Vol.29 シカクいアタマをマルくする原点! 日能研 高木幹夫さんインタビュー
森ノオトで中学受験に特化した進学塾の社長をインタビュー! ……ちょっと意外性があると驚かれるかもしれませんが、読んでいただければなるほど納得!? 編集長のキタハラが日能研の高木幹夫さんに出会ったきっかけは、なんと山伏修行! 自由闊達で飄々とした空気に、「この方はなんか、面白いにおいがする……」と取材者魂を揺さぶられ、有名すぎる広告のコピー「シカクいアタマをマルくする」原点を探りに行ってきました。

●子どもにとっての環境問題って!?

 

日能研が刊行している『環境を考えるBOOK』は、2008年2月の第1弾「炭素編」に始まり、「水編」「エネルギー編」「2011年にあった大きな自然現象編」を経て、2014年に最新刊「道具から始まるお話」と続いています。

2014年2月下旬、大雪の影響が残る清里・KEEP協会・清泉寮でこの本を手にした時に、環境について全体観を網羅し、多面的な見方を伝える『環境を考えるBOOK』のクオリティに驚きました。特に第5弾の「害獣から始まるお話」では、かつて人と獣がいかに共生し、なぜ「害」に変わったかの歴史背景、持続可能性や生物多様性の観点から見た人と動物の関わり、肉を食べる意味、神話、神道、国家のあり方まで……タブーなき編集方針を貫く姿勢に、編集者の端くれとして拍手を送ったものです。

「私が社員を連れて出羽三山で山伏修行をしたのは、2013年の夏のことでね。昔の日本人は獣たちとどうつき合っていたのか取材しているうちに、神社からマタギ、山伏へと連なる系譜に興味を持って、“行って聞いて、やってみりゃわかるかな”と思って」

そうおっしゃる高木さん。高木さんとの出会いは清泉寮でおこなわれた「つなぐ人フォーラム」で、「山伏修行をした女性がいるって聞いてさ」と、名刺をもって現れた気さくなおじさん、という印象でした。山伏つながりで話をお聞きすると、高木さんの好奇心、探究心は次々と展開し、森ノオトでも紹介した『オオカミの護符』の御嶽山や山岳信仰の聖地でもある高尾山、スピリチュアルな祈りの体験の場にも行くし、鹿の罠猟から解体まで、日本全国世界各国どこにでもおもむき、何でも体験していて、その幅広さに驚きました。「スピリチュアルな感覚は特にないんだけれども(笑)、身を置いてみて初めて分かることもあるから」と、何とも“ボーダーレス”な方!

そもそも、『環境を考えるBOOK』の刊行には、「子どもにとって、環境問題とつき合うってどんなこと?」という素朴な疑問からスタートしたといます。地球温暖化の原因物質として悪者扱いされている二酸化炭素(CO2)ですが、私たち人間が呼吸で吐き出すのもCO2ですから、人間が生きて活動している限り、必ずCO2を生産することになります。人間の存在意義にも関わる「炭素」について、いわゆるプロの編集者に任せるのではなく、社員たちの疑問を持ち寄り、一つひとつを突き詰めていくことで生まれたのが『環境を考えるBOOK』なのです。

「子どもたちがものを考えるための教材を、伝える我々が考え直して提示する」。それが日能研スタイル。国語、算数、理科、社会……日能研で使われるすべてのテキストも、そのようにしてつくられているといいます。教材に関しても自由な編集方針を貫けるのは「私たち(学習塾)の監督省は文科省じゃなくて税務署ですから(笑)。冗談はさておき、業界内では日能研の教材とテストはピカいちだと言われていますよ」(高木さん)

 

『環境を考えるBOOK』は最新刊『道具から始まるお話』が発行されたばかり。小学5年生以上を対象につくられているが、大人が読んでも発見と深い学びが得られる

 

●9歳の「大転換期」に、内側から外側に向けた学びに変化

 

応接室に掛けられている絵はシュタイナー教育の「にじみ絵」。「シュタイナー教育に造詣が深い方が日能研に来たら、何か“ピン!”とくるかもしれないね」

 

日能研は1953年に高木さんのお父上・高木知巳さんが菊名で始めた学習塾から株式会社日本能率進学研究会(通称:ノーリツ)を経て、高木さんが代表取締役社長に就任した1980年代以降、中学受験の大手進学塾に成長します。首都圏だけでなく東海、関西、九州と各エリアにグループ会社があり広く展開していますが、横浜市港北区に本部をおき、森ノオトエリアの港北区や都筑区の教室でこの本部の精神を特に強く反映させた運営をしているといいます。

「“教科書にはこう書かれているから”。それが知識だと思っている現代社会では、子どもが本来もっている“なぜ?”“どうして?”という好奇心を教科書の枠にはめてしまう。百点満点という考え自体がおかしくて、そもそも満点の外ってないの? 答えが一つではない問題に出会った時に、自分で自分の考えを育てられるような、そんな学びの環境をつくっていきたいと、日能研では考えています」(高木さん)

日能研の学びは、学校教育でいう4月スタートし3月に終わる「年度」という枠組みではなく、ステージ1からステージ5にわけて設定しています。まずは学びそのものと、仲間と「出会う」ステップ。ステージ2以降は未来につながる学び方に「親しむ」、「広げる」、「深める」、そして合格に向けて徹底的に「鍛える」ステージ5まで。本格的に系統学習が始まるのは小学4年生からです。この分岐点を高木さんは「9歳」としています。

「9歳ごろまでの子どもたちは、自分の内側にある世界が、世界の中心です。この頃に、豊かなファンタジーの世界を壊してしまうような“覚える”“写し取る”学びを強要したら、子どもたち自身が自分で“考える”力は育まれるでしょうか。日能研で系統学習を始めるのを9歳ごろとしているのは、自分以外の他者をはっきり意識し始め、自分の世界が外に広がっていく、子どもにとっての“学びの大転換期”だから。逆に、9歳前までは知識にしばられずに自分で新しいつながりをつくれる土台を育むような、そんな学びを提供しています」

9歳以降の系統学習では、ハーバード大学教授のハワード・ガードナーが提唱した「人間は誰しも複数の知能を持ち、人それぞれがいそのいずれかに優れていたり苦手だったりするものである」というMI(マルティプル・インテリジェンス)理論に基づき、人間の持つ8つの知能(多角的知能:言語語学知能、論理数学的知能、視覚空間的知能、音楽リズム知能、身体運動感覚知能、博物学的知能、対人的知能、内省的知能)すべてに働きかけるプログラムを展開しています。9歳前までにしっかりと育まれたファンタジー、自由さを保証し、そのうえで9歳以降に内側から物事を創造するクリエイティビティと、外側の世界とつながるためのコミュニケーション能力、心地よさをつくるホスピタリティ能力へとつながっていくための、「学びの世界から未来へとつながるチカラ」を育む、その考えをもとにテキストや塾のプログラムをつくっているそうです。

高木さんと出会った「つなぐ人フォーラム」は、ネイチャーインタープリター、科学コミュニケーターなど、人と自然をつなぐガイドを務める人、ファシリテーター(創造的なアイデアを生み出すための会議の進行役)、広告クリエイターなど、人・自然・社会との接点を見いだし「つなぐ人」が集まる場です。それぞれの知見や発想力を持ち寄って、もう一度自然や宇宙から学び直そう、新しい社会や暮らし・価値観を自分たちで創造しようという活気に満ちたプロジェクトが幾つも生まれ、高木さんはそこで「あ、これ、いいね!」と、次々に新しいアイデアを吸収していきます。

「日能研の授業自体もいろんなやり方を取り入れていて、グループワークだったり、対話のプロセスを大切にしたり……。学ぶ主体である個々の“得意”や“クセ”を知り、何のために学ぶのか、そのためにどこに行くのかを子ども自身が決められるようにしています。“覚える”積み上げ式の学習や、満点を目指すことに意味はない。日能研は思考技法を学んでいくための塾と言えます」

日能研のカリキュラムについて説明する高木さん

 

●「日能研は、社会変革集団です(笑)」

 

とは言え、進学塾の最終ゴールは受験、そして「合格」。日能研は中学受験に特化しているので、どうしても偏差値重視の学習になってしまうのではないか……。そんな疑問もわいてきます。

「日能研では、私学に進学するために学ぶのであって、私学に合格するために学ぶわけではない。でも、進学するには合格しなければいけない。子どもたちが自分で“何かしたい!”、その気持ちを具現化できる場は、実は公教育よりも、私学の方に多いから、私たちは私学への進学を目標に据えているのです」

高木さんの思いの根底には、今の日本社会や教育のあり方が「自由」を保証していない、そのことへの疑問があるような気がします。子どもたちが本来持っている好奇心の扉を開き、外とつながる力を養い、自らの目指す社会を他者と共に創造する大人に育てていくには、今の教育では限界があるのではないか……。「教科書に載っていること」を覚え、知識を「積み上げる」ことでつくられていく「常識」に対する疑問は、わたしにもあります。

自らの力で学んでいく「自由」を日能研の学習で育み、それを実現できる場(=私学)への扉(=中学受験)を自らの手で開ける。国に決められたカリキュラムではなく、自主独立・建学の精神をつらぬく私学の方が「自由」度が大きいからこそ、日能研ではそこに行くためのステージをつくっているのだと高木さんは言います。

「私学側からは“日能研出身の生徒が入学すると、学校がおもしろくなる”と言われています。我々は、いまの日本でできる教育の最先端をやろうとしている。何と言っても塾は自由だから。私は今の日本社会がこのまま進んでいくことに危機感を覚えていて、だからこそ未来を変える、未来をつくるチカラを持った子どもを育てていきたい。日能研は、ある意味“社会変革集団”と言えるかもしれません(笑)」

これまで進学塾や「お受験」に対してステレオタイプなイメージを持っていたキタハラにとって、高木さんとの出会いは一種のカルチャーショックでした。多様な主体による自由な創造を保証する社会をつくりたいと思っているはずなのに、わたし自身の「多様性」を見つめる「ものさし」が、意外と小さかったり、枠にはめるくせが知らずに身に付いているのかもしれません。日能研のパンフレットを熟読すると、子どもにとっての「学び」をどう用意していくのか、親として新しい「ものさし」を手に入れることができる気がします。我が子の就学まで1年を切り、改めて教育や「学び」について、多面的な視野から考えていきたいと思わせる、スペシャルな出会いでした。

 

本社前で。破顔一笑の高木さん!

Information

高木幹夫(たかぎ・みきお)
1954年生まれ。株式会社日能研代表取締役社長。日本教育カウンセラー協会認定教育カウンセラー。中学受験ビジネス業界で大手進学塾一角を担う。著書に『予習という病』(講談社現代新書)、『問題は、解いてはいけない。』(サンマーク出版)、『自分の子どもは自分で守れ―?「学力」ってなんだろう 日能研はこう考える』(講談社文庫)ほか。横浜市港北区在住。
日能研ホームページhttp://www.nichinoken.co.jp

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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