「ローカルメディアはつくるプロセスこそが大切」影山裕樹さん(ローカルメディア講座レポートその1)
森ノオトの北原まどか編集長がコーディネーターを務める「地域をつむぐローカルメディア講座」が10月5日からスタートしました。編集プロセス・写真術・メディアリテラシーや事業計画など、地域メディアを運営するのに必要な具体的なノウハウの伝授と全国各地の先進事例の紹介など盛りだくさんの全6回。居住エリアも専門領域も様々な受講生たちとともに、メディアのあり方や可能性をさぐる講座になりそうです。

 

去年に引き続き、「地域をつむぐローカルメディア講座」がスタートしました。主催の関内イノベーションイニシアティブ株式会社が横浜市中区で運営するコワーキングスペースmass×mass関内フューチャーセンターで、10月5日に行われた第1回のレポートをお届けします。

初日の講師は『ローカルメディアのつくりかた』著者の影山裕樹さん。この本を作るために1年かけて、全国のメディアの作り手たちに会いに行ったそうです。

 

影山裕樹さん。1982年、東京都生まれ。豊島区在住。雑誌編集部、出版社勤務後フリーに。数々のアート&カルチャー書の出版プロデュース・編集を行うかたわら、近年は十和田奥入瀬芸術祭、札幌国際芸術祭などの各地の芸術祭やアートプロジェクトに関わっている。著書に『大人が作る秘密基地』(DU BOOKS)、『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)など<写真/堀篭宏幸(マスマス関内フューチャーセンター)

 

講座では、影山さんが取材の中で出会った全国各地の特色あるローカルメディアについて紹介しました。

 

たとえば、北九州市が運営する「北九州市にぎわいづくり懇話会」が発行している『雲のうえ』は、東京のアートディレクターたちが編集委員として加わることで、地元にいると気がつかない、とんがったおもしろさを醸し出している北九州を新鮮な視点で取り上げています。『雲のうえ』はその後、『雲のうえのしたで』というファンクラブ会報誌が発行されるまでになっています。

 

城崎温泉の若旦那衆が新たなお客さんを開拓するために立ち上げた出版レーベル「本と温泉」では、小説家の万城目学さんに、温泉に逗留して書き下ろし小説『城崎裁判』を書いてもらいました。ブックカバーがタオルで、防水加工した紙を使い、温泉に入りながら読める本。「地産地消」ならぬ「地産地読」をうたい、城崎温泉でしか手に入りません。「文学のお土産」として、この本を買いにいくために城崎温泉に行くという読者の動きをも作り上げ、流通を限定するという工夫で、温泉に客を呼び込むことに成功しました。

 

『みやぎシルバーネット』は仙台の男性がたった1人で20年もの間続けてきたシニア世代向けの月刊フリーペーパー。シニア世代に関心が高いものにテーマを絞り、配布先も自力で開拓。デザイン・編集・執筆・広告・配布まで1人でこなしています。そんな『みやぎシルバーネット』の人気コーナーは「シルバー川柳」。表現したい、語り合いたいという高齢者の声に応えて、寄せられた川柳は可能な限り掲載し、読者同士がつながるためのコミュニケーションメディアにもなっています。影山さんは、「月刊だと、次の号で川柳が掲載されるのを楽しみにし、それが高齢者に生きがいになる。季刊だとお年寄りにとっては先が長すぎるんです」と、『みやぎシルバーネット』の絶妙な発行戦略について教えてくれました。

 

<参考>

「雲のうえのしたで」

http://kumonoue-fanclub.net/
本と温泉

http://books-onsen.com/

みやぎシルバーネット
http://silvernet.la.coocan.jp/

 

 

影山さんの著書『ローカルメディアのつくりかた』。上記3誌に加え、福岡市の宅老所が発行する『ヨレヨレ』、食べ物付き情報誌『東北食べる通信』、滋賀県近江八幡市の老舗菓子屋「たねや」の広報誌『La Collina』など、全国各地の取り組みを、構想2年、取材に1年かけて出版した

 

「ローカルメディアはクオリティの高さだけを目指すものではない」と影山さん。講座の中で「メディアを通して、どれだけ人と人がつながったかというプロセスを大事にしていく。編集や出版の常識にとらわれないで、自分の地域で自分のやり方を見つけていくこと。プロセスを大事にすることこそローカルメディアの役割ではないか」と話しました。

 

影山さんがローカルメディアに興味を持ったのは、震災以降、東京に暮らす意義に疑問を持ち、地方に目を向けるようになったのがきっかけだそうです。編集やデザインは専門家や能力のある人だけの領域ではない。流通や出版も既存のシステムに限られず、地方だからこそ新しい道を探れるかもしれない。東京からは「場外乱闘」に見えていた、地方の尖った「ローカルメディア」にこの先の可能性を感じたそうです。

 

個人的なことですが、この記事を書いている私、船本も去年のこの講座受講のあとに、森ノオトリポーターとなり、また、もともとライターとして参加していた子育て情報紙であらたにママリポーターを募集して編集部活動を始めました。そういう意味ではローカルメディアの担い手意識が充分です! 個人的な感想ですが、この日の講座で、全国をまたにかけて活躍する最先端な人物である影山さんに、「面白いもの」として発掘され、「ローカルメディアいいよ、おもしろいよ、もっとやってよ」と言われたような気になり、「よーし、やってみよう」とやる気になってしまいました。がんばります。

 

アート・表現活動として、影山さんがいま取り組んでいるのは、「裏輪呑み」。路上観察グループ「新しい骨董」の活動の一つ。http://atarashiikotto.com/

 

「地域をつむぐローカルメディア講座」では、受講生同士の他己紹介ワークやランチタイム交流会も開催。それぞれの地元、それぞれの領域で、どんな活動を行っているのか、なにを目指してこの講座を受講したのか、情報交換の場を持ちました。ここで交流をはかり、さまざまな取り組みを知り、仲間ができるのもこの講座の魅力の一つです。

 

大倉山、若葉台、藤沢などからの参加者。それぞれの活動も興味深い<写真/堀篭宏幸(マスマス関内フューチャーセンター)

 

「地域をつむぐローカルメディア講座」2回目は10月19日(水)。この講座のコーディネーターを務める森ノオト北原まどか編集長が「素人だからこそ書けることがある!?取材トラの巻」と題して話します。宿題でレポートを書き、北原さんから添削を受けられるのも魅力です。ぜひ、多くの方のご参加をお待ちしています。

 

キャプション ランチタイムはマスマスの「まちなか社食」を利用。講師とじっくり交流できるのもうれしい

 

Information

エントリーはこちらから。ご参加をお待ちしています。

http://massmass.jp/project/local_media02/

<主催のマスマス関内・治田友香さんと、北原まどかの対談はこちら>

【対談トーク】メディアで地域とつながり、耕そう!「あなたは、あなたのまちでどんなメディアをつくりたい?」

2回目以降の単発受講、会期途中からの申し込みも可能です。

<今後のスケジュール>
第2回 10月19日(水) 素人だからこそ書けることがある!?取材トラの巻

第3回 11月2日(水) 記事と人を100倍生かす写真術
第4回 11月16日(水) メディアリテラシーと編集がメディアのキモ!
第5回 11月30日(水) 著作権と個人情報保護、知っておきたい法律の基礎知識
第6回 12月14日(水) ローカルメディアの事業計画

「ローカルメディアのつくりかた」

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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