小池一美の農と食をつなぐ熱血報告Vol.9 横浜市緑区十日市場町 佐藤農園佐藤克徳さん
東急田園都市線田奈駅からしらとり台近くを通り、JR横浜線十日市場駅〜中山駅間の線路沿いを流れる恩田川。この川に沿うように、田んぼや畑が広がっている景色をご存知の方は多いでしょう。
そして、見慣れている景色なのに、どんな農家さんが、どのように農業をされているのか知らないわ……という方も少なくないと思います。
今回は、緑区十日市場町で代々“百姓”をされている、佐藤農園の佐藤克徳さんを取材してきました!

「こんにちは〜!」

恩田川そばにある、大きな温室ハウスと倉庫のある作業場で出迎えてくださった佐藤克徳さんは、日焼けした茶色い肌と、口ひげがトレードマーク!

「みんなには“十日市場の原住民”と呼んでくれって言っているんだよ」

たしかにワイルドなお姿ですが、笑顔がとってもすてきな54歳です。

 

佐藤さんのご実家は、先祖代々、十日市場町で農業をされています。

資料を焼失してしまい、詳しい歴史について確かなことは分からないそうですが、江戸時代よりも昔にさかのぼる、というのですから驚きです。

そう……佐藤さんは正真正銘の“十日市場の原住民”だったのです!!

大学で先天異常学を学び、卒業後は製薬会社に入社した佐藤さんですが、「健康な体づくりは、質のよい野菜づくり」だと確信し、27、28年前に百姓に転身しました。

現在、「特別栽培農産物」の認証を受け、野菜はハウス500坪と畑1.1haに70〜80種、お米は2haの田んぼで6種を年間で栽培しています。

ちなみに「特別栽培農産物」とは、その地域の慣行栽培の農薬・化学肥料のチッ素成分を5割以下に削減して栽培された農産物のことです。

佐藤さんの農場では、肥料は、ぼかし肥料やたい肥を使っています。化学肥料は、とうもろこしの追肥で使う程度で、ほとんど使いません。

除草剤は、田んぼで1回使いますが、畑の除草は手で行っています。機械で草を抜くと、作物の根も傷つけ、生育を妨げてしまうからだそうです。

 

落花生やささげ等が栽培されていた畑。除草は手で行っている

 

こうして日々、多品種の農作物を手塩にかけて育てる佐藤さんに、もっとも育てるのが好きな作物は? と尋ねてみると……

「米づくりがいちばん好きだね!」

意外にも即答でした。

「米づくりは、日々の成長がみられて面白い。奥深くて、しかも難しいところが楽しいよ」と、とても愛しそうに語ってくれました。

取材に伺ったときは、ちょうど田植えの時期でした。これからますます、田んぼ通いがたのしみになることでしょう。

そんな、米づくりが大好きな佐藤さんが育てるお米は、2011年に皇室献上米に選定されています。ご夫婦揃って皇居に招かれ、天皇皇后両陛下に拝謁したそうです。百姓として、こんなに名誉なことはありませんね!

佐藤さんが今年栽培しているお米は、ひとめぼれ・はえぬき・ミルキープリンセス・はるみ・ひかり新世紀・もち米の計6種類です。

ちなみに昨年はあまりお米が取れなかったそうで、昨年収穫分は予約でいっぱいだそうです。直売所での販売分も、残りが少ないのだとか。

佐藤さんのお米が食べたい方は、直売所で早めにゲットしてくださいね。

 

佐藤さんの田んぼと、奥には農機が置かれている倉庫。倉庫奥の温室ハウスではトマトが栽培されていた

 

佐藤さんは、「次世代のくらしを考えることが、百姓の存在意義」と言い切ります。

そして「今の若い人たちは、見た目はカッコ良いけど、何を食べているのか疑問だよ。それから、スーパーのPB商品(プライベートブランド=独自開発商品)で使われている野菜についても、原産地表示は必要だと思う」と語ってくれました。

“質の良い農作物”を育てながら、次世代の若い人たちの“質の良い食生活の習慣”を佐藤さんは願っているのです。食品の原材料表示などの見極め方など、身近な食とのつきあい方も伝えていくべきだと考えているようです。

その思いは、佐藤さんの地元、十日市場小学校の生徒たちへ、具体的な形となって現れています。

佐藤さんはご自身の田んぼを「栽培収穫体験ファーム」として、田植え・除草・稲刈りを生徒に体験してもらっているのです。

 

昨年度まで毎年5年生が受けていた体験授業は、今年から全学年で体験するようになった。今年の秋は、全校生徒でつくったお米を、全校生徒一緒に食べられるのですね!

 

「米づくりが目的ではなく、米づくりを通して、食について考えてもらうことが目的」だと語る、“佐藤さん流、食育活動”は今年で12年目を迎えます。

今では、十日市場小学校の特色ある授業と呼ばれるようになり、卒業生のなかには農業の仕事についたと、うれしい報告を受けることもあるとか。

ちなみに収穫したお米は、餅つきをしたり、給食でお赤飯にして食べているそうです。

 

佐藤さんの畑のそばに流れる用水路。こどもたちがザリガニ獲りを楽しんでいた。こうした光景も次世代に残したい

 

最後に佐藤さんに将来の夢を聞いてみました。

「まずは現状維持でもいいから、みんなでこの地域を守りたいね。まだ、昔と変わらない風景が残っているでしょ?」

わたくし小池は、生粋の青葉区出身です。長津田から十日市場にかけての、恩田川沿い広がる田園風景と共に育ちました。

たしかにその風景は、こどもの頃から今も変わらず残っています。それは農家さんたちが守ってくれた風景だったのだ、ということに改めて気づきました。

そして地元の農家さんたちと共に、“地域の百姓興し”を未来図に描く佐藤さん。十日市場地域には自給農家さんも含めて、20件の農家さんがいるそうです。

「そのために大切なのは、<I AM (アイアム)>ではなく、<WE ARE(ウィーアー)>の精神。今は、自分が、自分が、って考える人が多いと思う」

実は佐藤さん、他にも夢があるそうですが、それは5年後に教えてくださると約束してくださいました。

日々農作業で多忙でも、相手を思う気持ちが大切、と考える佐藤さんが描いている夢とはいったい何なのでしょうか……その実現がいまからたのしみです!

 

野菜やお米のほかにも味噌や梅干しなど、加工品も購入できる。今の時期はいちご酢がおススメ!

 

佐藤さんの野菜・お米は直売所「野彩家」で購入できます。

 

神奈川県の「持続性の高い農業生産方式導入計画認定書」が直売所に飾ってあった

 

【hitomi’s point】

ご自身を“農家”と呼ばずに“百姓”だという佐藤さん。

「百姓は、百の女が生きる、って書くくらい、女性にはかなわない。男は、田んぼに力って書く。だから男は、家では女性に従って、畑にでるのさ」

と語ってくれました。

“百姓”は、農業を生業にするご自身を表現するのに、ぴったりな言葉なのかもしれません。

ご多忙にもかかわらず、地域でお声がかかると、手を挙げて尽力されるのも「縁があってこそ。縁がなくてはかかわれない」といいます。

女性を敬い、“WE AREの精神”で地域を大切にし、次世代の質の高い食生活を願う、十日市場の原住民(?)こと佐藤さんが、今日も恩田川の近くで農作物をつくっています。

佐藤さん、田植えのお忙しい時期にもかかわらず、取材にご協力いただき、ありがとうございました! また、5年後に夢をうかがいに参りますね!

Information

【野彩家】

営業時間:毎週 火・水・金・土(11:00?日暮れ)

住所:緑区十日市場町819-10(JR十日市場駅より徒歩2分)

TEL&FAX: 045-981-5239

※直売所の他にも、緑区新治町の新治恵みの里、にいはる里山交流センターでも週末に直売しています。

http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/nousan/megumi/niiharu-index.html

Avatar photo
この記事を書いた人
小池一美ライター
横浜市青葉区出身。森ノオトライター、走る!ロコキッチン「コマデリ」、「はまふぅどコンシェルジュ」、焼菓子販売「トミーヤミー」で、地域と関わりながら生活している。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく