100歳まで働けるものづくりの職場「BABAラボ」を訪ねて
ガタゴトガタゴト……。横浜市青葉区から電車を乗り継ぎ約1時間半、さいたま市南区鹿手袋にやってきました。ここに、「100歳まで働けるものづくりの職場」を掲げる「BABAラボ」(ババラボ)があります。森ノオトがこれからつくるファクトリーのヒントを探しに、わくわくしながら、扉を開きました。

 

「いらっしゃーい。まずはお茶をどうぞ」

 

額に汗がにじむ7月の暑い日。工房を訪れた私たちを、86歳の絹子おばあちゃんが和室に招き入れてくれました。BABAラボは、30代から80代のスタッフが働くものづくりの職場です。

 

工房では商品の直売も行っている。動物モチーフのTシャツなどユニークなデザインが目を引く

 

工房は昭和の趣のある一軒家。1階は作業場兼ミーティングルーム、お茶を飲んだりまかないを食べたりする和室、奥には子どもが遊べるキッズルームがあります。2階には事務所や在庫室のほか、シェアオフィスとしても使われています。

 

お茶を飲みながら仕事の話も。手前の和室ではお母さんたちが子ども服のやりとり

 

工房を案内してくれたのは、広報担当の大塚昌子さん(61)。3人のお孫さんのいる若々しいおばあちゃんです。まかないをつくる台所隊長でもあり、ときには子どもを見守るスタッフに。BABAラボは多くの取材や視察を受けているので、大塚さんの案内はスムーズでユーモアたっぷり。飾らない人柄で、私たちの緊張をほぐしてくれました。

 

「私は縫い物はできないし、パソコンもできないんだけど、100歳まで働ける場づくりにかかわりたいと思って参加して、ボランティアスタッフとして来ています。BABAラボは、事務、製作、ボランティアと、自分でかかわりかたを選ぶことができるんです」

 

 

スタッフのお子さんをあやしたり、台所と作業場を行ったり来たりと大忙しの大塚さん

 

「ババラボ」というからには、おばあちゃんたちが中心の職場にちがいない。そんな想像は、すぐにくつがえされました。次から次へと子連れのお母さんたちがやってくるのです。

現在、スタッフの半数が30代から40代、半数が50代から80代です。製作スタッフは、工房が空いている月、水、金曜の10時から16時は、いつ来てもいつ帰ってもいいという自由さがあり、子連れ出勤もできる職場なのです。

お母さんがミシンで仕事をする間、子どもたちはキッズスペースで遊んでいます。子どもは、スタッフ間で見守ります。託児というわけではなく、信頼関係の中で見守る関係性が築かれています。

 

作業部屋の奥では子どもたちがわいわい遊ぶ。ここは3世代同居の工房

トートバッグにミシンをかけていた田丸衣美さん(38)は、3人の子のお母さん。妊娠して仕事を辞め、5年ほど専業主婦の期間を過ごしていました。いったんパートの仕事を始めたものの、幼稚園児や乳児を育てながらシフト体制の職場で働くのは難しいな、と感じていたといいます。

 

そんな中で、BABAラボのワークショップに参加したことがきっかけでスタッフに。幼稚園に5歳の長男を送ってから、1歳の次男を連れて出勤するのが日課です。自分が決めた目標数に沿って仕事量を調整でき、今の自分にちょうどよい働き方ができていると感じているそうです。

 

 

集中してミシンに向かう田丸さん。この日は2人のお子さんを連れての出勤

 

田丸さんにとって、BABAラボは「生活の一部」なのだそう。

 

「”仕事”があることで、スイッチの切り替えができるし、達成感や自由になるお金ができるのがうれしい。おばあちゃんたちとお話しすると、家の中でモヤモヤしていた心がすっとします。ここがなかったら、子どもに対して怒りすぎていたんじゃないかな」

 

スタッフの子ども同士も仲良しで、まるで大きな家族のよう。取材中、気がつけば田丸さんのお子さんは、大塚さんの抱っこで眠っていました。

 

代表の桑原静さんが、BABAラボを立ち上げたのは2011年12月。おばあちゃん思いの桑原さんは、高齢者の生きがいや働くということに興味があり、お年寄りでも使いやすい孫育てグッズの工房をつくりました。

 

代表の桑原さん(左)とおばあちゃんの絹子さん(中央)、お母さんの秀子さん(右)は製作部長

 

大家族のように賑やかに多世代が交わり、それぞれが役割を持っていきいきと過ごす。私が訪れた時のBABAラボは、そんな雰囲気がとても魅力的でした。

 

こんな場所が近くにあったら、と羨むようなコミュニティができるまでの道のりは、簡単ではなかったそうです。

 

「1人入っては1人辞め、2人入っては2人辞め、という時期が続いて、人が定着するまでに時間がかかりました。2014年ごろまでは、コミュティづくりに全力を注いできたんです。それでも、来るものは拒まず、自由で、閉じない場所をつくろうと思いました」と桑原さん。

 

新しい人を呼び、ファンをつくろうと、当初は毎月10回ものワークショップを開いていたそうです。地域のイベントにも積極的に参加し、手書きの「しかてぶくろ新聞」も広報活動として毎月発行を続けてきました。

 

 

味わい深い『しかてぶくろ新聞』。BABAラボ隣のコミュニティカフェ「ヘルシーカフェのら」のコラムも載っている

 

そして、みんながいきいきと見えたわけは、それぞれが役割を持っているからかもしれません。

 

「新しいコミュニティに入っていくのはなかなか勇気がいるけれど、役割があることで気を使わずに大きな顔をしていられますよね。普通の会社だと、もともとある仕事に人を当てはめるけれど、ここでは来る人を見て仕事をつくるんです。目指すのは公園のような場所。いろんなベンチを用意しておいて、好きなベンチに座ってくれたらと思います。それぞれ目的は違うし、みんな同じ方向を向いていなくてもいいんです」(桑原さん)

 

 

BABAラボにはいろんな”ベンチ”があるけれど、お昼どきにはみんなそろってまかないランチをいただきます!

 

コミュニティが安定したいま、桑原さんは「人が増えた分、売らないと!」というビジネス面でのピンチに直面しているといいます。手仕事による商品にとどまらず、規模拡大のために工業製品に挑戦しています。

 

その第一弾として、この夏、5年がかりで開発した新商品「ほほほ 哺乳瓶」をリリースしました。大きなメモリー表示や持ちやすい形状で、孫育てをするおばあちゃんでも安心して使えるデザインです。

 

BABAラボの商品コンセプトは、おばあちゃんによる、おばあちゃんのための孫育てグッズ。商品製作を通じておばあちゃんたちの仕事をつくる、という面だけでなく、商品を使うことでおばあちゃんたちが生き生きと生活する姿を描いています。

 

一番のヒット商品は、首のすわらない赤ちゃんでも、おばあちゃんが安心して抱っこできる「抱っこふとん」

 

「はたらく」の捉え方として、「はた(=まわり)」を「楽」にするという考えがあります。BABAラボでは、「はたらく」ということを、お金を得るという狭い意義では捉えていないように感じました。ミシンをするお母さんの子どもの見守りも「はたらく」、孫を育てることも「はたらく」につながります。

 

一人ひとりに合わせて仕事をつくり出すBABAラボは、”公園”のような工房を構えながら、ビジネス面では海外市場も視野に入れて、展示会への出展や百貨店などへの営業に力を入れています。

 

試練も多い中で、桑原さんは「地域で100歳まではたらける場を全国につくる、というゴールは見えているので、失敗しても道を変えながら進んでいくだけです」と静かに、力強く話してくれました。視線の先には、絹子おばあちゃんの姿があります。

 

スタッフのお子さんをかわいがる絹子さんの笑顔が周囲を照らす。以前は趣味がパチンコだったおばあちゃんが、いまは週3日BABAラボに通う

 

これからつくる森ノオトの工房はどんな道を歩んでいこう。BABAラボの営みに憧れ、そして勇気をいただいて帰ってきました。

Information

BABAラボ

さいたま市南区鹿手袋7-3-19

電話 048-799-3214

ホームページ

http://baba-lab.net/

公式通販サイト

http://baba-lab.shop-pro.jp/

森ノオトはセブン-イレブン記念財団の助成を受け、アップサイクルのファクトリーづくりに取り組みます。

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この記事を書いた人
梶田亜由美ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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