自然豊かな森を市民の手で。20年続く水沢森人の会
横浜市青葉区と川崎市宮前区の境にある菅生緑地の西側に、市民に親しまれている「水沢の森」があります。この森を20年にわたり川崎市と協力しながら市民の手で維持している「水沢森人の会」の活動について、初代代表の水野憲一さんと、現代表の本郷一雄さんにお話を伺いました。

東急田園都市線のたまプラーザ駅から2キロちょっと離れた美しが丘西エリアに暮らす私は、隣接する川崎市宮前区にある、竹林や雑木林の横の細い道を通って駅まで行き、通勤していました。その「水沢の森」は、春になると鶯の鳴き声が聞こえてきて、夏には竹林から心地いい空気が流れてきます。子どもが生まれてから、散策に出かけるようになり、中には整備された池や広場があり、畑や果樹園などが広がっていることを知りました。

 

水沢の森の広場、お弁当を持って木陰でまったり過ごすのがお気に入り。子どもたちはここで木登りをしたり、虫を捕まえたりして思い切り楽しんでいます。定例活動の日の集合場所でもあり、秋には栗拾いもできます

 

ある時、農作業をしている方々から「森人(もりんど)の会」という活動について伺い、週末に参加させていただくことになりました。二人目の子をおんぶしながら、里山保全活動や農作業に参加し始め、その気持ちのよさにすぐに虜になりました。週末ごとに、時間を作って朝から畑へと行き続けて3年強。昨年のコロナ禍では私にとって更に欠かせない日々の暮らしを彩る場所ともなり、心に引っかかることがあったときでも、優しく包み込んでくれる、いつも心身ともに支え続けてくれた存在でした。

皆で草刈りをしたり、池をきれいにしたり、竹を伐ったり。自然あふれる里山の景色から季節を感じながら、地域の様々な方たちと色々な話の種で盛り上がり、大先輩たちに昔の話や畑、自然、山、子育て、調理法など、色々なことを教えてもらい、世代間交流をしつつ本当に豊かな時間を過ごしています。

 

春には一面のお花畑。以前はそば畑だった場所。花大根の花による紫色のお花畑は圧巻、不思議の国に迷いこんだ気分

初代代表の水野憲一さんは、長年にわたり日本自然保護協会などで白神山地や沖縄の森林保護などの活動にかかわり、環境ジャーナリストとして環境問題に取り組んできた経験を地元の環境保全に生かしてきました。

 

身近な自然に親しむことのできる場所をつくることで、たくさんの人に自然の魅力に気づいてもらい、自然を大切にしようと思う仲間を増やし、豊かな自然を次の世代に引き継ぐこと。一人ひとりのできることはたとえ小さくても、思いを持った人が全国各地で少しずつでも活動することで、たくさんの仲間をつくることができる。まさにその理念を実践してこられました。

 

水野さん(左)と本郷さん(右)。歴史、昆虫や花のこと、何でも詳しく穏やかなお二人の周りにはいつもたくさんの仲間たち。お二人のおかげでとてもよい人の輪ができています

 

現在の代表である本郷一雄さんは1990年頃、水沢の森を源とする平瀬川に出合いました。当時は新興住宅地からの家庭排水でドブ川化し、加えてコンクリート2面張りの工事中だったと言います。学生時代に遊ばせてもらった川を思い「住んでいる地域の川が貧相ではつまらない。せめて緑の護岸のある川に」と思っていた時、子ども時代に平瀬川で遊び育った4050代の人たちと遭遇。地主さんや学校を巻き込んだ平瀬川流域まちづくり協議会の前身団体を結成し、川崎市に陳情したり、神奈川県や国に相談して実現できたそうです。この活動を通じて地域のつながりの大切さを実感し、身近な自然環境をますます大切にするようになりました。そして、自然観察指導員の資格も取られています。

 

そんな中、1990年代に前々川崎市長が公害の町のイメージからの脱却を目指し、7区に1つずつ「市民健康の森」として市民が管理する森をつくろうと、各区に市民委員会を立ち上げることになりました。1999年~2000年にかけて、川崎市宮前区でもワークショップが開かれ、公募により、水野さんと本郷さんも参加し、行政担当者と30人程度の有志・有識者が集まって、今の「水沢の森」に続く市民健康の森を、何度もどんな公園にするかという議論や周辺候補地の調査を重ねました。

 

このエリアでも都市化が急速に進む中で、子どもたちが自然に親しみ、憩い、大人になっても帰って来たくなるふるさととなるような場所をつくるにはどうしたらいいのか。

いくつかの候補地がある中で、菅生緑地が選ばれ、愛称を「水沢の森」とすることに。その後、どんなイメージの森にするかを討議し、「生き物が戻ってくるような自然豊かな森をつくろう」とまとまりました。通常の公園ではなく、昔の里山の姿を取り戻し、野生動物や昆虫、草花などが生きられる環境づくりをして再生させようということをテーマに掲げました。

 

20年前にデザイナーさんが描かれた水沢の森のイメージ図。現在、ほぼイメージ通りとなっています(資料提供:水沢森人の会)

 

菅生緑地は現在11ヘクタールあり、そのうち東地区は元々「烏谷」と呼ばれる谷戸が広がるエリアで、昭和51年に川崎市中央卸売市場北部市場ができた際に、横浜市との境に誕生しました。北部市場ができる前には菅生遺跡も発掘されており、縄文時代の遺跡が見つかっています。

一方の西地区は、昔のままの畑や果樹林、竹林、雑木林が残る、これから整備を始める段階のエリアでした。荒れ地となっていて、産業廃棄物が放棄されていた場所もあったそうです。昔は雑木林の落ち葉を堆肥にしたり、木を定期的に切って薪や炭の材料にし、切り株から出た芽を育て次世代の森をつくりました。生活様式の変化と共に、雑木林がそのような役割を果たすことがなくなり、雑木林の手入れがされなくなりました。

 

本郷さんが地域の方から聞いた話によると、終戦直後の水沢エリアには家が4軒しかなく、農家が雑木林を活用しながら、暮らしておられたとのことです。「水沢」の名は明治維新後の地租改正の時に、湧き水が多かったことから命名されたそうです。

活動の最初の1年は、荒れ放題の雑木林や竹藪、柿、栗の果樹園、笹藪を手入れして、もとの姿に戻すことに汗を流したそうです。

 

10年かけて整備してきた竹林。春にはたけのこ掘りで賑わい、夏でも涼しく、天然のクーラーとなります。竹のチップをザックザック踏みしめるのも楽しい道

 

現在の水沢の森には、畑や竹林、原っぱ、池などがあり、自由に出入りできるようになっています。散策やカブトムシやクワガタなど、虫採りに来る方も多いです。水沢の森の会員は145名、60代以降が中心ですが、私のように親子で参加する家族連れも増えており、自然観察会など地域に開かれた会を催しています。

 

子どもたちのふるさとを

 

定例活動は毎月第3日曜日、4050名が参加して草刈り、竹林整備など、里山の維持・管理に皆で汗をかいています。緑の中で市民が語らい、憩うひろばとしての森を作り、地域コミュニティの再生を図ることを目的としています。定例会の際には春には野草のてんぷらの会、秋には芋煮会などといったイベントも企画してきました。

 

このほか、竹林班、農作業班と曜日ごとに集まって活動し、毎月第1土曜日には運営委員会として、委員の方々が活動について議論を重ねています。

 

シイタケの駒うち体験。手作りのトンカチを使い、シイタケの菌を桜やクヌギの木に打ちこんでいきます。竹をのこぎりで切るなど、様々な体験ができる

 

周辺の自治会や小学校などに声をかけ、早春のバードウオッチングに始まり、竹林整備を兼ねたタケノコ掘り、夏にはトンボ、蝶、水生昆虫の自然観察会、秋には栗拾いなど、一年を通して季節のイベントが開かれて、体験できるようになっています。

 

200011月には、菅生小、稗原小、美しが丘小の、横浜・川崎両市にまたがる近隣の子どもたち約200人が参加してのドングリを蒔き、菅生中の生徒たちが池を掘るというイベントを行いました。それから21年、コナラやクヌギなどの立派な木々が育って、私たちを見守ってくれています。毎年、宮前区の小学校の環境学習で水沢の森の見学や、畑仕事のお手伝い、竹林の手入れや竹細工づくり、植樹といった体験学習も行っています。

元々、子どもたちのための自然をつくろうという願いをもとに整備されたこの森が、みんなのふるさととなってくれるのは森人の会の夢でした。

水野さんは「未来を担う子どもたちに、大気、水、森林といった『環境』を学ぶことの大切さを、自然に触れることで学んでいってほしい」と考えています。

 

「子どものころから自然にコンタクトできるということが一番大事だと思っています。それには水沢の森に以前存在した美しい草花(ツリフネソウ、ミソハギ、ヤマユリ等)や、食べられる実がなる中・低木(ガマズミやクワ、ヤマボウシ等)を多量に復活させること。そうすれば、訪れる子ども、そしてチョウチョをはじめとする昆虫が増え、それを餌にする野鳥が増え、消滅しそうなコジュケイの保護になり、20年前にいなくなったキジの復活もあるかもしれません。野鳥が運んでくる木の実から高木が生え、森はたっぷりと水を貯え、平瀬川の流れは安定することを子どもたちに伝えていきたい」と本郷さんは語ります。

 

水沢の森には手製の看板に、観察できる動植物の説明が書かれていて、森を歩きながら学ぶことができる(撮影:梶田亜由美)

20年かけての市民の森づくり

 

水沢の森は「菅生緑地」であり、都市公園法、都市緑地法に基づいて管理されるところです。ところが、「健康の森」の事業は普通の公園管理とはまったく違った新しい緑地づくりの仕事です。

 

「行政の立場としては非常に矛盾した事業なので、どのように運営したらいいか議論があったに違いありません。植樹も伐採も、果樹園や畑をつくることも、本来は法的にはできないことです。しかし、川崎市の行政はこの例外的なプロジェクトに100%前向きの姿勢で取り組んでくれました。当初から行政と一体化した計画を立てて、ここまで来ることができました」と本郷さんは話します。

 

市の設計、整備計画には森人の会も参加し、市は市民の希望通りに里山づくりに協力してくれ、画期的な官民協働が進められたと言います。2019年には、通常の公園管理協議会とは違った独自の活動に関する川崎市との協定が締結できました。「横浜市には舞岡、寺家ふるさと村や新治市民の森など里山公園の大先輩がありますが、川崎にもそれに習った里山公園が誕生したことになります」(水野さん)

 

これだけの規模の森を、市民の手で維持しても年間4050万円はかかります。この費用は、毎年里山保全活動にかかわる民間財団の助成金への申請を続け、運営を成り立たせています。

 

2015年に全部の用地買収が終わった段階で水野さんが作成した全体図。整備はこの構想図の通りに進んで現在は、ほぼこの図のようになっている。「これからやることは森は森、池は池で、それぞれクオリティを高めていくこと、まだまだ仕事はいっぱいあります」と水野さん(資料提供:水沢森人の会)

 

当初、西地区は2.1ヘクタールでしたが、行政は地主さんたちとの折衝を重ねながら15年がかりで少しずつ用地買収を行い、現在は約5ヘクタールにまで広がっています。

 

「これはラッキーなことで、いつも新しく加わった土地をどうするか、みんなで知恵をしぼりながら森づくりを進めてきました。例えば竹林の手入れで切った竹を利用しようと、竹炭焼きを始めたり、荒地だったところには森のドングリから育った実生を子どもたちに植えてもらったり、池をつくったり、立ち退かれたお宅の井戸を残してもらってその水を引きせせらぎを作ったり。畑も、始めからあったわけではなく、公園内に編入されたのは2008年でした。さあどうしようか、前のオーナーのおじいちゃんがとても一生懸命耕作しておられたので、その畑をつぶしてしまうのは忍びない、という気持ちから、前オーナーの娘さんご夫妻から手取り足取り教えてもらいながら素人が畑仕事を始めたのです。あれやこれやみんな楽しい思い出です」(水野さん)「どんなことでも、任せられる匠がたくさんいて、大変素晴らしい団体だと思います」(本郷さん)

 

 

「最後には人工的につくったとわからないような森ができれば。こんな活動を次の世代が知って、引き継いでくれたら。そして子どもたちには将来、自分のふるさととして戻ってきてほしい」と本郷さん(左)(撮影:梶田亜由美)

川崎市にある市民健康の森ですが、この活動には興味がある方ならどなたでも参加でき、広く川崎市一帯や横浜市の方々も参加されています。皆さんも一緒に里山で自然と対峙しながらリフレッシュしつつ、地域の方々とつながりながら、自然を守り、維持する活動に参加しませんか?

 

 

取材を終えて

経済の発展に伴う公害の発生、それに対する環境保護といった時代背景の中で、奇跡的な出会いやつながりが重なってこの森づくりが始まり、そこにこれほどの逸材が揃った素晴らしいネットワークができたのだと知りました。私は、この会に出会え、参加できていることに改めて感謝の念でいっぱいになりました。また、取材を通して、自分が住んでいる地域の歴史やこれまでのことを深く知ることができ、森人の会にまつわる色々な活動について調べることが楽しく、好奇心が止まりませんでした。

こうして未来の子どもたちのためにと築いて来てくださった宝物を、私たちも後世に引き継いでいきたい。そして人間だけでなく、動植物も共に生きやすい自然豊かな森を大事にしながら、この土地の文化や歴史を伝えていきたいと思いました。

私は仕事を始めてもうすぐ20年となりますが、これからの人生で大事にしていきたいことも見えてきた気がしました。もっと環境に目を向け、地域の方々と里山保全活動を通して、温かいつながりを持ち、関わり合いながら、地球や自然を大切にして生きていきたいと思っています。

Information

NPO法人「水沢森人(もりんど)の会」

http://morind.216.jp/mizumori.html

水沢の森へのアクセスは上記ホームページをご覧ください。

隂山綾
この記事を書いた人
隂山綾ライター
大阪出身で横浜市青葉区在住。広がり続ける好奇心をエネルギー源に生きる2児の母。登山、キャンプ、美術館めぐりが趣味。里山保全活動での畑仕事やランニングで地域のよさを発見しつつ、お酒・美味しいもの、素敵な場所を求めて旅することが好き。
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