文=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー形式でお送りしていきます。
その日、リオはおしっこを漏らしてしまいました。
手も足も服も顔もどろんこだらけになって、よく遊べるリオは、3月生まれの年少さん。春、大きい子組に進級したら、急に「甘えんぼうず」になって大人にくっついてばかりいましたが、夏にぐんと遊べるようになってきたので、「見てるから一人でおしっこしておいで~」と私に言われたのでした。
朝、バスに乗っていたときはおしゃべりいっぱいだった、リオ。里山に着いたらしばらく川の中に入って川エビ捕りをはりきっていましたが、「おしっこ!みえこさん、おしっこ!」と甘えた声で叫び始めました。一人でやろうと川を上がって草むらに向かったとたん、おしっこは漏れてしまって、立ち尽くしてしまいました。私たち大人は遠くから気がつかないふりして見守っていると、年長のウタコに「どうしたの?漏らしちゃったの?着替えておいで」と優しく言われて、ゆっくりゆっくり着替えました。
その後リオは、気持ちがしぼんでしまったみたいで、みんなの遊びを一本橋の上からずっと見ていました。
ザリガニをただひたすら探し続ける、ヤーくん・オウちゃん。
川エビを「またいた~~!」「ウジャウジャいる~!」と歓声上げながら捕り続ける、アンちゃん・メイちゃん。
川辺に流されてたまった泥を集めて、木の実やお花や川で採れたシジミをきれいにあしらったケーキ作りにいそしむ、ウタコ・コッちゃん。
同じくみんなの遊びを見ているうちに、初めてトンボを網で捕まえられて、初めて手でつかめて、気持ちがぐんと盛り上がり始めた、ナオト……。
「見ている」って、実はとっても大事な時間なんですね。
大人はつい心配になって「つまらないんじゃないかな~」「かわいそうだな~」と思ってしまいがち、いつも楽しそうに笑ってくれたら安心なのですが、子どもだってそういつも可愛く笑ってばかりはいられないのです。
子どもも小さな胸で、いろんなことを感じています。ズボン濡れてイヤだったなあ、つまんないなあ、川入りたくないなあ、そのうち気持ちが紛れてきて他の子の遊びに目が止まったり、なんだかまた動きたくなったりし始める。
いろんな気持ちを同居させること、ゆっくりそれを噛みしめて、また自分で動き出すことが、とっても大事。その上で見つけた遊びは、一味ちがう。「葛藤」や「退屈」は、心の栄養。
さてそんなリオは、私がメイちゃん・アンちゃんとシジミ探しに夢中になっているのを一本橋の上からしゃがみ込んで見始めました。
最近の大雨で砂がたくさん流されて、川底が一面きれいな砂で埋め尽くされていたので、ザリガニの隠れ場所を作ろうと砂を掘るたびに、生きのいい大小のシジミが次々見つかったのでした。「これって、お味噌汁に入れられるよね~」という大人の声に、メイちゃん・アンちゃんもエンジンがかかって、20個以上みつかりましたが、2人は服が濡れて寒くなってシジミを置いたまま着替えてお弁当を食べ始めてしまいました。
するとリオが急に前のめりにシジミを手に取り、やがてまた再び川に入って来ました。あわせて40個以上のシジミは、いつの間にかリオの手に持つ魚網の中に。そして私がその場を離れてみんなとお弁当を食べ始めた後も、年長のウタコとリオだけは、2人きりでず~~~っとシジミ探しを続けていました。
そして、帰りのバスの時間が近くなって、お弁当箱を片付け、着替えをしている時間のこと。いつまでも動こうとしないリオがいました。その横にはメイちゃんがいて、二人でものすごく至近距離で向き合ってしゃがみ込んでいる。よく見ると、メイちゃんは袋に40個のシジミを無心に入れていて、それを無言でじっと見つめているリオ。
やがてメイちゃんが袋を持ってパ~~ッと駆け出し、リオが必死で追いかけた。はは~ん、メイちゃんはちゃんとシジミのことを覚えていて、持って帰りたくなったんだな、と私は気づきました。ところが一人占めされて、リオがつかみかかり、ケンカが始まった。
1時間に1本のバスの時間が迫っていたので、私は2人のケンカを手で押さえようとしました。でもふと思いました。
今日のリオはいつもと違って、お弁当の苦手な野菜をみんなにつられず、イヤだと自分の主張を貫き通した。このシジミは、リオが葛藤の末に自分で見つけた遊びで得たものだった。年中長も一緒に遊ぶ日は、ついていくのがやっとだった2人が、ようやく自分を出せるようになり、年中長の前でケンカできるほど夢中で遊べた……。
そんな変化に気がつき、このケンカは大切にしたいと、私は出しかけた手を止めました。すると、ほどなく年中長がかけつけて「半分こにしたら?」と声をかけ、2人は「イヤだ~~!」と号泣。
時間切れとなったので、やむなくシジミはしばらく私が預かり、2人は大きな口を開けてただただ号泣したまま、手をつながれ引っ張られるように歩いてバス停へ。もう1回半分こはどうかと聞かれて、メイちゃんは「半分こでいい……」と答えましたが、リオは「やだ~~!」と大泣きでした。
バスを待つ間の10分弱、年中長が心配しながらあれこれ解決策を提案してくれました。そんなとき、私は子どもたちの一言一言をゆっくりくり返して伝え直す、橋渡しの役割だけです。
ヤー「今日はリオ、明日はメイちゃんがぜんぶ持ったら?」
オウ「そうだよ、そうだよ」
リオ「やだ~~~」
ナオト「リオだけ少し多くしたら?(小声で)」
リオ「やだ~~」
ウタコ「1回半分こしてみたら?」
オウ「そうだよ。1回半分こにすればいいんじゃない?」
私は提案を受けて、リオの号泣を横目にとりあえず半分ずつに分けてみる。
オウ「いいこと考えた!そのままにして今度いっぱいにしたら?」
ウタコ「今日は持って帰って、今度みんなに見つけてもらうのは?ウタコ見つけてあげるよ」
ナオト「ナオトも!」
オウ「オウスケも!」
ナオト「ヤーくんもだって!」
ウタコ「ねえ、みんな~~今度シジミ見つけてあげる人~~?」
するとウタコの高らかな掛け声に、なんとなんと年少さんも全員の手が挙がったのでした。
バスに乗ると、3分もしないうちにリオはすぐに爆睡。その横でメイちゃんは、諦めきれず時々フガフガ泣き声を上げていましたが、ひとりご機嫌で寝たふりしているアンちゃんの笑い顔につられてそのうちにやっと表情が明るくなってきました。
せっかくメイちゃんは半分こでいいと言ったのに、シジミももらえないし、リオは寝てしまうし……私たち大人はおかしいやら微笑ましいやら、笑いをこらえるのに必死でした。
そしてバスから降りて眠気がさめたリオに、もう一度年中長たちのさっきのアイデアはどうかと聞くと、「いいよ」と。その時すでにメイちゃんは帰ってしまっていましたが、明日みんなに話そうね、と帰って行きました。
私は正直ちょっとびっくりしました。その夏、水やどろでひたすら遊び込んで、いつの間にか成長している姿に胸がいっぱいになってしまいました。
リオとメイも、年中長の前でもケンカするほど夢中で遊べるようになってきたこと。時間差こそあったけれど、気持ちの折り合いをつけることができたこと。数カ月前までは、年少さんのことなんてあまり関心なかった年中長がすぐ駆けつけて、あれだけいろんな案を考え出して、頼もしくなっていたこと。解決策が大人には思いもよらない方法で決まったこと。
移り気なのは子ども心と秋の空? 翌日は何人か「自分の分もシジミ捕りたい~~」なんて変わっていましたが、子どもはその時その時を真剣に生きている。この日バス停の前で一致団結した気持ちに、いつわりはなかったのだと思います。
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【土と水と草と虫とあそぼう会】 ◎冬の外あそびは、晴れて風をよけられる場所ならびっくりするほどポカポカです。透明感ある冬の空気を感じながら、一緒に楽しみませんか。冬を暖かくあそぶコツもお伝えします。 日時:2/15(木)3/15(木)4/19(木)9:45~13:00 以降毎月第3木曜 場所:桜台公園またはしらとり台第一公園 青葉台駅より徒歩10分と5分 参加費:400円+100円保険代 Mail:aoba.penpengusa@gmail.com 電話:090-9147-3027(内藤) ※のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会とおしゃべり会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。 ※天候が悪く寒い日は、屋内もある場所でたき火体験や、畑あそびに変更します。 ※変更の場合がありますので、HPでご確認ください。 青空保育ぺんぺんぐさ http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/ NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟会員 http://www.morinoyouchien.org/ Profile 土井三恵子 青空保育ぺんぺんぐさ保育士。10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園勤務、そして横浜市青葉区のお母さんと青空保育を立ち上げ、もうすぐ7年目。現在保育者4人と親子20組でにぎやかにすごし、野山で土や水や草や虫と子どもたちとたわむれ、日々小さな発見に胸を躍らせる(ザリガニを見つけると急に真剣になって子どもと張り合ってしまう面も……)。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。
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