人間としての誇りを持ってしっかり生きていく〜風の谷幼稚園〜
川崎市麻生区にある「風の谷幼稚園」。我が家の小学4年になる長女が3年前に卒園し、この春から3歳になる次女も通い始めました。私は我が子をここに通わせることが出来て、本当に幸せだなあと思っています。そんな風の谷幼稚園を、園長の天野優子先生のお話と共に紹介します。

初夏の緑が眩しい風の谷幼稚園の園舎周辺。園児たちは、この緑多き環境の中で、たくさん体を動かして遊ぶ

小田急多摩線「栗平駅」から徒歩約15分。多摩丘陵の自然に恵まれた、川崎市麻生区の小高い山の上に、「風の谷幼稚園」はあります。園児約160名のこの小さな幼稚園は、20年前、園長の天野優子先生が、たった一人でゼロから作り上げました。当時、天野先生は48歳。長年幼児教育に携わる中で、子どもの育ちや、親の意識に危機感を覚え、自ら理想の幼稚園を作ろうと思いたち、それを実現したのです。

園長の天野優子先生。子どもたちを見つめる目は、とても温かい。

「20年前、新しく幼稚園を作ろうと思ったら、『スクールバス、延長保育、給食』が三種の神器と呼ばれていたくらい、まずはそれがないと園児が集まらないというのが世間の常識でした。風の谷幼稚園は駅からも離れていて、里山の上にあります。私も何度も周りから、『天野さん、スクールバスがないと誰も来ないよ。幼稚園が成り立たないよ……』と助言されましたが、それは絶対にしたくなかった。それで幼稚園が潰れちゃうくらいなら、それでもいいと本気で思っていました」(天野先生)

そう言い切る天野先生に、その理由を聞いてみました。

「それは、何よりも第一に子どものことを考えてほしいということです。確かにスクールバスは、お母さんたちにとってはとても便利なものだと思います。でも、私は、子どもをバスに乗せた時点で、お母さんの子どもに対する意識が切れてしまうのではと思うのです。そして3〜6歳の幼児にとって、1時間ほどの道のりをバスに乗せられていくのは、少なからず負担がかかります。私には、まるで子どもたちが荷物のように思えてしまい、とても違和感を覚えました」(天野先生)

バスのない風の谷幼稚園の送迎手段は、徒歩、自転車、自家用車、電車など。毎朝、母親や父親としっかり手をつないだ子どもたちが、園庭に入って来ます。天野先生は、この「手をつなぐ」ということを、とても大切にしています。

「ねえねえ、何してるの?」取材中にも、屈託のない笑顔をみせてくれる園児たち。「見ず知らずの大人たちにも、身構えたり緊張するようなこともなく、自然に接してくれるのでとても驚きました」とは、園にやってくる見学者のコメント。「日頃から、先生や周りの大人が、子どもを子ども扱いせず、一人の人間として敬意を持って接しているからですよ」と天野先生(写真:おおかわらあさこ)

子どもと手をつなぐことで、子どもの心の動きを感じ取れる親になって欲しいと、私は思っています。『今日はちょっと幼稚園行くのが不安なのかな』『今日はなんだか朝から元気がいいな』『今日は幼稚園で楽しいことがあったかな』、そんなちょっとした子どもの気持ちの変化を、手のひらと手のひらを直に合わせることで、感じることが出来るんですよ。手をつなぐということは、心を通い合わせるということなんです」(天野先生)

 

降園時、天野先生は毎日欠かさず、子どもたち一人ひとりの目を見ながら、「さようなら!」と声をかける。不安そうな顔をしている子どもがいれば、ぎゅっと手を握って話を聞く

家と幼稚園を結ぶ通園路、子どもとしっかり手を握り、親子で交わす何気ない会話の時間、それを大切にしてほしいと、天野先生は繰り返し、幼稚園の父母たちに伝えてきました。

「延長保育」についても同じように思うと、天野先生は話をしてくれました。

「最近の幼稚園は、延長保育や早朝保育をしているところも多いですね。働いているお母さんたちにとって、それが必要な制度だということもわかります。ですが、例えば、朝は7時前に家を出て、帰りは夜7時を回って家に着く。そしてそれから夕飯、お風呂、就寝。そして次の朝はまた7時前に家を出る……。幼児期の子どもにとって、そのような生活リズムを送ることは、心や体の負担にはならないでしょうか」(天野先生)

5月には藤の花が満開になる藤棚の下は、園児たちが大好きな砂場。砂の硬さを常にチェックして、園児が遊びやすいようにほぐしているという。「幼児期には砂場遊びがとても大切なんです」と話す天野先生は、教員たちと一緒に自ら砂場遊びをし、その大切さを身をもって指導している(写真:おおかわらあさこ)

 

親と過ごす時間がとても大事な幼児期に、親の都合に無理やり合わせた生活リズムを強いるようなことはしないで欲しいと、天野先生は言います。

新しくできていく様々な「子育て支援」の制度が、実際は「親の支援」に重きを置かれたもので、肝心な子どもの心をないがしろにしているのではないかと話す天野先生の目は真剣で、強い信念を持って子どもの育ちに向き合ってくれていることが、ひしひしと伝わってきます。

「天野先生!」といって飛びついてくる子どもたち。園児はみな、天野先生が大好き

 

延長保育のない風の谷幼稚園の子どもたちは、降園後は、出来るだけ寄り道をせずに、家に帰ります。幼稚園の活動で疲れた体を休ませてあげて欲しい、また、家庭は、集団から『個』に戻る大切な時間でもあると、天野先生は言います。

夜寝るのが早いことも、風の谷幼稚園の園児の特徴の一つでしょうか。周りのお母さんに就寝時間を聞くと、ほとんどが7時から8時の間に寝かせているとのこと。中には、6時半前には寝かせますというお母さんもいるから驚きです。

「幼児期には、ことに充分な睡眠時間が必要です。機嫌が悪い、落ち着きがないことが多い子どもには、まず睡眠不足を考えてみて下さい。充分に眠って快く目覚め、機嫌の良い一日のスタートが切れるような生活を、子どもに保証してあげるのも、大人としての務めです」という天野先生の教えに共感する父母は多く、風の谷の子どもたちは、早寝、早起きの習慣が身についています。

最近は給食のある幼稚園が多いようですが、風の谷幼稚園では、午前保育の月曜日を除き、毎日お弁当を持参します。このお弁当にも、風の谷幼稚園にはちょっとした特徴があります。

お母さんのお弁当を『空っぽにした』という嬉しさを、子どもに味わわせてあげたい、という理由で、アルミやシリコンのカップ、ピックなどはいれません。なので、食べ終わったお弁当箱は文字通り、「空っぽ」になります。我が子もよく、「おかあさん、お弁当空っぽだよ!」と、なんにも入っていないお弁当箱を、自慢げに見せてくれます。

こちらは「えの木広場」と呼ばれる、雑木林に囲まれた遊び場。ここで園児は鬼ごっこや電車ごっこなど、主に体を使う遊びをする。この日は、親子で一日たっぷり遊ぶ、学期に一回のお楽しみ会。父母や園児たちの笑い声が広場に響き渡っていた。他に、「あじさい広場」「たんぽぽ広場」など、緑に囲まれた遊び場で、子どもたちは毎日、たっぷり体を動かして遊ぶ

 

お弁当に関しては、取材中にこんな笑い話もありました。
「見学に来る方たちに良く聞かれるのが『風の谷幼稚園て、冷凍食品はだめなんですよね?』という言葉。そんなことないですよ!なんだか、そんな話が都市伝説のようになってしまって」(天野先生)
凝ったものを作らなくて良い、夕飯の残りだってお母さんの作ってくれたものなら子どもは喜んで食べるのよと、お弁当に悩むお母さんに、天野先生は伝えます。

それでも、どうしてもお弁当作りが苦手だというお母さんたちには、天野先生みずから、料理教室を開くこともあります。幼稚園の調理室を使って、天野先生に手料理のコツを教えてもらえる料理教室はいつも大人気。中からは、美味しそうな匂いとともに、天野先生とお母さんたちの笑い声が聞こえて来ます。

今年は、有志のお母さんによって、天野先生の毎日のお弁当のレシピをまとめた「お弁当の本」も制作され、父母たちに好評を得ている。「お弁当作りを難しく考えてほしくなかったので、私のいつものお弁当はこんなものよと、お母さんたちに肩の力を抜いてほしくて」と、天野先生

 

また、天野先生はこんな話もしてくれました。

「早期教育、習い事……と、情報過多な世の中で、最近は育児を難しく考え過ぎているお母さんが多いように思います。幼稚園に来る問い合わせの電話の中では、まだお子さんが0歳、1歳などという方もいて、そんなに早くから、育児や幼稚園選びに頭を悩ませるようなお母さんたちがいるという事実に驚きます。ですが、本来子育てに必要なことは、とてもシンプル。よく食べて、よく遊んで、よく寝て、そしてよく笑う子どもに育てることが、風の谷幼稚園の教育目標です」(天野先生)

天野先生は、子育ての負担を一人で抱え込まないようにと、いつも父母に伝えています。

ある冬の一日。園の廊下でこま遊びをして遊ぶ子どもたち。目立った遊具のない風の谷幼稚園だが、子どもたちにとっては、どこでも遊び場になる(写真:おおかわらあさこ)

 

今でこそ、幼児教育のスペシャリストの天野先生ですが、自分が子どもを産んだ直後は、周りからの「お母さんでしょ!」との声と、母になりきれていない自分との間のギャップに、大きな戸惑いがあったと言います。「子どもを産んだからって母になるわけではない。子どもを産んで、育てる過程で、人間は母になっていくように思います」という天野先生は、育児の悩み、家族のこと、自分の悩み……いつでも何でも相談を受け付けています。幼稚園に来る見学者の中には、天野先生と話をしたことで、それまでこわばっていた表情が和らいで笑顔で帰る方をよく見かけます。お母さんたちにとっての「お母さん」。それが天野先生の魅力でもあります。

毎朝欠かさず、園庭の真ん中で、地元の農家さんの野菜を売りながら父母たちと会話を交わす天野先生。悩みがあったら「野菜のおばちゃん」に何でも聞いてください、と日頃から呼びかけている。育児相談だけでなく、「この野菜ってどうやって料理したら美味しいですか?」など、常に父母たちの笑顔が絶えない

 

取材中にも、「天野先生、昨日のきゅうりのお漬物、おいしかったです!作り方教えて下さい!」「天野先生、みてみて〜。お花つんできたよ」など、大人や子どもが、天野先生に気さくに声をかけにきていました。その度に、天野先生はぱぁっと笑顔になり、一人ひとりていねいに対応している姿が印象的でした。

天野先生と日頃から接していてすごいなと思うのは、園長としての仕事も忙しい中、常に園児たちの様子に気を配っていることです。園内では、至る所で園児たちに話しかける天野先生の姿を見ることが出来ます。

また、取材中にこんなエピソードもありました。お父さんに迎えられ降園する園児から空のお弁当箱を預かり、「明日も天野先生がお弁当詰めてきてあげるからね!」と告げる天野先生。理由を尋ねると、「お母さんがしばらくいないのよ。お父さんがお弁当作れないっていうから、その間は私が作っているの。困っている時は、助け合わないとね」と、さらりと答える天野先生。この話に私は心がとても温かくなりました。

季節の食べ物を沢山食べるのも、風の谷幼稚園の特徴。この干し柿は毎年秋の風物詩。先生やお母さんたちで1000個ほどの柿の皮を剥き、ていねいに干す。この干し柿目当てに幼稚園を訪れる卒園生も少なくない(写真:おおかわらあさこ)

 

「スクールバスなし、給食なし、延長保育なし」と、文字面だけでは敬遠されがちな風の谷幼稚園ですが、天野先生はもちろん、仕事を持つお母さんのことも応援しています。朝送っていけない、お迎えに間に合わない、お弁当を作れない、そんな時はみんなで助け合いましょう、と、日頃からお母さんたちに声をかけています。「今は核家族も多く、孤独をかかえるお母さんも多いようですが、子育ては一人でするものではなく、たくさんの大人の目に見守られて育っていくことが大切です。育児に疲れたり、行き詰まるようなことがあれば、いつでも私に相談してください」(天野先生)

園内には、いつも天野先生がいる、困ったらいつでも力になってくれる。このことは、子どもはもちろん、子育て中の母親たちにとっても、大きな安心感になっています。園のお母さんたちからは、「見学に来て、この人になら安心してわが子を任せられると思った」「色々な園を見学に来たけれど、天野先生の話を聞いたら、もうここしかないと決めた」などの話もよく聞かれます。風の谷幼稚園の魅力の一つは、天野先生であると私は思っています。

風の谷幼稚園の四季折々の活動内容や、いきいきとした子どもたちの様子は、園のホームページにもたくさん掲載されています。ぜひ、そちらもご覧下さい。見学も随時受け付けています。天野先生と一緒に、子どもの育ちを見守りながら、幼稚園生活を過ごしたいと思っている方、また、日頃の育児に悩んでいる方なども、ぜひ風の谷幼稚園に一度足を運んで、天野先生の話を聞いてみて下さい。ふっと肩の力が抜け、心が軽くなることと思います。

 
 

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Information

風の谷幼稚園
〒215-0023 川崎市麻生区片平1510

TEL:044-986-5515

http://kazenotani.net/

【2018年度園児募集にともなう説明会及び見学会】

■説明会 2017年9月11日(月)午後1時~
事前に予約は必要ありませんので直接お越し下さい。

■見学会 2017年9月、10月の毎週水曜日
午前9時30分~
見学会につきましては、事前に予約が必要です。

ながたに 睦子
この記事を書いた人
ながたに睦子ライター/デザイナー
東京都町田市の里山風景が色濃く残る地域で、パンを焼き、絵を描き、デザインをする日々を送る。賑やか三姉妹と珈琲焙煎が趣味の域を超えた夫と楽しく暮らす。おっとり可愛い子リスのような容姿とは裏腹に、3児を育てながら保育士資格を取得するモーレツな一面も。趣味は里山歩きとキャンプ。
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