桜台ビレジにみる、「健康」な建築ってなんだろう?
2016年9月25日、エコDIY住まいラボ5回目の講座で行った桜台ビレジを歩く建築ツアー。その体験をもとに、職住とも桜台ビレジを拠点にするショセット建築設計室、山川紋さんと私、梅原で改めて住まいについてあれこれ話をしました。

梅原: 桜台ビレジは19694月に建てられて、今年の4月で築48年をむかえるビンテージマンションです。この古さやもともとのデザインに惹かれ、それを価値として愛し、理解する人々によって、リノベーションして住みつぐ文化が、紡がれていますね。

山川: 桜台ビレジには90歳代の方から生まれたばかりの赤ちゃんまで多くの世代の住民が住んでいて、共通することは、みんなこのマンションを愛している、という点かもしれません。ずっと住み続けている方と話をしていても、ここはなかなか離れられない、とビレジの良さを語ってくださいます。もちろん、エレベータもなく階段だけという物理的に住むのが難しくなり転居される高齢者の方もいらっしゃいますが。

 私は夫と7年前にここに転居しましたが、その後桜台ビレジだけで4軒のフルリノベーションの依頼を受け、昨年は自宅も念願の一部改装を行いました。

桜台ビレジはいわゆる一般のマンションや団地ののっぺりした四角い箱にはない、斜めのラインが室内にあるのが面白い。四角い間取りに慣れている頭が「?!」と、刺激を受けて鍛えられそう

 

中庭を挟む4棟の建物で一つの有機的なコミュニティとなるようデザインされている。かなり傾斜のある場所に建てられており、1階の店舗棟と反対側の棟の1階とでは3階分くらいの違いがある

 

(※図面イラストは、桜台ビレジを建築した故・内井昭蔵氏の設計事務所・内井建築設計事務所の許可を得て作成しております)

 

 

山川:もともと、ここは西側の急傾斜地、というマンションには不向きな土地でした。通常なら、盛土をし、フラットな土地にしてから建てられます。現に、同じ通りに面している大規模なマンションでは、そのようなタイプもいくつか見受けられます。しかし、内井昭蔵氏はこの地形に沿った形を考えて設計をしています。

梅原: 設計を担当した建築家・内井昭蔵(1933-2002)は、こんな言葉を残しています。

「何でもない、当たり前の、ふつうの建築、中庸を得た非常に常識的な建築を求めてきた。……(中略)……それはひとことで言うと「健康」という言葉がびったりするんじゃないかと思った」

「明るくて、単純で、飾り気もなく、誰が見てもこれはいい、気持ちがいいというような建築を目指したいなと思っている」

「健康的なるものというもののベースは地域的、土地に根ざしたところにある」

(『日本の建築家1/内井昭蔵 健康なる空間」丸善出版/1985/村上陽一郎編より抜粋』

1970年代に内井昭蔵氏がこうした発言を残していることは、勇気があるというか、なにか非常に安定し成熟した精神が土台にあったことを感じさせますよね。これに関しては、彼の育った環境を知ると納得がいくのですが、おじいさんもお父さんも建築家なんですよね。特に、ロシア聖教の司祭でもあったおじいさんの影響で、幼い頃から祈りの場である教会という空間を身近なものとして育ったことが大きいように思います。19701980年代に彼は「住宅、学校、公共施設等、いちばん感受性の豊かな時代に過ごす建築に精神が失落している」、また経済性を優先して「ものとシステム化したパーツの集合体と化している」と憂いています。

山川: 「教会」の建築は祈りの空間で、そこは安らぎを得る場でもあるかと思うのですが、「住宅」も同じ要素が必要だと感じています。仕事から戻って自宅に帰るとき、そこに導かれるような感覚を味わいます。ショセット建築設計室は桜台ビレジの店舗側に事務所を構えていて、中庭の通路(と呼ぶには要素的すぎるので、小道のような感覚ですが)を歩いて、自宅のある棟へ向かうとき、心が軽やかになります。わざわざ、遠回りをして中央の大階段を上って帰ることもあり、出迎えてくれているような暖かい気持ちになるのです。これが、建物に精神が宿る、ということなのかと、ここに住んでから気づきました。

 近代の多くの建物(特に住宅)は、その場所でなくても成立する建物がほとんどです。実際、多くの方がマンション探しをすると、同じような間取り、同じようなデザインばかりの物件情報が出てくるのではないでしょうか。

 

 

「山登りと、言うほどではないかもしれませんが、この小道を歩いているとちょっとしたハイキングをしているような感覚です。写真の湾曲した通路は私の好きな景色です」(山川さん)

 

梅原: 桜台ビレジを歩いてみて思いましたが、中庭の小道は自然をお手本に微妙なでこぼこ感、細さを意識してつくられていますよね。ベビーカーを押したり大荷物を運ぶには不便かもしれないけれど、それとは別の優しさがあるように感じました。コンクリート舗装のまっすぐな道は、照り返しやその硬さが体への負担を想像以上にあたえているのかもしれないですね。

 ところで、桜台ビレジは断熱性能、温熱環境という視点から見ると、優れているわけではありませんよね。

山川: もちろん、48年前に建てられた時のままですので、現代の高気密高断熱なマンションと比べると、エコとは言えないかもしれません。

 例えば、窓は、アルミサッシ、シングルガラスで、老朽化により歪みからくる隙間風があること。また窓面が多いため、内窓をつくるとかなりの費用がかかり、さらに印象も変わってしまいます。実際、冬は暖房無しでは寒くて過ごせないですし、夏は窓からの日差しで室内はじりじり焼かれます。

  しかし、竣工当時の間取りでは、半分が畳敷きで寝室にあたる部分には障子があったこと、それに経年劣化前ですので今ほどサッシからの隙間風が無かったであろうことを考えると、今より冬場の寒さは少なかったのかもしれません。夏場も西日のあたるリビング側には多くの家でオーニング(テント地のシェード)を設置しており(我が家は老朽化により撤去されていた)、直射日光を遮ることができれば、東西の窓から風が抜けるため、当時の基準としてはかなり快適に暮らせていたのでは、と思います。

 また、浴室も部屋の中央部分に位置していることから、そこまで冷気がたまることもなく、室内の気温差はあまりないように感じます。

梅原: なるほど、心地よさを感じるために様々な工夫がされていたことがわかりますね。畳や障子は断熱や遮熱効果からみても見直されているし、その頃の桜台ビレジのお部屋も見てみたくなります。

 ところで、4月にリノベーションしてオープンハウスをされていたお部屋は、最上階でかなり暑いということから、壁に断熱工事をしたそうですね。

 

壁の木材の間の、淡い緑色っぽいものが断熱材

 

完成したお部屋。桜台ビレジの魅力は、部屋ごとに見える景色が全く違うこと。ここは最上階ならではの桜を眼下に楽しめるのが魅力

 

山川: 今回は全て密着しながら膨らむ、発砲ウレタンを吹き付けています。部屋の外壁面にあたる壁部分と、最上階のため、天井にも吹き付けています。冬場の北側の壁の結露、夏場の屋根からの熱を少しでも和らげることができたかと思います。

 桜台ビレジは外側に断熱の施されていない鉄筋RC造ですが、つくられた当初は今のように壁はビニルクロス張りではなく、モルタル仕上げに塗装であったため、結露してもカビが発生することはなかったと思われます。

 先日完成したお部屋は、角部屋で、北側の壁は隣の部屋ではなく、全部外壁部分でした。そのため、北側の壁面に設置していたクローゼットの内部にカビが発生してしまう、という状況でした。自然環境を頭に入れれば、そこに密閉空間をつくれば結露してしまうことは容易に考えられるので、今回も、断熱工事は施していますが、北側の壁には扉付きの収納は設けていません。

梅原: なるほど、冷たく湿った空気が溜まってしまう場所を室内につくらない、というのは大事な点ですよね。カビは住まいの健康にも人の健康にも好ましくないですからね。

 さて、肝心のご自宅のリノベーションはどんどん後回しになっているそうですが(笑)、素敵なキッチンが完成しましたね。キッチンを移動するとなると配管工事も伴うため大変な気がするのですが、どんな工事をしたのでしょうか? また、今までと比べてどんな変化を感じていますか?

山川: 我が家には、猫が4匹いまして、もともとあったキッチン部分の日当たりが良すぎて、大好きなスペースみたいなのです。猫は居心地のいい場所をよく知っていて、朝方は東の光が入るキッチン部分、夕方は西日の入るスペースに移動して過ごしています。それで、何度注意しても、コンロの上に乗ってしまうので、もうこれは猫に合わせてキッチンを移動するしかないだろう、ということで。

 元々寝室としていた場所をキッチンに変えました。キッチンを移動する際は、もともとのキッチンの排水溝の位置まで排水管を引っ張ってこなければならず、水を流すには新しい場所から勾配をつけながら管を伸ばして持ってくるため、どうしても床の段差ができてしまいます。さらに、排水管が天井の梁をまたぐ場合は梁下の高さが住む人の身長よりも低くなってしまうこともあり、今回も夫の身長ギリギリです。そんなデメリットもありますが、キッチンを移動したおかげで、我が家の猫たちは、もともとコンロがあった場所に置いたソファでほぼ半日過ごしています。

 また、部屋の中央部にキッチンがきたことにより、今までは廊下を渡って反対側のダイニングスペースまで料理を運ぶ、というかなり大変な動線が短くなりました。

 

日当たりがいいんだもんにゃ~~

 

のどかで昭和なイメージが一新! 壁付のオープンなタイプにするため、家具のように存在するキッチンを目指した

 

梅原: 猫も自然の力をちゃんと知って最大限利用しているんですね。動物と快適に暮らす家というのも語りだしたら終わらなさそうですが、他に、自分たちの快適さのために行うこと、建物の性能を守るとか、熱環境に関する工事などは自宅リノベーションでは行いますか?

山川: 実はマンション全体でそろそろ窓の全面改装がありそうなので、窓の断熱性能は若干ですが上がる予定です。ただ、気密性能も上がってしまうので、今までは結露していた水滴が図らずとも隙間風で乾いていた我が家も、改装後は結露に悩まされるのだろうと予想しています。

 自宅では、昔に立ち戻って障子の効果を実感したいな、と考えています。また、バルコニーには念願のパーゴラを設置したので、ここにツル性の植物を植えて、数年後には緑のオーニングとなることを期待しています。このマンションに住んでいる以上、現代のような完璧な断熱、完璧な気密は難しいので、緩やかな姿勢で自然環境と向き合っていきたいと思っています。

梅原: ありがとうございます。パーゴラの話も気になるし、まだまだ話は尽きませんが、このへんでそろそろ締めないと……

 建築や不動産の世界では、まだまだストック(中古)住宅の価値を上げるという認識が不足している中で、桜台ビレジとショセット建築設計室の関係性はとても素敵だなと注目しています。ここを起点に、個性豊かな住民と、建築家、設備屋、大工、左官などなど、たくさんの職人が行き交うようになるといいですね。

山川: そうなのです。この建物に魅了された方に、自分の生活や好みに合った空間をつくって住んでもらい、建物がいつまでも長く残っていくことを祈っています。そして、桜台のシンボルの一つとして、街の人にも気軽に来てもらい、この環境を感じてもらえたらと思っています。

Information

ショセット建築設計室では、桜台ビレジの物件探しやリノベーション相談には今後も力をいれますよ!とのこと(それ以外のご相談ももちろんOK)。

気になった方はHPをみてみてください。

http://chaussette-archi.com/

また、昨年、山川・梅原とで行った「コドモケンチクカ」のワークショップが

YES(ヨコハマ・エコ・スクール)の環境教育出前授業に採択されました。

小学3年生以上の、少人数クラス、または団体、グループ向けで、お申し込みを受け付けています。
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/kyouiku/demae/29images/03ondan29.pdf

平成29年度の環境教育出前授業の一覧

http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/kyouiku/demae/

梅原 昭子
この記事を書いた人
梅原昭子理事/事務局長/ライター
難しいものをおもしろく、かたいものをやわらかく翻訳し、絵で表現できる編集者。市民電力会社「たまプラーザぶんぶん電力」の社長になってしまうが、エネルギーの世界にも飄々とたゆたう視点で、こんがらがった世界を解きほぐす。アートユニット「WAKUSEI/ワクセイ」として縦横無尽に活動中。
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