梅原さんのエネルギー夜話・その3 食とエネルギーの地産地消
ないものを作り出すのは、しんどいけれど楽しい作業です。私たち人間は、その時代時代で最良の暮らしを得ようと、懸命にものをつくります。ここは大正時代につくられ、そして忘れられた小水力発電所跡。再生可能エネルギーへの関心の高まりによって再発見された、小田原の小さな誇りです。
(この記事は、消費者力アップ県民提案事業の委託事業の一環でお届けしています)

さて、エネルギーで小田原をめぐる旅の最後に登場するのは、小山田大和さん(38)。前回ご紹介した鈴木悌介さんのもとで「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議(略してエネ経)」の事務局長となり、現場を動き回り、農業や林業の発展につながるエネルギーの事業を立ち上げようと奮闘しています。

 

小山田さんが最初に案内してくれたのが、この小水力発電の遺構が残る久野の山林でした。私有地ですが、この数年で市民が協力して手入れをして、当時の面影を次第にあらわにしてきた、かつての発電所。ブルドーザーや電動工具もない時代の、人間の手仕事の跡でもあり、苔むして自然と一体となっている様といい、ただただ美しいなあと感動しました。ここは、小山田さんにとって大切なパワースポット。訪れるたびに、先人たちの気概に触れて勇気づけられるのだそうです。

 

郵便局の営業マンから、脱サラしてエネルギーに関わるようになった小山田さん。教師を志していたということもあり知識が豊富。地域の歴史にも詳しい。出身は神奈川県海老名市

 

私が小山田さんを最初にお見かけしたのは、2015年、パルシステム神奈川ゆめコープの市民活動応援プログラムの報告会でのことだったと思います。市民活動支援金を森ノオトでいただいていて、同じく小山田さんも、おひさまマルシェというイベントを行うために支援金を獲得していたのでした。おひさまマルシェで、独立型のソーラーシステムをつくるワークショップを一緒にやらないかという話が出たのですが、日程が合わなかったため、特に交流が始まることもなく時間が過ぎてゆきました。

 

その後、小山田さんが小田原でソーラーシェアリングを始めたと聞き、これは一度話を聞きに行かなければと思い、湘南電力と鈴廣とかなごてファームをめぐる今回のツアーが実現したのでした。ソーラーシェアリングに関しては、以前こんな記事を書いていて、森ノオトの拠点がある横浜市青葉区周辺でもやりたいなと思っている創エネの事業です。

 

私は、思い切って自分で土地を借りて農業者となり、そこで発電を行うのがよいのかといったことや、青葉区周辺の全体の景観を考えた時に、どうしたら美しいまちと言えるかなと考えながら、青葉区の寺家町や川崎市麻生区の早野を始め、通りがかりの空き地や耕作放棄地を眺めています。

 

“梅とみかんの里”、曽我にある、かなごてファームソーラーシェアリング第一号は約320平方メートルの土地に、約15kWの発電設備をつけて、年間売電料が60万円ほど。それが農家の収入を支える基盤となる

 

かなごてファームは、神奈川県と静岡県を結ぶJR御殿場線沿線の耕作放棄地をなんとかしたいという思いから、エネ経会議の後押しにより発足した団体です。「かな」がわと「ごて」んばを合わせたネーミングで、最初はみかん畑をよみがえらせるために、素人が集まりできることをと、知恵と市民出資を集めました。それを元にみかんを育てて出資者に還元し、さらにジュースに加工して販売するという事業モデルをつくりました。小山田さんは、川久保和美さんという農家さんに出会えたことで、土地や生産の手段を得て、自らは、加工のための工場探しや営業を担います。時には畑にも出向き、どっぷり作業することもあるそうです。

 

小山田さんらは、耕作放棄地を「お昼寝していた土地」として、この取り組みを「おひるねみかんプロジェクト」と名付けました。その後、おひるねみかんジェラートや、玉ねぎジャムといった商品もつくり、販売まで自分たちで行う6次産業化に力を入れています。ネットでの呼びかけと、地域のお店や催事等を通じて販売されていて概ね好評を得ています。小山田さんから購入した玉ねぎのジャムは初めての味、煮物等の隠し味に入れたり、肉の下味に使ったりして楽しみました。

 

ソーラーパネルの下の農地では、さつまいもが栽培されている。神奈川県ではまだソーラーシェアリングの事例が少ないが、千葉県や静岡県では合わせて200件近い例が既にある

 

このソーラーシェアリングを設置したのは、実は、川崎市宮前区にあるpassportという会社です。ここの子会社として、合同会社小田原かなごてファームを新たに設立し、2016年に発電事業を開始しました。

 

初期投資は約400万円。発電した電気は全量売電しています。想定していた以上に発電量があるので、当初年間40万円程度と考えていた売電収入は実績で60万円ほどとなり、投資回収は早まる可能性があるとのこと。小山田さんは「農業とエネルギーを組み合わせて、一次産業を元気にしていく。そんな新しい現実をつくりたい」と意気込みます。ソーラーシェアリングは、次世代に農地を農地のまま残すために農家が自分で設置するケースも増えていると、神奈川県主催の勉強会でものちに聞きました。

 

私は松田町でおうちエネルギーワークショップを開催したことがあるのですが、御殿場線や小田急線の車窓からこのエリアの風景を眺めていると、本当にたくさんの森林資源と空いた土地があるなぁとつくづく思います。ソーラーシェアリングや地域熱供給は、都市部の横浜市青葉区あたりでやるよりも、このあたりでやった方が実現が早いのかもと、移住を考えようかな? なんて気持ちがチラチラ湧いてきたりもしています。

 

私が今いる足元の、徒歩圏内の地域が大切なことは言うまでもないのですが、神奈川県を一つの地域とすれば、地産地消のエネルギー、地元のエネルギーといった時に広がりがあります。実際、小山田さんのところには、ソーラーシェアリングをやってみたいという声が近隣の町からだんだん寄せられるようになり、少しずつ具体的な話が広がっているようです。小山田さんは、その後、松田町にセカンドハウスをもち、そこでも色々仕掛けていくと益々奮闘しているので、これからの動きも見逃せません。

 

その4に続く

……夜話(やわ)とは、

(1)夜間にする談話。また、それを書き記した書物。

(2)気軽に聞ける話、また、そのような内容の本。

(3)禅宗で、夜に修行場の訓話をすること。

Information

かなごてファーム

https://www.kanagote-farm.com/

 

おやまだ大和のオフィシャルブログ

https://ameblo.jp/enejim/

梅原 昭子
この記事を書いた人
梅原昭子理事/事務局長/ライター
難しいものをおもしろく、かたいものをやわらかく翻訳し、絵で表現できる編集者。市民電力会社「たまプラーザぶんぶん電力」の社長になってしまうが、エネルギーの世界にも飄々とたゆたう視点で、こんがらがった世界を解きほぐす。アートユニット「WAKUSEI/ワクセイ」として縦横無尽に活動中。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー