大きな空の下の、ちいさな なかまたち。 ~アンちゃんは、3歳だから~
横浜市青葉区のゆたかな自然の中で、季節の移り変わりを心とからだいっぱいに感じて育ち合う青空保育ぺんぺんぐさ。安心できる場で一人ひとりの意思と個性を輝かせて遊びこむことで、だれでも子どもは自ら育ちゆく「力」を発揮します。そんな子どもの素敵な力を、少しでもお伝えできたら嬉しいです。
(文=青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=青空保育ぺんぺんぐさ)
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー形式でお送りしていきます。

春。まわりの草花の様子も、一緒に遊ぶ友だちも変わる季節。子どもたちにもいろいろ戸惑いが生まれる時です。でも、その戸惑いがぐんと子どもを大きくさせてくれたりします。

どろんこ遊び

どろんこの上にどっかりと座り込んで「行かない」と言い続けていたのは、アンちゃんでした。
その日、森の中でぬかるみを見つけて、はじめは大勢でお団子づくりをしていましたが、一人ぬけ、また一人ぬけてみんながいなくなっても、ず~~っと一人で座り込んでいました。おそらく1時間近く黙々と作り続けていた、アンちゃん。
草花を摘みに、田んぼの方へ行ってみようかということになり、アンちゃんにも声をかけましたが「行かない」。その一言の後は、知らんぷりで遊び続けていました。
何度聞かれても「行かない」。風の音でかき消されてしまうほど小さいけれど、揺るがぬ意志を感じる声でした。
 
3歳になったばかりのアンちゃん、実はとっても「ガンコ」です。自分で決めると、何を言われても意志をぜったいまげないんです。そういう時のアンちゃんは、大人に何をなだめられても表情ひとつ変えずに聞こえないふり。
 
お弁当は「もう食べない」と一度言ったら最後、ぜったいもう食べない。おにぎりが二つとも残っていても、お芋を一口しか食べていなくても、自分で片付けてしまう。散歩の時も「リュック持たない」と言い出したら、リュックを放り投げたまま、てくてく歩き始める。代わりに小さな友だちが心配になってアンちゃんのリュックを持ってあげちゃう。誰もが胸を膨らませて楽しみにしている誕生日会も、アンちゃんのお祝いの時は「立たない。レーズン食べる」と食べ終わるまで座り続け、まわりのみんなは待ちぼうけだったこともありました。
そして、3歳になってからは、お弁当前の手拭きの仕上げを、1カ月以上頑なに拒み続けています。水道のないところでどろんこになるので、全員の手を大人が仕上げにきれいに拭くことにしているのですが、「もう大きいから」というのが理由だそうです。

春の森

アンちゃんは、ふだんじっくり黙々とどろんこ遊びや草花お料理ごっこするのが大好きな、ポツリポツリとおしゃべりする人。春になって異年齢の大きい子組に進級したら、さらに口数少なく、みんなの目につかないところで、大好きなお花をただただ集めて遊んでいたみたいでした。
 
年少さんになって3週間たったこの日は、朝から急におしゃべりがよく聞かれ、大きな口開けて笑顔で遊んでいたアンちゃん。おっ、めずらしいな、と思いながら、みんなで森に向かったところでした。

どろんこのお弁当

久しぶりにどろんこ遊びに集中できた日だったこともあり、アンちゃんが田んぼの方に行かないと言うのを聞いて、私は半分諦めかけていました。でも言葉を変えて聞いてみました。「これここに隠していく?」……やっぱり返事なし。「これ持っていく?」……すると、なんとアンちゃんの首がタテに振られました。
でも大きな豆腐カップにこんもりと盛られたどろんこ弁当を二つとも持っていきたいと。私が「自分で持てるならいいけど……」と答えると「持てる」という返事。
 
こんなに重たいのを小さな体のアンちゃんが持って行けるの? と私は思いましたが、ためしに風呂敷に包んでみました。でもアンちゃんは、重たい荷物を両手で抱えてしまいます。山道を歩くには転んでしまうから、風呂敷包みを手提げ風に作り直しましたが、手提げでは地面にずってしまいます。じゃあ風呂敷リュックに変えようかと、やっとのことでアンちゃんの背中に荷物は収まり、そして大きく重たいホンモノのリュックも重ねて背中に背負われました。
 
パッと書いたら、たいしたことのないやり取りですが、途中何度も私に提案し直されて、そのたびアンちゃんは「このままでいい」と粘っていました。だから出発までに15分近く経過。それでもアンちゃんは最終的に受け入れたのです。そして、いざ歩き始めたらぜったいに「重たいからやめる」と言うに違いないと私は思っていたのに、音を上げる気配もなく、そんな様子に驚きました。

田んぼの方へ

普段から芯の強いアンちゃん、その日の様子を見て、あらためてきちんとアンちゃんを尊重したいなと思いました。途中で大人が代わりに安易に持ってあげることは、アンちゃんに失礼な気がしました。
小さな体の、足の長さくらいの段差のある山道階段は、なかなか歩みがはかどらなかったけれど、道中何度も他の子は待たされたけれど、普通歩いて10分弱の田んぼのところまで、30分かかってやっと到着しました。

お弁当

実はこの日、頑なに拒み続けていたお弁当前のお手拭き仕上げを、1カ月ぶりにはじめて受け入れました。でもこの日は、左手だけ。そして、次の日はもっとはりきって調子がよくて、あこがれの年長のウタコと、畑で泥遊び水遊びが盛り上がったその後、両手を仕上げ拭きしたのでした。
 
「仕上げ拭き」なんて、とってもちっぽけでつまらないことです。でも自分のペースを決して崩さずに遊び続けてきたアンちゃんが、まわりの言葉を聞き入れたことに、私たちは驚きでいっぱいでした。
外でいっぱい遊んで3歳になって、進級して、戸惑って、でも時間を忘れるほどやっと遊べたその日、アンちゃんの中で生まれたのは、大人が考えるよりもずっと大きな内面の変化だったような気がします。
子どもってたっぷり遊びこむと変わっていくのですよね。戸惑いがちょっとした刺激になって、ある時ポンと成長する時があります。その瞬間に立ち会えた時、保育者やっていてよかったなあといつも思います。子どもって素敵。自分で育つ力を持っている。
 
その日アンちゃんは、お弁当を一番早くに食べ終わりました。そのことも食の細いアンちゃんにとって、はじめてのことでした。私にカラのお弁当箱を無言で突き出し、「アンちゃん、食べるの早くなったね」と私に話しかけられた後、「3歳だから」と、ニヤリ。小さな目を細めて、いたずらそうなアンちゃんの微笑みに、私はハッとしました。今まで見たこともない自信あり気な表情。そんなアンちゃんを見て、私は胸がいっぱいになってしまいました。

森の中で絵本の時間

*   *   *   *   *   *   *   *   * 

そしてこの夏、晴れても雨でも、元気に遊んでいます。ドロドロびしょびしょになって心を開放できる夏は、子どもをぐんと成長させてくれる季節です


 

畑でサツマイモをたくさ~~ん植えたその横で、ふかふかの土の上で裸足で遊んだり


 

毎週川に出かけて、水の流れの中でいろんな生き物と出会ったり、 からだ中どろだらけになるのも、爽快!

Information

【川崎市子ども夢パーク所長 西野博之さん講演会「外で遊ぼう。子育てはきっと大丈夫。」】

◎8月にNHKあさイチに出演されたばかりの西野さんの、あたたかいメッセージをぜひお聞きください。

日時:2017年9月22日(金)10:00-12:009:40受付開始)

場所:もえぎ野地域ケアプラザ多目的ホール(東急田園都市線「藤が丘」駅より徒歩7分)

参加費:500

Mailpenpengusaevent@gmail.com

電話:090-1023-3592(岡田)

託児はありませんが、マット敷きの座席でお子さんと同室できます。

交流会&ぺんぺんぐさ活動紹介(13:30・無料)あります。お弁当持参で一緒におしゃべりしましょう。

【土と水と草と虫とあそぼう会】

日時:9/14(木)10/19(木)11/16(木)10:00-13:00 以降毎月第3木曜

場所:しらとり台第一公園または桜台公園 青葉台駅より徒歩5分と10

参加費:400円+100円保険代

Mailaoba.penpengusa@gmail.com(お申込みは前日朝11時まで)

電話:090-9147-3027(内藤)

のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会とおしゃべり会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。

青空保育ぺんぺんぐさ 

http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/

 

NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟の会員

http://www.morinoyouchien.org/

Profile

土井三恵子

青空保育ぺんぺんぐさ保育士10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園勤務、そして横浜市青葉区のお母さんと青空保育を立ち上げ、6年目。現在保育者4人と親子20組でにぎやかにすごし、野山で土や水や草や虫と子どもたちとたわむれ、日々小さな発見に胸を躍らせる(ザリガニを見つけると急に真剣になって子どもと張り合ってしまう面も……)。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。

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