素材の味わいに寄り添う卵|織茂養鶏場・織茂武雄さん
料理人から素材の味を引き立てる味わいの卵があると聞き、横浜市都筑区南山田町にある織茂養鶏場を訪れました。料理人も太鼓判を押す、その味の秘密とは……。

都筑区南山田町の早渕川沿いの道を歩くと、「うみたてたまご直売」の幟(のぼり)が見えてきます。

 

直売所の入り口にも同じ黄色の幟があり、目をひく

 

その角を曲がって少し歩くと、コッコッとさざ波のような鶏たちの鳴き声。その鶏舎の奥に織茂養鶏場の直売所がありました。取材に訪れた午前中は、夕方から台風が横浜に接近するかもしれないという予報で、次々と訪れる人々もどこかせわしない印象です。直売所では、織茂養鶏場代表の織茂武雄さんの奥様がお客様の注文を聞きながら手際よく卵をパック詰めしていきます。見ていて気持ちのいいくらいテンポよく卵がなくなっていきました。

 

直売所には近隣の農家さんや織茂さんのご家族の作る野菜も並ぶ

 

作業から戻られた織茂武雄さんから養鶏についてお話を伺いました。

かつては、田畑の耕作を主にした農業で、少数ながら鶏、豚、山羊や兎などが飼育されていたそうです。昭和30年代に入り、お父様(先代)が養鶏主体の農業へと転換、規模を拡大していきました。

織茂さんが20歳の頃に就農、現在は、お母様、奥様、息子さんとともに経営に当たっています。

 

■養鶏農家のおもしろさ

 

織茂さんは3,000羽のボリスブラウンという種類の採卵用の鶏を飼育しています。この鶏は羽色が茶色で産むのは通称赤玉の卵。毎日、2,500~2,700個の卵を出荷しています。

鶏舎の中は細長くひな壇上に並び、その中に鶏が収容されています。この形式は近代養鶏の「一般的な鶏舎の構造」だそうで、より合理的で衛生的な卵の生産を可能にしています。

 

もちろん、鶏への病気の感染防止のため、一般の人は立ち入り禁止、また感染原因となる野鳥や小動物の侵入を防ぐため、周囲には目の細かいネットで囲まれています。

 

養鶏のキャリアはもうすぐ50年をむかえる織茂さん。

「小さな頃から(農家を継ぐように)何気なく言い聞かされていた。その延長線上が今」と笑います。織茂さんは長男として、ごく自然に養鶏場を受け継ぎました。

 

とはいっても最初から養鶏に魅力を感じていたわけではないようで、同業者や取引先の人達から知識を学び、自身も経験を積んでいく中で、「何よりも卵を通じてお客さんの喜ぶ声が励ましになって仕事ができた」と織茂さんは話します。

 

「若い鶏が産む小ぶりな卵。活きのよさでおすすめ」と織茂さんの奥様

 

卵についての見方が変わったのは、問屋さんから特殊卵(ヨードやカテキンなど)の生産を持ち掛けられたことがきっかけでした。以来、餌の配合を工夫し、自らの目指す卵を模索するようになりました。

「炊き立ての新米はおいしい。卵かけごはんにした時、そのごはんにつりあう卵って何だろう?」

そんな疑問から織茂さんの目指す卵は「雑味のない卵」。すっきりした味わいでどんな料理にでも合う万能な卵です。

新鮮な水、こだわりのエサ、きれいな空気で育む鶏から織茂さんの卵は生まれます。

 

■古くて新しいマザーチキン

 

「鶏は産み始めて1年で300個からの卵を産みます。その後生産は落ちていきます。ここでは安定した生産と品質を保つため、およそ1年で鶏の更新をおこなっています」と織茂さん。

そこで、織茂さんが今取り組んでいるのが「マザーチキン」。これは養鶏場で飼育され、一定の採卵期間を終えた親鶏のことです。

かつては普通に食べられていた親鶏ですが、柔らかい肉質のブロイラー(肉用鶏)が出回るようになり、今では食卓に上ることはほとんどなくなりました。

「ブロイラーの飼育期間は2カ月前後、マザーチキンは1年半から2年余り。鶏のうまみは日々蓄積されて、その飼育期間の長さで決まります」と織茂さんは言います。

 

ボリスブラウンは採卵用鶏の主要品種。織茂養鶏場では朝4時に起き、8時頃には大半の卵が産みそろい、集卵作業は日に3~4回行われます

 

このうまみを生かすのは、レストラン ペダル ドゥ サクラのオーナーシェフの難波秀行さん

「織茂さんと出会ってマザーチキンをスープのだしに使うようになりました」。

シェフも太鼓判を押すマザーチキンですが、多くは加工食品の原料として使われている現状があります。

「昔は普通に食べられていたマザーチキンをまた味わってもらいたい。手軽に味わってもらえるよう加工品やレシピ開発などを進めたい」と織茂さんは意欲を示しています。

 

■織茂養鶏場の卵

 

ところで、卵の良し悪しはどこで決まるのでしょうか?

「外観では、殻が形よく均一な茶色であること。きめ細かいしっとりとした艶のあるものがいい。中身はひとそれぞれの好みです」と織茂さん。

殻と中身の良さはほぼ比例するそうで、「殻がしっかりしていれば中身もしっかりしています」と教えてくれました。

織茂さんは、毎日卵かけごはんで自身の卵を味わいます(これには品質の確認も含まれているそうです)。

「たった1個じゃ品質の確認にはならないかもしれないけど……(笑)。卵かけごはんには醤油だけじゃなくて、キノコやノリの佃煮、塩昆布やふりかけなどと合わせてもおいしいね」と織茂さん自身も卵を楽しみます。

 

織茂さんは50年ちかくのキャリアを持つ養鶏家ですが、「生産現場での苦労は年々増していきます」と明かします。特に近年の猛暑で鶏にとっても過酷で、年間を通して安定した卵の品質にに苦心しています。

「ミストや扇風機を設置してかなり良くはなったが、もう一段の改善が必要」と織茂さん。

 

織茂さんの卵はどこで手に入るのでしょうか?

織茂養鶏場では市場に卵を出荷することなく、6割ほど自宅の売店で、他はJAの直売所や朝市で販売しています。

「自分はお客さんには恵まれている」と謙虚な織茂さんでした。

 

卵の殻をそっと触り、しっとりした艶を感じてみる。そして、器に卵を割り入れる。卵を味わうのは卵の殻からなのかもしれない

 

台風直前に飛ぶように売れていた卵。私も購入せずにはいられません。

やっぱり味わうなら卵かけごはん!ぷっくりと白身がふくらみ、黄身はきれいな黄色。炊き立てごはんで卵かけごはん。

確かにすっきりとした味わいでいくらでも食べられる気がしました。

「全国にはこだわりのおいしい卵はたくさんある」という控えめな織茂さんのつくる卵は、ごはんにそっと寄り添うような味わいでした。

 

「親に何気なく言い聞かされてなんとなく農家になった」と冗談ながらに笑う織茂さんが印象的でしたが、2歳くらいのお孫さんが直売所の店先に立ち、愛らしい笑顔をふりまいていました。卵に触りたくて仕方ないお孫さんに、織茂さんの奥様が手を添えてそれを支えます。

ここから農家の道のりがはじまっているのかもと、思わず笑顔になってしまうのでした。

Information

織茂養鶏場

住所:横浜市都筑区南山田町4526

営業時間:10:00〜12:00、13:00〜17:00

https://www.facebook.com/pg/yokohamaeggs/photos/

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この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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