双子ママは革職人!「undöse(ウントエーゼ)」の工房へ
次回のほぼ日で販売する作品の締め切りを2週間後に控え、幼稚園が春休みになった娘さんと工房へ向かう嘉子さん
【リポーター養成講座受講生修了レポート:南部聡子】双子の革職人さん「undöse(ウントエーゼ)」。使う人にすっと寄り添って、馴染んでくれるのがundöseの作品です。ちょっとワイルドなのに優しい雰囲気、クールなのに温もりも感じる不思議な魅力の理由、そしてママでありながら、職人としても休むことなく、作品を作り続けているお二人の情熱に迫るべく、窓から寺家ふるさと村が見える工房を訪ねました。

やわらかそうで、淡く、けれど渋みのある色味の革が継ぎ合わされ、ローマ字のかすれた白い文字が絶妙なところに見え隠れするリュック。

 

私の子どもたちが就園前、週に1回、何組かの親子で一緒にふるさと村の山道を歩き遊ぶ会に、双子のお母さんがいました。冬には陽だまりで、夏には木陰でお弁当を広げて心ゆくまで遊ぶなかで、彼女たちの背中にはいつもそんな色違いのリュックがしっくりと馴染んで、背負われていました。そのリュックが気になっていて、ある日「どこで買ったの?」と尋ねると、「自分で作ったの」という思いもかけない答えが返ってきました。

 

ママの顔と職人の顔を持つお2人のユニット、undöse(ウントエーゼ)を知ったのはその時でした。

姉の総子さん(右)と妹の嘉子さん(左)。お仕事は旧姓の「木曽」で。いつもハッと明るく咲くような笑顔が印象的なお二人。「作品はそれぞれ、その人らしく自由なスタイルで使ってくれたら嬉しい」と大きな目を輝かせながら話してくれました

姉の総子さん(右)と妹の嘉子さん(左)。お仕事は旧姓の「木曽」で。いつもハッと明るく咲くような笑顔が印象的なお二人。「作品はそれぞれ、その人らしく自由なスタイルで使ってくれたら嬉しい」と大きな目を輝かせながら話してくれました

一度聞いたら忘れない響き「undöse」(ウントエーゼ)。そのユニット名はドイツ語が由来です。「und」(ウント)が「……と(and)」、「öse」(エーゼ)が2人の作品に欠かせない「ハトメ」という金属の名前だそうです。なぜ、ドイツ語なのかを尋ねると、嘉子さんはドイツが好きで、「作品に使うハトメを含めた金属が好きということ、そして、響きも心地良くて……」と、少しはにかみながら答えてくれました。

 

この名前には、全ての作品を、自分たち自身も「心地よいと感じる」、そしてなにより「好きだから」という想いを大切に作っていくお二人の姿がそのまま映し出されているのだなと実感しました。嘉子さんがドイツが好きと聞いて改めて、彼女が全て自身でデザインしているundöseのポスターやDMを見ると、なるほどどことなくドイツの町のような、トーンや雰囲気を感じます。職人の打つ、木槌の音が聞こえてきそうです。

作業場の前の壁。今までの展示会の時に作成したポスターや、作業工程のメモなどが貼られています。特にリュックサックは作業工程が複雑になるため、図解にして貼り、お互いに確認しながら作るそうです

作業場の前の壁。今までの展示会の時に作成したポスターや、作業工程のメモなどが貼られています。特にリュックサックは作業工程が複雑になるため、図解にして貼り、お互いに確認しながら作るそうです

インタビューでは、片方に質問しても、いつの間にか、その彼女のことをもう片方の彼女が答えてくれていたり。息がぴったり合うから、さぞかし今まで波風なく二人でお仕事が出来てきたのでしょうね、と感心して言うと、大笑い。「波風いっぱい立つよね」と声を合わせて言いました。そして、すこし笑いが落ち着いてから、「それでもやはり二人だったからこそ、ここまで続けてこられたと思う」と、穏やかな表情で話してくれました。

 

お二人がundöseを立ち上げたのは2003年。高校から別々の学校へ行き、大学はそれぞれ総子さんが服飾系、嘉子さんが美術系の学校に進みました。別々の道を歩いていたお二人は、いつか今のように二人で仕事をする日が来るとは、夢にも思っていなかったそうです。けれど、いつも変わらずにあった「手を使って何かを作るのが大好き」という共通の想いは持ち続けていました。

 

それぞれに仕事をしてきたお二人は、2003年、「デザインフェスタ」に一緒に作品を出してみようということになります。出展内容は、当時総子さんが革製品の工房で働いていて、革の良さを実感していたこともあり、革製品になりました。「思いがけずたくさんの人に買ってもらえてとても嬉しかったね」と振り返ります。以来、そのとき出店するにあたり考えたユニット名「undöse」で現在まで活動を続けることになりました。

普段は家事をするお母さんの手も、ここでは勇ましくさえある職人の手になります。どの工程もなかなかの力仕事で驚きました

普段は家事をするお母さんの手も、ここでは勇ましくさえある職人の手になります。どの工程もなかなかの力仕事で驚きました

その後、声をかけられた幾つかのギャラリーでの出展を重ねます。自分たちの作品を心から気に入ってくれ、声をかけてくれたオーナーさんなど、いつも良い出会いに恵まれてきたというお二人にとって、とくに転機ともなる出会いが2013年表参道のギャラリーであったそうです。

 

その頃、独特のデザインや使い心地のよさからリピーターも増え、すでに多くの依頼が来るようになっていたundöse。周囲からは「芸術作品(一点もの)として高価で売っていくか」それとも、「商品として、undöseのデザインで、作るのは工場に任せて安価にして大量生産していくか」という提案を持ちかけられていました。どちらも二人のイメージする作品づくりにしっくり来る選択ではないと悩んでいた頃、ふらりとギャラリーにご夫婦で現れたのが糸井重里さん。糸井さんご夫妻は二人の作品を手に取り、デザインや肌触り、重みを確かめながらとても気にいり、その場で、糸井さんの運営する「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」で作品を販売してみませんかと声をかけられたそうです。糸井さんは二人の作品を「芸術作品と商品の間のもの」として扱ってくれ、お二人はそれがとてもしっくりきて、それまで悩んでいたことからすっと解放されたと言います。

undöseの名前にも入っている「ハトメ」という丸い金属部分は鳩の目ににていることからついた名前なのだそうです。undöse作品の全てに「ハトメ」が付いているのだそう。コインパスケースやロングウォレットの横にも! ハトメの使い方は自由で、わくわくします

undöseの名前にも入っている「ハトメ」という丸い金属部分は鳩の目ににていることからついた名前なのだそうです。undöse作品の全てに「ハトメ」が付いているのだそう。コインパスケースやロングウォレットの横にも! ハトメの使い方は自由で、わくわくします

自分たちの心地良い作品とお客さんとの距離をつかんだお二人。そこからは現在のように穏やかな雰囲気に包まれて作品作りをしていたのかと思いきや、最初にちらっと出てきた、「波風」の特に大きなものは、それから立っていたようです。

 

「ほぼ日」に作品を出すようになり、週末だけのギャラリー販売を固定で始めたりと、仕事がますます軌道に乗り始めました。ほどなくして、先に出産育児に突入した総子さん。嘉子さんは理解しようと努力しつつも、作業のペースが大きく落ちてしまったこと、作業量のバランスが崩れていくことにモヤモヤした気持ちを隠しきれないときも多々あったと振り返ります。とはいえ、赤ちゃんが生まれてからは、お二人で交代に遊ばせたり、ミルクをあげたり、少しずつバランスを掴んでいったそうです。

 

その後、偶然にも今度はお二人ほぼ同時に赤ちゃんを授かり、自然とわだかまりも解け、協力しながら育児と作業を乗り越えるようになりました。もちろん作業効率は下がり、生産ペースも落ちはしましたが、「今は子どもといる時間もかけがえがなく感じていて、大切にしたい。今はそういう時期なのだと覚悟を決めて、仕事も子育てもどちらにも自然な形で向き合っていきたい」と話してくれました。仕事場だからと神経質にならず、時には手を止めて子どもたちの作業を手伝ってあげたり、いつも穏やかにそのままの状況を受け入れている姿、これまであった幾つかの危機も、難しい状況もこの自然体があればこそ、お二人で乗り越えてこられたのだなと思いました。

作りかけの作品とこれから作品になるのを待つ革たち。最初のころはもっと無骨で荒々しい雰囲気の作品を好んで作っていたそうです。お子さんが生まれてから気がつくと少しずつ、使う革の色合いがやわらかくなり、色味が増えたり、今まで作ろうと思ったことのなかったリュックサックを作るようになったりと変化もあるそうです

作りかけの作品とこれから作品になるのを待つ革たち。最初のころはもっと無骨で荒々しい雰囲気の作品を好んで作っていたそうです。お子さんが生まれてから気がつくと少しずつ、使う革の色合いがやわらかくなり、色味が増えたり、今まで作ろうと思ったことのなかったリュックサックを作るようになったりと変化もあるそうです

自然体は作品作りにも影響しています。undöseの作品はどれも何枚かの革が重ねられて1つの形を作っています。形を決めてからではなく、そこにある切れ端のあるがままの形を手に取り、それをどう組み合わせたら面白いかなと考えたりしながら作品のイメージを膨らませます。普通の製品作りでは捨てられてしまう「端っこの切りっぱなしの部分」や「傷のある部分」が特に好きで、そこはお二人共通の「かっこいい!」なのだそうです。

 

そのような部分を使っての作品なので、同じものは二度とはできません。世界で一つだけを、世界で一人だけの誰かに向けて、丁寧に、力強く作業は進みます。

 

お二人と話しながら特に面白く感じたのは、ご自分たちのことを話すときは、それぞれがお互いをさりげなくフォローしながら、考え考え話してくれますが、作品のこと、物作りのことの話題になると自然とお二人とも笑顔になり、声も大きくなり、次々にそれぞれが話をしてくれることでした。本当に革が好きで、物作りが好きで好きでここまでやって来られたことが伝わってきます。育児との両立など聞き出そうとあれこれと質問を考えていましたが、何より好きなものに誠実であること、それをコツコツと深い愛情を持って続けることを芯に、二人の製作と育児とは自然に回っているのだと気付かされました。

作品にプリントされている文字は、ドイツ語。 「handarbeit(手作り)」「ungleichgewicht(アンバランス)」「abstrakt(抽象的)」「abgetragen(使い古した)」「ferbe/ton(色/音)」……シリクプリントで一つひとつ刷っています。偶然かすれた風合いに惹かれ、あえて「かすれプリント」をしています。

作品にプリントされている文字は、ドイツ語。 「handarbeit(手作り)」「ungleichgewicht(アンバランス)」「abstrakt(抽象的)」「abgetragen(使い古した)」「ferbe/ton(色/音)」……シリクプリントで一つひとつ刷っています。偶然かすれた風合いに惹かれ、あえて「かすれプリント」をしています。

工房で見ていると、ミニトートやロングウォレット、どれもこれも欲しくなります。私は今、undöseのポシェットを使っています。undöseの鞄はショルダーの部分がどれも割と細い革の紐です。ちょっと荒っぽい無骨な雰囲気もある革のバッグ本体に対して、女性的な繊細な雰囲気を添えていて、そのバランスに惹かれます。

 

子連れのお出かけでは、ポシェットの中はいつもパンパンにものを入れてしまうので、細い紐だと肩が痛くなるかもしれないけれど、お洒落のためには覚悟して、思って使い始めました。ところが、不思議なことに、紐が辛く感じられること全くなく、革なのになぜかふわりと軽い掛け心地です。気が付いたら、いくつかもっているポシェットの中でundöseのものばかり使っていました。柔らかい革は体にそっと寄り添ってくれ、お気に入りの色合いとともに、どこへでもお出かけ、良き相棒になってくれています。

 

育児がもうひと段落し、また仕事を始める時には、トートバックを買いたいな……、そのバッグをかけて、仕事へ行く自分をイメージすると勇気が湧きます。密かに楽しみにしている私の目標です。

次回のほぼ日で販売する作品の締め切りを2週間後に控え、幼稚園が春休みになった娘さんと工房へ向かう嘉子さん

次回のほぼ日で販売する作品の締め切りを2週間後に控え、幼稚園が春休みになった娘さんと工房へ向かう嘉子さん

undöseの目標はと聞くと、しばらくお二人で目を合わせたり、腕を組んだりしながら考え、「育児にもう少し手が離れたらまた展示販売をもっとやっていきたいな」と清々しい表情で話してくれました。「買ってくれる人と、直接顔を見ながら作品の話たり、自分たちの作品を手にとり喜んでくれる顔を見ることができたら嬉しいな」と、思いがあふれてきます。物作りの大好きな、そして使い手のことをいつも考えている彼女たちの、暖かな、それでいてはっきりとした意志を強く感じました。

 

きっと近い未来、居心地の良い空間で、作品と一緒に笑顔で展示販売をしているお二人が目に浮かぶのでした。

Infomation

「undöse(ウントエーゼ)」

HP http://www.g-p-l.com

次回の販売は2016年5月頃に「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」で予定しています。また、年内にほぼ日の店舗「TOBICHI(とびち)」で展示販売を予定しています。

※7月に「undöse(ウントエーゼ)」の親子ワークショップを森ノオウチで開催予定! 詳細は森ノオトfacebookで6月までにご案内します!

南部 聡子
この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。退職後、地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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