交差点を塗ってまちづくり?!Field Trip in PDXレポート(6)
2016年6月に参加した「ポートランド・フィールド・トリップ」。そのメインイベントのひとつが、市民活動が盛んなことで知られるポートランドでも有名な活動「交差点ペインティング」でした。私たちが参加した交差点ペインティングの中心人物は子育て中の母親でした。子育てをしながらまちで暮らすこと、社会活動に関わることへのヒントを探りました。

<交差点であつまろう>

白色で描かれた下書きに指定された色を載せていく。子どもも大人も参加していた

きょうは交差点ペインティング。交差点を塗るってどんな体験なんだろう? 地元の人にもいろいろ聞いてみたいけど、英語でうまく話せるかしら? ワクワクした気持ちを抱えて、晴天の下、路線バスで会場近くに降り立った私たち。オグデン通りってどこ? 地図を見ながら閑静な住宅街を進んだ先に、ありました! 今回の会場の交差点です。地域の大人や子どもたち30人くらいが集まって道路に絵を描いています。すでに白色で枠組みの下書きが終わり、カラフルなペンキの準備をしているところでした。ここで交通を封鎖し、1日をかけて交差点にカラフルな絵を描き上げるのです。

交差点のそばには音楽が楽しめるブースやスナックなどの持ち寄り食品を置くポットラックコーナーなども設置されて、イベントへの出入りは自由。みんなが作業をしているわけではなく、音楽に合わせ路上で踊っている人、話をしている人などさまざまで、ゆるゆると行われていました。子どもたちは道路にチョークでお絵描きをしたり、スケボーを教えてもらったり、ときどきペイントに参加したりして過ごしました。

日本からのアトラクションとして、一緒に旅した佐藤ユミさんと内堀敬介さんが、ギターとちんどん太鼓の演奏で盛り上げた

201663日から12日にかけて、ポートランドの各地でおこなわれた、シティリペアの主催イベントVBCVillage Building Convergence)。市民の手で公共空間に交流のしかけを作るワークショップやミーティングなどが様々な場所でおこなわれていました。私たちが参加したオグデン通りの交差点ペインティングも、VBCの会場の一つとして12日に開催されました。

ビニールプールに水風船を浮かべたヨーヨー釣りコーナーは子どもに人気。子どもも自然に一緒にいられるよう工夫されていた

交差点の絵のデザインは、住民の1人であり、交差点の角に住むデザイナーのジンジャーさんが手がけました。テーマは「ライフオブツリー(生命の木)」。一つの幹からさまざまな種類の花や葉が出ていて、いろいろな生物がのぞいています。地域住民の多様性とアーバンガーデニングの文化を尊重する気持ちをデザインに込めたそうです。

一つの幹から花や葉、生物が。外来種であるアイビー(ツタ)はこの地域が他地域から移り住んだ人が多いことを、また空気汚染を浄化するとされるひまわり、ポートランド生活に欠かせないハチのための蜂の巣など、描かれたものすべてに意味があるという。日本から私たちが参加するということが事前に伝えられていたため、感謝の気持ちとしてジャパニーズメイプル(楓)も加えられていた

この交差点ペインティングの呼びかけ人は、交差点の近くに住むキャロリンさん。5歳の男の子の母親でコピーライターとしてフリーランスで働いています。活動の動機は、「近所のことを知りたかったから」「地域の人と仲良くなるために一緒に何かをしたかったから」。地域交流のきっかけのために交差点ペインティングを自分のまちでやってみたらどうかと思ったのがきっかけだったそうです。

デザイナーのジンジャーさんなど近所の友だちに相談すると、45人から賛同の声が上がり、まずは仲間と一緒に、地域の一軒一軒をノックしてまわり、取り組みについて伝えたのだそうです。コツコツとまちの90%以上の賛成を集め、わが町で交差点ペインティングの開催を決めたのがイベント開催の10カ月前。週に12時間のミーティングを自宅で開き、交通局など行政との折衝を繰り返して、長い時間をかけて準備をしました。

ユリさんと話すキャロリンさん(左)。地元コミュニティが希薄なことが、このイベントのきっかけになった。イベント開催の相談をしに家々を一軒一軒訪ねる中で、「これがコミュニティの最初の一歩だ」と感じたそう。

こどもをだっこしながらペインティングの指示を出すデザイナーのジンジャーさん。この交差点の一角に住居を構える住民。絵柄の範囲は、運転などの妨げにならないよう、交通局と何度も打ち合わせを重ね、厳しい計測をして決められた。

<「空間」を「場所」に変える>

交差点ペインティングは、1996年頃、マーク・レイクマンという社会活動家がはじめた試みです。自分の地域をよくしたい、地域の人と交流できる場所をつくりたいと、地元の交差点をペイントしたり、ベンチを設けてくつろげる場所をつくったりと、いろんな企画をしかけました。

当初は、交差点でのそうした活動は行政からは当然認められませんでした。しかし、レイクマンさんがその意義と行為の正当性を訴えたところ、2000年、「一定の基準をみたせば地域づくりのためにやってよい」と認められ、ルールづくりを経てオープンなイベントとして定着しました。交差点という「空間」をペイントすることによって、地域の人の目を集め「交流の場」にする「プレイスメイキング」として、いまは「City Repair(シティリペア)」というNPO法人が実施のためのルールや運営方法をまとめて取り仕切っています。

3歳(当時)のわたしの息子もペインティングに参加。普段遊べない道路で遊べることがうれしくて、途中からはペインティングよりスケボーを教わることに夢中になっていった

ペインティングの実施者になるには、ネイバーフッド(町内会のような組織)住民の90%以上、交差点の四隅の住人の100%の同意を得ること、交差点の近くに2つ以上地域交流のきっかけになるものを設置すること、参加費として650ドルを支払うことなどいくつか条件があります。実施者として認められると、NPOからノウハウの提供や資金調達のサポートなどを得られます。

実施条件になっている「地域交流のきっかけになるもの」というのもユニークです。例えば、コミュニティライブラリーやエディブルガーデン(地域住民で世話をする庭園。食べられるものを栽培する)、砂やわらなど自然素材で作るコブベンチ、地域住民がお湯を常に用意していつでもお茶が飲めるティースタンドなどを交差点の近くに設置するのです。こうした「みんなで使える」「みんなが集まれる」仕掛けをまちにかならず作ることで、交差点を塗るのが一過性のイベントではなく、継続的な地域交流を生むプロジェクトになるのです。

実施地域では、住民が主体となって、資金集めや参加への呼びかけ、定期的なミーティングを行うなど、開催に向けて準備を進めていくことになります。キャロリンさんの地域では、開催が決まると、キャロリンさんの自宅に毎週木曜日2時間と時間を決めてプロジェクトのメンバーが集まるようになり、ほかの地域住民も自発的に参加し、それぞれのスキルを生かし「広報」「資金調達」「資材準備」「行政との連絡」などの役割を積極的に担っていったそうです。

幹の部分を塗るまどか編集長。この日は雨の多いポートランドではめずらしくスカッと晴れたペインティング日和になった

私たち日本人の参加を歓迎して絵柄に加えられたジャパニーズメイプル。絵柄に込められた気持ちが嬉しい

近所に住むリアさんは、「合意を得るために近隣一軒一軒をノックして歩くことで、たくさんのネイバーに会える、知り合いが増えて、信頼関係を結ぶことができる。まさに信頼形成(Trust Building)をキャロリンはやったの」と、彼女の努力を評価した

今回の旅でコーディネーター役を務めてくれたユリ・バクスターニールさんが事前に申し入れてくれていたこともあり、地域の皆さんは日本人である私たちを快く受け入れてくれ、この地域のイベントに参加することが出来ました。


子どもたちは、地元の子どもたちと一緒におもちゃで遊んだり、来ていたプロスケーターにスケボーを教えてもらったり。私たちもペインティングに参加しつつ、子どもと一緒に遊んだり、地域の皆さんからの差し入れの食べ物を食べたり、飲み物をもらったり、トイレをかりるために家に入れてもらったりしながら、その日1日を交差点で過ごしました。

参加住民は入れ替わりながら200人くらいが来場したとのこと。子どもを連れてきていたり、車いすの方がいたり、みな気負うことなく出来ることをやっていた。

<ママ・アクティビストの一歩>

 私、船本はこの旅で一つの問いを持っていました。これまでに日本でさまざまな活動に参加する中で、子どもがいながら社会活動をすることにハードルが高いと感じていました。社会参加意識が高いとされるポートランドではどうなのでしょうか?

この交差点ペインティングの主催者のキャロリンさんが小さな子どもを育てるワーキングマザーだったことに少なからず衝撃を受け、子育てをしながらなぜ地域活動に踏み出したのか、お話を聞いてみることにしました。

主催者で5歳の子どものいるキャロリン。ペンキを準備したり作業を説明したりと、活発で誠実な印象の彼女だったが、この活動が子育てに及ぼす影響を聞くと急に涙をこぼした

「この活動の動機は、彼です。子どもがすべてのきっかけでした」とキャロリンさん。「私はいままではインドア派で、家の中にいるのが大好きなタイプだったのですよ。でも、子どものために外に出ようと思ったのです。だから私を変えたのは、子どもです。子どもだけでなく、家族に全員にとって地域に関わることが大切なのだと思ったのです」

ああ、わかります。私にも子育てをするなかで地域とつながらなければと強く思う気持ちがあります。でも子育てもしながらここまでのイベントを開催につなげるのには、時間的な余裕も必要ですし、よっぽどの踏ん張りがあったのではないでしょうか。

「ポートランドのパパもママもとても忙しいです。仕事もしなくてはならないし、家事も育児もあるので、その残った時間で地域活動をやるのは大変でした。地域に関わり、責任のある役割を持つということは、たまに自分を苦しめるし、自分の時間も取られて大変ですが、その先に豊かな生活があると思っています。それだけの価値がありますよ。大変だけどやってよかったです」

「このペンキ使いますか?」「ここは何色だろう?」「お子さんは何歳?」「スナックありますよ、これおいしかった」「ここに住んで何年なんですか?」など、作業をしながらだと自然と会話が生まれる。

「これだけやっても経済的な見返りはゼロ。むしろ持ち出しているくらい。つながりが得られることが利益ですよね」と笑ったキャロリンさん。キャロリンさんのように子育てをする母親でありながら地域で活動をする人のことを、ポートランドでは「ママアクティビスト」と呼ぶそうです。

ポートランドではこうして社会のために意欲的に活動する母親「ママアクティビスト」は多いのか? と、問うと、ポートランドでも、基本的に子育て世代は子育てにも仕事にも忙しいので、社会活動するママは少数派なのだそう。

「でも、だからこそ、母親たちは声を上げていかなくてはならないんですよ。少数派だから弱者とも言えるかもしれない。しかしそれだけに声を上げたときには強力な力となります。ママアクティビストは強いんですよ。今回のプロジェクトでは、ジンジャーもミサもみんな母親。母親同士が一緒にやったのがよかったのかもしれませんね」。

完成したペインティングでハイチーズ! 日陰が濃くなる夕方5時ごろに、予想より早く仕上がった。

 その日の夕方、オグデン通りの交差点ペインティングは完成しました。住民たちと一般参加者たちが一つ一つの絵柄に色を載せて完成させた「生命の木」。夜には完成を祝うパーティをしようねといって地域の住民たちはそれぞれ家に引き上げ、パーティの準備に取りかかりました。ユリさんとキャロリンさんは交差点の中心でハグ。今までの苦労をねぎらいあい、静かに涙を流し、抱き合いながら語らっていました。

完成した交差点の片隅で抱き合うユリとキャロリン。

私は、思わずもらい泣きをしながらも、じんわりとショックを感じていました。

子育てをしながらまちに関わること。日本にいるとそれがとても難しく感じ、くじけそうで、そのヒントがポートランドからもらえるのではないかと当初は期待していたのです。多様性のあるポートランドでは、子どもも子連れも市民として認められるのであれば、ポートランドはユートピアなのではないかと。

でも、それは違いました。市民活動が盛んなポートランドのムーブメントは、昔も今も、社会活動家たちの苦悩と勇気ある一歩から始まっているのです。そしてその社会活動家というのは、必ずしも、環境に恵まれたセレブでも知識や経験が豊かな指導者でもなく、キャロリンさんやユリさんのような私たちと同じ普通の市民なのです。子育てに悩み、家事や仕事に追われ時間のない中で、勇気ある一歩を踏み出した市民たちが「市民活動が盛んなポートランド」を作っていたのでした。

日本も同じ。違いは隣人のための一歩を自らが踏み出すかどうかです。私は私の隣人のために何が出来るだろう。そのことを強く考えさせられる経験でした。

完成した交差点で、息子と一緒にハイ、チーズ!

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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