Vol.25 NPO法人C・C・C 富良野自然塾副塾長 林原博光さん × 横浜市環境未来都市理事 信時正人さん
テレビドラマ『北の国から』などで有名な北海道富良野市の大自然を舞台に、森林再生と環境教育のフィールドとして知られる「富良野自然塾」。脚本家・倉本聰氏の呼びかけで塾に参加し、運営を切り盛りする副塾長の林原博光さん。川崎市多摩区の自宅と富良野市を行き来し、実践型環境教育プログラムを全国に広めています。林原さんの活動に横浜市環境未来都市理事の信時正人さんが迫りました。
(写真・文/キタハラマドカ)

●視覚をシャットアウトすることで研ぎすまされていく感性

信時正人さん(以下、敬称略): 以前、富良野自然塾の「闇の教室」を体験したことがあります。光がまったくない、真っ暗闇の世界で過ごして、だんだん、江戸時代の仄かな灯りや戦前の住まいの電灯を体験して、光のありがたさを改めて感じるとともに、いかに現代が煌々たる光のなかで暮らしているのかを実感しました。富良野自然塾のさまざまなプログラムを知り、ぜひ横浜市でも富良野自然塾と連携して、こうした本物の環境教育を実現できればありがたいと、たいへん感心しました。

 

林原博光さん(以下、敬称略): 富良野自然塾は、『北の国から』や『優しい時間』『風のガーデン』などで知られる脚本家の倉本聰が2005年に、富良野プリンスホテルの閉鎖されたゴルフ場跡地に立ち上げた森林再生と環境教育のためのフィールドです。周辺の森から種を集めて、根が十分に育ったら苗木を移植し、ゴルフ場跡地を天然の森に再生する「植樹」や「環境教育プログラム」、「闇の教室」、「ビジットプログラム(訪問授業)」などのプログラムを展開しています。

 

信時さんが参加された「闇の教室」は、人間の五感のうち“視覚”を完全にシャットアウトすることで、視覚以外の感性がよみがえる不思議で感動的な体験と言えます。

 

もう一つ、「環境教育プログラム」の中に、「裸足の道」というプログラムもあります。これは、靴と靴下を脱いで裸足になり、砂利や丸太や草が敷き詰めてある場所を目隠しして回るというものです。耳から聞こえてくる音やにおい、風を感じながら、五感を呼び覚ます体験です。

 

今の子どもたちはインターネットでカンタンに情報を得ますが、実体験が伴っていないことがほとんどです。もしかしたら、暑い、痛い、寒い、冷たい……などという感覚を、一度も体感せずに一生を終えてしまう子どもたちが出てくるかもしれないという危機感を抱きます。

 

私は鳥取県の大山の近くで生まれ育ち、幼い頃は山と川と海を遊び場に、大自然のなかで過ごしてきました。ところがこの半世紀の間、子どもたちが自然にふれる環境が急速になくなってきて、ある時、東京では子どもたちがほとんど外で遊ばないことに気がつきました。これはまずいと思って、日本中の自然学校や環境教育について調べ始めました。調べているうちに、地球温暖化によって干ばつや洪水などの気候変動がどんどん進み、食料問題などに深刻な影響が出始めていることを知りました。また、学校教育の現場では、こうした現実をほとんど教えていないことにも気付きました。子どもたちが生きていく21世紀の問題であるのにもかかわらず、です。

●地球を知ることから始まり五感を通じて環境を学ぶ

北海道富良野市の大自然の美しさ・厳しさは、倉本聰氏が脚本を手がけたドラマ『北の国から』などで全国的に知られる。写真はキタハラ家の家族旅行のもの

 

信時: 私は横浜市で、地球温暖化に代表される環境問題と、超高齢化社会という21世紀の二大課題を解決するための取り組みである「環境未来都市」の理事という立場で大都市の環境政策を考えています。

 

私たちの生活のいちばん大元でもある水や緑・土壌のレイヤーから、都市の人工的インフラのレイヤーでもある上下水道・電気・ガス、さらにその上に位置する産業や文化の三つのレイヤーで都市をとらえています。スマートグリッドは二番目のレイヤーの高度化を志向し、HEMS、BEMS、CEMSの実証実験をしていますが、そうした技術面や、CO2削減の数値目標を追いかけるだけではなく、もっと本質的な、自然と通底する基礎のレイヤーについて考えていかなければならない時代だと思います。

 

そういった意味で、富良野自然塾のように、一流の自然と施設と一流の講師たちの知見に学び、横浜市でもこうした環境教育のプログラムを学んでいきたいと思っています。

 

林原: 環境問題はイマジネーションが大切ですよね。今のままの暮らしを続けていたら、2050年、2100年の地球や自分たちの生活がどうなるのか、ある程度の基礎データがあれば子どもたちは想像できます。

 

富良野自然塾の「環境教育プログラム」では、子どもたちに環境問題の基本を伝えるために、最初、鼻と口をおさえて出来るだけ長く息を止めてもらいます。とても苦しいですよね。人間は呼吸停止から脳停止まで早ければ3分、長くても8分で死んでしまいます。水がなかったら子どもは5日、大人は10日もすれば亡くなります。人間は、空気や水がなければ生きていけない、ほかの動物とまったく変わらない、特別ではない生き物なのです。それを体感したうえで、我々が生きていくために欠かせない水や空気をつくるのは、木や森であるということを伝えていきます。

 

人間がどういう存在かを知ったら、次は地球を知ろうということで、直径1メートルの地球儀「石の地球」を使って、核、マントル、地殻の動きなどを見ていきます。地震や噴火、津波が起こったり、ヒマラヤは地殻が隆起して生まれたことからもわかるように、実は地球上では何が起こっても不思議じゃない。

 

そうした星としての地球を知ることで、環境を考える始めの一歩を踏み出します。

 

そして、「地球の道」。地球の46億年に及ぶ歴史を、460メートルの距離に置き換えて作った道を歩きます。人間が生まれたのは、460メートル先の最終地点からたった2センチの地点。また、地球の歴史からすればたった0.02ミリの中で産業革命が起こり、今我々が地球温暖化などに直面している。この先人間がどれだけ生き延びられるかといえば、数センチどころか、下手をすると数ミリかもしれない。だとしたら、今ブレーキをかけなければ、地球は存続し得ないのではないか、と子どもたちは気づいていきます。

 

そんな地球に生まれた私たち日本人も、つい5、60年ほど前までは、自然と共生し、自然の恵みを受け、自然を敬いながら生きてきましたが、戦後の急激な都市化でその風習がなくなっていきました。寒いときは暖房、暑いときは冷房、移動にはクルマ……と快適と便利さを追い求める度合いがどんどん激しくなってきて、CO2をたくさん排出し、地球温暖化が進行しました。人間以外の動物はずっと自然環境に合わせて生きているのに、人間だけが自分たちの都合のいいように自然を変えて生きています。

 

このまま地球温暖化が進行すると、北極海の氷が溶けてシロクマも住めなくなる。ちょうど、北極という地球のクーラーが故障した状態になっているんだよ、と子どもたちには伝えています。今の日本は、周りが大火事で家が燃える寸前なのに、何も知らずににこやかにテレビを見ながら食事をしている危機感のなさのように思えて仕方がないのです。

 

富良野自然塾のプログラムでは、木や森が大事だということを体験として理解してもらうように心がけています。木を植えるのは、木材資源を得るためではなく、葉っぱを育ててたくさんのCO2を吸収し酸素をつくってもらうため、そして、水を貯えてもらうためです。川が枯れないでいつでも水が使えるのは森があるからです。森を伐ってしまうと何が起こるのか、その因果関係の基本をきちんと伝えたうえで、自然を体感してもらっています。

●横浜でも「本物の環境教育」を

横浜市環境未来都市理事の信時さんは、個人的に山梨県道志村での間伐ボランティアに取り組んでいる。森ノオトのメンバーがスマート・ウィメンズ・コミュニティの皆さんと一緒に間伐体験をした時も、現地でサポートしてくださった

 

信時: 日本は京都議定書(COP3)で約束した、温室効果ガスを1990年比で6%削減する(2008〜2012年度)という目標は何とか達成しましたが、この先は2020年までにマイナス25%、2050年度までにはマイナス80%の目標を掲げています。数字の目標を達成することは指標としては大切ですが、水や空気、森を守る実体験と数字のギャップはまだあるままです。

 

温室効果ガスの削減目標については、先進国が産業を隆盛して経済発展を遂げ豊かになってきたのに、今まさに発展しようという途上国にCO2排出を制限するのは不公平だという議論のまま進みません。日本が率先して環境と調和した新しいビジネスモデルでのさらなる発展を示すことができたら、途上国の意見も変わるのではないかと思うのですが。

 

林原: CO2排出削減目標などの数字を知ることは間違いなく重要だとは思います。

 

私たちは一昨年中国の北京で自然塾のプログラムを実践して来ました。招待してくれた人の話によると、中国政府はこのまま温暖化が進むと農業や食糧への影響が甚大であることや、産業での競争力を高めるためにはクルマや家電などでエコ商品を開発していく必要があることなども十分に認識していて、そのために、エコな産業人、生活人をつくっていくための環境教育を非常に重要視し始めているそうです。このままでいくと、日本はこれまでリードしていた環境配慮型商品の分野でも中国に追い抜かれていくような気がします。

 

また、環境先進国として知られるドイツでは、学校教育のありとあらゆる学習に環境の要素を取りこんでいて、小学校の算数でも足し算を教える時に、ゴミ袋の数を例に挙げたりしています。ドイツでは30年かけて教育の分野に環境の概念を持ち込み、あれだけの環境大国になりながら産業でも負けていません。

 

富良野市では、市内の小学5年生全員が富良野自然塾のプログラムを体験することになっていますので、彼らが大人になっていった時に、富良野市民は全員環境のことを理解している、もしかしたら全国でも初の自治体になるかもしれません。日本の産業は、今後は環境問題と不可分であり、それを担う若い世代に環境教育をどう根付かせていくのか、それは教職員の教育や体験を含め、とても重要なことだと思っています。

信時: 横浜市でも小学生を対象に、横浜市の資源リサイクル事業協同組合が主催する「環境絵日記」というコンテストが行われています。昨年で14回目になりますが、年々応募が増え、昨年は1万9019作品もの応募がありました。2012年のテーマは「環境未来都市」でした。横浜市の小学生が見た未来都市のイメージは、「緑がいっぱいのみなとみらい」「街のなかで野菜をつくりましょう」など、自然がモチーフになっている。私たちが子どものころの未来都市のイメージは、超高層ビルが林立する中を高速道路が走り抜けるような、まさに今の「みなとみらい」の図なのですが、子どもたちにとってのみなとみらいは、今や「みなとかこ」になっているのを痛感しています。

 

林原: 横浜のような大都市にいても、実は自然と接するのはものすごくカンタンです。私の自宅は多摩区の生田緑地のそばですが(注:林原さんは1カ月のうち3分の2を富良野で過ごし、3分の1は自宅を拠点に都内や全国で活動している)、1時間も走れば、山も川もあります。要は行く気があるかないかです。

 

休日は、おにぎりと卵焼きをつくって、家族で山や川に出かければいい。半日もあれば登山くらいラクにできる環境が大都市周辺でもたくさんあります。家族で野外活動をする時には、ちょっとした演出のポイントがあります。例えば、喉の乾きをより感じるような設定を用意する。登山であれば、あの峰に着くまで水は飲まないでおこうと子どもと約束する。それが、ようやく到着した時に飲む水の冷たさ、美味しさを感動する体験につながります。また、お弁当を食べるのは頂上で、と決めておく。家族で登頂の達成感を味わいながら食べるおにぎりや唐揚げ、卵焼きは最高です。水を喉で味わい、食べ物を胃袋で味わうよう、大人が設定して感動を味わわせるような演出をするのです。コツは、子どもたちにとって“少しだけきつい”設定をすることです。その分だけ感動が増えるからです。負荷を少しだけ多めに掛ける「過負荷の原則」です。

 

このように、都会にいても、心がけ次第で、いくらでも自然の中でのカラダや五感をよりフルに開いていく体験や、自然に対する価値観を育む教育は可能です。

 

また、こうしたことをやっていくには、親も、教師も、子どもたちと密接にコミュニケーションをとらざるを得なくなりますし、おまけに、お金はほとんどかからず、CO2も吐き出しません(笑)。道具やお金に頼らなくても自然のなかで楽しい時間を過ごせることを知っている子とそうでない子とでは、将来大きな差が出て来るのではないでしょうか。

 

信時: 横浜の子どもたちも、もっとワイルドでいこう! ということですね(笑)。横浜市の地球温暖化本部では、YES(ヨコハマ・エコ・スクール)という全市民のための環境教育プログラムがあり、私はこの事業は温暖化対策の中でもとても重要な役割であると思っています。

 

私は個人的に、横浜市の水源でもある山梨県の道志村での間伐作業などにも参加しています(※スマート・ウィメンズ・コミュニティが主催し森ノオトもコラボで参加した山梨県道志村での間伐体験「木こり女子ツアー」の記事は →コチラをクリック)が、こうした都市と地方との地域間連携も視野に入れながら、YESの事業でも、さらに自然と密接にした環境教育のプログラムを展開していけたらと考えています。

 

本日はありがとうございました。

 

【キタハラ’s eye】

環境教育というと、小中学生対象の教育プログラムのように感じますが、私たち大人世代が地球温暖化問題をきちんと理解し、それを子どもたちに伝えられているかというと、実はそこにこそ問題があるのではないか、と林原さん。わたしは山形出身ですが、田植えをしたのは出産後が初めてで、子どもの存在によって本気で自然に接することを考えるようになりました。

 

私たちの生存に必要な空気、水が脅かされるような状況が近いという危機感は、本当はもっと多くの親が切実に感じ、日々の行動で示さなければいけない気がしています。それをいかに楽しみに転じ、多くの人たちに伝えて、実際の一歩を踏み出してもらうか……森ノオトエリアは大都市近郊なのに、たった15分で身近な自然にふれられる素晴らしい環境にあります。信時さんがおっしゃるように、「本物の、一流の体験」ができるフィールドと、ヒトをいかに育てていくのか、森を育むように数十年の計で、今日の環境教育からスタートなのだな……と感じています。

 

【プロフィール】

 

林原博光(はやしばら・ひろみつ)

 

NPO法人C・C・C 富良野自然塾副塾長、専務理事。TBSでラジオ・テレビ番組の制作や人事部長などを経て、定年退職後、2年かけて全国の自然学校を巡り、自然環境教育の道へ。2005年、TBS時代から親交のあった倉本聰氏の誘いを受け、富良野プリンスホテルの閉鎖されたゴルフコースを天然の森に復活し、豊かな自然環境の中で大人も子どもも学べる環境教育プログラム「富良野自然塾」をスタート。2005年から2012年までの総植樹本数は5万4113本、毎年4000〜6000人が全国から集まりプログラムを体験する

 

信時正人(のぶとき・まさと)

 

東京大学都市工学科卒業。三菱商事を経て財団法人2005年日本国際博覧会協会(愛・ちきゅう博)で政府出展企画・催事室長として日本館・ジャパンウィーク等を担当。東京大学大学院新領域創成科学研究科特認教授を経て、2007年より横浜市へ。横浜市地球温暖化対策統括本部本部長、現在は環境未来都市推進担当理事。

 

■富良野自然塾公式ホームページ

http://furano-shizenjuku.com

■横浜市環境未来都市ホームページ

http://www.city.yokohama.lg.jp/ondan/futurecity/

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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