地産地消とリユース文化を横浜でつないでいく! 横浜リユースびんプロジェクト視察ツアー
「横浜で地元産ジュースをリユースびんで普及するというプロジェクトがあります。その生産地と洗びん工場を視察するツアーを取材しませんか?」北原まどか編集長からのお誘いに飛びついて、「横浜リユースびんプロジェクト視察ツアー」に参加してきました。(写真:鈴木ゆりり)

目が覚めるほど酸っぱくてさわやかな、「あおみかんのしずく」。冬場に食べる「みかん」が美味しくなるためには、夏場に実をつけた青く小さなみかんを摘果(間引き ※注1)して、栄養や太陽の光を十分に行き渡らせているから。この、捨てられてきた青みかんに着目して、おいしい商品をつくった女性がいます。奥井奈都美さん。神奈川県産の摘果した青みかんを使ったドレッシングやジュースを製造販売する「アマンダリーナ」の代表です。

 

この「あおみかんのしずく」を焼酎で割って飲むスタイルが、いま、関内や野毛の居酒屋さんで話題になっています。このジュースが入っているびんを見てみると、「リユースびん」と書かれています。ちょっと「ダサかわ」のこのびん、どこか懐かしい感じがして、親しみが湧いてきます……。

 

「リユースびん」は、飲用後(使用後)、繰り返し洗って使えるびんのことです。居酒屋さんで見るビールびんは、ケースに入ってまた回収され、もう一度ビールを充填してまた居酒屋さんに戻ってきます。生協などで見る牛乳びんや醤油などの調味料も、リユースびんが使われていることが多いです。

 

一方、リユースではないびんは、使い終わったらガラスを砕いてカレットと呼ばれる数センチ程度の粗く割れた状態にして、溶かしてまたガラスとして再生します。いったい、どっちが「エコ」でしょうか。

 

「横浜リユースびんプロジェクト」(※注2)は、横浜市内のびん回収事業者や飲食店、地元の食品加工事業者などで進めている取り組みです。2017年、新たなリユースびんを製作し、主に神奈川県産の飲料を充填して横浜市内で普及することで、CO2削減と地産地消、循環型社会の創出を目指しています。この「横浜リユースびんプロジェクト」主催の地元産飲料の生産地と洗びん工場を視察するツアーに参加してきました。

 

新たに製作されたリユースびん(再使用できるびん)。使った後に返却してもらえるよう、わかりやすい表示を心がけた。「ちょいダサ」がポイントとか(視察ツアー配布資料抜粋)

 

リユースびんは、使えば使うほどに二酸化炭素の排出量が少なくなるエコな容器(視察ツアー配布資料抜粋)

 

ツアー参加者は、テレビ、新聞などメディア関係者や、デザイナー、横浜市内のびん回収事業者、環境省や横浜市の職員など、横浜リユースびんプロジェクトに関わる方たちなど15名。一日のツアーでまわるのは以下の横浜市内の5か所、盛りだくさんの内容です。

・丸隆六甲容器株式会社(洗びん工場)

・柴シーサイドファーム(みかん農園)

・ど根性キッチン(ランチ)

・横濱ワイナリー

・愛嬌酒場えにし

 

リユースびんの肝、洗びん工場

最初に訪れたのは、鶴見区にある丸隆六甲容器株式会社(以下、丸隆六甲容器)。リユースびんの洗びん工場です。神奈川県で唯一の洗びん工場は1日に3600本、年間88万本のびんを洗浄し、酒造会社などに出荷しています。

 

新しくつくったリユースびんもこちらで洗浄されています。

 

横浜、川崎、東京南部、遠くは静岡から集められたびん。酒屋さんなどで回収されたびんは、「びん商」と呼ばれる業者が集め、「びん問屋」である丸隆六甲容器に運ばれる

 

昔は、洗びんの機械を酒造会社がもち、びんのリユースが盛んに行われていました。しかし、酒造会社の機械の老朽化に伴い、丸隆六甲容器に依頼されることも増えてきました。

 

こんなお話を聞くと、工場も右肩上がりかと思われますが、

「工場で取り扱うびんの量は年々縮小傾向にあります」と丸隆六甲容器、営業の松本健太郎さん。原因の一つは、リユースびんを運搬する際にできる擦り傷。保存容器としては問題ないものの、商品陳列の際に目立つわずかな傷を気にして、新びんに切り替える企業も多いとか。松本さんはこうも語ります。

 

「弊社は関東と東北に支店をもっておりますが、洗う際に出るびんの不良品の割合は関東で5%に対し、東北の支店では12%です。その理由は、関東で新びんの利用割合が高いから。そもそも関東圏では、洗びん工場が当社を含めわずか4か所。そのため、リユースびん(洗いびん)の市場そのものが小さいんです」

 

さらに、

「我々の仕事は(びんの)仕入れがないと成り立たない。びんを集める人も少なくなり、またびん業界自体、高齢化しています」と松本さんは厳しい表情です。

 

これまで長年にわたって確立されてきたリユースびんを回収して再利用していく循環が難しくなっていること、さら関東ではより深刻な状況である現状に驚きました。

 

びんは一本一本手作業で洗びん機械に差し込まれる。びんに差し込まれたパイプから出る熱湯で洗浄、機械を通したびんに光をあてて状態を確認。さらにびん表面に水をかけ、柔らかくなったラベルを手作業でけずる

 

 摘果された「青みかん」に着目

つづいて、バスでむかったのは、横浜市金沢区にある農業専用地区「柴シーサイドファーム」。これまで廃棄されてきた摘果みかん(青みかん)を使って製品開発をしている「アマンダリーナ」の、奥井奈都美さんの挑戦はここからはじまりました。

 

柴シーサイドファームからの景色。ここからアマンダリーナの一歩がはじまった。
奥井さんが決めたアマンダリーナの商品の原料となる青みかんになるために、3つの条件がある。
①大きさが30mm以上であること
②最後の消毒をしてから45日以上経過していること
③摘果してから3日以内であること

左から奥井さんと小山さん。火曜・土曜以外はほぼ漁に出ている小山さん。ツアーのあった2月7日は初午。「初午は小山さんが漁に出ないからツアー候補日になった」と奥井さんのこぼれ話が楽しい

 

2014年、奥井さんは湘南エリアで開催された青みかんの摘果イベントに参加し、持ち帰ったゴルフボール大ほどの青みかんでドレッシングやモヒートをつくって、料理教室やカフェでふるまい、お客さんの喜ぶ顔からそのおいしさを確信します。

 

「こんなおいしい青みかんが捨てられているのはもったいない」と翌年、奥井さんは青みかんを収穫させてくれる農家さんを探します。快く賛同してくれたのが柴シーサイドファーム管理組合長の小山收一(しゅういち)さんでした。

 

2015年8月はじめ、小山さんと小山さんのお孫さん、奥井さんとその友人の6名で小山さんの畑の青みかんを摘果します。収量は185kgでした。さらに2016年、SNSで募った摘果のボランティアは約30名、農家さんも14軒が協力してくれ、収穫量は1300kgとなります。そして、2017年の青みかん収穫量は900kgでした。

 

「みかんには表なり(たくさん果実が実る年)と裏なり(果実があまり実らない年)があり、2017年は果実そのものが少なく、摘果があまりできなかったんです」と分析する奥井さん。みかんのこと、農家さんのこと、摘果のこと、一つひとつを明るく丁寧に語る姿が印象的でした。

 

「小山さんがいなければ青みかん商品化プロジェクトは生まれなかった」と振り返る奥井さん。

「捨てていた摘果みかんが収入になる、だからみんな(他の農家さん)も賛同してくれるんじゃないかと思って、奥井さんの依頼を受けました。ただ、(ドレッシングの価格は)安くはないですからね、奥井さんの商品が売れるのかそっちを心配しましたね」と小山さん。

 

農家さんは夏場の摘果した青みかんで収入を得、摘果作業により冬場のみかんの品質が向上しました。また奥井さんも青みかんを収穫して商品開発ができ、互いにWin-Win(ウィンウィン=関わる双方にとってよいこと)の関係を築いています。

 

2016年からは小田原のみかん農家さんの協力も得て、摘果みかんの収穫量は2トン、2017年には3トンとなり、奥井さんは年間を通して商品を販売できる果汁を手に入れることができるようになりました。

 

新しいリユースびんに充填され販売される「あおみかんのしずく」。使われている摘果の青みかんも、まさに「捨てられるものに新しい価値を見出し、生まれかわらせる」、限られた資源を余すところなく利用する精神を体現しているものでした。

 


アマンダリーナのジュース「あおみかんのしずく」。こちらは小田原産青みかんが使われている。視察ツアーでは、奥井さんのプロジェクトのきっかけとなる柴シーサイドファームを訪問した。小田原産と横浜産で青みかんの酸度は違う。奥井さんはそのままの味わいを楽しんでほしくて、砂糖などで酸味の調整をしていない

 

地産地消のエキスパート 椿さん

お昼は横浜市泉区にあるレストラン「ど根性キッチン」へ。森ノオトが編集のお手伝いをした書籍『横浜の食卓」の著者、椿直樹さんのお店です。

 

「横浜リユースびんプロジェクト」では、椿さんの助言から「地元産飲料を充填する」アイデアが生まれました。ご自身もこれまでに小松菜ジュースや柚子サイダー、シソジュースなどを手がけています。

 

お店の看板メニュー「ど根性サラダ」を食べながら、常連の方曰く「同じように野菜を買って作ってもこうはならない」。椿さんは左腕をたたきながら「それは新鮮な野菜とここ(腕)でしょう」とにっこり

 

まずは、腹ごしらえ。彩り豊かな野菜サラダ、大根を豚肉で巻いたカツや人参スープなど、野菜そのものの味わいを生かした料理をみんな夢中でほおばります。

 

先ほどお話を伺った奥井さんの「あおみかんのしずく」も、甘酒とあわせたホットドリンクとして登場。外気で冷えた身体に柑橘のさわやかな酸味と甘酒がしみわたります。

 

白いコックコート姿の方が椿直樹さん。椿さんを知る人からよく伺うのは、「人と人を結ぶ人である」と言う。アマンダリーナの奥井さんと横浜リユースびんプロジェクトの担当の方との出会いも、椿さんのお店「大ど根性ホルモン」で開催されたイベントだった(写真提供:横浜リユースびんプロジェクト)

ひと段落して、椿さんのプロフィールと地産地消へのこだわりをスライドで紹介いただきました。その中には「地元に愛される企業でありたい」とあります。以前、椿さんの取材で「横浜ビール太田久士さん」を訪ねた際にも、椿さんは「自分で感じて自分の目の届く範囲で、ちゃんと意見を聞ける人たちの判断を仰ぎながら、その人たちのためにごはんを作りたい」と語っていました。

 

地元の野菜、地元小学生たちがつくったコースターや器、それらを誇らしく語るスタッフ、そこに集うお客様、ここは椿さんの言葉がそのまま実現された空間でした。

 

横濱ワイナリーをつくったわけ

午後から訪れたのは、昨年11月に横浜元町に誕生したばかりの「横濱ワイナリー」。こちらのワインもリユースびんに詰めて販売される予定です。

 

横濱ワイナリー代表の町田佳子さんは環境保全団体で長く活躍されてきた方です。「日本の農業の問題、食の問題はつながっていなくて、生産者と消費者が分断されている。このワイナリーで両者をつなげていけたらと思っているんです」(町田さん)

 

「身近なワインを生産者と消費者の懸け橋に」

「第三者ではなく食の当事者でありたい」

静かな語り口からは想像もできないほどの熱い想いが伝わってきました。

 

ワインタンクの前に立つ町田さん。限られたスペースでのワインづくりは大変で「テトリスを作り出しているかのよう」と笑う

 

さて、ワイナリーと聞くと広大な面積を勝手に思い浮かべていましたが、横濱ワイナリーの店舗面積はわずか50m2。作業場の両端にワインタンク、ワイン製造機具がきっちり並べられ、ツアー参加者約15名が入りきれないほど小さなスペースでした。

 

ワイナリーを切り盛りするのは町田さんお一人。SNSで募ったボランティアにワインづくりを体験してもらいながら、ワイン醸造をおこなっています。

 

ワインに用いるブドウの品種はシャルドネなど西洋品種ではなく、巨峰、デラウエア、山ブドウなど食用の品種が原料です。材料の一部には、これまでは使われてこなかった摘果したデラウエアも入っています。

 

年間の製造本数は8000本。わずかな出資金をもとに運営をおこなう横濱ワイナリーはこれからが正念場です。

 

リユースびんに入るのは淡いピンクが美しい「大さん橋」という名のロゼワイン。飲んでみると、フルーティな香りと柔らかな渋みが口に広がり、ジュースのように軽いワインでした。

 

「Osanbashi(大さん橋)」。ワインには「馬車道」、「みなとみらい」など横浜らしい地名が名付けられている。使用している食用品種では糖度が足りず、アルコール分約10%。砂糖を加えれば度数は上がるが、ぶどうをそのままを味わってほしいとの町田さんの思いがある

 

横濱ワインはただの商品ではなく、作る人と味わう人をたしかに結ぶ存在として育っていくにちがいありません。

 

ツアーを振り返って

最後に訪れたのは横浜市中区の居酒屋「愛嬌酒場えにし」。こちらをはじめ関内・横浜エリアの22店の飲食店で神奈川県産飲料入りのリユースびんを取り扱っています。これまでに作成したリユースびん1000本のうち630本が販売されてきました。

 

ツアーの感想と今後も横浜リユースびんプロジェクトが続いていくためのアイデアを、参加者全員で意見交換しました。

 

「リユースびんを使うことで、環境にどういったいい影響があるのか、全体観で話をするべき」

「リユースびんを使い続けることで、小山さんの畑に苗木が1本届くとか、より具体的に消費者が応援したくなるような仕組みを作ってはどうか」

「リユースびんを何回使ったか分かる仕組みができたらすごい」

 

なかでも印象的だったのは、地域紙の女性編集者の方の意見でした。

「担当している地域紙の読者は20-30代の主婦層が多い。以前、“地産地消”の記事を編集した際、女性読者の心に響くように、おしゃれであることを心がけた。リユースびんにもそういった工夫が必要なのではないか」

 

横浜らしい「おしゃれ感」やわくわくするような楽しさを工夫して伝えることで、「地産地消」や「リユース」の取り組みがもっと身近なものになるかもしれません。

 

横浜のリユースびん、その土地で作られた飲み物、それを口にしたら、どれほどの会話や感情が生まれるのでしょう。わずかでも環境に負荷をかけない、地域の作り手を応援する、私の暮らすまちを自分の手で少しずつ形作っていく……。家族と、友人と、横浜を訪れる人たちともっともっと共有できたら。そんな未来を思うと、わくわくしますね。

 

 

※注1 果実の年ごとの収量を一定にし、品質をよくするため、未成熟な果実を間引くこと。

※注2 横浜リユースびんプロジェクト

横浜市資源リサイクル事業協同組合が主催し、さまざまな事業者からなるプロジェクト。同組合が企画運営する環境絵日記展に届いた小学5年生の作品の「ひとつのびんにいろんなものが入って循環すると環境に優しい!」という言葉をヒントにプロジェクトが生まれた

 

Information
明石 智代
この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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