積んでいるのは本と夢と情熱。都筑のまちに「ブックカフェ」を走らせよう!
横浜市都筑区エリアで、オレンジカラーのキャンピングカーに約300冊の絵本を積んで、まちの各地でブックカフェを開こうというプロジェクトが進行中です。「走らせよう!ライブラリーバス横浜都筑実行委員会」の代表、江幡千代子さんにお話を伺ってきました。

まちなかを走ればひと際目をひくオレンジ色にペインティングされたキャンピングカー、その名も「オレンジボーイ」。この車に絵本を積んで、人が集まる場所へ出向き、3時間のカフェをオープンさせる。絵本を読んだり、紙芝居をしたり、はたまたお茶やお菓子を楽しんだり……、聞いただけでもワクワクするようなプロジェクトが、横浜市都筑区で動き出しているのをご存知でしょうか?

通称「オレンジボーイ」。約300冊の絵本を乗せて走ることができる。貸し出しはできないが、開催場所に合わせた本を選んでいくそう(写真提供:江幡千代子さん)

 

「いわゆる移動図書館ではないの。かといって新しい図書館をつくろうだなんて構えずに、行った先で3時間、本が楽しめるカフェが開けたら、単純に楽しいだろうなぁって思うから」。そう話すのは、同プロジェクト実行委員会の代表、江幡千代子さん(74歳)。

 

横浜の図書分野の文化人、と言えばお名前をよく耳にしていた江幡さんですが、私が初めてお会いしたのはつい最近のこと。「つづきブックカフェプロジェクト」としてライブラリーバスの運営費用を集めるクラウドファンディングに挑戦している江幡さんのプレゼンテーションを聞く機会がありました。世代で言えば、“私たちの親世代”の方が、“自分たち”で“移動するライブラリーバス”をつくる……。なんと新しくて魅力的なプロジェクトなのだろうと感じた私は、改めてお話を伺わせていただくことにしました。

 

訪ねたのは、江幡さんのご自宅、都筑区にある集合住宅の一室です。センス良くリノベーションされたご自宅の一部屋に本棚を並べ、2017年1月から「ふわり文庫」として毎月第1日曜、第3水曜に近所に向けて開放しています。

 

この日は、「ふわり文庫えくぼの会」という集まりが開催されているところでした。江幡さんと親交のある方々が集まり、語りや手遊びを披露したり、自身の活動を紹介したりとにぎやかに会は進みます。この日のテーマは「めでたい話」ということで、江幡さんは『まのいい りょうし』(瀬田貞二=再話、赤羽末吉=絵/福音館書店)という絵本を取り出し読みました。主人公の猟師が息子の七つのお祝いにと猟に出ると、おもしろおかしく次々に獲物を手に入れていきます。運が運を呼ぶめでたい話に、大人も子どももクスクスと笑ってしまいました。

『まのいい りょうし』を朗読する江幡さん。この日のメインゲストは千葉県船橋市のマンションの集会室で45年にわたって「かしの木文庫」を続けている久保田しげ子さん。久保田さんの素話は大人も子どもも物語の世界に引き込まれた

 

江幡さんが横浜市の図書館に関わるようになったのは18年近く前のこと。都筑図書館開設5周年記念事業の終了後に、有志で図書館を応援する「つづき図書館ファン倶楽部」を仲間と一緒に立ち上げます。図書館や都筑区の図書環境の向上を応援するボランティアとして、通信を発行したり、学校の図書館司書の配置を市に働きかけるなど、都筑区の図書文化の醸成に貢献してきました。

 

2012年には新しい動きとして、高齢者を対象にした「JiJiBaBa絵本塾」を江幡さんらは企画します。
「ほら、孫が生まれると絵本を読んであげたりするでしょう。そしたら絵本が身近になるし、それに年配の人たちの時代には絵本なんてほとんどなかったから、逆に新鮮に感じてはまっていく人もいるのよ」。
この企画は盛況に終わり、自分の孫たちだけじゃなく、地域の子どもたちにも絵本を通した活動をしようと「JiJiBaBa隊」が発足。平均年齢は70歳、今では4カ所での定期的な読み聞かせの活動をするなど幅を広げています。

 

「ジジババの活動があって仲間がいるから、新しいことにチャレンジするときも後押ししくれるの。年寄りになるのがこんなにおもしろいなんて思わなかった。74歳っておもしろいのよ」と、ふふふと笑う江幡さん。

ふわり文庫には約1,000冊の絵本が並ぶ。「梨紗は絵本に勇気づけられていたから」。ふわり文庫を始めたのは、心臓病で亡くなったお孫さん梨紗ちゃんへの思いから

梨紗ちゃんに絵本を読む江幡さん(写真提供:江幡千代子さん)

 

しかし、江幡さんの口から次々出てきていたポジティブな言葉が一瞬止まりました。
「あの時は体調を崩してしまうほど落胆しましたね。みんなで思い描いていた理想の図書館ができることを夢見ていたから……」。

 

港北ニュータウン開発時に文化施設用地として計画されていた都筑区の中心地、センター北駅前にある広大な市有地に、もし図書館ができたら……と江幡さんは仲間と期待していたそうです。長年みんなが待ち望んでいた区民文化ホールは実現することにはなりましたが、そこに図書館はありませんでした。

 

「その時にようやく気付いたんです。そもそも市の長期計画にないものは形にならないもの。公とは違う自分たちらしい本の広め方を考えていこうと決意したんです」。

 

江幡さんは2017年11月25日に「このまちに、ライブラリーバスをはしらせませんか?」と呼びかけるのです。イメージはありました。以前にSNSで偶然見つけたイタリアの山岳地帯で本を積んだ三輪図書館を走らせるおじさん、鹿児島県指宿市でクラウドファンディングに挑戦している移動図書館……。江幡さんの呼びかけに集まった8人で、その日のうちに実行委員会が結成され、ライブラリーバスのプロジェクトは走り出したのです。

 

そこからは、まさに『まのいい りょうし』の如く、トントンと事が展開していきます。ライブラリーバスを始める上でまず必要で、一番お金のかかる車。実行委員会のメンバーの知人から、普通車を改造してつくったキャンピングカー「オレンジボーイ」を借りることができました。車内に積む本は、江幡さんの自宅で開いている「ふわり文庫」の絵本を、「ライブラリーバスを走らせたい」と声をかけると「うちにも来てほしい」とあちこちで手が挙がりました。実行委員には多彩なメンバーが集まり、それぞれの得意なことを持ち寄って、このプロジェクトを進めています。

 

「こんな世の中ってあるんだなぁって不思議に思うほど運よく進んで。私自身は人より何かできるわけでもないし、モノも持っていない。でもだから思いつくこととか、ないからこそ工夫を楽しむことができるんだろうなって思います」と頷く江幡さん。

センター南の子育て地蔵まつりで、初のブックカフェ開催。絵本作家のこがようこさんが自身の絵本の読み聞かせをした(写真提供:江幡千代子さん)

 

2018年9月に地域のお祭りで初めてバスを走らせ手応えを掴み、12月には港北区大倉山のコミュニティカフェ・大倉山ミエルで開催をしました。実施するたびに、オレンジボーイの懐の深さを感じているのだそう。

 

「初回は雨が降ってしまったからどうなるかと思ったけど、車内には靴を脱いでくっつきあって絵本を読む親子の姿があってすごくかわいい空間になっていました。ミエルさんで開催した時には、お父さんと子どもさんがずーっと本箱から絵本を取り出しは読んでを繰り返していたり……。そこに来る人たちはきっとおもしろい人。そのストーリーに出会うのが楽しみなんです」

 

今後は公共の図書館サービスが届きにくい都筑区エリアを中心に、コミュニティカフェ、お寺、農地、商店街など8カ所をまわる計画をしています。その計画の実施を目指し、同実行委員会では、今後の運行にかかわる経費などを集めるため、1月15日(火)までクラウドファンディングで応援を呼びかけています。

 

市民が主体となって実施するライブラリーバスはまだ全国でも例がほとんどないのだそう。図書行政の改善に声をあげ続けてきた力強さと、ないものを自分たちでつくっていく賢さとたくましさ。その夢と情熱も積み込んだオレンジボーイが、本の新しい魅力を届けてくれることでしょう。

 

<走らせよう!つづきブックカフェ〜ひと・まちを本でつなぐプロジェクト〜クラウドファンディングページはこちら>

https://cf.yokohama.localgood.jp/project/tuzukibookcafe?fbclid=IwAR1-o7Ab92SRor6hamNPofofSupUDajMbTSTaKeuAmX0rNe_WWnMDcTJgKM

Information

走らせよう!ライブラリーバス横浜都筑実行委員会

https://www.facebook.com/library.bus.yokohama/

宇都宮 南海子
この記事を書いた人
宇都宮南海子ライター/スタッフ
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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