琥珀の子〜電気のおはなし第2話〜
「そもそも電気って何なのだろう?」という素朴な問いから生まれた新連載。電気のおはなしの時間がやってまいりました。前回は、古代ギリシアから1600年代のイギリスへと飛んで、琥珀の子が「エレクトリシティ」と名付けられるまでに触れましたが、第2話は、また別の角度からの名づけに関わるお話です。では、電気をめぐる時空の旅に出掛けましょう♪

西暦1600年、西洋で「エレクトリシティ」と名付けられたものを「電気」と翻訳したのは、はて、いったい誰だったのでしょう?

 

これが、どうやら日本人ではないらしい。

 

現在分かっているところでは、1851年、中国で出版された『博物通書』という書物の中で、はじめて「電気」という言葉が使われたのだそうです。なお、「博物」とは今で言う「科学」のこと。「通書」とは「暦」とか「年鑑」のことで、この書物について簡単に説明すると、太陰暦を使っていた中国人に太陽暦のしくみを説明するのが主な内容だったようですが、その中の最後の章で、電気の紹介もされていました。

 

この、中国で最初の「電気の解説書」は、日本にも持ち込まれ、写しとられたものが今でも何冊か残っているそうです。当時の日本は江戸時代末期。まだまだ鎖国中でしたが、洋学者たちは、長崎や沖縄を経てもたらされる最新情報を手に入れてせっせと学んでいたわけです。1853年にはいよいよ黒船がやってきて、1854年の2回目来航の際には、ペリーさんからも電信機の献上があるなど、新しい技術や文化と向き合わされて、上も下も大騒ぎ! だった時代。

 

電話1本、メール1通で済む用事にも、たくさんの時間と労力、汗と涙と血が流れたんだなあ、ということを忘れたくないものですね。

と、ちょっと話がそれましたが、「博物通書」にもどりましょう。

 

さて、実は、この書物を著したのは、中国人でもなくて、アメリカ人宣教医のマッゴヴァンさん。彼はキリスト教と西洋医学を携えて1843年に中国の寧波(ニンポー)に渡り、診療所を開きます。それだけでは飽き足らず、中国の知識人たちに向けて医学や科学の普及講座を開くなど、西洋の知識や概念の紹介も精力的におこなったんですね。その後、布教の可能性を調べるために日本にも訪れたのだとか。冒険家!

 

西洋医学の用語、科学用語、キリスト教の神という概念などは、それまでの中国になかったものです。そのため、1850年代には、宣教師と中国人が協力して翻訳作業をおこない、多くの書物が出版されたのだそうですが、「電気」という用語は、マッゴヴァンさんが電信機を持ち込んで科学講座を開いた現場で生まれた可能性が高いのです。

 

つまり、「電気」とは、中国人とアメリカ人の合作。アメリカ風味、中国経由で、江戸末期の日本を駆け抜けた、琥珀の子……。

 

 

当時、かみなりは電気であるということは既に分かっていたので、かみなりを意味する「雷電」と、天地に満ちている見えないちからである「気」を組み合わせて「雷電の気」という言葉が生まれ、?それが縮まって「電気」となったのでは? と考えられていますが、真相は闇の中。ちなみに、「雷」はかみなりの音を、「電」は稲妻、光をあらわします。「でんき」はぴかっと放電したりするので、「雷気」にはならなかったのかもしれません。

 

時を経て、現在の中国では「電気は気ではない」と判断したらしく、「電」だけでも、電気を意味するのだそうです。

 

日本でも、それまでは、1700年代に入ってきたオランダ語の音をそのまま写して「エレキテル」。「越歴」と書いて「エレキ」と読むという、ややヤンキー風といいますか、ダサ格好良い用語が主流だったわけですが、1850年代に入ってきた「デンキ」が次第に定着して、明治20年代以降には、エレキは影が薄くなっていきました。

 

でも、もし、そちらが定着していたら?

 

「家けっこう省エレしてるよ!」とか

「今年はエレキが足りない。」

 

なんて会話が日常となっていたのでしょうか。

 

あざみ野ぶんぶんプロジェクトの活動で「今日もエレキ愛してますか?」などとふざけて言っていたら、エレキガールだとかエレキ女史なんて言葉がふたたび生まれてしまいましたが、マッゴヴァンさんは「いいね!」と言ってくれそう……いや、苦笑してるかな。

 

ということで今回はこれまで。それでは また次回!

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この記事を書いた人
梅原昭子コミュニティデザイン事業部マネージャー/ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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