「つくりたい!」をまるっと引き受ける「アトリエ・アルケミスト」
町田市の玉川学園に「アトリエ・アルケミスト」という面白い絵画造形教室があると友人から聞きました。さっそくHPを覗くと「めざすは日本一おもしろいアート塾。愛とのんきと心意気を身上に今日もおっとり邁進中です」とあります。気になります……。百聞は一見に如かず!と、まるで教室そのものが作品のようなアトリエに伺いました。(写真:山田あさか)

とある土曜日の午後、アトリエ・アルケミストの子どもの教室が始まる時間。玉川学園の住宅街の中、一見普通のアパートかな?と見受けられる建物が眼下に。手前の階段でうろうろしているとアルケミスト主宰の佐藤由樹子先生が「こんにちは」と笑顔で階段を登って来てくれました。

この建物は、まるごとアルケミストのアトリエでした。

アトリエの玄関。これから教室が始まる。「今日は味噌づくりのワークショップに来る方たちとスモークもやっちゃおうかなと……」と、楽しげに忙しそうな由樹子先生

最初に見せていただいた1階のアトリエ、縁側の向こうの庭の木々の間を通って光が柔らかくさしこむ部屋に、年季の入った大きなテーブルがどんとありました。部屋の棚には作りかけの作品や画材が整頓されてならび、椿や白梅が小瓶に活けられ、音楽が静かに流れていました。

アトリエを開くにあたり、先生が丸太から切り出し、自作したテーブル。17年の歳月が豊かに染み込む。

次に通してもらった部屋には、アクリル絵の具、水彩絵の具各種、日本画用の岩絵の具、油絵の具、彫刻の道具一式、ハンダ付けなどの工具様々、木槌、手芸用品、布、毛糸、染物の道具一式、ガラス工芸の材料などなど、とにかく「つくる」ために必要な道具が詰まっていました。

アルケミストでは初めて来た人に「なにをやりたいですか?」とまず聞きくそうです。「その人がやりたいことが出来るように、『つくる』という括りで、美術室、木工室、家庭科室、技術室がここにあるという感じです」と由樹子先生は案内してくれました。

1階のアトリエの一間。数年前から、月に何度かここで「小鳥喫茶室」がオープンしている。「制作は必ず身体をつかって進めていくものだから、身体に取り入れる『食』の大切さを思うようになりました」と由樹子先生

さらに奥の部屋へ行くと、暖かで静かな一室で生徒が黙々とデッサンをしています。一人は中学3年生で、小学校4年生からアトリエに通い、美術系の高校へ進学を志してデッサンの練習をしているそうです。「その人が自分の好きなことを手がかりに様々な制作をして、色んな発見をしてもらえたら嬉しい」という気持ちで由樹子先生は生徒たちを見ています。

それぞれが安心して制作に集中できる環境を大切にしている

次は外階段を登り2階へ。そこには小さなキッチンがついていて白壁に囲まれた、これまたほっこりしてしまう部屋がありました。ワークショップや、小鳥喫茶室が開く料理教室などで使われるそうです。この日は「味噌づくり」のワークショップが開かれていました。

恒例の味噌づくりのワークショップ。「身の回りのあるもは、案外なんでも自分で作れるという体感をシェアしたい」という企画

築年数の経った、かつてアパートだったこの建物のどのお部屋も、実に整っていて清潔感があります。

手づくりの作品や季節の草花が其処此処にさりげなく飾られている

アルケミスト全体に流れる、この穏やかな空気の秘訣は由樹子先生のこんな話からわかってきました。

「ここの教室のスタッフは、来て落ち着く、居て気持ちが良い、制作を安心してできる環境整備をすることや、子どもたちと普通に話ができること、それを教えることと同じように、むしろそれ以上に価値を感じて取り組んでくれる人たちです」

案内してもらっているうちに、1階のアトリエから賑やかな声が。この日の教室には小学校1年生から制服姿の高校生の姿、平日はスタッフをしているという方も見えました。アルケミストでは平日の日中が大人クラス、夕方がちびっ子クラスといったゆるやかな区分はあるものの、「つくることが好き」というつながりで子どもから大人までが同じ空間を共有します。

教室開始の午後1時になると、先ほどまで賑やかだった部屋がいつの間にか静まり返っています。子どもたちはクロッキー(短時間で目の前のものをさっと掴んで描く)をしていました。

子どもたちと今日のポーズを考え、クロッキーのモデルをしているのは深谷千寿先生。アトリエ開室時から由樹子先生と教室を作ってきた。「大人も子どももアトリエに来た人たちをリラックスさせてしまう魔法が使える人」と由樹子先生

この教室では基本的には、自分がやりたいことをテーマにそれぞれの作品を作りますが、最初の8分間だけは全員同じテーマでクロッキーをするそうです。クロッキーは「目で見て、手で出す」というものづくりの土台になります。このクロッキーは、先生が見て「こうしたら?」とアドバイスをするためのものではなく、積み重ねの中で本人が力を練っていくためのもの。その過程で「もっとこんな風に描いてみるにはどうすればよいのかな」など自分の課題に自然に気づきます。そして聞きに来たタイミングで先生はアドバイスをするそうです。

子どもたちのまっすぐな目としっかりとしたペンを持つ手に見とれてしまった8分間

作品づくりにおいてもアルケミストの先生たちは「待つ」ことを大切にしています。「テクニックとして聞かれれば答えますが、そうでない場合はまずやってもらいます。自分で色々とひねくり回してもらう。1年生で数カ月にわたって絵の具を混ぜて終わってしまう子も中にはいます。でも、何もできてない訳ではなく、ちゃんと蓄積している。そこで面白い表現を発見できたりしますし、技術的なことも、教えられたのと自分で発見したのでは嬉しさが違います。スタンダードなテクニックだったとしても、自分で発見したものは『自分だけの描き方』です。『よくこれ考えたねえ!自分で見つけたの?』ってなる。その繰り返しを散々やった上で、『これってどうやるの?』と聞かれたら丁寧に説明します。そうすると身につく。『体験』が『経験』になる瞬間です」(由樹子先生)

日本画を描いているの中学生1年生。このあと岩絵の具を溶く液がなくなり三千本膠(にかわ)から液をつくる方法を教わっていた。30分膠を煮詰めるという根気のいる作業もじっくりとやる姿が印象的だった

プラ版に編み物、それぞれ自分の居心地の良い場所で制作する子どもたち

子どもたちの作品。素材もテーマも十人十色 (写真:アルケミスト)

「ここでは『作品』が自己紹介代わりになります。だから年数を重ねるほどにみんなが仲良くなっていきます。プライベートなことを知っているから仲が良いというより、互いの性分を分かっている仲の良さといいますか……」と先生。

さて、2時間のレッスン時間はあっという間に過ぎ、いつの間にか子どもたちは手に箒を持っていました。小さな子どもたちも要領よく、くるくるとカーテンを丸めてたくし上げ、机や椅子をたたみ、すっきりとした床をまずは掃き、それから丁寧に雑巾がけをしていました。

アトリエのキッチンで雑巾の絞り方を伝授している由樹子先生。手の力はものづくりの基礎!

とても清々しい光景でした。それは次にアトリエを使う人たちへの自然な心遣いから子どもたちが身につけているものに見えました。

美術教室が終わり、裏庭で大人が火をおこした七輪を見つけた子どもたち。「軍手、ちりとり、うちわ、どれが一番あおげるか?」実験中

アルケミスト(錬金術師)、「たいせつな誰かや何か、大好きなことと出会うことで人は輝く金に変わる」という意味が込められた名前のアトリエ。その名の通り、たくさんの出会いがそっと散りばめられていて、その中で世界で一つの作品がうまれていきます。その場所は、陽だまりのように暖かくありながら、ものをつくることへ忠実な時が流れる格別な場所でした。アトリエ、ワークショップや小鳥喫茶室、きっと訪れた人それぞれにその人ならではの出会いがありそうです。

玄関で売られている小鳥喫茶室のお菓子。アトリエに来た子どもたちも安心して食べられる自然な素材でできている

取材を終えて帰るとき、裏庭で七輪を囲んでいた人たちで一枚撮らせてもらった。子どもから大人まで「ものづくり」で集まる縁

Information

絵画造形教室 アトリエ・アルケミスト

住所:東京都町田市玉川学園8-3-18

電話:042-723-7768

HP: http://atelier-alchemist.net/index.html

FB: https://www.facebook.com/アトリエアルケミスト-1400567970195203/

ワークショップ

225日土曜日 「音を絵にするワークショップ」(感覚のエクササイズ)

318日土曜日 「音を絵にするワークショップ」(感覚のエクササイズ)

325日土曜日 韓美華先生のミツロウ画ワークショップ

422日土曜日 韓美華先生のミツロウ画ワークショップ

7月 絞り染ワークショップ・油絵ワークショップ など開催予定

参加費、対象年齢などHPを確認してください。

小鳥喫茶室

https://cotori-kissa.jimdo.com

https://www.facebook.com/小鳥喫茶室-1481331552084768/

南部 聡子
この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。退職後、地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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