小池一美の農と食をつなぐ熱血報告Vol.10 横浜市青葉区鉄町 近藤勇機さん 
“鉄の町”と書いて、“くろがねちょう”、と読む、全国的にも難読町名の横浜市青葉区鉄町。鶴見川と横浜上麻生道路に並行して田畑が続いている町です。その土地で18年前から、農薬や肥料に頼らずに野菜づくりを続けている、近藤勇機さんを取材してきました。

農薬や肥料に頼らずに「有機栽培」や「自然農法」で野菜を育てている農家さん――と聞くと、こだわりがありそうで、お会いするときに実は少し、緊張します。どんな方だろう……と。

今回取材をお願いした近藤勇機さんは、お会いした瞬間から、そんな緊張をやわらげてくれる雰囲気を持つ方でした。瞳がとても優しくて、キラキラとしているのが印象的です。

少し緊張しながら取材のアポを取りに訪れた小池を、笑顔で迎えてくれた近藤さん

 

近藤さんが農家になったいきさつは、とてもユニークです。

現在68歳の近藤さんが農業を始めたのは50歳のこと。それまで、家電販売会社に勤めていたサラリーマン人生は順調だったそうです。しかし、このままサラリーマンを続けて定年退職した後の、自身の生活に疑問を感じるようになります。

定年した後も、サラリーマン時代の功績を自慢し過去を懐かしむような、そんな寂しい後半生にしたくない。仕事に忙殺される生活から、自分自身の時間を大切にできる暮らしもしたい……。

そして、サラリーマン生活に終止符を打つ決心をするのです。

第二の人生の選択肢は3つありました。

第1候補は、なんと僧侶!

知人が僧侶になり、地域の人とふれあうライフスタイルが楽しそう、と感じましたが、夜に火の玉が見えると聞いて、もともと心霊現象が苦手だったこともあり諦めました。

次の候補は、便利屋でした。

大学生時代に、学費を稼ぐために様々なアルバイトを経験したという近藤さんは、幅広くいろいろな経験をしていました。便利屋はあらゆる職種に通じる仕事。その頃の経験を便利屋で活かそうと考えたものの……犯罪に巻き込まれるリスクがあることを知り、断念します。

近藤さんの話を聞きながら、完熟まくわうりに舌鼓♪ メロンのような香りと、すっきりとした甘味にホッとした

 

そして最後の選択肢が農業だったのです。

近藤さんは就農する前、住んでいた家の裏にあった山の斜面を耕し、畑にしたことがありました。そこで野菜を育て始めると「こんなに楽しいことがあるんだなぁ」と思うほど、野菜づくりを心底楽しい、と感じていたそうです。

そして独学で農業を学び、現在と同じ鉄町で専業農業を始めて現在に至ります。

5反の畑に、年間100種以上の野菜を育てている

 

その後、順調に増やした畑は、一時は1町1反になりました。育てている作物も年間100種類以上で、忙しい毎日。

ところが、「せっかく自分の時間を持つために農業を始めたのに、1町1反は広すぎる」と考え、現在は半分以下の5反の畑で野菜をつくっています。

ちなみに近藤さんにとっての自分の時間とは、「お酒を飲む」「本を読む」「昼寝をする」だそうです。

「今の畑の規模は、目が届いてちょうど良いんだ。昼寝も出来るしね♪」

と、クリっとした瞳を輝かせながら話してくれました。

全ての畑を歩いて回ることが出来るいまの規模。野菜に目が行き届く理想的な環境で、近藤さんは年間100種以上の野菜をつくっています。

水道が通っていない近藤さんの畑では、雨水を利用している。畑に降る雨=水も、野菜にエネルギーを与える源になる

 

実は、新規就農者が畑を借りることは容易ではありません。

しかも徒歩圏にまとめて畑を借りることができるなんて、羨ましがる農家さんもいるはずです。

ではどうやって近藤さんは現在の畑を手に入れたのでしょうか。

「地主さんも本当は畑を貸したい。でも誰でもってわけにはいかないんだよ」と近藤さんは話します。つまり人と人との付き合いをして、地主さんに認めてもらうことが大切だということです。

そして畑を借りた後には、近隣農家さんに対する心構え“3か条”があります。

【1】<大きな声で挨拶!>

 毎朝畑に来たら、大きな声で農家さんが振り向いてくれるまで、元気な挨拶をします。もちろん帰る時も同じです。

【2】<草むしりは、隣の畑の境界から始めるべし!>

急な雨や用事などで草むしりを中断せざるを得ない時に、自分の畑から始めてしまうと、隣との境界部分を残してしまうことになります。お隣さん側から始めれば、境界はいつもきれいで、喜んでもらえます。

【3】<作物は隣の畑から50cm離して植えるべし!>

 特にツルものなどの作物は、1日で数十cm伸びることもあります。作物が成長した時に隣の畑を荒らさないための配慮です。

 自分の畑ばかり見ず、隣の畑も見ること。近隣の農家さんや地主さんへの心遣いを忘れずに、これらのことを長年きちんと続けていると、地主さんから「畑を借りないか」と声を掛けてくれる、と近藤さんは教えてくれました。

 新規就農を考えている方、畑を増やしたいと考えている方、ぜひ実行してみてください!

できれば肥料を使いたくない、という近藤さんだが、野菜の種類によっては、作物が安定するある一定のレベルになるまでは有機肥料を使っている。その一部の有機肥料の元となる家庭生ゴミは麻生区に住む主婦が、12、13年前から月に2回欠かさず運んできている。近藤さんが腕をかけているのが、その生ゴミの熟成場

 

除草をしていない葱畑。「野菜に生命力を与えてくれる草が財産」と近藤さんは言う

 

もともと有機栽培で野菜を栽培していた近藤さんは、5〜6年前から農薬にも肥料にも頼らない、自然農法での栽培も始めました。そして徐々に全ての野菜を自然農法に換えたいと考えています。

近藤さんが考える“良い野菜”とは、栄養価が高く、野菜そのものの生命力がある野菜。その野菜を作るためには、有機肥料すら使わず、自然の恵みだけで作物を育てる自然農法が適しているというのです。

「太陽・雨・風・土・草などすべての自然環境で作られた、エネルギーのある野菜づくりをこれからも続けていく」という近藤さんの野菜を、ぜひみなさんも食べてみてください。

【hitomi’s point】 

農家さんを取材する際、必ず質問することがあります。それは将来の夢や目標についてです。今回も近藤さんにお聞きしたところ……「目標も夢もないよ。毎日が楽しければ一番さ!」と笑顔で話してくれました。年賀状にも、「今年の目標なし!」と毎年したためているとか(笑)。

農業をしながら、毎日楽しく暮らしている近藤さんの自然体な姿と、そのきれいな瞳にすっかり魅了されてしまった小池でした。

近藤さん、取材にご協力いただきありがとうございました。

Information

近藤さんの野菜は、宅配・卸売(たまプラーザのオーガニックカフェ・ソワ[礎・波]※毎週木曜日、Odakyu OX新百合が丘店、都内の自然食品店)の他、直売も行っています。

直売は横浜市青葉区柿の木台18番地(柿の木台文書センター北交差点を東に100m)で、毎週日曜日9時〜10時

★宅配の詳細ついては、直売所でお問い合わせください。

☆近藤さんが塾長を務める自然農の勉強塾「近藤農業塾和み」の情報はHPをご覧ください。

http://nougyou.jpn.org/

小池 一美
この記事を書いた人
小池一美ライター
横浜市青葉区出身。森ノオトのリポーター、走る!ロコキッチン「コマデリ」、焼き菓子販売「トミーヤミー」の3本柱で地元と関わりながら暮らしている。AGRUの小川穣さんとのユニット「labo2(ラボラボ)」では、食の素材と地域を楽しむ活動を展開中。
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