究極のエコロジー 葉っぱのぐその深淵な世界
「生きることは食べること」とはよく聞きますが、実は「出す」ことの方が大切。生態系にとって「うんこはごちそうなのだ」と説き、野糞(のぐそ)をすすめる人がいます。糞土師(ふんどし)として全国を飛び回る、伊沢正名(いざわまさな)さんの講座に参加してきました。

1974年から野糞をはじめ、野糞歴43年という伊沢さん。
そもそものはじまりは、屎尿処理場の建設に反対する住民運動に疑問をもったことでした。自分たちのうんこを処理してくれる施設を汚いから、臭いからいやだというのはおかしいと感じたことがきっかけだったそうです。そのころ、自然界において「分解者」として働く「きのこ」に着目していた伊沢さんは、自らのうんこを土に返し菌類に直接処理してもらおうと考えたのでした。

「それからはどうしてもやむを得ない時以外は毎日野糞。トイレをつかってしまったことが9回あるんです」と、ご本人は悔しがるが、驚愕の事実にみなびっくりです。

伊沢さんは、きのこやコケ、粘菌(ねんきん)の写真家として知られています。どれも生き物としての起源が人よりも古く、とても小さくて、いまだ謎の多い生物です。彼らの目線にあわせて、地を這うように過ごしてきた伊沢さんは、「見下ろすということは見下すということだよ」と、人間中心のものの見方に疑問を投げかけます。私は、他の生物を「見下す」という表現に少なからぬ衝撃を受けました。いかに人間視点で生きているかを感じたからです。

講座は6月12日、静岡県御殿場市の山の中、自豊暮(しふく)という民家を会場に行われた

動物は基本的に「たれながし」です。それでも、地球が、生きもののうんこでいっぱいにならないのは、それを食べるもの、分解するものがいるからです。

現代の日本では、人間のうんこは、大量の水を使って下水処理場へ行き、そこで細菌や微生物に汚れを食べてもらい、水と汚泥に分けられます。水はさらに塩素などで消毒されて再利用され、残った汚泥の多くは埋め立て処分されています。汚泥を有効利用しようと、肥料にしたり、セメントの原料にしたり、固形燃料にして石炭の代わりに使ったり、メタン発酵させてバイオガス発電したり等々、多くの試みがされていることも事実ですが、その量はまだごく一部です。未利用の資源を利用するためには、たくさんのエネルギーを必要とし、施設の整備には多額の資金がかかります。

講座では、スライドをみながら、うんこがたくさんの生きものや動物たちによって有効かつ平和に利用される様子を追っていきます。「人間はたくさんのいのちをいただいて生きているから、野糞をすることで、いのちを返すのだ」という、伊沢さんのことばが証明されていく過程に触れ、なんだか、だんだんと神聖なものをみるかのような気持ちになっていくのです。

講座前に周囲をフィールドワークした際にコケをはぎとっているところ。伊沢さんと歩くと、自然を見る目に新たなチャンネルが加わる

野糞をすることについて、人間は法律や衛生観念などさまざまな尺度を持ち出して批判してくるそうです。しかし、自然界はその行為を黙ってただ受けいれ、むしろ出したものをごちそうとして、また住みかとして生きる生物がたくさんいるという事実。

人間は、自然界に必要とされている、愛しい存在だと思えてきました。

公園や道端、空き地に生えている草は誰のものか、勝手に人の土地でうんこをしていいのかなど、人間社会のルールを持ち出すと厄介ですが、本当に自然にかなっている行動はどちらなのか、じっくり考えるためにも、一度「糞土思想」に耳をかたむけてみて欲しいものです。

この講座を企画したのは「きらめ樹間伐」を普及している女性たち。伊沢さんの着ているTシャツの背にもロゴが。きらめ樹は、皮を剥いて立ち枯れさせてから切るために軽くて持ち運びしやすいと、女性が山仕事をするきっかけになっている

 

主催の松本香織さんとはエコストーブの活動で知り合った。御殿場に移り住み、住まいに関わる仕事のかたわら、きらめ樹間伐に関わり、その普及に力を注いでいる。これから山ではたらく人は野糞のわきまえが必須!

伊沢さんの近著『葉っぱのぐそをはじめよう』(山と溪谷社)には、葉っぱの使い心地についての膨大な実験結果がまとめられています。トイレットペーパーやティッシュは分解が遅くいつまでも残るので汚く、作る過程で大量の水や薬品をつかうから、葉っぱで拭いて少しの水で洗うのが伊沢流の正しい野糞のしかたです。他にも、同じ場所では二度しないとか、きちんと穴を掘って埋めるなど、自然界のしくみに合わせながら、人に迷惑をかけないことにも気をつかっています。

最近は足腰が弱くてうんこ座りができない人も多いと指摘する伊沢さんは67歳。しゃがむ姿勢も年季が入って美しい。これは、「まず背後を守り、人間がこないかどうか見張る」と教わっているところ

ここまで読んできて、でもやはり自分は関係ない、できないと思った方も多いことでしょう。しかし、水洗トイレが使えない状況を想定しておくことは、災害時にも役立ちます。実際、講座には、沼津市で災害対策の担当だという女性も参加していました。原子力発電所をトイレのないマンションと揶揄することがありますが、人間はどうでしょうか? 自然災害等で被災した後、一度に多くの人が集まるトイレはなかなかに悲惨で切実な問題を抱えています。防災グッズの簡易トイレはゴミになってしまいます。こうした悪循環を避けるためにも、私自身は、まず今年後半〜来年に、コンポストトイレをつくって取り入れるところから始めようかなと思っています。最終的には、都市部であっても年の四分の一くらいは野糞だよ! というような社会になったら、豊かで楽しいんじゃないかなと想像しています。

そのためにも、土や緑のある空間をもっと大切にしたいですね。

Information

「うんこはごちそう」

森ノオウチに伊沢正名さんを招いて講座を行います。ふるってご参加ください。1029日(日)に行う、関根先生の火おこし講座他と合わせて、生きるための知恵を楽しく身につけるゆるやかな連続講座となっています。

単発でのお申し込みも可能です。

日時:2017930日(土) 13:00-16:00

料金:

おとな一般:2500円 おとな会員:2000

こども:1000円(小学生以上・乳幼児は無料)

申し込み方法:

event@morinooto.jp宛に、参加人数、お名前(お子さんは年齢も)、住所、電話番号、をお書きの上、メールでお申し込みください。

参考資料

糞土研究会ノグソフィア

http://nogusophia.com/

梅原 昭子
この記事を書いた人
梅原昭子理事/事務局長/ライター
難しいものをおもしろく、かたいものをやわらかく翻訳し、絵で表現できる編集者。市民電力会社「たまプラーザぶんぶん電力」の社長になってしまうが、エネルギーの世界にも飄々とたゆたう視点で、こんがらがった世界を解きほぐす。アートユニット「WAKUSEI/ワクセイ」として縦横無尽に活動中。
カテゴリー