第27回:命の源の塩、いただきます。
映画『ひとにぎりの塩』レビュー(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

命の源の塩、いただきます。

生命の源、海。人間の体内にも塩分があり、その濃度は海水に近いという。人間は、塩なくしては生きていきていけない。命の塩は、工業製品であってはいけない。命をかけて塩づくりに生きる、能登半島の人々の物語—-。

 

映画『ひとにぎりの塩』公式ホームページより

 

■海水を砂に撒き塩をとる「揚げ浜式塩田」

 

映画の冒頭、朝日が昇る珠洲の海岸。海から木桶いっぱいに海水を満たし、それを打桶(おちょけ)に移して塩田に撒く浜士の姿が映し出される。その情景は浄めの儀式のようでもあり、浜士の動作は祈りにも似て神々しい。浜士(はまじ)とは塩づくりに携わる職人のことで、彼を補佐する「浜とりさん」と呼ばれる女性が加わり、駒渫(こまざらえ)というトンボのようなもので砂に筋目をつけてゆく。砂に撒かれた海水は太陽の光と風で蒸発し、砂の塩分濃度が上がってゆく。乾いた砂を集めて木枠に入れて、砂の上からまた海水をかけ、塩分を溶かしだして、濃縮した海水を取り出してゆく。海水の5倍もの濃度になった水(鹹水・かんすい)は、桶2つで70kgもの重さ。これを担いで大きな釜に入れ、薪をくべて一昼夜炊き上げる。浜士は寝ずの番をして火加減を調整し、翌朝、ふっくらと炊きあがった塩を見ては、ようやく安堵の笑顔を浮かべるのだ。

 

 

■戦に翻弄され専売の道へ

 

能登半島の最北端で、日本で唯一、江戸時代から脈々と「揚げ浜式塩田」の技法が続いてきた地域がある。奥能登・珠洲地域。加賀藩政時代以来400年、戦後まで海岸沿いには塩田が広がり、老若男女が家業として塩づくりに関わってきた。加賀藩では米とともに塩が年貢になり、製塩業を統括する「塩奉行」なる役職があるなど、歴史的・文化的にも、能登と製塩は切っても切れない関係にあった。

 

国土を海に囲まれ、岩塩や塩の湖がない日本列島では、塩を得るために古来より海水を焚いて塩をつくっていた。海水を焚く燃料を節約するために、焚く前に海水の塩分濃度を上げておく必要があった。これが鹹水である。比較的日照時間の長い能登半島では、砂に海水を撒いて水分を蒸発させて塩砂をつくり、集めた塩砂にさらに海水をかけることで鹹水を採り出していた。

 

能登半島の人々は、農業の合間に製塩業を営み、「夏は製塩、冬は出稼ぎ」で生計を立てていた。製塩に暗雲が立ちこめたのは明治時代以降の諸外国との戦争。「命をつなぐ塩は国のもの」とのおふれから、日本中の塩が軍隊に集められ、塩の専売制がしかれ、また塩づくりの担い手たちも出征し、戻らぬ者も多かった。

 

戦後、塩の自給確保と工業利用の観点から、塩の専売制度が本格的に始まった。揚げ浜式塩田のように、海水から鹹水をつくり釜で煮詰める製法は大量生産に適さず、専売公社の統制もあり、伝統的な塩づくりの技術は日本全国から姿を消していった。

 

 

■塩に命を救われた。製塩の灯を伝える

 

奥能登で唯一人、揚げ浜式塩田の技術を伝えた人がいる。角花菊太郎さん。製塩技術を持つことから出征を免れ、「塩は命の恩人だ」と、自らの身命をとして塩づくりに生きることを誓った。戦後の塩の専売時代にも、文化の継承と観光資源の保存を訴え、角花家だけが専売公社に塩づくりの存続が認められた。現当主の豊さんは角花家の5代目。国の重要無形民俗文化財に指定されている。6代目となる若き洋さんも父の背中を追い、塩づくりに励む日々だ。今年、佐渡とともに能登半島が世界農業遺産に指定されたことにも、多分に影響を与えている角花一家だ。

 

やがて1997年には塩の専売制が廃止され、珠洲でも揚げ浜式塩田の復活に賭ける人が続々と現れた。家業を思い出しもう一度塩田に立つ古老に弟子入りした、登谷良一さん、仲前賢一さん。また、流下式製塩法という新しい自然塩づくりに取り組む地元の実業家たちも現れた。観光の拠点は道の駅「すず塩田村」。自分たちの愛する能登と、製塩の文化を、まちの資源として伝えていきたい―–。塩に夢をかけた人たちの生き様が、この映画『ひとにぎりの塩』ではイキイキと描かれている。

 

 

■命を、いただきます。

 

海は、命の源である。塩は、命の結晶だ。マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラルの配合、割合は、海流によっても異なる。その土地の風土、海の水が溶け合って生まれる、ふるさとの味だ。こと能登の塩は、深いうまみとまろやかさで、浜とりさんたちは「この塩以外ではダメ」と太鼓判を押す。生まれた土地の塩を毎日の食事でいただく。心身に心地よく、もっとも馴染む「塩梅」なのだろう。

手塩にかけてつくられた物語。『ひとにぎりの塩』、どうぞ召し上がれ。そして、命を、いただきます。

Information

■上映情報

映画『ひとにぎりの塩』

2011年11月12日(土)〜25日(金)よりユナイテッド・シネマ豊洲にてロードショー、全国順次公開

2011年/日本/カラー/90分/ステレオ/©映画ひとにぎり製作上映委員会

監督:石井かほり

ナレーション:はな

制作・配給:有限会社ヒバナ・エンタテイメント

後援:石川県、珠洲市、国際連合大学高等研究所、世界農業遺産活用実行委員会、石川県観光連盟、 珠洲商工会議所、金沢芸術創造財団

特別協力:珠洲の塩協議会、株式会社奥能登塩田村 協力:北國新聞社、ユナイテッド・シネマ株式会社

公式サイト http://hitonigiri-movie.com/

 

※2011年 11/12(土) 14:45~ ナレーション・はなさんと石井かほり監督による舞台挨拶あり。

※ その他、来場者の珠洲の揚げ浜塩のプレゼントなど、イベント情報は公式サイトに公開

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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