贈るように本をつくり、届けるということ|三輪舎・中岡祐介さん
言葉が、本そのものが、贈り物のように心に届く一冊との出会いがありました。本を仕事にする10人の執筆者が、本を贈る、ということについてつづったエッセイ集『本を贈る』です。編集、発行しているのは三輪舎。横浜市港北区で中岡祐介さんがひとりで営む出版社です。どんな思いを込めて本を送り出しているのか、お話を聞いてきました。

 

布張りのようなざらりとした手ざわりで、凹凸のある金色の箔押しが印象的な手描きのタイトル。どこかエキゾチックな絵。初めて目にしたときから、どんな本なんだろうと惹きつけられました。2018年9月に発行された『本を贈る』は、編集、装丁、校正、印刷、製本、取次、営業、書店、本屋、作家と、本にかかわる10人が、それぞれの持ち場で向き合う本への思いをつづっています。

 

校正者と著者との驚くほど知的で愉快な攻防、紙の佇まいをセンチメンタルに表現する製本屋さん、工業製品ではなく「作品」としての本の未来を展望する印刷のプロ…… 。それぞれの本の物語が、静かだけれども熱量を持って、生き生きと描かれています。高度な機械化が進み、人の気配を感じずにものを買えるいまの時代。一冊の本が手元に届くまでに、これだけの人が、これだけの思いを持って関わっているのだということが、じんじんと伝わってきました。

大切に飾っておきたい『本を贈る』

この本を出した三輪舎は、2014年に横浜市港北区で立ち上げられた出版社です。代表の中岡祐介さんは、偶然にもわたしと同じ1982年生まれ。TSUTAYAのフランチャイザーである会社で8年勤めたのちに、子どもが生まれるタイミングで、出版社を開業することにしたのです。

中岡さんは、現代の暮らしを、速度を緩めた途端に成り立たなくなる「自転車操業」と表現しています。速さを求められる世の中に対する、もうひとつの選択肢として「三輪的」な活動を応援したい。三輪舎の理念として、そう掲げています。創業から5年、丁寧に5冊の本をつくってきました

 

子どもを保育園に送り、洗濯物を干して、仕事をし、スーパーで買い物をして、子どもを迎えに行く。自分で会社を起こし、自分の仕事をつくることで、半径の小さな暮らし方を実現させました。そうして送り出してきた本は、一人の生活者としての中岡さんのまなざしが生きています。『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。』『未来住まい方会議』など、時代感を捉え、子育てのあり方や暮らし方を考えるきっかけを与えてくれます。

 

三輪舎という印象的な社名の由来には、いくつかの思いが重なっています。そのひとつに、広島平和記念資料館に残されている三輪車があります。三輪車に乗って遊んでいて被ばくし、3歳で亡くなった男の子の三輪車です。かつて目にしたその三輪車が、中岡さんの心にずっと心に残っていました。「何のために本をつくるのか、と考えたときに、自分たちが今考えていることを、次の時代に積み重ねてアーカイブする、という意味合いもあると思うんです。生きられなかった子どもたちのためにも、世代をつないでいくという思いで本をつくっていきたい」と話します。

思いを込めた三輪舎のロゴ

 

『本を贈る』はまさに、本を取り巻くいまの時代感を包み込んだような一冊です。

 

会社員として書店で働いていたころ、書店に届く本の箱を開く瞬間に、これはこの人に、これはあの人に……とお客さんの顔が思い浮かんだそう。お客さんのために本を選ぶということが、だれかに本をプレゼントする感覚に近いなぁ、と感じていたそうです。本をつくることから売ることまで、本に関わる仕事は、川上から川下まで「本を贈る」という言葉でつなげられるんじゃないか、という当時からの思いが、この本の原点にあります。

 

本が仕上がったときの感触を「思い描いているものを形にするのが編集者の役割と思っていたけれど、想像を超えるものができて。これは単なる勘違いかもしれないと、逆に自信がなくなってきたのです」と振り返ります。執筆者に太鼓判を押され、ようやく手応えを実感したそうです。

『本を贈る』と同時に発売した『つなみ』に続いて、次はインドのタラブックスの『ロンドン・ジャングルブック』の発行が決まっている。取材時は束見本で表紙のイメージを選定中だった

『本を贈る』はさまざまな書評で取り上げられ、全国の書店で評判を呼び3刷まで重ねています。「部数が売れたからといって、いい本というわけではないと思うんです。一人ひとりが、細部までちゃんと読んでくれることが大切です。この本は、本好きな人がたくさん読んでくれたけど、今までそんなに本を読んでいなかった人も読んでくれたのがうれしいです」と話します。三輪舎宛に読者からのファンレターも届いているそうです。

 

そして、三輪舎は新たな節目を迎えています。これまで自宅の一室をオフィスとしていましたが、隣駅の東急東横線・妙蓮寺駅そばの書店、石堂書店の2階にもうひとつの拠点をもつことにしました。大手出版社の多くが、都心で本をつくるなか、横浜市港北区の「暮らしのまち」妙蓮寺で、これから三輪舎がつくる本はどんな色を帯びてくるのでしょうか。

妙蓮寺駅から石堂書店に向かう商店街。「妙蓮寺は生活のまち。この生活感が好き」と中岡さん

 

石堂書店の店長、石堂智之さんさんは「これからはお客さんの顔がより見えるようになり、このまちの出版社としての見え方が、よりくっきりとしてくるのではないでしょうか。三輪舎の本を店頭に並べた時に、この上でつくっているんですよ、とお客さんに紹介したときの反応が楽しみです」と期待を寄せます。

石堂書店の店長、石堂智之さん(左)と中岡さん。『本を贈る』は増刷のたびに装画やしおり紐の色を変えるこだわり

 

書店員からキャリアは始まり、当時からの思いが『本を贈る』につながり、「本づくりをしていても、メンタリティはずっと本屋です」と話すほど、本屋への思いのある中岡さん。”いい本”と出会うためのヒントをたずねると、「日ごろ出会わないものに出会える本屋に行くことです」と答えてくれました。石堂書店は、中岡さんが欲しいと思うような本を、選んで置いてくれているそう。欲しい本があれば、インターネットで買うのではなく、あえて地元の書店で注文して買うことで、”マイ書店”として関係を育んできたのだそうです。まちの本屋さんとのこうした付き合い方は、本との巡り合いを色濃くしてくれることでしょう。

 

中岡さんは、石堂書店のリニューアルにも協力しているそうで、老舗書店と地元の出版社がタッグを組んでどんな変化を起こしていくのか、楽しみでなりません。

石堂書店の2代目・石堂邦彦さん(左)と3代目・智之さん(右)、中岡さん

 

三輪舎の中岡さんと『本を贈る』の著者の一人、笠井瑠美子さん(加藤製本株式会社)を招いたブックトークが5月25日(土)に、アートフォーラムあざみ野で開かれます。『本を贈る』の制作過程や本づくりを通しての働き方や生き方についてのお話を聞くことができます。興味のある方は、ご予約の上、足をお運びください。また、同館で25日(土)まで『本を贈る』にまつわる関連展示もあり、本づくりにまつわる道具や著者の直筆原稿などが展示されています。すでに『本を贈る』のファンの方も、初めての方も、ぜひこの機会に『本を贈る』の世界をお楽しみください。

Information

ブック×トーク「本を贈る~本にまつわる ひと・こと・もの」

日時:2019年05月25日(土) 14時00分 ~ 15時30分

会場:アートフォーラムあざみ野 交流ラウンジ

(横浜市青葉区あざみ野南1-17-3、横浜市営地下鉄・東急田園都市線 あざみ野駅徒歩5分)

参加費:1,100円(1ドリンク付)

電話による申し込み :アートフォーラムあざみ野 045-910-5700

インターネットからの申し込み:https://www.women.city.yokohama.jp/a/event/5769/

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<三輪舎>
https://3rinsha.co.jp/

 

 

梶田 亜由美
この記事を書いた人
梶田亜由美ライター/スタッフ
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者で、ぼーっとしているようで一点突破力がある。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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