こどもがつくるリアルなまち! ミニヨコハマシティ
ミニヨコハマシティは、19歳以下のこどもでつくるまち。市役所、税務署、JOBセンターがあって、こどもが自分で仕事を探して働いて、お金を稼いで地域通貨「ミニヨン」でお買い物。大人は口出し禁止のこどもだけのまちに潜入してきました!

2017320日、横浜市営地下鉄線「中川」駅前一帯が、おおぜいのこどもたちで賑わっていました。メイン会場の中川西地区センターでは、こどもの大行列が! ミニヨコハマシティ(通称:ミニヨコ)の市民になれるのは、19歳以下のこどもです。受付(市役所)で住民登録をして、ミニヨンというミニヨコの通貨を受け取ります。ミニヨコのまちに入る前に「税務署」で税金を支払い、ミニヨコの学校で説明を受けてから「JOBセンター」に通い、自分の仕事を探して、お金を稼ぎます。30分のアルバイトで50ミニヨンを得られるので、働いたらミニヨコ銀行でミニヨンを発行してもらいます。

常に賑わっているJOBセンターでは、こどもたちが自分の「やりたい職業」を探す列で大にぎわい。大人は立ち入り禁止、口出し禁止

ミニヨコがスタートしたのは2007年。都筑区中川にある住宅展示場「ハウスクエア横浜」を拠点に、19歳以下のこどもたちが主体となって「ミニヨコのまち」をつくります。運営するNPO法人ミニシティ・プラスの大人たちがサポートをするものの、基本的にこどもたちの「こんなまちをつくりたい!」という気持ちを尊重して、まちづくりが進んでいきます。

毎年、30人から100人くらいのこどもたちが「運営市民」として、今年はどんなお店をつくるのか、通貨の設定や役所のルールなどを決めるための会議を重ね、3月の当日を迎えます。

今年は事前公募で集まった54名の「運営市民」が、1月から当日までの間に10回の準備をおこなってきました。そして、ミニヨコ史上初めて、拠点の外に飛び出して、リアルな「中川のまち」の中でこどもたちのまちが生まれました。

JOBセンターの求人案内には、市役所や警察や学校のバイト、放送局のスタッフからダンサーまで、多種多様な業種が張り出されていた

 

私がメイン会場に到着した時には、押すな押すなの大騒ぎ。なんと1日で約1000人が参加したそうです(そのうち400名が保護者や乳幼児)。JOBセンターは長蛇の列で、「市民」たちはそれぞれ自分が好きな職業を探します。我が家の小学2年生は、カップヌードル屋さんやカフェでバイトをし、自分で稼いだ通貨「ミニヨン」でわたあめやポップコーンを買っていました。中川駅前の遊歩道を忙しそうに往復して、声をかけると「今から仕事を探しに行くんだから!」と、一蹴されてしまいました。

青空アクセサリーのショップ。ダンボールでできたお店の看板は通称「ミニヨコキット」と呼ばれる。2012年に津波被害のあった宮城県雄勝町の商店街で「こどものまち」を出張開催した時につくったもので、現在まで現役で活躍中

 

今年はカップヌードルや生協「おうちコープ」が協賛出店していたので、本物の企業との協働体験も! 中川商店街の中にある実店舗「ほっとcaféなかがわ」の中では、ココアやホットミルクの販売をしている市民たちがいました。私も大人用の通貨「シニヨン」でお買い物して、カフェでほっと一息。小学生が一生懸命働いている姿を見て、ちびっこたちは「いつか自分も」と憧れを抱いていたようです。

横浜はナポリタン発祥の地ということもあり、お店の看板メニューに。中川商店街のあちこちに「こどものお店」が出現していた

 

また、メイン会場では「ミニヨコ市長選」の準備が進められていました。市長選に立候補したのは5名。「私が市長になったら、女子が楽しめるファッションショーを開催します」「私はゴミのないまちをつくります」と、マニフェストを掲げたポスターを掲示し、演説をおこないます。選挙の投票用紙や投票箱は、実際の選挙で使われているもの。ところんリアリティを追求するのがミニヨコ流です。こうして市長に選ばれたこどもが、来年のミニヨコの運営を中心的に担っていくことになるのです。

都筑区のまちづくり団体が運営する「ほっとcaféなかがわ」では、実店舗を使ってこどもが店を切り盛りしていた。「こどもと一緒にお店をやることで、まちおこしにつながる」と、NPO法人ぐるっと緑道のスタッフ

 

NPO法人ミニシティ・プラス理事長の三輪律江さんは、ミニヨコでの10年を振り返り、三つの効果があると話しました。

「ミニヨコでの経験は、日常に戻った時に、リアルなまちづくりに直結していきます。例えばミニヨコでごみの出ないまちをつくりたいと活動をしていくと、分別ルールをわかりやすくするとか、サインを統一する必要性に気づきます。

二つ目に、ミニヨコはこどものまちだから、失敗してもいいんです。たとえお店が破たんしたとしても、失敗自体を楽しむことができます。失敗をおそれずにチャレンジすることが、ミニヨコでならできます。

三つ目は、こどもがまちづくりの現場に入って、大人の常識を変えていく可能性があります。こどもの社会参画がまちづくりに直結していきます。今年初めて実際のまちに出てミニヨコを展開しましたが、実際にまちづくりに携わる大人にとって、こどもたちとの接点を持つことで、さまざまな可能性が広がっていくのではないかと思います」

市長選のためのパレード。真ん中の帽子をかぶっているのがミニシティ・プラスの事務局長の岩室晶子さん。都筑区のまちづくりNPO「I LOVEつづき」の理事長でもある。ちなみに市長選ではピンクのキャップをかぶった溝口万智さんが当選した

ミニヨコは、ドイツのミュンヘン市で30年以上続く「ミニ・ミュンヘン」に着想を得ています。本場・ミュンヘンでは7歳から15歳までのこどもが、夏休みの3週間を使って「こどものまち」を運営します。日本でも千葉県の佐倉市や名古屋市、そして横浜市など、規模の大小はあれども全国60カ所に「こどものまち」の取り組みが広がり、全国サミットなどもおこなわれています。

今、こども向けのアントレプレナー教育(起業精神を養う教育)が盛んで、職業体験ができるテーマパークは大人気ですし、キッズフリマのような場があちこちで生まれています。そのうえで、三輪さんはミニヨコのおもしろさを「こどもたちがすべて自分で仕組みまでつくって決められることと、大人の働く現場から学ぶことができることではないか」と話します。

例えば、ミニヨコでテレビ局を運営したい場合は、運営側の大人スタッフがコーディネートして本物のテレビ局にこどもたちを連れて行って現場を学ぶ機会を与え、そこからこどもなりの「テレビ局」をつくっていく、というわけです。

NPO法人ミニシティ・プラス理事長の三輪律江さん。横浜市立大学都市社会文化研究「市民まちづくり論」担当の准教授。「学校でもない、放課後の学童や部活動でも塾でもない、そんな居場所の一つにミニヨコがなれば」と話す

ミニヨコは320日で終わりではありません。ミニヨコから生まれたこどもたちのまちづくりは、「特命子ども地域アクターProject(プロジェクト)」として、地域のまちづくり団体の事業にこどもの視点を入れていく活動として続いていきます。現在、ミニシティ・プラスでは子どもの受け入れをおこなうまちづくり団体と、小中高生スタッフの双方を募集しています。

リアルなまちに出た「ミニヨコハマシティ」が見せてくれた「新しい協働のあり方」。創造性にあふれ、ポジティブで明るい本気のまちづくりを見せてくれたこどもたちの今後を、長い目で見守っていきたいと感じた1日でした。

森ノオトのご近所NPO・Waveよこはまがリユース食器を提供している。小学生になった娘が「市民」として初参加した今年のミニヨコは、親としてもなんともうれしく楽しいものだった

Information

NPO法人ミニシティ・プラス

http://minicity-plus.jp

特命子ども地域アクタープロジェクト

http://actor.minicity-plus.jp

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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