梶が谷でワクワクするような 上映会を企画するシネマ・カリヨン
DVDやネットのストリーミング映像が普及し、映画は場所や時間を問わず観られるようになりました。そんな中、誰かとともに映画を観る体験を提供したいと川崎市高津区梶が谷で上映会を開催しているシネマ・カリヨンの平松奈保子(ひらまつなほこ)さんにお話を伺いました。

梶が谷のカリヨンと聞けば、映画よりも音楽教室やカフェを思い浮かべる方が多いと思います。「音の教室カリヨン」は平松奈保子さんのお姉様である平松あずささんが主宰し、「カフェカリヨン」はお母様の平松葉麻子(ひらまつ はまこ)さんが経営、ご主人の久保田英明(くぼた ひであき)さんが店長を務めており、シネマ・カリヨンにとって、まさに家族のような存在です。

カリヨンは異なる音を持った鐘を複数組み合わせた楽器。音楽教室からはじまったカリヨンがカフェ、バル、シネマと複合化したことでその名が持つ意味に近い形態に


あずささんがご自宅や保育園ではじめた音楽教室を梶が谷の地で「音の教室カリヨン」としてスタートさせたのは2000年。その後、同じビルのお隣にお母様が事務所を構え、2013年にはそのお隣2軒が同時に空室になったことを機に、お母様が一室をカフェに、もう一室をカフェのキッズルームとして開業しました。あえてキッズルーム併設のカフェにしたのは、飲食店の少ない梶が谷にふれあいの場を、とりわけ地域のお母さんたちや子どもたちに優しい場を作り、音楽教室に通う子どもたちのお母さんの交流の場を作りたいという思いからだったそうです。駅の近くとはいえ、表通りには面していないカリヨン。飲食店が少なかった梶が谷でカフェの需要を作るのも難しく、開業当初は集客に苦戦したといいます。そこで、英明さんがメンバーに加わり夜の営業時間がバルの形態になりました。
 
お姉さまがはじめたカリヨンを盛り上げようと、お母様だけでなくご主人までもが奮闘している時期に、奈保子さんも何かしたいと思いついたのが上映会でした。奈保子さんは配給会社に勤めていたお母様の影響を受け、子どものころから映画館で映画を見て育ち、さらに大学でも映像の勉強をしたほど大の映画好き。カフェで上映会を定期的に開催して、カリヨンを盛り上げようと考えたそうです。
 
そして最初の上映作品は、『かみさまとのやくそく』。当時はご自身のお子さんが1歳にも満たない年齢で、大好きな映画館へ足を運ぶこともままならない時期だったこともあり、まずは自分が観たかった作品を選びました。はじめての上映会だったにも関わらず、1日2回の上映を3日間、計6回の上映は全て満席に。その後は小さな上映会でも開催がしやすい配給形態の硬派なドキュメンタリー上映が続きます。考えさせられるものをと選んだ作品でしたが、25名で満席になる規模にもかかわらず集客に苦戦し、毎月続けていくのが難しくなってしまったそうです。そこでシネマを一時休業し、奈保子さんはその間に他の上映会や配給会社が主催するワークショップに参加することにしました。

16ミリの映画を自分たちで上映できるよう奈保子さんは映写機操作技術認定証も取得(写真:Shimpei Murayama)

約半年の充電期間に奈保子さんは映画そのものと向き合います。そして奈保子さんにとっての映画とは、「閉ざされた空間で皆が同じ方向を向き、スクリーンを見つめ、同時に笑ったり泣いたり感情を共有する“映画館体験”」だと感じます。そして再開したシネマ・カリヨンは『シネマ・カリヨン クリスマス親子上映会』と『クルテク もぐらくんとチェコアニメの世界 上映会』を開催。親子向けの上映会は、音楽教室やカフェの利用者の口コミからも情報があっという間に広がりました。私自身がfacebookで上映会の告知を知った時は、すでに時遅く、チケットは完売だったほどです。

小さな子どもも映画に釘付け。奈保子さんは「子どもたちの映画を観て笑う姿がたまらない」と言います(写真:野田昌志)

奈保子さんは新たな取り組みにもチャレンジします。映像とオーバーヘッドプロジェクター(OHP)を使ったライブパフォーマンスです。京都からアーティストの仙石彬人さんを招いて、OHP上にカラーインクやオイル、水などの液体を使って即興的に作られた作品を投影。昼の部は子どもたちを対象としたワークショップ、夜の部は16ミリフィルムの映画にOHPを重ね合わせる上映会を企画しました。あえてパフォーマンスと映像をコラボさせたのは大人向けに「五感をフルに刺激して楽しんでいただけるような映画体験を提供したい」という想いからでした。

OHPの上に底面が透明な水を張った容器を置き、カラーインクやオイルを注ぐ。参加した子どもたちの表情は真剣そのもの(写真:Shimpei Murayama)

新たな試みが功を奏し、シネマ・カリヨンの活動はまちのお祭りにも広がります。梶が谷駅周辺の商店街の人たちと企画した梶が谷さくらまつりです。近隣の公園やマンションの屋上を利用し、様々なイベントが催されるお祭りで、シネマ・カリヨンは星空シネマを開催。25名で満席になっていたカフェの小さな上映会から100名規模のまちぐるみのイベントへと進化していきました。

駅前のマンションの屋上を利用した星空シネマ。夜空の下での映画鑑賞とは贅沢なひと時(写真:Little Woody)

試行錯誤を経て、上映スタイルが確立してきたシネマ・カリヨンですが、この夏の上映会はこれまでとは一味違います。8月27日に上映される『この世界の片隅に』は戦争の時代を生きる一人の女性を描いたアニメーションです。奈保子さんは「この映画を一人でも多くの人に観ていただきたいと思った」と言います。でも、いくら友人たちに熱く語っても、戦争やアニメーションというキーワードだけで敬遠する人もいて、なかなか見てもらうということにこぎ着けられない、そんなジレンマがあったそうです。多くの人に見てもらうためには、やはり自らが上映会を開くことと思い立ち、今までより規模の大きい川崎市民プラザでの開催を企画しました。
川崎市には市民ミュージアムのように映画を上映するために作られた会場もありますが、あえて市民プラザを選んだのは、地元・梶が谷の人に届けたいという想いから。「500名も入るホールで、今までと作風が違う作品を3回も上映するのは大きなチャレンジです。でもシネマ・カリヨンは梶が谷のまちを盛り上げることに貢献したいのです」と奈保子さんは言います。
「まちが活気づけば、人も住みやすくなります。梶が谷で育った子どもたちが大人になった時、自慢できるまちにするのが私たちの夢です」
 
音楽教室とカフェを盛り上げるためにはじまったシネマ・カリヨンですが、まちを盛り上げる中心的存在になりつつあります。これからどんな企画が出てくるのか、ただの上映会には収まらないシネマ・カリヨンの今後の取り組みが楽しみです。

Information

シネマ・カリヨンpresents『この世界の片隅に』

日程:827日(日)

時間:10:30〜/14:00〜/17:30

チケット:前売り券1,000/当日券1,200円 

前売り券はカフェ・カリヨンまたはシラハト商店にて販売

会場:川崎市民プラザ ふるさと劇場

川崎市高津区新作1-19-1

東急田園都市線「梶が谷駅」から市バス4番のりば(溝23系統)溝口駅南口行き乗車→市民プラザ下車(約5分) 

梶が谷駅より徒歩約15

東急田園都市線「溝の口駅」JR南武線「武蔵溝口駅」から市バス溝口駅南口1番のりば(溝23系統)梶が谷駅行き乗車→市民プラザ下車(約10分) 

アクセスは市民プラザのHP参照

http://www.kawasaki-shiminplaza.jp/access/

主催・お問い合わせ:シネマ・カリヨン

E-mailcinemacarillon@gmail.com

電話 080-3342-7484(担当:久保田)

https://www.cinema-carillon.com

https://www.facebook.com/cinemacarillon/

『この世界の片隅に』

http://konosekai.jp

藤本 エリ
この記事を書いた人
藤本 エリライター
外食産業や広告制作会社でマーケティングや宣伝を担当した後、有機的な食や暮らしに関わりたいと、ドキュメンタリーの世界へ。子育て中の現在は配給の仕事はお休みし、年に1、2本のペースで字幕翻訳を手がけている。テーマは一貫して「食」の食いしん坊。代表作は『パパ、遺伝子組み換えってなあに?』
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