大きな空の下の、ちいさな なかまたち。 ~けんかは、スポーツ~
青葉区のゆたかな自然の中で、季節の移り変わりを心とからだいっぱいに感じて育ち合う「青空保育ぺんぺんぐさ」。安心できる場で一人ひとりの意思と個性を輝かせて遊びこむことで、だれでも子どもは自ら育ちゆく「力」を発揮します。冬の終わりのできごとから、子どもたちのそんな素敵な力をお伝えできたら嬉しいです。

文=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー形式でお送りしていきます。
 
2月半ば。凍てつく空気の一方で、子どもたちどうしの関わる力はじんわり深まる季節です。

 

その日、だだっ広い遊び場で、大きな大きな叫び声がとつぜん響きわたりました。

「あっちいけ~!リョウくんはあっちいけ~!」

「ダメ~~!叩くな~~!」「叩くな~~!」「ダメ~~!!」

その叫び声はどこから聞こえてくるのかわからず、みんながキョロキョロしました。

 

冬の枯草

 

よく見ると声の先は、広場の端っこの植え込みの向こう側。その物陰で激しく泣き叫んでいたのは、年少さんのリオでした。

あれ?朝から元気に広場を走りまわっていたはずなのに、どうしたんだろう。

何度も何度も響く叫び声に、みんなの視線が一点に集まったとき、ずっとリオのそばにいたらしき2歳ぐみのハルトが、タタタタタ~~っと広い広場の真ん中に向かって走り出し、急に立ち止まって宙をにらんで叫びだしたのです。

 

「ダメ~~!」「たたいちゃ、ダメ~~!!」

 

仁王立ちで、手にこぶしを震えるほど強く握って、顔をくしゃくしゃにして、あらんかぎりの声を張り上げて叫んだと思ったら、くるりと向きを変えてリオのところに走って戻っていってしまいました。

 

見ていた私たちには、何が何だかよくわからないと思うほどの、不意な出来事でした。ずっとそばで困った顔をしていたお母さんのKさんに聞いてみると、あの叫び声は、どうやら2歳ぐみのリョウくんに向けられたもののようでした。

 

青空保育ぺんぺんぐさでは、お母さんがときどき保育のサポートに入って、子どもの育ち合いを一緒に見守っています。彼女の説明によると、その日リョウくんは、朝からなぜかひとつ上のリオに、ちょっかいばかり出していた。叩いては逃げて、叩いては逃げて、リオも叩き返しては逃げて、それがはじめは楽しそうに追いかけっこの遊びのようだった。叩きすぎてけんか別れのようになっては、また追いかけっこ始めたり、ハルトも加勢してリオと2人でリョウくんにはやし立てたり、だんだん「いじめ」のようになってきた、ということでした。

 

おいかけっこ

 

「1~2か月前までは、みんなけんかしてもパッと離れて他の遊びして、気がつくとすぐ仲よく遊んでいたのに、今日は朝からリョウくんとけんかが続いていて……。大人はどう付き合ったらいいのか。けんかも簡単じゃない年になってきたのかな」と、ちょっとため息交じりの声でした。

 

そりゃそうですね。だって、リオはもうすぐ4歳。ハルトやリョウくんは、もう3歳も終わりごろ。けんかしてもすぐ忘れる、なんて時代はそろそろ卒業です。だからこそ、けんかがおもしろくなってくる。けんかの気持ちを言葉にできるようになってきて、いろんなことを考えたり、心を動かしたりすることができる年齢になってきました。

 

2歳どうしの涙は、この後すぐケロリと笑顔で遊んでいました

 

とられて、イヤだったね

 

やがて、リョウくんが走り出し、走っているうちに転んで泣いてしまいました。地面に伏せたままのリョウくんに近づいて、リオとハルトがやってきて、「フフ~ン!」「ヘ~!」と鼻を鳴らしはじめました。

 

泣きつづけるリョウくんに、私も近づき聞いてみました。3歳のリョウくんやハルトはやはりうまく言葉にならなくて、年少さんのリオに聞いてみようと思いました。リオは「だってリョウくんがたたいた。だってアンちゃんが。アンちゃんが・・・」と。「リョウくんがアンちゃんのところに座ったんだ。ダメって言ったらたたいて、あそこでもたたいて、ここでもたたいて、あっちでもたたいて・・・」と何度も言い直しながら教えてくれました。

 

「そうか、リョウくんは4回もたたいたの?それは嫌だったね」と、私。

するとリョウくん、「4回じゃない、2回」「リオもたたいた」と。

「ちがう、リオは1回だけたたいた。2回たたいたら嫌だ。1回だけならいいけど」と、リオ。

 

なんだかほんのささいな主張のぶつかり合いに、私は笑いをこらえながら、たたいたリョウくんには、もっと違う理由もあったような気もしましたが、どうやら2人の頭に残っているのは「リョウくんが2回たたいたこと」と「リオが1回たたいたこと」のようでした。そして原因はアンちゃんの座っていたところにリョウくんが座ろうとしたからだったようです。

 

どうしたの?

 

やがて年中長たちも駆けつけてきました。日ごろからけんかが起きるとああでもないこうでもない、と一緒に解決策を考える大きい子たち。子どもたち自身も、大人から言われるより友だちから言われることの方が心に響くみたいです。

 

その大きい子ぐみの中では普段一番おみそのリオは、甘えん坊でみんなから守られることが多かった。そして、自分より小さい子が一緒の日は、この日のようにリオは肩をいからせて大いばりで遊んでいたのでした。

 

だから私はいい刺激になるといいなと、ほんのちょっとだけためしに小さな声でリオに聞いてみました。

「あれ?ところでね、リオって大きい子だったよね?あれ?小さい子たたいてよかったっけ?」

 

ところがリオより先に、年中長たちが次々答えはじめました。

ヤーくん「オレはナオトに叩かれても、倒れるマネするよ~」

オウスケ「そうだよね。小さい子は叩かないよね!」

ナオト「オレはリオが叩いたらパンチのまねするけど、優しくパンチする!」

ヤーくん「そうだよ~リオも小さい子叩いちゃだめだよ~」

妙に得意気でおどけた彼らの返答。思いもかけず、やじうまに囲まれたような状況に、リオは少しずつ気まずい顔になってきて、下を向きはじめ、私が声をかけても反応しなくなってしまいました。

 

続いてそばにいたウタコ・コッちゃんも、同じ年のアイちゃん・メイちゃんまでも、「小さい子は叩かないよ~~」と言ってくるので、うつむいて黙りこくっていたリオは、さらにどんどん頭を落としていき、ついに私の手を力いっぱい振りほどいて、パッと走って行ってしまいました。

 

でもね、あれだけ朝から火花を散らせ合っていたリオとリョウくんだったのに、そのあとリョウくんが「リオ!リオ!」と名前をしきりに呼んでついて回り、リオもまんざらでもない様子で仲睦まじく小枝の工作をしていました。リョウくんはリオの作るものを一生懸命マネして、一生懸命リオにくっつき、お弁当もにこにこ笑いながら隣りどうしで座って食べていました。

 

ふたり

けんかの後に、焼きみかんをいただく

先のお母さんKさんは、あの時3人が「いじめ」のようになってきた、と言っていました。ときどきほかのお母さんたちからも、そんな言葉が聞かれることがあります。でもこれって「いじめ」なのかしらと思うことが、しばしばあります。

 

必要があればもちろん大人は仲立ちに入りますが、男の子きょうだいがいればよく見られるように、男の子って、遊べるようになってくると、けんかすれすれの遊びをするようになるんですね。泣きそうになりながらも、キャッキャと笑っている。泣かされても痛くても、遊びたい気持ちの方が勝ってしまう。こんな遊びが見られるようになってくると「ああ、○○くんはたくましく遊べるようになってきたなあ」と私は思うのです。だって、本当のところ、けんかほどスリルのあるものはない。けんかすれすれの遊びは、遊びなれた息の合う友だちとしかできないんです。

 

子どもの遊びって、大人の想像をはるかに越えたもののような気がします。だってあの時、大好きなリオをかばって仁王立ちして叫んだハルトの表情に、なぜだかまわりにいた大人たちは心を動かされました。忘れられない光景だったと、しばらく語り草になったほどです。

 

そして、この2~3日あと、おうちでリョウくんがこのケンカのことをふと話し始めて、「そうか、ボクがちがうところに座ればよかったんだ」と呟いてひとりで納得していたそうです。半年まえには、ちょっとはじかれただけで何日もしょんぼりして、しばらく友だちとうまく遊べない時期が続いた、あのリョウくんが、です。このことをずっと心配していたリョウくんのお母さんは、いつの間にか打たれ強くなっていたことと、こんなことまで考えるようになったのね、と涙ながらに喜んでいました。

 

けんかはスポーツ。そして、心の栄養。

そう思うことがたびたびあります。「ごめんね」というばかりが、けんかの結末ではないようです。

けんかすればスカッとするし、けんかするほど仲がいい。けんかがぐんと子ども同士の距離を縮めてくれたり、こころを深く育ててくれることって、とても多いような気がします。

 

息の合う友だち

 

 

*   *   *   *   *   *   *   *   *

 

この春、お花をいっぱい摘んで、冬の間ご無沙汰だった小さな生き物にも夢中で出会っている。少人数異年齢できょうだいのように育ち合うぺんぺんぐさだから、3月の別れは寂しくて、ぽっかり心に穴が開いてしまったような子がいたり、なんだかぎこちなさもあったりするけれど……

自然のなかで、おもいっきり遊んだり

 

一緒にキイチゴや桑の実を食べたり、どろんこしたり、雨宿りしたり、笑い合ったりして、新しい仲間との時間を紡いでいる

 

そして・・・やっぱり暑い日は、水で遊ぶのが楽しい!

 

Information

【土と水と草と虫とあそぼう会】 ◎暑い日は水に濡れたり涼しい木陰で、雨の日は雨宿りや雨だれも楽しんで、その季節ごとの楽しみはいっぱい。夏を涼しくあそぶコツもお伝えします。   日時:6/21(木)7/19(木)8/27(月)9:45~13:00 以降毎月第3木曜 場所:桜台公園またはしらとり台第一公園 青葉台駅より徒歩10分と5分 参加費:400円+100円保険代 申し込み:前日朝11時まで Mail:aoba.penpengusa@gmail.com 電話:090-9147-3027(内藤)   ※のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会とおしゃべり会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。 ※天候が悪い日は、屋内もある場所で畑あそびやたき火体験等に変更する場合があります。 ※変更の場合がありますので、HPでご確認ください。     【月刊クーヨン編集長・戸来祐子さん講演会『外で遊ぼう。100のしつけより大切なこと(仮題)』】 ◎9月に講演会が決まりました。さまざまな情報にあふれている今、国内外の子育てや幼児教育の実践をたくさん見てこられた編集者として、何を大切にしたらいいかヒントをお話いただきます。   日時:2018年9月21日(金) 10:00~12:00頃(9:40会場) 場所:もえぎ野地域ケアプラザ(東急田園都市線「藤が丘駅」より徒歩7分) 参加費:500円 ※9月まではあそぼう会と同じ電話・アドレスにお問合せ・お申込み下さい。8月下旬ごろからHPで詳細をご案内します。 ※託児予定はありませんが、マット敷きの座席でお子さんと同室できます。 ※交流会&活動紹介も予定しています。お弁当持参で一緒におしゃべりしましょう。     青空保育ぺんぺんぐさ  http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/   NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟会員  http://www.morinoyouchien.org/   Profile 土井三恵子 青空保育ぺんぺんぐさ保育士。10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園勤務、そして横浜市青葉区のお母さんと青空保育を立ち上げ、7年目。現在保育者4人と親子20組でにぎやかにすごし、野山で土や水や草や虫と子どもたちとたわむれ、日々小さな発見に胸を躍らせる(ザリガニを見つけると急に真剣になって子どもと張り合ってしまう面も……)。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。  

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