにこ」など、日本らしいやわらかで温かい知恵を、日々の生活から生まれる言葉として美しくつむいでいきたいと感じました。

 

■川廷さんのアーカイブ動画

 

南三陸町出身の研究者・山田明美さんは、とても素敵な刺し子の刺繍があるチュニックワンピースを着て登壇されました。刺し子は今回のTEDxTohokuのモチーフでもあります。古布をつくろい強めて美しくする刺し子は山形で脈々と受け継がれて来た伝統技法。山田さんは「まだ見ぬ“みちのく”=未知之国へ」というテーマで、世界に遍在する<東北>という新しい価値観を定義しようと試みています。

 

■山田さんのアーカイブ動画

 

 

法螺の音で登場し、法螺とともに会場を後にした坂本大三郎さん。山伏ならではの自然観、その言葉は胸にすーっと沁み込みました

 

セッション2は、東日本大震災、復興……いまなお渦中にある重いテーマを、様々な切り口と表現で再発見しました(セッション2以降の動画アーカイブは現在製作中のようです)。

Twitterで詩作する福島在住の詩人・和合亮一さんの舞台はまるで演劇のようでした。「東北はわたしです。東北に生きる。東北を生きる。……まだ見ぬ、みちの奥へ。」強烈に言葉が響いています。震災で、いままで書き綴った詩をすべて投げ捨てた。そして、いつも新しい絶望と不安の中で言葉が目覚め、それをTwitterに書き続けるというスタイルは、余震のたびに、余震という言葉とともに、いまなお綴られ続けています。

小川悠さんは気仙沼の高校生を対象に「ソーシャルイノベーションクラブ活動」をしています。若者の地域離れの3つの理由を、1)地域のよさを理解する機会がない。2)地域の人々とつながる機会がない。3)未来をつくる方法を学んだことがない。と分析。気づく→形にする→伝えるという3ステップで、高校生発のイノベーションを支え、結果、周りの大人が変わる、地域が変わるという変化を生み出している、現在進行形の取り組みを発表しました。

アーティストの吉川由美さん。2010年夏より南三陸町の民家や商店に住む人々の物語を「キリコ」に表現するプロジェクトをプロデュースしました。約1kmの道に650枚のキリコが飾られ、それは大津波で流されました。人々の心ときめく思い出、競いあった技や知恵、これらは絶対に目に見えない酵母菌のようなもの。こうした「見えないものを見せる」ために、残った建物の基礎のうえに、キリコを再現しました。一人ひとりの生き方への尊敬と賞賛、見えない物を見出し続ける、吉川さんの挑戦は続きます。

彼のことを何と表現すればいいのでしょう。時代が生んだ天才か、もしくは「働きたくないでござる」ニート社長なのか。石森大貴さん、震災直後の「ヤシマ大作戦」の首謀者です。Twitter上で流れた節電要請に対し、SNSでムーブメントをつくる。出来ない理由を探さずにまずはやってみて著作権の問題もクリアしていき、100年後の防災の礎をネットで築き続けています。数時間でプログラムを組み、司会者が何度トライしてもとれない笑いを15分のプレゼンで常に渦をまく話術。やはり彼は天才なのか奇人なのか。驚きました。

 

会場は満席のため、サテライト会場で中継を行いながらプレゼンテーションを見られる環境を用意した

 

セッション3は、わたしが最も楽しみにしていた時間です。

行山流舞川獅子舞は、一関市に続く郷土芸能です。壮麗な太鼓の音と躍動感あふれる踊り、これはしし(猪のしし、鹿のしし)への鎮魂、感謝、供養の踊りでもありました。担い手も地域の長男から女子どもへと広がっているそうです。郷土芸能隠されている何かしらの先人のメッセージ、「それを読みとったらおもしろい」とは、小岩秀太郎さんの言葉です。

及川久仁子さんは岩手県奥州市・南部鉄器の製造メーカーの5代目社長として、欧州・中国など世界を相手に南部鉄器の魅力を広めています。「300年前と同じ技術でつくられた鉄器をいまここで使う素晴らしさ」と海外で評される鉄器は、日本の流通界では「重い/さびる/古くさい/手入れが面倒/長持ちするから買い替え需要がない」と敬遠されたきたそうです。その評価が覆ったのは震災。生活の証として、家族の記憶として、修復を願う声が後を絶ちませんでした。「鉄器は温もりと愛情を感じずにはいられない生活の道具」と及川さん。スピード化・加速化した現代で、鉄器の魅力は世界に伝わるものと確信しているそうです。

わたしの友人でもある渡辺智史さんは、在来作物を取り扱った映画『よみがえりのレシピ』から、彼の世界観を伝えました。大量生産・大量消費社会で、同じような野菜が同じような調理法で供される現代の食卓に渡辺さんが疑問をもったのは、2008年の中国製毒入り餃子事件が大きなきっかけでした。工業製品化された食、家畜の現状を見つめた時に、彼が出会ったは自分の原体験「山形の在来作物」だったのです。地域固有の食文化、そして味覚を次世代に伝えるための次回作の制作に入った渡辺さん。次も応援していきます!

 

TEDxTohokuの登壇者たち。この日、たくさんの出会いがありました。確実に次につながる一歩が、この日始まりました

 

そして今回のセッションのオオトリは、ネイチャーテクノロジーで知られる東北大学の石田秀輝教授。今年、地元のたまプラーザでのスタイリッシュでスマートなプレゼンを拝見して以来、もう一度東北で話を聞きたいと切望していました。こころ豊かな暮らし方の形を、黄金の国・ジパング「東北」からーー。石田先生の話は、テクノロジー(行政・企業)の役割をひもとくことから始まりました。

GDPが上がり物質的豊かさが右肩上がりになっていたはずの日本で、なぜ生活満足度や幸福度が下がっているのか。いまこそ「知の再編」が必要ではないかと石田先生は説きます。地球環境制約を認めながら人の欲を満足させる、1つしかない地球からいまを俯瞰するバックキャスト志向と、研究室で行う「90歳ヒアリング」つまり過去から未来を鑑みる手法は、一見すると正反対です。そこから導き出される答えの一つが、「自然に生かされることを知り、自然を生かすすべを知る」生活……「確かな未来は懐かしい過去に出会った」と石田先生は言います。ちょっとした不便さ=ポジティブな制約を、自ら動くことによって超える、依存型から自立型へのライフスタイルの行動変容を生み出すイノベーションを、石田先生はまさに提案しておられるわけです。

ワクワクする未来を選びつくるのはわたしたち次第。「いかに、行動するのか」。日々、森ノオトエリアの生活の中で感じている問いの答えが、TEDxTohokuにはありました。

 

TEDの精神にみちのくをx(かけ)たら……背後に広がる山形の美しい風景を見ながら、ここから始まる新しいみちのくへ思いを馳せました

 

さあ、みなさん、インターネットでぜひ「TED」と、自分の気になるキーワードを掛け合わせて、検索してみてください。新しいアイデア、技術、価値、共感、発見が、たくさん転がっています。

そして機会があればぜひ、近くで行われる「TEDx」を探して、参加してみてください。東京でも、時々開催されています。日本中から、世界中から、「広める価値あるアイデア」が集まってきます。その場に身を浸すことで、自分の中の細胞が新しく組み変わるかのような体験ができます。

もしかしたら、自分たちでTEDxを開催することだって、できるのです。TEDの精神を共有し、定められたルールのもとであれば、独自に運営が可能なのです。

まずは、TEDを知ることから新しい一歩を、踏み出してみませんか。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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