洗濯ブラザーズに会いに! クリーニング屋さんが本気で作ったナチュラル洗剤”LIVRER”(リブレ)
「ナチュラル洗剤の量り売りをしている人がいるよ」という話を頻繁に、あちこちから耳にするようになっていた私。さらに「シルク・ドゥ・ソレイユなどの世界的なステージや有名アーティストの舞台衣装をクリーニングしている」「自分たちで洗剤も作っている」「洗濯ブラザーズというらしい」。もう、なんだか気になってしょうがない。先日イベントでご一緒する機会があり、これはチャンス!と、早速お話を伺ってきました。

舞台衣装も手がける「まちのクリーニング屋さん」

横浜市都筑区すみれが丘。教えていただいた住所を頼りに行ってみると、そこには、宅配クリーニング「LIVRER 」(リブレ)と書かれた、いわゆる街のクリーニング屋さんがありました。

すみれが丘バス停がある交差点の角にあるLIVRER YOKOHAMA

迎えてくれたのは店長の茂木康之さん(38歳)と妻の由美子さん。

看板娘の由美子さん。初めてきたお客さんもこの笑顔に癒される

 

取材前は、てっきり、家業のクリーニング業を継いでいらっしゃるのかと思っていたのですが、実は康之さんが起業してクリーニング業界に飛び込んだのだそう。

 

康之さんはアパレル会社でテキスタイルの仕事をしていました。生地の特性などに特化した分野だったので、別の仕事で起業したい、と思った時に、生地を取り扱うクリーニング業界を選んだのは自然な流れだったと言います。

 

宅配クリーニングをメインに青葉区のさつきが丘でスタートしたのが11年前。現在の都筑区すみれが丘に移ってきたのは7年前のことです。

街のクリーニング屋さんがどんどん姿を消す中、なぜ新規参入でクリーニング屋さん?と、ますます興味が湧きます。

普段は宅配に出ていることが多い康之さん。お店にいる日は接客も

 

康之さんもこの仕事をはじめた後に知ったことだそうですが、実は、青葉区や都筑区周辺は、劇団四季をはじめ、大手劇団系の研修センターや、音楽業界の保管庫や倉庫が集中しているエリアなのだとか。アーティストのデリケートな衣装を扱えるクリーニング屋の職人さんがどんどん高齢化し、後継者問題に頭を悩ませていたところ、康之さんの技術や知識を知った劇団関係のお客さんたちから紹介を受ける形で、衣装などの専門的なものも取り扱うようになりました。

 

アーティストの衣装は、普通に洗うと色移りしたり縮んだりと、ダメになってしまうものもあります。一点もので、洗濯表示や素材表示がついていないことが多く、洗うことを前提につくられていません。その状況で、衣装についた汗やファンデーションなど、一つひとつ素材を見極め、汚れの質を見極めながら取り扱う必要があり、非常に神経をつかいます。

 

アーティストは、ステージで大量の汗をかくので、肌が敏感な人は洗剤残りなどがあると肌のトラブルにもつながります。

夜預かった衣装を次の日の午前中に届けることも多々あります。通常であれば、ドライクリーニングで洗いますが、ドライクリーニングは石油由来のもので洗うので、要は石油をかぶっているのと同じこと。時間がない中の作業で、乾燥不足のまま着用すると低温やけどを起こすこともあります。実際にそれで訴訟になっているケースもあるそう。

 

 

ここで、一つ疑問が浮かんできました。

おしゃれ着洗いは、ドライクリーニング! と、ずっと思い込んでいましたが、なぜドライクリーニングなのだろう?

基本的に洋服の一番の大敵は水で、水が一番生地を劣化させるのだそうです。

「油で洗えば洋服は長持ちする、洋服にとってはドライクリーニングはすごくいいものなのだけど、人体、肌、環境を考えるとよくない。ゼロにするのは難しいけど、その比率を変えたい」。それは康之さんが当初から思っていたことです。

洗濯ブラザーズ。右が康之さんの兄の貴史さん(写真提供:LIVRER)

 

兄の一言で「オーガニック洗剤」に出会う

康之さんが試行錯誤している頃、兄の貴史さんは、オーガニックコスメの業界にいて、海外からのトレンドや情報に詳しく、世界の動向を康之さんに、こんな風にアドバイスしていました。

 

「ニューヨークやカリフォルニアでは、すでにオーガニックライフが根付いていて、オーガニックの洗剤はもちろん、容器ゴミを増やさないよう、洗剤の量り売りは当たり前。この波は必ず日本にも来るはず」

 

兄弟の共通の趣味でもあるサーフィンで、海と日頃から接していた康之さんと貴史さん。地球温暖化やプラスチックゴミの海洋汚染の問題など、暮らしの中で自然と環境問題を身近に感じていました。

 

海や川に排出される普通の洗剤は、微生物などによって分解されて無機物になる生分解性はほとんどなく、200年近く分解されずに海に漂ってしまうと言われています。工場は保健所などの外部監査による廃水の水質基準が厳しいのですが、家庭には排水基準がないので、意識しないでいると合成洗剤が垂れ流しになってしまいます。

 

「通常、生活排水のうち70%以上は海に流れてしまいます。そこ(海)を一番守りたい。ぼくらは、海で遊ばせてもらっているので。それプラス、海を汚さない洗剤を自分の仕事の中でできないかというところはテーマでしたね」(康之さん)

 

「本当にいい洗いをどうやったら自宅でできるか」

 

着る人のことを考えたら、洗剤もオーガニックなものがいい。その頃は、世界中からオーガニック認証がついている、ありとあらゆる洗剤を輸入し、試しながら使っていたと康之さんは言います。しかし、オーガニック認証が付いているものは、ナチュラル度が高いものの全く汚れが落ちず、風合いを損なったり、納得できる仕上がりにならず……。これをお店でメニューとして加えた時にお客様からお金を取れない、というのが悩みでした。

 

貴史さんから6年前に「肌にふれるものについても、日本はまだまだケミカルな成分のものを消費している。海外は保険適用がないから自分で健康管理する知識を身につけて安全なものを選ぶ。クリーニングもそういう時代が来る」と、その頃の自分の仕事を痛烈に批判されたことが、合成界面活性剤を使用せず主成分は石鹸でありながらしっかり洗える、納得のいく洗剤を自分たちで作る、という方向へと向かわせたといいます。

 

一番難しかったのは、柔軟剤。柔軟剤は本来石油からできているため、ナチュラルなものは存在しませんでした。

大豆を使った柔軟剤の研究開発が進んでいると聞きつけて試してみたものの、確かに柔軟性はあるものの衣類が大豆くさくなる、という経験もしました。

 

柔軟剤はそもそも香りをごまかすと同時に肌ざわりを柔らかくするもの。洋服にとっては油が膜を張って柔らかくするという効果はあるけれど、肌着やタオルなど、吸水させたいものに使う場合、その油の膜が張られているので水を吸わず、給水性が落ちてしまいます。せっかくの高級タオルが1,2年でダメになってしまうというのはこのためなのだそう。

 

 

では、柔軟剤無しにするにはどうしたらいいか。

洗剤づくりを委託するラボにベースとなる成分の構成を指示し、柔軟剤を入れない代わりに、ベジタブルグリセリンという保湿剤とアミノ酸、パームオイルを配合すれば、石油由来の界面活性剤や柔軟剤を使わなくても、洗濯洗剤だけで柔らかいドライクリーニングに出したような風合いの仕上がりになることがわかりました。

 

この配合をベストバランスに改良することに2年かかりましたが、やっと風合いと洗浄力に納得のいくものが出来上がりました。

 

 

洗剤は多すぎずに洗濯機の容量に合わせて使う

今年から、クリーニング屋と別に、兄弟で「BARREL」(バレル)というオリジナル洗剤の会社を立ち上げ、二人で経営しています。

 

「クリーニング屋が本気で作った洗剤」の販売を始めるにあたり、実際に普段みんながどんな洗濯の仕方をしているのか、イベント時やお店の一角を一時的に借りて販売するポップアップ店舗で販売しながら直接お客さんと対面し、リサーチを続けてきました。

ポップアップ店舗では、お客さんと直接やり取りができる。容器を持参してもらい必要な量だけ購入できる量り売りをしている(写真提供:LIVRER)

 

そうしてわかってきたことは、自分の洗濯機の容量、洗剤の量をわかっていないこと、洗剤の量を多めに入れている人が多い、ということでした。

 

洗剤の量が多いほうが綺麗に落ちるのでは? と思いがちですがそれは全く逆で、洗剤濃度が高いと泡立ちが逆にクッションになり、汚れを保護してしまいます。結果、洗剤も生地に残留するので、汚れが落ちないし、洗剤も生地に残って黄ばみに変わったり肌トラブルの原因にもなるので、各メーカーが指定している量を上回らないで設定するというのが基本ルール、なのだそう。

 

私も早速LIVRERの洗剤を購入し、家で使ってみようとしたところ、確かにこれまで洗剤の量を測ったことがない。

そして自分が使っている洗濯機の容量も知りませんでした。そこで、説明書を引っ張り出してきて探したのですが、そもそも洗濯機に容量が書かれておらず、洗剤量がわからずじまい……。

 

そのことを康之さんに話したところ、「ドラム式ですね?」と。ご名答です……。

ドラム式洗濯機は、洗濯機自体が洗濯物の量によって水量を自動で測る、機械任せになっているもの。日本の洗濯機全般に言えることとして、水量が少なめに設定されたものが多いのですが、ドラム式はさらに水量が少ない。

 

「節水をうたっているものが多いけれど、水量の少ない洗いはいい洗いができない」と康之さんは言います。

そして、海外とは水質も違う。海外は硬水なのでドラム式洗濯機の基本の洗い方でもある叩き洗いが必要になりますが、日本の水は「超軟水」で、叩き洗いの必要がないため、二層式や全自動のもみ洗いのほうが、日本の水質にあっているのだそう。

我が家では随分前にドラム式洗濯機を購入してずっと使っていたのに……とほほ。

 

 

でも、一工夫加えることでドラム式でも大丈夫とのこと。

ドラム式の場合は、重さで水の量を決めるので、バスタオルなど洗濯物に先にお水を含ませて重くしてセンサーをごまかせばいい、というアドバイス。

そして、どの洗濯機でも言えることは、先にお水と洗剤のみを入れて、洗濯物なしで3分程度撹拌してしっかりと洗剤を溶かすこと。

 

 

最初のうちは蓄積されている石油由来のものの成分が残っているので衣類が軋みますが、使い続けることでだんだんとそれが取れて本来の柔らかな風合いが戻ってくるのだそうです。

リネンなどの風合いを損ないやすいデリケートな衣料用洗剤

洗剤から広がるコラボレーション

LIVRERに来るお客さんは、いい服を長く大切に着たい、環境にも配慮したい、としっかりとこだわりを持つ方が多く、一度使った方のリピート率が高いのも特徴です。

 

柔軟剤を使用していなかったものの、洗濯せっけんでの洗い上がりに満足ができず、やっと出会えたと喜んでくれる人も。

少しずつ販売してもらうお店を増やしたり、ネットでも購入できるようにシステムは整えてきたものの、店舗には、相模原や湘南、都内は練馬や吉祥寺など、未だ遠方から買いに来る人も少なくありません。

 

 

この夏から、六本木ヒルズや銀座、大阪などでハイエンドなブランドを取り扱うセレクトショップ「ESTNATION」でLIVRERの洗剤を取り扱うことが決まっています。

そのほか、リネン専門の繊維メーカーとリネン素材の風合いを損ねないことに特化した洗剤を共同開発したり、アウトドアブランドとキャンプ用品などのアウトドアギアを長く、風合いよく洗える洗剤の開発を共同で行ったりと、企業からオファーがかかるようになりました。

 

これまでポップアップ出店し、一点一点洗濯の仕方などをお客様に丁寧に説明し、自宅でもプロの仕上がり具合になる洗い方を伝えてきたことが、新しい展開へとつながっています。そして、現在、海外の企業からもオファーが次々とくるようになり。この夏、ニューヨークのブルックリンにある大手百貨店での取り扱いも決まりました。

洗剤を売るだけでなく、楽しくハッピーになる”センタクノシカタ”を伝えている

 

洗濯ブラザーズも、最近兄弟が増えたのだそう。元々LIVRERの愛用者で、SNSでのPRやブランディングの仕事をされていた今井良さんが「三男」として加入。

 

「洗濯ブラザーズ」というネーミングをつけたり、ハッピーハンバーグというTシャツブランドと「ハッピーランドリー」Tシャツを作るといった、洗濯というものをわかりやすく、楽しくPRするというのも今井さんのアイデア。そして、さらに今海外には「洗濯ブラザーズの妹」も増え、海外支部として展開するスタッフも動いています。

 

洗濯ブラザーズの三男も一緒に。お母さんは「三人産んだ覚えはないんだけどね」と(笑)写真提供:LIVRER)

 

「洗濯って元々面倒なものなんだけど、たたんでいるときに柔らかかったりいい香りがしたり、汗臭さが取れていたり。そんな些細な幸せが日々のストレスを緩和したり、楽しく、一つ上質な暮らしになっていくのではないか。洗濯という時間を、家族みんなが日々楽しくなるものに変えていきたい」と言う康之さん。

 

私も、LIVRERの洗剤を使うようになり、洗濯機から洗濯物を取り出す瞬間が一番好きな時間になりました。そして、洗濯物を干す時間にふんわり香る優しい香りも。

青リンゴ、ベルガモット、ビーチ、ローズ&カモミールなど、いろいろな香りがあるので、自分の好きな香りを選ぶのも楽しい

たたむのは未だ苦手ですが、ふんわりした肌触りの洗濯物に触れると嬉しくなります。

そして、嬉しいことに、肌が弱いからしょうがないものと諦めていた、汗をかくこの時期の肌の痒みが気にならなくなっていたことに気づきびっくりしました。もしかしたら洗剤効果かも?と、個人的ににんまりしています。

 

タオルがふんわりしていると気持ちがいい。

ほんのちょっとしたこと、でも、日々のことだからこそ、「ハッピーランドリー」が、今、私の毎日のブレイクタイムになっています。

 

Information

LIVRER yokohama

横浜市都筑区すみれが丘20-2

045-624-8320

営業時間:10:00~18:00

定休日:水曜日

※オンラインでも購入できます

https://livrer.stores.jp/

 

 

BARREL

https://www.barrel-japan.com/

 

 

 

 

Avatar photo
この記事を書いた人
齋藤由美子AppliQué事業部マネージャー/ライター
森ノオトの事務局スタッフとして、主にAppliQuéのディレクションを担当。神々が集う島根県出雲市の田舎町で育ったせいか、土がないところは落ち着かない。家では「シンプルな暮らし」関連本が十数年にわたり増殖中。元アナウンサーで、ナレーターやMCとしての顔も持つ。小3女子の母。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく