絵本購入が目的ではない絵本屋|子どもの本& クーベルチップ
クリスマスや誕生日のプレゼント、何かのお礼やお返しなどに絵本を選ぶことってありませんか。絵本を買いたいけれど、どれを選んだらいいのだろう?いい絵本ってなんだろう?などと悩んだりしませんか。そんな疑問や悩みを解決できるような絵本屋さんが横浜市南区の弘明寺商店街脇にひっそりとあります。(ローカルライター講座修了レポート:取材・文・写真=堤亜沙美)

横浜市南区の弘明寺商店街と交差する大岡川。春は桜並木で賑わい、一年中子どもたちが、川で泳ぐ魚を覗き込む姿が見られます。商店街のにぎやかな喧騒と川沿いの静かな空気に包まれた中に「子どもの本& クーベルチップ」という小さな絵本屋さんがあります。

 

いつも通る道なのに、ある日突然目に飛び込んできたお店がありました。外から見ても何やらかわいらしく、面白そう。これは見過ごせない! その日は大きな荷物を持っていて早く家に帰りたかった私でしたが、つい入ってしまいたくなる店構えで、中に入るとそこは楽しさにあふれていました。

 

かわいいぬいぐるみが鎮座している間に絵本がたくさん。幼少から慣れ親しんだかこさとしさんの「だるまちゃん」。私の息子たちが小さい頃に読んであげたわかやまけんさんの「しろくまちゃん」。しばらく会っていない絵本の中の幼なじみに会えたのも嬉しかったのですが、大型書店にも置いてなく取り寄せしてもらったこともあるような珍しい絵本が何冊もあり驚きました。

 

なんで今まで見つけられなかったのか、オープンして間もない頃であったり、私が通る日はお店の開いていない月曜日であったりしたというからくりがあるのですが、その時は魔法で突然お店が現れたような、そんな不思議な感覚に陥りました。大げさではありますが、私は一瞬でこのお店に恋に落ちたのでした。

初めて見た時はかわいい雑貨屋さんかな?と思いました

この時、オープンして2カ月が過ぎた頃でした。あれから2年過ぎても、この子どもの本を扱うお店の素敵さは色褪せることがありません。本離れ、活字離れが深刻化している今日において、子どもの本だけを取り扱うのは難しいのではないか、などと思いつつ、経営者である中村裕子さんと神保桂子さんにお話を聞きに伺ってきました。

 

まず、店名である「クーベルチップ」って、なんとなくドイツ語っぽい雰囲気だけど、と知ったかぶりして「ハンガリー語?」なんて聞いてはいけません。これは「PICTURE BOOK(絵本)」を逆さまに読んだもの。KOOBERUTCIPというわけです。もう名前からこのお店が遊びに包まれていると思いませんか?

 

中村さんと神保さんの出会いは、お二人のお子さんがまだ小さかった時に通っていた上大岡の「えほんやさん」というお店でした。そのお客さんだったお二人は、えほんやさんに集まる仲間たちとちょうど今年20年目となる児童文学講座を開講し、絵本に関するさまざまなイベントなどを実施していたそうです。しかし、その店は、売上が伸びなくなり、10年ほど前にお店を閉めることになったのでした。

 

えほんやさんが閉店してから約10年の間、「店舗を持たない書店」としてイベントを開催して手売りで本の販売をしていたお二人でしたが「いつかお店を持ちたいね、と話をしていたの」と、中村さんは話します。店舗経営の経験も具体的なプランもないままに物件情報だけはなんとなく見ていて……と、飛び込んできたのがお二人の条件にぴったりな空き物件でした。

 

お二人が考えていた絵本屋さんの物件として最適な条件とはなんでしょうか。

・路面店であること(ベビーカーのお客様にも入りやすいし、搬入時に重い書籍も運べる)

・店舗の前を車が通らないこと

・「えほんやさん」があった上大岡から近いこと(弘明寺と上大岡は隣駅です)

 

その上、弘明寺商店街というちょっと下町の雰囲気のあるにぎやかな商店街は親子連れもたくさん歩いています。またお店の外を眺めると、大岡川を流れていて自然が身近な環境にあります。

 

これは始めなきゃ!と運命のように出会った物件をお店に仕立て上げるべく、オープン当初は600冊ほどしか絵本を揃えられなくて、自前の絵本を非売品として飾ったりしていたそうです。2年経った今は1,200冊と倍の絵本を並べており、「前はあの本はここにあるってすぐわかったのに、今は探さないとすぐ出てこないのよ」と中村さんは笑います。

サンタクロースの折り紙を折る神保さん(左)

子どもの目線には電車の本が並んでいます。大人の目線には大人向けの本も。その時々で並び方を変えるそう

 

お店という拠点には人が集まってきます。それは作家であったり、編集者であったり。その人たちがまた人を呼んで……といった具合に。クーベルチップを訪れると、絵本作家さんが遊びに来ていて出会えることがあります。

 

かわいいディスプレイも「これ飾って!」と作家さんたちが持ってきたものです。お店を見渡せば、大きなブルーナのリトグラフ、ムーミンパパとママの椅子、クルテク・もぐらくんをモチーフにした刺繍などが飾られています。また子どもたちが座って絵本を読めるように、ダンボール作家さんが作ったテーブルとチェア、ぬいぐるみ作家さんが作ったあみぐるみもいたるところに飾られています。

 

お話を聞きながら、お二人の人徳に何かお手伝いしたい、お店に関わりたいという人が集まってきているのではないか。と私は思います。

取材時はクリスマス前だったのでツリーをディスプレイ。飾られたあみぐるみは一部購入できます

 

ちょうど時間がきてブックトークが始まりました。「今日のごはん何食べる?」がテーマで食べ物が出てくる、中村さんによる絵本の読み聞かせと、その絵の面白さ、作家が創作の中で遊ぶちょっとした仕掛けなどの説明をしてくれます。二人の女性客が「美味しそう」「知らなかった」などと相槌を打ちながら聞いていました。大人でも絵本を読んでもらうと嬉しい、というのを実感しました。

 

「絵本を読むってことは言葉を獲得することにもつながり、子どもにとって大事なことなのよね」と神保さんが教えてくれました。言葉を獲得するということは、言いたいことを伝えたり、考えたりできるということ。そして中村さんも「絵本って別の人生を生きられるじゃない? 豊かになるよね」と同調するのです。

中村さんによるブックトーク。カレーライスが美味しそう

このブックトーク以外にもワークショップや原画展、作家や編集者などのトークイベントも行われています。この日は相野谷由起さんの絵本原画が壁面に飾られていました。原画は、印刷された絵とは違い、作家の息遣いまで伝わってくる迫力があります。繊細な色使い、筆のタッチ、鉛筆で書かれたメモ書き。また相野谷さんのギャラリートークも合わせて企画され、絵本を読むだけではわからないエピソードも話してくれる予定です。

相野谷由起さんの原画展。ぬくもりのあるやさしい絵です

絵本は子どもだけのものではなく、大人のものでもあると私は思います。そして大人が良いと思うものでないと、子どもにも伝わらないのです。大人が楽しいと思えば、子どもも楽しい。子ども目線ではなく大人目線であっても、子どもにはちゃんとその良さ、面白さが伝わっているような気がします。

 

「ここに来るお客さんってね、人生を語っていくのね」

中村さんはそう言います。子どもの本を取り扱うお店で大人が人生を語りたくなる!そう言えば私も語っちゃっていたかも……!

 

このお店に「〇〇〇ってタイトルの絵本をください」というお客さんは少ない気がします。ふらりと寄って人生語ると「この本どうかしら?」と勧められて、それを読むと今の気持ちにぴったりで買って帰るといった場面が多いのではないかな、と想像します。

 

ある時は、「堤さんが好きそうな絵本が入ったわよ」と絵本を出してきてくれることもあります。私の好きそうな絵本というのは一体? と思うのですが、差し出された本はなるほど確かに好きな絵本だったりします。

 

読み聞かせのボランティアで高学年向けの本を探しているのだけれど、と言えば、ちょっと難しいけれどこんなのはどう? と出してくれたり、この作家が好きってことはこっちもおすすめ、と見せてくれたり。大型店では真似できない小さな絵本屋さんだからこそできるコミュニケーションです。

 

だからこそ、このお店の名前の「子どもの本& 」の&の後ろがあえて空白で、そのsomethingが大事なの、と中村さんも神保さんも声をそろえます。そのsomethingが何なのか。おしゃべりだったり、ワークショップだったり、ギャラリーだったり。それを固定せずみんなに委ねるところがこのお店の居心地の良さのような気がします。

プレゼントしたい絵本はどんなものでしょうか?

お二人に「好きな絵本は何ですか?」と聞きましたが、「よく聞かれるけど難しいのよね」と言われました。好きな絵本は確かにあるけれど、その時々によって違うのかもしれません。それで、「いい絵本ってどんな本ですか?」と聞こうと思いましたがやめました。その人によっていい絵本は違うだろうし、その時のシチュエーションによっても変わると思ったからです。

 

「お料理好きな人がこれは美味しかったよ、と話すじゃない。私は絵本の話がしたいの」と話す中村さんと、「ここが好き。好きなものに囲まれていたい」という神保さん。でも「好き」だけではお店の経営は難しいのです。長く親しまれていたえほんやさんの例もあります。

 

今、クーベルチップは地域に密着したお店ということで、小学生が町探検で訪れることを受け入れたり、横浜市南図書館とコラボレーションした企画で講演会を開いたりと努力しています。

子どもに良質な絵本を、大人に心のゆとりを持たせてくれるこの場をどうやったら存続、維持できるか、何かお手伝いできることはないかな、など考えずにはいられません。今はインターネットで絵本も簡単に買えますが、絵本とそれにくっついてくる楽しい時間を味わいに、たくさんの方にお店を訪れてほしいと思います。

以前私が講師として開催しただるまワークショップの豆だるまちゃん

「一年くらい買われなかった本がある日買われていくでしょ。この人が買ったかぁ、なんて思うのが売り手の醍醐味」。中村さんがそう言いますが、お客である私の言い分としては一年誰も買わなかった絵本を見つけるのも買い手の醍醐味。その日私は一年ほど寝かされていた『猫かるた』(岡林ちひろ、石黒亜矢子=作、MOE BOOKS)を買って帰りました。

猫あるある!家族で回し読み、大笑いの一冊

Information

子どもの本& クーベルチップ

〒232-0061

横浜市南区大岡2-1-17 セレサ弘明寺102

 

Tel & Fax 045-334-8702

Email kooberutcip0825@gmail.com

HP http://ehonsuki.wordpress.com/

Facebook 子どもの本&クーベルチップ

 

営業日:木~土 11:00~18:00

日・祝 12:00~17:00

月~水の祝日は休業

 

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