横浜で最も駅近の田んぼ? 恩田の谷戸田(やとだ)で米づくりをしてきました!
東急こどもの国線・恩田駅の近くにある「谷戸田(やとだ)」で、お米づくりをしているグループがあると聞いて取材に行ってきました。ところで、みなさんは「谷戸(やと)」って知っていますか? 最近神奈川県に引っ越してきた私は、ここで教えてもらうまで全く知りませんでした。谷戸とは、関東地方特有の土地で、ここに住む人たちにとって「ふるさと」そのものだそうです。(Text:松岡美和)

2013年6月1日晴れ。恩田駅から徒歩5分ほど、コンビニやガソリンスタンドが並ぶ大きな道路から脇道に入り、舗装されていない道をしばらく行くと、目指す一枚の田んぼがありました。目印は「な〜に谷っ戸ん田(やっとんだ)」と書かれた手作りの看板。雑木林に囲まれ、なだらかな斜面に沿って何枚もの田んぼが並んでいます。青葉区にもこんな自然が残っているんだと、驚かされます。

 

私たちが着くと、長靴と作業着姿の人たちが迎えてくれました。みなさんは「な〜に谷っ戸ん田の会」のメンバーです。子どもと一緒に来ている人、会社員、定年退職した人……。普段は農業と関わりのない人ばかりですが、週に一度、この田んぼに集まって、お米を育てています。

 

活動は今年で7年目。市民に農業体験をしてもらおうという横浜市の事業からスタートしたこの活動は、助成金が出なくなった今でも、有志で続けています。今年は会の情報の発信をFacebookに移し、「我ら、谷戸ist(やといすと)」の名前で毎週活動しています。

 

この日の作業は、補植(ほしょく)です。苗がきちんと植わっていなかったり、倒れていたりするところを、手作業で直していきます。田んぼでは、一週間前に田植え機で植えつけられた稲が水面から顔を出していました。

 

片手に苗を持ち、腰を屈めて田んぼの中を進んでいきます。誰がリーダーというわけではなく、それぞれのペースで作業が進んでいきます。中には、「田植えは今回が初めてなんです」と言う小学生連れのお母さんも。なんと都内からやってきているそう。

 

「田んぼに入るのはイヤ」という娘さんを置いて黙々と田植えをするお母さん。でも娘さんも畦に座って田んぼの生き物を観察したり、雑木林で遊んだり、都会とは違う週末を味わっていました。

 

田植えは今年が初めてというメンバーさん(右)も他の参加者から教わりながらの補植を楽しんだ

 

かつて青葉区には、「谷戸(やと)」と呼ばれる土地がたくさんあったのだそうです。

 

谷戸とは、湧き水が斜面を浸食してできた谷状の地形のこと。今のように灌漑技術が発達していなかった時代には、比較的容易に水が得られることから田んぼや畑として利用されました。

 

両側を雑木林に囲まれてなだらかにつながる田んぼ。谷戸と言えば、みんなこの風景を思い浮かべるようです。まさに心の原風景、ふるさとです。

 

神奈川県や東京都多摩地域では「谷戸」、千葉県などでは「谷津(やつ)」や「谷地(やち)」と呼ばれているそうです。しかし、雑木林に囲まれていることから日照時間が短く、大規模な農業も難しいことから、最近では耕作放棄地になったり、宅地化されたりするところも多いそうです。

 

ここは谷戸田の典型的な地形を残している。都市開発が進み、どんどんと住宅地化されていく中で、谷戸が昔ながらの自然な形で残されているところは本当に少なくなっている

 

お米づくりは田植えと稲刈りだけではありません。

 

田植えの日を迎えるまでには植える場所の準備も必要です。苗作り・田起こし・代掻き・畦塗りといろんな工程があります。そして、夏の間は水の管理・草取りも重要な仕事です。

 

な〜に谷っ戸ん田の会では、毎週末、土曜日に集まり、ひと通りの作業をこなします。

 

一般の方向けには田植えだけ・稲刈りだけの「お手軽農業体験」が多い中で、ここでは毎週参加で、毎回地味で根気のいる作業がほとんど。

 

でも、取材をしたこの日、会のみなさんが笑顔で活動しているのを見て、地道な作業も楽しみながらやっているのが伝わってきました。秋の収穫の時には「一年間頑張ってきてよかった!」という感動を味わうことができるのも、この会の醍醐味だそうです。

 

「風景や田んぼというのはタダのようで、タダではない」と代表の石田周一さんは言いました。「無農薬、有機、慣行農業というくくりで分けたくないんだよね。この風景が残っているのも、農家さんたちが代々、それだけ苦労して手入れをし、残してきてくれたおかげだから……」

 

石田さんは、田んぼや谷戸の自然をただ単に楽しむのではなく、地域の農家さんと良好な関係性を築きながら活動することを大事にしていました。

 

な〜に谷っ戸ん田の会の田んぼを提供している農家の鈴木徹雄さん。稲作の指導だけでなく、農作業の合間にみんなの活動を見守る。時にはメンバーで鈴木さんの畑作業を手伝いに行くことも。会の活動は地域の農家と顔の見える関係性の中にある

 

「な〜に谷っ戸ん田の会」代表の石田周一さん

 

お昼休憩を終えると、みなさんはまた別の場所にある田んぼや畑のお手伝いへ。週に一度の結構本格的な農作業。恩田の谷戸の自然に囲まれて体を動かせば、心も元気になりそうです。

 

 

【Miwa’s eye】

この日、私も、底がゴムになっている地下足袋を借りて田んぼに入りました。泥に足を取られ、せっかく植えた苗を踏まないように補植していく作業は集中力が必要で、意外に大変。1歳4カ月の娘をおんぶしていたこともあって、田んぼの端から端まで一度往復するだけで腰が痛くなりました。でも、泥の中をすすむ感触は、非日常的で何とも言えない爽快感がありました。

谷戸を調べているうちに、小学生の頃に見たスタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』というアニメ映画を思い出しました。自然がどんどん切り拓かれていく姿にショックを受けたのを覚えています。今、私はそんなニュータウンに住んでいるんだと思いました。

都会は便利でファッショナブルな街ですが、どうかこういう地形も残っていて欲しいと思います。

谷戸を支える地主さんや農家さんたち、活動を通して谷戸の魅力を伝えるこの会の活動を私も応援したいです。

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