“すべて土に還せること”を信念に。草木工房(草木染研究所柿生工房)主宰・山崎和樹さんを訪ねて。
三代にわたり衰退していた草木染を復興し、普及してきた山崎家は、日本を代表する草木染研究家・染織工芸家として知られています。山崎家の三代目で、現在は川崎市麻生区を拠点に活動されている山崎和樹さんを訪ねてきました。

柿生駅から徒歩15分。住宅地を抜けると、生産緑地の畑や雑木林が残る、緑あふれる風景が広がります。穏やかな景色の中、さらに坂道を上ると左手に工房が見えてきます。

 

「草木工房」の看板目印。竹林と生け垣の中に立つ、赴きのある建物

 

山崎和樹さんのご自宅と別に工房と日本家屋があります。工房は、山崎さんのお祖父様にあたる山崎斌(あきら)氏が、昭和21年に長野県佐久市に建てられた月明農村美術館を昭和34年に柿生に移築後、和樹さんが改築。日本家屋は、東京の知人から譲りうけたものを、昭和34年に麻生の土地に移築したものだそう。昭和初期の空気をまとったまま使用されています。

 

今では一般的に使われている「草木染」という言葉は、前述の斌氏により、初めて命名されました。当時滅びかかっていた草木染を体系的に復興することを始め、作家としても知られ、俳句、和歌、茶道など日本の伝統文化に造詣の深い文化人でした。

 

お祖父様の斌氏・日本画家であり、染織家でもあるお父様の青樹(せいじゅ)氏・そして、和樹さんと山崎家三代、その精神は受け継がれています。

工房の奥に位置する日本家屋。低めの天井、艶のある床板、畳に縁側、ガラスの引き戸……タイムスリップしたような雰囲気だった

 

山崎さんは先頃まで東北芸術工科大学で5年、天然染料での染色を指導していました。

 

「今の学生たちは、蚕から繭玉ができ、紡いで糸になり布になる、土に種を蒔き、それから芽が出て、その葉や茎や根から染料を作り出す……という一連の作業や、着物を身につけるまでの過程を知らないことが多い。田植えの経験もないから、お米もどうやって作るか知らないんだから。目の前の“もの”しか知らずにいるから、染色に関してもどのようにしておこなうのか、想像しにくいのです。だから学生には、天然の染料・紅花を育てさせていたんだよね。でも草木染めをすることで、植物から生まれる色を知り、色彩感が変わり、さらに植物や自然に興味を持つようになり、生命と自然に対する感性が豊かになったと思います」(山崎さん)

(恥ずかしながら…私も今回、生まれて初めて大量の蚕を見て大騒ぎしてしまいました!)

 

確かに。ひと昔であれば、自然と共に生きる中で、季節に即した農作業の日常と、四季折々の天然の植物から染料をとり色に移す、そんな草木染めの光景は日常の中にあり、当たり前だったと思われます。

 

化学合成染料の歴史は、ロンドンの科学者ウィリアム・パーキン博士が1856年に発見して以降の、まだ160年にも満たないのです。それに比べ、天然染料で染めていた時代はおよそ5000年もの歴史があるそう!

 

日本でも江戸時代までは、着物をこしらえるのも、天然染料を使った染色も、生活の一部だったのです。

山崎さんが染めた作品

 

「ものづくりがほとんど工業化され、お金を出しさせすれば何でも手に入るような、現代だからこそ、草木染めの過程がいかに美しく、楽しいかを教えていきたい。“もの”を売るだけでは伝えられない、手間はかかるけど、かつての生活の豊かな部分。僕はそれを “原点” と表現しているかも。現在は、化学染料を使用した大量生産の衣類がほとんど。そもそも、草木染めの衣類を大量生産することは難しい。僕は現代において草木染めを残す方法を探していて、それにはまず、草木染めの楽しさを伝えることが一番だと思っています。“草木染め”という言葉を自由に使える様にしたのも、昔は一子相伝だったものを、わかったことはすべてオープンにすることが大切だと考えたからです」(山崎さん)

 

※「草木染」は1932年に商標登録されたが、青樹氏は追加申請をしなかった。

ンド製のポータブルつむぎ機「チャルカ(charkha)」で、実際に綿花で糸をつむぐところを見せていただいたのですが、これをどれくらい続けたら布1枚が出来る量になるのだろうか……と、本当に気が遠くなった

 

染料液は、紅花や茜、紫根(シコン)、刈安(カリヤス)、クチナシの古代から伝わる草木以外にも、ヨモギ、ハルジオン、タンポポ、ドクダミ、クヌギ、ナラ、サクラ、ケヤキなど、道ばたでよく見かけるような身近な草木の葉、茎、根、樹皮から自然の色を抽出します。

 

工房には畑もあり、季節の花や、材料になる草花が植えられています。四季のうつろいを肌で感じながら、創作できる場所になっています。

染め上げられた糸。他にももっと多彩な色の糸があった。思わず、わー!きれい!と感嘆の声がもれてしまった

 

藍染め用の樽。ただ今発酵中!

 

山崎さんが語る草木染めの魅力をキーワードにすると、

「自然と共に暮らす喜び」

「四季」

「感性」

そして、信念は「すべて土に還せる染色」とのこと。

 

染めには、布や糸の繊維に染料の色を結合し、色を繊維に定着させ落ちにくくする為の媒染剤(ばいせんざい)が必要なのですが、染色についてまわる環境問題の一つが、その廃液の処理。媒染剤の主成分が金属イオンのため、どうしても環境負荷の高い重金属や有機物が使われていることがあります。水質の保全為、染料廃液は水質汚濁防止法に基づき、正しく処理されることが必要です。

山崎さんは昔から使われていて、なおかつ環境負荷の少ないみょうばんや泥、石灰などの媒染剤を使用しています。

廃液処理方法ですが、アルミニウムを含む、焼きみょうばん、みょうばん、酢酸アルミは、使用後に石灰を混ぜて中和してアルミを沈殿させ、布でこしてから液(ろ液)は土に還し、沈殿物(アルミ)は燃えるゴミとして捨てます。椿灰、鉄を含むおはぐろ液、木酢酸鉄、泥、灰汁、石灰はそのまま土に還しています。

こちらの畑の一角に、使用後の中和した媒染剤をまいて土に還す

 

草木染めは天然のものを使うという特性から、安定した色を表現するのが難しい手法でもあります。それが大量生産に向かない理由の一つでもありますが、言い換えれば、季節により色が変わり、染料と媒染剤の出会いで変わり、染め上げる人で仕上がりが変わる、一期一会の楽しみが味わえるとも言えます。

 

「完璧でなくてもよい。色落ちしたっていい(笑)。その変化が、おもしろさであり、楽しさ」(山崎さん)

山崎さんがご自身で染めた藍染めの作務衣が、緑に映える

 

柔らかで、やすらか、時にはっとするような……自然の色を映し出しした、美しい衣。古(いにしえ)から伝わる技法を守りながら、何より自然と向き合い、寄り添う方法で、布を染め上げる山崎さんのお話に、現代社会に生きる私たちが忘れかけている、“もの”が出来るまでにかかる本当の手間と感謝の心、自然と共生し、自然の恵みをいただく知恵の“原点”を思い出させてもらいました。

 

柿生にある「草木工房」で、ワークショップも開催しています。

 

ご興味のある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか!

Information

草木工房(草木染研究所柿生工房)

ホームページ http://yamazaki-kusakizome.com/

住所 川崎市麻生区片平4-15-1

○ワークショップのお知らせ

朝日カルチャーセンター 朝日JTB・交流文化塾 プロジェクト事業本部へ直接お申し込みください。

TEL:03-3344-2041

【受講料(税込み各1回)】

■ 会員 4,854円

■ 一般 5,400円

【基礎コース】

□ 7月12日(土)刈安で絹ストールを染める 教材費:3,780円

□ 8月2日(日) 発酵建てした藍で絹ストールを染める 教材費:4,320円

※開催場所は柿生にある「草木工房」です。

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この記事を書いた人
板垣恭子ライター卒業生
静岡県出身で四姉妹の長女。大学卒業後、デザイナーとして働きつつ花屋で修行。現在は子育ての合間に、その経験をいかせるような世界観を目指して制作活動中。森ノオトではジャーナリスト的な一面を見せ、硬派な記事も立派に書き上げる努力家でもある。
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