外国人在住者と子育て 青葉区在住・Elena Quesada Diazさん
横浜市には、2019年3月末現在、98,760人の外国人が住んでいます。異国の地での初めての子育てなど、言葉や習慣などの違いから、悩みや困りごとを抱えている方は、決して少なくありません。主に横浜市青葉区、都筑区の外国人在住者と共に多文化交流事業に取り組むNPO法人Sharing Caring Cultureの理事でコスタリカ出身のエレナ ケサダ ディアスさんにお話を伺いました。(文・写真/NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 三坂慶子)
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

エレナさんが日本に来日したのは、13年前。母国コスタリカで将来の伴侶となる日本人男性に出会い、短期滞在のつもりで日本を訪れたのがきっかけでした。「日本語を勉強したいからとか、留学のためとか来日動機を語る人は多いけど、私は恋愛がきっかけだったの」とはにかみながら、英語で話し始めてくれました。

 

エレナさんは、現在4歳になったばかりの男の子を育てながら、平日は、自宅で英語やスペイン語を教えるほか、私たちのNPO法人の理事として、月に2回英語あそびの親子交流会をリードしたり、子ども向けのイベントを企画運営したりしています。

エレナさんは、未就学児を対象に歌や手遊び、工作を行う親子交流のplaygroupを英語で開催するほか、キリスト教の復活祭「イースター」などの季節のイベントも担当し、多様な子どもたちが集まる場をつくっている

エレナさんはいつもていねいにイベントの準備をし、当日も明るく、大らかな雰囲気で会を進行しています。そんな彼女が以前、4歳の息子ダリオ君が自閉症と診断された時の話を聞いて、彼女の母としての強さと覚悟を知り、胸が震えました。彼女の日本での子育てについて、一度深く話を聞いてみたいと思い、インタビューをお願いしました。

山内図書館の春休み特別絵本の読み聞かせ企画に協力。英語の絵本の読み聞かせの他に手遊び、歌もあり、図書館で子どもたちに英語体験を楽しんでもらった

 

中絶という選択肢があることにびっくり

 

はじめに、「日本での子育てで気がかりなことは、何ですか?」と私が一番聞いてみたい質問をしてみました。
妊娠初期の頃、エレナさん夫婦が産婦人科へ診察へ行った時のこと。夫に通訳をしてもらいながら、医師にさまざまな質問をしたとき、心配なら中絶という選択肢もあるとあっさり言われたことに心を痛めたそうです。コスタリカでは、カトリックという宗教的な理由に限らず、国が法律で妊娠中絶を認めておらず、どんな命であっても尊重されるべきという考えが浸透している環境で育ってきたので、まさかそんなことを医師の口から聞くとは思ってもみなかったと。また、担当した医師が、通訳役の夫には、視線を合わせて話をするのに、自分の方には正面から顔を見ずに話をしていて疎外感を感じたといいます。

 

「質問を重ねすぎて、嫌がられたのかもしれないけれど、私の赤ちゃんには興味がないようにさえ思えた……」。まだ命を授かったばかりで、妊娠、出産、子育てという長い道のりを前に、生まれてくる子どもへの支援はどんなものなのだろう?と不安がよぎったそうです。

 

自閉症と診断されるまで

 

エレナさんが他の子どもとダリオ君が何か違うと感じ始めたのは、1歳頃。言葉や体が発達するまで、もう少し様子を見た方がいいかもしれないと思い、その時は、それほど心配しませんでした。ところが、2歳を過ぎて、エレナさんは息子がつま先立ちをよくしていることに異変を感じ、自閉症スペクトラム障害の傾向があるのではないかと、病院で聞いてみました。2、3箇所の病院を訪れたけれど、どこへ行っても、診断するには、まだ時期が早いという答えしか返ってきませんでした。

 

そこで、自閉症が疑われる低年齢の子どもへの早期治療について自分で調べてみました。早期からの処置が効果的と知り、夫にも話しましたが、夫は息子を自閉症と決めつけて早期治療を行うことに否定的でした。エレナさん自身、日本語でのコミュニケーションに自信がなかったので、日本で治療を受け続けることは難しいと感じ、「DIY(Do It Yourself ・専門家でない人が自分でやる)早期治療をしてみようって思ったの」と自分で調べた情報をもとに家庭でできることを実践していきました。

 

ダリオ君が3歳になった頃、コスタリカへの帰省中、教師をしているエレナさんのお姉さんの学校に発達障害の専門家が来るというので、計4回の統合的な診断を受けることにしました。そこで、初めて自閉症だと診断され、エレナさんは、はっきりと診断結果が得られたことに、安堵したといいます。

 

「診断にお金はかかったけれど、自閉症だと分かって、最愛の息子にどんな関わり方や方法があるかをこれまで以上に探ろうと思った」とモヤモヤしていた気持ちが晴れてスッキリしたと当時の心境を語ってくれました。それからは、自閉症の子どもを育てている外国人家族のSNSグループに属しながら、もっと息子のことを理解し、息子の可能性を信じていこうと思うようになったそうです。

 

エレナさんがリードする親子交流会にも時々顔を出すダリオ君。私は、エレナさん親子のやりとりをそばで見ながら、彼女がダリオ君のがんばりを誰よりも認め、できないことがあっても辛抱強く見守る姿に、母親として多くを学ばせてもらっています。

絵本や文字が大好きなダリオ君は、ママが読み聞かせを始めると興味津々で絵本の前に立ち始めた

 

支えになる人たち

 

続いて、「日本での子育てで支えになるのは、どんな人たちですか?」と聞いてみました。

 

「夫もそうだけれど、一番はダリオ」。言葉を交わさなくても、息子の様子からどんな気分なのかを察することができるというのは、母親として心がつながっている安心感があり、彼女の精神面での支えになっているそうです。また、子どもが病気にかかった時などは、病院へ行く前に、ママ友に聞くようにしているとか。特に子どもが幼稚園へ通うようになってからは、親しいママ友の存在は、日本の幼稚園生活を切り抜けるための大切なライフラインだといいます。それでも、幼稚園からの配布物やお便りなど、日本語で全てを把握するのは難しいので、時にはスペイン語や英語の教室に来る生徒の方々に、レッスンの最後に日本語で翻訳をお願いすることもあるとか。そして、誰よりも頼りになるのが、遠く離れた故郷のコスタリカに住むお姉さん。子育てで困った時などに、よく相談するそうです。

 

誰も排除されない社会に

 

最後に、エレナさんに「一人ひとりを尊重するインクルーシブな社会に必要なことは、何だと思いますか?」と質問してみました。

 

まずは、相手の違いを知ること。違いを知った上で、もっとポジティブに相手を知ろうとする気持ちを持つこと。“ポジティブに”というのは、相手の見た目や能力の違いを偏見で捉えて思い込むのではなく、より良く前向きに見ていってほしい、と。エレナさんは、「違い」があっても、一緒に生活したり、仕事をするなどして、共生社会を築いていけると信じています。息子のダリオ君にも、異なる人々との開かれた関わりの中で多様性に気づいてくれることを願っているそうです。

たくさんのクリスマスプレゼントの前に佇むダリオくん。フェルトのクリスマスツリーは、マジックテープでつけたり、外したりできる手作りおもちゃで、エレナさんが作ったものだとか。プレゼントの包装紙も無駄にしたくないので、再利用したそう

 

自分の前提を疑ってみる

 

エレナさんのお話を伺って、私が前職で小学校教諭を務めていた時のことを思い出しました。私は、海外帰国子女としての経験を活かしたくて教員になりました。小学校時代をアメリカで過ごし、日本人がいない田舎の現地校に通いながら、どうして私だけ日本人なのか、どうやったらみんなと同じになれるのか、そんな疑問を持って過ごしていました。当時担任だった日系3世の先生は、教室に雛人形を飾ったり、浴衣を持ってきて見せてくれたり、日本の話や文化のことをクラスの子どもたちに紹介してくれましたが、その度にお腹が痛くなって、トイレに駆け込む私。見兼ねた教師が「”Difference is good ” 違うって良いことよ」と話してくれて、みんなと違う日本人でもいいんだと思えるようになりました。

 

こうした背景もあり、教員時代に外国につながりのある児童の担任をする機会に恵まれました。父親がアメリカ人、母親が台湾人で、日本生まれ、日本育ちの2年生の男の子。その子は、漢字が得意で、書くのも上手。でも、ふと、なぜ自分が彼のていねいな字に感心したんだろうと思ったとき、もしかしたら私は、色眼鏡をかけて、その子を見ているのではないかと気づいて、ハッとしました。アメリカ人のお父さんに似た風貌の栗毛色の男の子が漢字が上手に書けるということのイメージのギャップ、それを「すごい」と感じたのだろうと。

 

〇〇だから、〇〇なのだと決めつけず、自分の当たり前が、実は当たり前ではないということを知る。一歩引いて見ることで、相手の「違い」を尊重することができるのかもしれません。

NPO法人Sharing Caring Cultureでは、主に外国籍の主婦を講師にした多文化カルチャー講座を開催。マレーシア出身のお母さんがハラールのおやつを紹介してくれるなど、地域活動に協力してもらっています。SCCでは、多様な文化的な背景を持つ人たちとの出会いを通して、子どもたちが違いを意識する場をつくっています。

この連載で、私は横浜市青葉区や都筑区など北部に暮らす、外国人在住者の家族へのインタビューを通して、外国籍家族の日本での子育てについて、日本語では発信できない彼らの想いや経験を伝え、皆さんと共有していきたいと思います。これから、どうぞよろしくお願いいたします。

Information

エレナさんがリードする6月のVIDA playgroupの開催予定日:

●VIDA park play 公園あそび 

日時:5月30日(木)10:30-11:30

会場:新石川公園(青葉区新石川2-7-20)

参加費: 1家族 ¥200(保険料込み) 

*雨天中止


●VIDA English playgroup 英語あそび

日時:6月10日(月)10:30-11:30

会場:つづきMY PLAZA / センター北 ノースポートモール5階

 

Profile

三坂慶子

NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 / 川崎市立小学校外国語活動講師

幼少期をアメリカで過ごす。現地校に通い、小学校3年生で日本に帰国、公立小学校へ編入。大学院修了後、民間の英会話スクールにて児童英語講師を10年間務めた後、川崎市立小学校教諭となる。出産を機に退職、2014年に任意団体Sharing Caring CULTUREを立ち上げ、日本人と外国人が文化的な活動を通じて交流を深める場をつくる。2019年にNPO法人となり、在住外国人とともに地域づくりを進めることを目的とした活動を展開する。


団体ホームページ:https://sharingscc.wixsite.com/sccjapan

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