ホップまで地産地消!? 地元愛あふれる世田谷発の地ビール
二子玉川界隈でここ最近、よく見かけるようになったふたこビール。
ラベルには「フタコエールを飲んでふたこの街にエールを送ろう」とのコピーが。地ビールは数あれど、地元に対する熱意がここまで伝わって来るのはそうありません。そこに込められた想いが気になります。

私がふたこビールに出会ったのは昨年のことでした。その場にいた二子玉川在住の友人に聞くと「創業者は中学生のお母さんで、ホップから育てているらしい」と言います。そこへもう一人の友人が「マーケットで女性が売っていたからその人が創業者なのかも」と追加情報。お子さんがいる中でビール会社を創業、しかも原料から栽培となると、生半可な気持ちではできないはず、様々な期待と想像が膨らみます。そして、いよいよビールシーズンが到来。これを機に直接お会いしてみるしかないと思い、ふたこ麦麦公社代表の市原尚子(いちはらなおこ)さんにお話をお伺いしました。

 

まず驚いたのは、市原さんのお答えが「最初の目的は会社を作ることではなく、街のプレゼンで企画を発表すること」だったことでした。2014年、二子玉川の街づくり活動を推進する会で「住民が夢を叶えられる街にしよう」という企画をプレゼンする場があり、そこで発表したのがきっかけだったそうです。

 

発表にあたり、後にふたこ麦麦公社副代表になる小林結花(こばやしゆか)さんと相談し、市原さんから出たアイデアは「二子玉川にないものは地ビールとゆるキャラ」。ゆるキャラはすでに多くの自治体にあり、二子玉川で際立つキャラクターを作るのは難しいと感じた一方で、地ビールは地元にビアパブや醸造所があれば、そこへ人が集まり、ビールからはじまるコミュニティができると考えたそうです。そして、プレゼンの前日に偶然開催された地ビール講座で習った内容をプレゼン資料にまとめ、小林さんが発表したのだとか。その後、その発表を聞いた方々から「やってみれば」と背中を押され、当初は企画発表だけのつもりだったふたこビールが、現実のものとしてスタートしました。

ふたこ麦麦公社代表の市原尚子さん。この日は田園調布の「玉川まちフェスタ」に出店。地域のイベントに出店するのは、ふたこビールらしい取り組み

ビールを造ると決めたものの、市原さんと小林さんはビール好きでも、製造に関しては素人も同然。そこで、まずはお二人でビアパブへ通ったそうです。ビアパブの良さはカジュアルで、誰とでも仲良くなれるようなフレンドリーな場なこと。ビールの知識に関しても、お店の方や、偶然お隣に居合わせた方が親切にいろいろ教えてくださったそうです。そして翌年2015年2月5日(ふたこの日)に会社を設立し、5月に委託製造でついにふたこビールが誕生しました。

ふたこビールの4種の定番商品。地域の特徴を生かしたネーミングやラベルが印象的(写真提供:ふたこビール)

ビール造りを始めるための知識も資金もないゼロからのスタートだったふたこビール。そこから現在の形まで作り上げた市原さん。笑顔で話す彼女の華奢なお姿からは、想像できないほどのあふれるパワーに驚き、お話はつきません。そこで、次は原料のホップ栽培について聞きました。

ビールの香りや苦みの元となるホップ。ハーブティーの原料にもなる(写真提供:世田谷ホップ)

ビールを造ると決めた当初から、市原さんは原料からこだわるビールを作りたいと思っていたそうです。ビールの原料はホップと麦。特にホップは、国内では北海道の富良野など寒暖の差が大きい地域での栽培が盛んですが、実は首都圏でも栽培可能だとか。そして何より素人でも育てやすい植物ということが利点です。

 

ふたこビールが展開する世田谷ホッププロジェクトは、「収量を増やすことが目的ではなく、皆で育てることでコミュニティができ、ビールのプロモーション活動につながる」と市原さんは話します。昨年は幸いにも東急電鉄の「みど*リンクアクション」の助成金が得られたので、「皆で集まれる畑をつくろう!」と掲げ、二子玉川にホップの畑を作りました。畑はビール愛好家の方だけでなく、どなたでも、そして小さなお子様連れでも大歓迎だそう。「子どもたちが走り回る中で畑仕事もいいでしょう?」と微笑みます。また同時期に、希望者にホップの苗を配布。各家庭でホップを育ててできた緑のカーテンが、世田谷の風物詩になって欲しいと考えたそうです。

取材日に配布されていたホップの苗。この苗を取りに来た方は、収穫したホップでビールに香りを追加する“追いホップ”を するのが夢だそう

そして秋に収穫した実を持ち寄り、プロジェクトの参加メンバーでビールを仕込みました。それをタンクで熟成させること1ヶ月。完成品はビアパブへ持ち込み、もちろん皆で乾杯。自宅で一人で飲むこともできるビールですが、原料のホップ栽培から醸造、ビアパブでの乾杯に至るまで、多くの人が集まる場作りに一役買っています。これを受けて、今年は福岡でも同様のプロジェクトが立ち上がりました。市原さんが目指したビールからはじまるコミュニティは、他の地域にもっと広がりそうな予感がします。

今年から加わった世田谷区瀬田の畑で栽培されていた麦。ついに麦も栽培!と期待したのですが「子どもたちの乾杯用の麦茶になる」とのこと

最後に市原さんに今後の展望をお聞きしました。来年からは自社で醸造できるようブリューパブ開業を目標に動き出しているのだとか。パブができることにより、商品作りとコミュニティ作りだけでなく、同じ女性、特に子育て中の女性に働く場を提供し、ふたこビールを次世代にもつないでいくのが夢だそうです。「小さなお子さんがいると自宅に引きこもりがちです。そんな時に畑仕事をするのもよし、パブに飲みに出るのもよし、パブで働くのでもよし。ビールが地域とつながるきっかけになれば」と話します。ラベルに書かれた「ふたこの街にエールを送ろう」。そこには地域への応援だけでなく、そこで暮らし子育てをするお母さんたちへの応援も込められているのかもしれません。

 

お話を伺い、ふたこビールに今まで以上に親近感が湧いてきました。ふたこビールを飲めば、家事や子育てに疲れていても、市原さんと小林さんからいただいたパワーで元気が湧いてきそうです。そして、ふたこビールのこれからの展開がこれまで以上に楽しみになりました。

Information

ふたこビール オフィシャルサイト

https://www.futakobeer.com

ふたこビールFacebookページ

https://www.facebook.com/futakomugimugi/?fref=ts

ふたこビールの取り扱い店舗やイベントへの出展情報はホームページおよびFacebookページを参照

世田谷ホッププロジェクトFacebookページ

https://www.facebook.com/setagayahop/

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この記事を書いた人
藤本エリライター
外食産業と広告制作会社でマーケティングを担当した後、有機的な食や暮らしに関わりたいと、ドキュメンタリーの世界へ。惚れ込む作品に出会い、自身で配給したくなり「たんぽぽフィルムズ」を設立。2021年に長野県東御市に移住し、映像の世界観を自身でも実践すべく奮闘中。
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