「かわいい」が詰まった手作り絵本の世界。竹佐知子さんを訪ねました
イソップやアンデルセンなどの名作や、オリジナルレシピを題材にして、手作り絵本を製作している女性が私の暮らす青葉区にいます。イラストから装丁まで製本のすべてを手がけ、20年以上作家生活を続けている竹佐知子さんのご自宅を訪ねました。

 

女性はいくつになってもかわいいものが好き。……読者の女性のみなさん、いかがでしょう。

 

乙女心をくすぐる手作り絵本の世界を取材するため、恩田駅(横浜市青葉区)近くの竹佐知子さんのご自宅を訪ねました。

 

竹佐知子さん。ご自宅のお庭で育てるハーブで、お料理やコスメも手作りしています

 

「自分のために作っているものだし、1年かけて1冊作っている感じ。主婦業をやりながらだから、結構時間がかかるんですよ」と話す竹佐さん。1年に1冊というペースも、アイデアからイラスト描き、デザイン、装丁……という製本のすべての工程を丁寧に、そして一人で行っているからこそ。しかも、その製作を20年も続けていると、趣味の領域とは言えないほどの完成度の高さを誇る作品が並びます。

 

竹佐さんのこれまでの作品たち。サイズもデザインも表紙の素材も様々です

 

オリジナルレシピを題材にした絵本

 

贈りたいワインとそのラベルをイメージした絵本

 

蛇腹状にした仕掛け絵本

 

5年ほど前からプレゼント用に作り始めたという豆本

 

建築士としてハウスメーカーでバリバリ働いていた20代を経て、出産を期に退職した竹佐さん。それからは育児に没頭していた日々を送っていましたが、娘さんが幼稚園に通うようになった頃、「手作り絵本」と出会うことになります。

 

「長女の幼稚園(鶴見区)は、お母さんのサークル活動が盛んな園で、お友だちに勧められて『絵本の会』というサークルに入ったんです」(竹佐さん)。それまでは特別に絵を習ったり描く機会はなかったそうですが、入ったそのサークルでは、画家であり絵本作家である油野誠一先生に月に1度、絵を見てもらうという本格的な活動をしていました。「厳しい先生で、素人のお母さんたち相手に、それはもう、こてんぱんに言うんですよ(笑)」と、懐かしそうに当時を振り返る竹佐さん。最初に20人以上いたメンバーも最後には5人ほどしか残らなかったと言います。

 

「先生に、『1枚の絵では大した印象がないものでも、それを積み重ねると絵本になる』と、絵本を作ることを勧められて作ったのが最初。はじめは何を描いたら良いのかわからなかったけど、とりあえず一冊作ってみようと思ったんです」。絵は油野先生にアドバイスを受け、製本は絵本の会のメンバーで勉強をしながら、見よう見まねで作った最初の一冊が完成した時の感想をこう話します。「本って自分で作れちゃうんだってびっくりしたんです。立体のものが平面になっていくおもしろさがありますよね」。その魅力にはまった竹佐さんは、娘さんが卒園してからも油野先生が亡くなる2009年までの約15年、毎月1回先生に絵のアドバイスを受けながら、画力を養ってきたと言います。

 

初めて作った絵本『季節の贈物』。スキャナがまだ一般的ではなかったので、すべて原画を折って作った世界に一冊だけの作品です

 

絵本の原画になっている水彩画。いろいろなモチーフを参考にしながら、ストーリーに合わせた絵を描いていきます

 

どれもうっとり眺めてしまう優しい色合いの原画の数々

 

竹佐さんの絵本は、グリム童話やアンデルセン、イソップなどの著作権の切れた名作から、オリジナルレシピをテーマにしたもの、人に贈りたいものをイメージした本など、その題材は様々。そのアイデアはどこから来るのか聞くと、「本屋でキレイな本を見るとついつい買っちゃう。あと、包装紙とかのパッケージ系も集めちゃったりして」と、生活の中で目に止まる「かわいい」ものからインスピレーションを得ているようです。

 

幼い頃から、包装紙や便せんなどの紙ものを集めるのが好きで、プレゼントするあてがなくとも、ギフト用のパッケージ商品を買い集めていた私。竹佐さんが引っぱり出してきてくれるお気に入りの絵本やお手製のラベル、ペーパーアイテムを広げながら、「この装丁なんかキュンとしちゃう」「もーかわいいのよー」という言葉に、もうわかるわかる、と共感の嵐でした。

 

お気に入りの絵本を広げる表情は少女のよう。それらをただ眺める時間が好きなのだそう。その気持ち、よく分かります

 

作った絵本は、友人らにプレゼントすること以外には、上野の東京都美術館で開かれる「東京展」の「絵本の部屋」という部門に毎年出展しているという竹佐さん。2005年には『おやゆびひめ』の作品で優秀賞を受賞しています。今年も9月9日(金)から16日(金)に開催される同展に出展予定とのことで、「今年はコンフィチュールをモチーフにしようかなと思っているんですが、まだ何もしてないんですよ。どうしよう」と言いながらも、創作意欲に満ちた表情で作品の構想を語ってくださいました。

 

子育てをしながら、絵本作りを続けてきた竹佐さん。元々の建築士として働いていた頃の知識も生かし、今ではエスポワール松風台のDIYプロジェクトに関わっていたり、「アトリエ レナータ」という名前で、ペーパーアイテムやラベル作成の仕事を請け負ったりと、そのデザインセンスを様々な場面で発揮し、充実した生活を送っています。

 

「30代、40代の頃は子育てに精一杯なんだけど、その中でも自分を表現できる場を意識していたんですよね」。母、妻、という肩書きだけではなく、忙しい日々の中で簡単に消えてしまう「自分」という軸を忘れないでいたことが、今の充実した生活に つながっていたと話します。「細くて良いの。細ーく長ーく続けることが大事。子どもたちが手がかからなくなった時に全然違ってくると思うから」

 

可愛らしい雰囲気の中にも、女性としての芯を感じる竹佐さんの言葉。それは、自分の歩んできた時間を、絵本の1ページのように丁寧に積み重ねてきたからなのだなと感じました。子育て真っ最中で、これから女性としてどう自分軸を持っていられるかを考えている私にとって、とてもパワーをもらう取材となりました。

宇都宮 南海子
この記事を書いた人
宇都宮南海子ライター/スタッフ
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、2017年から森ノオトの事務局スタッフとして主にシステムと編集部を担当。ワークショップデザイナーとしての活動もスタート。
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