時代はソーシャル、そしてローカルへ。月刊『ソトコト』編集長・指出一正さん(ローカルメディア講座リポートその3)
mass×mass関内フューチャーセンターで行っている「地域をつむぐローカルメディア講座」。第4回の講師は雑誌「ソトコト」編集長の指出一正さんです。「ぼくは編集者を辞めました」と公言し、今年は日本各地に自分を貸し出す「出張トークイベント行脚」を展開。地域と関係性をいかに作るかがこれからの編集者に大切と話す指出さんに「人に伝えるために大切な心構え」を聞きました。(写真:堀篭宏幸)

 

指出一正さんプロフィール:雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。ロハス発祥の地と言われるアメリカ・コロラド州 ボールダーや、アフリカ、アイスランド、中国の現地取材を担当。趣味はフライフィッシング。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、 広島県「ひろしま里山ウェーブ拡大プロジェクト」全体統括メンター、「みちのく起業」第二期ファンド選考委員、地域若者チャレンジ 大賞審査員等、地域活性、ソーシャルビジネス分野の委員等を歴任

 

『ソトコト』は1999年、世界初の「環境ファッションマガジン」として創刊しました。ホームページには「地球と仲良くし、楽しく生きていくためのライフスタイルを探り、提案していくことをコンセプトに」した「ロハスピープルのための快適生活マガジン」とあります。毎月10万部を発行しています。

 

環境問題を語ると煙たがられるような時代から、モノが行き渡り豊かになってきた1990年代後半に、自分の内面を磨きたいという人々のニーズをとらえて「環境問題をおしゃれに語るソトコト」が出現したことの意義は大きく、21世紀に入って「環境問題を語れるのは格好いい」という時代が到来しました。

 

現編集長の指出一正さんは、2004年に『ソトコト』編集部に加入。雑誌のメインテーマである「ロハス」担当として世界の最先端を発信していた張本人です。取材活動の中で「健康と地球環境」への関心から転じて、地域社会で手を携えて生きる「ソーシャル」なライフスタイルに造詣を深めるなか、2011年6月に編集長に就任。いまは「環境」を軸にしながらも「地域性」「社会性」を編集方針の真ん中に据えています。

 

そんな先見性をもった『ソトコト』の編集長が「リアルなことを書くためには、東京で机に向かってはいられない」と、日本全国「ど」ローカルなまちに日々通っていると言うのですから、その講義内容は、細部にわたって超充実!

 

「横(全国の観光客)を見ずに内側(高知県民)を見て」制作した高知県のローカルメディア『とさぶし』についてのエピソードや、生物多様性の特集のために水俣病のイメージが色濃く残る八代海に潜った話など、たくさんの参考になる話を聞きました。

 

「マイボトル」をもつ受講生が多いことを指摘した指出さん。「もう環境を考えることが当たり前の時代になっている。エコを伝えるときめきから、人とヒトとのつながりや地域の豊かさを見直すという価値観の方に人が動いている」と話した

 

指出さんには日本各地に20カ所ほど毎年のように訪れて定点観測している場所があります。福岡県の糸島エリアに通う中で、醤油醸造元の若き4代目と出会い、いつか紹介したいと数年間企画をあたためていました。指出さんは取材相手と出会っても、すぐに雑誌で紹介するということはしない、時を重ねて関係を深めて、今だと思ったときに取材を申し込むという、情報競争から一歩離れた視点には、同じメディア人として驚きました。

 

醤油醸造元のページの最後を締めくくる家族写真についても、指出さんなりの思いがあります。

 

「この家族写真は時代を映す写真として、今後とても貴重になる可能性があるのです」と話す指出さん。家族という単位で商売(活動)をしていくこと、それがこれからの時代をつくるうえで、とても重要なキーワードになってくるという読みがあるのです。そうして家族の足跡をメディアに残していく行動自体がこれからの時代の社会性で、かつ地域貢献なのだろうと、指出さんの地域社会、取材対象に対する愛情深いまなざしと、ローカルの生活文化を記録していくメディアの役割を感じました。

 

リードを書いてみるワークをする予定が、話が弾んで時間切れ。リードとは、その後に来る本文のストーリーに興味を持ってもらうためメッセージ性を持たせて書く短めの文章のこと。宿題として指出さんに提出し後日コメントいただくことになった

 

講座中、指出さんが繰り返していたのは、「人に伝えるためには、平たくて明るい文章で」ということ。井上ひさしさんの著作『ブンとフン』からそれを学んだそうです。ひらがなを多く、漢字やカタカナ言葉は控えめにしたほうが読みやすい。取材者は取材対象に詳しくなればなるほど、専門的な言葉を覚えて、それを使うようになってしまいがちですが、読者にとっては読みにくい、読まれない文章になっていっては本末顛倒です。「今の時代を前向きにとらえる人を増やすことがメディアの役割。そのためにも伝わる文章を書くことが大切です」と指出さん。講座では、160字でリードを書くという課題も出されました。読みたくなる文章とはどんなものなのか。文章と長年向き合ってきた指出さんの「わかりやすく伝えたい」「伝わるように伝える」真摯な努力。ストイックに、かつ意識して仕掛けながら日本語と向き合う姿勢が伝わってきました。

 

さらに、SNSなどを利用して、未完成の情報を出し、さまざまな人に関わってもらい補完してもらいながら、雑誌作りにかかわる余地をつくるという手法も、「関係性をつくっていくメディア」としてのすぐれたアイデアだと思いました。

 

「取材依頼も地味なフォーマットをつかって自分でやります」という指出編集長。取材依頼をするときには雑誌の名前や編集長という肩書きに頼らずに、一個人として申し込むのが流儀だという

 

地域に軸足を置いて立つ私たちは、自分の暮らす地元を定点観測することができます。地域で起こる小さな変化も見逃さず、誰も取材したことのないとっておきの情報をつかむことだってできるのです。社会課題を重苦しくなく、おもしろく、ファッショナブルに伝えていくことだってできるかもしれません。

 

そしてローカルメディアの醍醐味は、地域でのリアルな関係をつむぐメディアであること。「社会をよくしたい」「まちをよくしたい」と思う人たちに向けてあえて「内向き」につくり、楽しそうにわいわいやっているところに人が集まる太陽作戦で、いろいろな人と手をたずさえながら地域とともに育っていくことができると実感しています。それこそが、ローカルで情報発信をしようとしている私たちの大切な役割なのでしょう。「地域に暮らす中で編集者的な感性を持つことが大事です」と指出さんにいわれた通り、私もこれから、地域で丁寧に、丹念に活動していきたいとあらためて思いました。

 

「地域をつむぐローカルメディア講座」の最終回は、12月14日(水)。関内イノベーションイニシアティブ代表の治田友香さんによる「ローカルメディアの事業計画」について。個人で自己完結できるブログとは違い、ローカルメディアは地域と様々な関係をつくり事業として展開していきます。運営に避けて通れない「お金」のこと、きちんと考えてみませんか。

 

皆さんのご参加をお待ちしています。単発の受講も歓迎いたします。

Information

エントリーはこちらから。ご参加をお待ちしています。

http://massmass.jp/project/local_media02/

<主催のマスマス関内・治田友香さんと、北原まどかの対談はこちら>

http://massmass.jp/project/localmedia_talk/

単発受講、会期途中からの申し込みも可能です。

<今後のスケジュール>
第5回 1130() 著作権と個人情報保護、知っておきたい法律の基礎知識
第6回 1214() ローカルメディアの事業計画

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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