虫が食うから、無農薬の野菜は安心?
 稲作は比較的、自然農法にむいている。気候の変化にも強く、あまり失敗はない。ところが、2000年の夏、ひどい水不足に見舞われた。溜池もなく、周りの山からの染み出る水しか水源のない田んぼが、初めて干上がった。ひび割れた田んぼにわずかな稲穂が残った。しかし、そんな状況の中でこそ、自然農法の稲の素晴らしさを発見することができたのだ。(寄稿:木村)

地中深くの水を吸って生きる自然農法の稲

表面は無残な地割れ状態だが、このような里山の湿田は、土の奥深くまで水分が残っている。自然農法の稲の根の先端は、地下2メートルまでも伸び、土深くの水分を吸収する。穂の数は少ないが、その一粒ひと粒のモミは立派に成熟していた。どのような条件であろうと確実に子孫を残そうとする。それこそ、自然農法の米の生命力だ。

人間は、米を「食料」としか見ないで、食味や増収のために品種改良を進めてきた。このような稲には、生命力は失われている。また、倒伏(稲が風雨などで倒れること)を防ぐために、品種改良で稲の背丈も短くされてきた。しっかり根を張ることができれば、少々の雨風では倒れることはない。私が植えている「栄光」という品種は、茎が太く、丈も長い。だが、なかなか倒れない。倒れても自力で起き上がれるだけの生命力を持っている。

耕作放棄地を田んぼに蘇らせる

 

慣行農法の水田は、機械を入れやすくするために地面を固める。いわゆる、乾田である。乾田は田んぼの水を抜いて乾かすことができる。日本の水田は本来、水の調節ができない湿田であり、そのために農家の米づくりは重労働を強いられてきた。近代農業が推し進められ、水田は整備され、固められていった。農家は昔と比較にならないほど楽にはなったが、効率性重視の考えは一枚の田んぼを大きくし、機械化の波は瞬く間に日本全土に広がった。

幸か不幸か、谷戸の田んぼや棚田は近代化から取り残され、昔ながらの姿を留めている。しかし、ただでさえ後継者不足に悩んでいる農家が、このような効率の悪い、採算の取れない水田を耕作するだろうか? 代々守られてきた田んぼを自分の代で終わらせたくないと、必死で守ってきたお年寄りも、もう限界がきている。次々と耕作放棄の田んぼは増え、それと同時に里山も荒れてきた。

耕作者のいない里山をだれが管理するのだろうか? 田んぼがそこにあるから、周囲の環境も保たれていた。私が寺家ふるさと村に出会い、入植することを決めたのは、ただ自然農法の稲作がしたかったからだけではない。この地にはかつて田んぼがあり、そこで様々な生物と人の営みが調和した里山の環境が息づいていた。私の目の前で荒れていたその里山を再生するには、田んぼの再生しかないと思ったからである。

 

 

 

自然農法の醍醐味

 

以前、私の作った野菜を見て「虫の食っている野菜は、無農薬だから安心だ」と言う消費者がいた。内心私は「違うんだけどなぁ…」と思っていた。自然農法の野菜は、虫も食わないのだ。

その理由は、土と種にある。買った種を初めての畑に蒔き、自然農法で作ってみる。すると、まず虫にやられる。それが 1年目。それで諦めてはいけない。その野菜から種を取り、2年目の畑に蒔く。1年目とは確実に違ってくる。虫も減り、作物も大きく育っている。そして、3年目。また、同じ畑にその種を蒔く。虫に食われている株と、元気な株が隣同士に存在する。なぜ、虫に食われる株と、まったく食われない株があるのか? それに気づくころから自然農法にはまってくる。

分かりやすく説明してみよう。買った種のほとんどは、人工的に肥料を与えられ、採種用として育てられた親の種である。その種は、畑に蒔かれると、まず肥料をほしがる。土のほとんどが人為的に肥料を入れられているから、その残留肥料をもらって野菜は育つ。自分で根を伸ばし、生きようとする力が生命力であるから、肥料で育った野菜は、どうしても病気や虫に弱い。また、根が伸びないため栄養失調で育たない野菜も出てくる。ほとんどの自然農法初心者は、ここで諦める。

実は、種を採るまでが自然農法なのだ。育たなかった野菜でも種を必死で残そうとする。そのわずかな種を、次の年に蒔く。この種は、自分で根を伸ばすことを知っている。土も肥料をもらっていないから、肥料に頼らず土自らが野菜を育てるすべを知っている。2年目で、育とうとする野菜と、育てようとする土との協働作業が始まる。そして3年目、健康な親から採れた種は、見事に育つ。それでも、虫に食われるものや、病気にかかるものも出てくるが、全体に広がることは決してない。自然農法から学べることは、この「適度」なのだ。

自然農法には害虫という考え方はない。それらは其々が訳あって存在し、適度なバランスを保って共存している。人の手の加え方次第で、そのバランスを大きく壊してしまう。人は、自然の理(ことわり)に耳を傾け、せいぜい、程を弁えることしかできない。

 

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