子どもの教育、どうしよう? ~『続ルポ シュタイナー学校の1年 自由への曳航』企画編集者に話を聞きました~
「子育てって楽しい!でも、わからない!」……それが、はじめての子育てをしている私の正直な気持ちです。毎日くるくると表情を変え、びっくりするような成長を見せてくれる息子。その一方で、親として自分の関わり方が合っているのだろうかと、ふと悩んでしまう自分。そんななかで、子育ての道標を求めて出会ったのがシュタイナー教育の本でした。NPO法人横浜シュタイナー学園での子ども達の成長をまとめた、『続ルポ シュタイナー学校の1年 自由への曳航』の企画編集を担当された、同学園広報の会メンバーの中島美穂さんにお話を伺いました。

私は昨年の8月に第一子の男の子を出産しました。生まれてからしばらくは、意識的に育児本は読まず、インターネットでも情報収集することを避けて過ごしました。周りの言葉に影響されやすい私は、情報がありすぎると、目の前の息子をしっかり見つめることがおろそかになってしまうように思ったからです。

 

少しずつ落ち着いてきた最近、「そろそろ育休も終わるし、何冊か育児本でも読んでみるかな~」と思って手に取ったなかの一冊がシュタイナー教育に関する本でした。そこには、私にとって魅力的な言葉がたくさんちりばめられていました。

 

「あかちゃんのリズムは宇宙のリズム。私たちは人生でたった1回だけ、人間をつくります。つまり自分というからだをつくるのです。そのために星の世界から持ってきた英知をすべて使い果たします。」

「シュタイナーは、『おとなは、顕在的に愚かな存在であり、子どもは潜在的に賢い存在だ』と言っていますが、私たちも、子どもの持っている可能性をもっと感じてみようよ、と思います。」

(出典『シュタイナーの子育て30のヒント』岩橋亜希菜=著、河出書房新社、2015年)

 

シュタイナー教育とは、オーストリアの思想家・哲学者、ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育実践の総称を指し、その目指すところは、「自由への教育」と言われています。これは、なんでも勝手気ままに、という自由ではありません。自分の意志で自分の人生を歩んでいくことができる、それを自由と呼んでいます。「自分を知って、自分自身を活かして生きてほしい」。私が子どもに対して思っていることです。シュタイナーのいう「自由への教育」は、まさにそれを実現させようとしているように思いました。

 

時を同じくして、森ノオトエリアである横浜北部において、シュタイナー教育を実践しているNPO法人横浜シュタイナー学園を知りました。さらに、同法人から昨年発行された書籍『続ルポ シュタイナー学校の1年 自由への曳航』(以下、『自由への曳航』)と出会い、シュタイナー教育を実践する場を実際に訪ねてみたいと、取材を申し込みました。

 

今回お話を伺ったのは、NPO法人横浜シュタイナー学園で、運営委員(理事)や広報の会を務める中島美穂さん。横浜市緑区にある十日市場校舎でお話を聞きました。

『続ルポ シュタイナー学校の1年 自由への曳航』(田幡秀之=著、NPO法人横浜シュタイナー学園=発行)。学園に通う子どもたちの言葉をもとに、日々の様子が描かれています

横浜シュタイナー学園は、2005年4月開校、6期生まで66名の卒業生が巣立ち、現在は1~9年生まで115名の児童生徒が十日市場校舎と霧が丘校舎で学んでいます。

 

十日市場校舎は道路沿いのビルのなかにあります。階段をのぼって、校舎のドアを開けてなかに入ると、木のぬくもり、柔らかな色合いの壁、有機的な形をした玄関や水道……。ここがビルの2階とは思えない世界が目の前に広がっていました。

校舎内側からみた玄関。ここを毎日子どもたちが出入りしていることを想像するだけで、ワクワクしてしまいます

校舎に入ってすぐのところにある水道。柔らかなこの形がなんだか心地よかったです

2018年11月に発行された『自由への曳航』は、横浜シュタイナー学園のウェブサイトで連載していたコラムを書籍化したものです。これは、2013年7月に刊行された『ルポ シュタイナー学校の1年』(田幡秀之=著、時事通信社=刊)の続編として制作されました。

 

著者の田幡秀之さんは、1冊目の取材時に、時事通信社の教育関連の部署で働いていました。シュタイナー教育に関連する本を読んだり、話を聞いたりしてぼんやりとイメージはできるものの、実際にどんなことをやっているのかがわからない。また、自分自身の理解と多くの人への理解を深めるために、感覚的な言葉よりもロジカルな言葉で伝えたいと考え、『内外教育』でのルポ連載を横浜シュタイナー学園に提案し、実現しました。それを、まとめて書籍として刊行したのが1作目です。『自由への曳航』は、1作目から5年たった今を伝えたいと、中島さん方が企画編集、田幡さんが著者として制作されました。田幡さんのシュタイナー教育に関する理解は深く、中島さん方はそれを信頼して、依頼しました。

 

制作の日々について中島さんは「楽しかった、喜びをもって仕事ができた」と言います。さらに、「田幡さんの取材力はすごいです。シュタイナー教育に関する理解も深い。私は、彼のよき伴走者になろうと思っていました。彼の記事を一番初めに読むことができることも、楽しかったです」と言っていました。

 

『自由への曳航』は、子どもたちの「今」を伝えています。登場する多くの「まだ大人ではない子どもたち」を守ることに心を砕いたそうです。学齢期である子どもたちを守るため、シュタイナー教育を誤解なく伝えるために、先生方とたくさん会話をして連載や書籍化を進めていったそうです。

 

「一番初めに記事を読め、校正し、写真を選び、一話ずつサイトに載せられるのは、私にとって喜びでした。何が大変って、webサイトの連載ページを作ったり、本を作るのが初めてだったので、最後に膨大な校正作業や印刷屋さんとの相談、表紙イメージが定まらなくて仲間であるデザイナーにも迷惑をかけたり、予算を立てて学内に企画を通すなど、大変といえば大変でしたね。でも本を手にした瞬間、嬉しさですべて吹っ飛びました。一話一話学園のリアルな姿を積み重ねることで、シュタイナー教育を伝えたいという思いでした」。一つひとつの作業を丁寧に積み重ねていった姿を、中島さんの言葉から感じました。

 

『自由への曳航』では、子ども達の言葉とともに日々の出来事や成長が描かれています。シュタイナーが提唱している理論を実践する日々を読むことで、シュタイナー教育をより身近に感じることができました。

 

例えば、シュタイナー教育での算数は、「7+1は?」と答えを求めるのではなく、「8は何からできている?」という問いかけをします。この問いかけで、7+1=という一方通行ではなく、8になる可能性はいくらでもあり、子どもたちは色んなことができるとわかります。そして、問題に対する様々な解決法を創造する力を身に付けていきます。

「教育の目標は、自分の頭で考えられるようにすることだと思います。さまざまな道を探すことは、私たちの心、物事に対する考え方を開くことにもつながるのです。」(本文より抜粋)これは、学園を卒業した高助さんの言葉です。数の学びによって育まれた感性が、高助さんの言葉に現れていると思いました。

 

他にも卒業していった子どもたちが、進路の選択に際して話している言葉は、しっかりしすぎていてびっくりするようなことばかりでした。なかでも印象的だったのが、学園を卒業後、豪州東海岸ブリスベン郊外のサムフォードバリー・シュタイナースクールに通い卒業した優香さんの言葉です。

 

「私はすべてに平均的な人です。学校の成績もクラスでの存在感も。シュタイナー学校では、何かに特化して秀でている人が多い。音楽だったり、美術だったり。そんな中で、私は何もなかった。自分ではそれがいやでした。そんな中で海外に行って、私が何かに優れた人に成れたということはありません。私は今でも全てにおいて平均的です。留学を通して自分のリミット、等身大をよく知ることができました。でも、それが自分だと分かって逆に自信になりました。」(本文より抜粋)

 

私は、自分のいやな部分を見つけたならば、それから目を背けるか、変えることができないかと考えてしまいます。そのどちらでもなく、認めて受け入れることが、まず始まりなのだと、優香さんの言葉から気づかされました。本に登場する他のどの子たちも、今の自分自身を正面からとらえて、この社会において自分がどう生きていくのかを考え、そして行動していました。

 

まさに、シュタイナー教育が伝える、自由への教育が子どもたちのなかに根付いていることを感じました。

横浜シュタイナー学園十日市場校の校舎。子どもの年齢に合わせた色の教室になっています。木のぬくもりと、優しい色彩に囲まれた空間です

中島さんのシュタイナー教育との出会いも、私と同じような形でした。たくさんの子育て本のなかからシュタイナー教育と出会い、「こういう教育っていいなぁ」という想いから、二人の子どもたちと共に、横浜市青葉区内の幼稚園、そして緑区の横浜シュタイナー学園へと歩みを進めています。

中島さんのお子さんが、学園の授業で作った色鮮やかなノートを拝見しました。シュタイナー教育には教科書がなく、エポックノートと呼ばれるこれらのものを自分で作ります

こちらも中島さんのお子さんが授業で作ったもの。自分の手で実用的な物を作り出すことができる、ということを学びます

私自身、シュタイナー教育は、共感する点は多いけれど、実践するのは難しいというイメージを持っていました。算数の問いかけひとつにしても、親である私が受けてきた教育とあまりに違うからです。ルポを読んでも、正直に言うと、身近ではない特別な世界のように感じていました。どの卒業生も、自分の意志を持ち、高校から自分で選択して行動していることが、私にとってはすごいことだからです。みんなと同じ教育を受けて、決められた範囲のなかで、決まった評価基準において進路を進むことが当たり前だと思っていた自分にとっては……。

 

ですが、横浜シュタイナー学園の校舎はとても柔らかく温かで、中島さんの言葉は身近でした。

「テレビはだめ、漫画はだめ、ミツロウのクレヨンを買って、無垢の家具で環境を整えて……。そういったシュタイナー教育の一部分を知って、ハードルを高く感じる人はいます。それらは、一部であるが、シュタイナー教育のすべてではありません。大切なことは、今、目の前の子どもに向き合うこと、その子の成長をとらえること」という中島さんの言葉が心に残っています。中島さん自身も、今に至るまでパートナーと「子どもをどう育てたいのか?」を何度も何度も話し合って考えてきたそうです。「そうやって考えて導き出したことじゃなければ、子どもから問われたときに答えることができない。自分が信じる方向に行けば子どもたちもついてくる」と話していました。

 

これから先、「こうすれば幸せ」というロールモデルはなくなり、「自分にとっての幸せ」を見つけ育む時代に、どんどん変化していくと私は思っています。そういった時代を生きる子どもにとって、シュタイナー教育がもたらす「自分の道の見つけ方、歩み方」はとても価値のあるものだと思います。

 

シュタイナー教育は遠い世界のものではありませんでした。まず、今この瞬間の子どもを見つめ、私たち家族にとって歩みたい道を感じ探すことから始めたいと思います。

横浜シュタイナー学園が行うイベントのチラシをいただきました。まずは、こういったところに参加して、子どもと向き合うヒントを見つけていきたいと思います

Information
*『続ルポ シュタイナー学校の1年 自由への曳航』のご購入はこちらから。
https://yokohama-steiner.jp/books/#zoku_rupo

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●妊婦さん、乳幼児家庭向け特別講座

講演会 ~子育てをみんなで一緒にみつめる時間~

「子どもが生まれて変われること」

講師:宮地陽子先生(横浜シュタイナーこどもの園教師)

2019年6月2日(日)10:00~12:00

横浜シュタイナー学園 十日市場校舎

参加費:1,500円 定員:大人20名

お申込み:横浜シュタイナー学園事務局

Tel&fax:045-922-3107 e-mail:gakuen-info@yokohama-steiner.jp
●世界がかわる学び

夏休みのシュタイナー体験

SDGs 持続可能な教育を体験できる3日間

8月16日(金)~18日(日)

渋谷区文化総合センター大和田

入場無料

主催:未来の教育を考える会「ヴァルドルフ100ジャパン」/共催 日本シュタイナー学校協会

問合せ先

mail:jwsakouhou@gmail.com

tel:045-922-3107(横浜シュタイナー学園内)

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特定非営利活動法人

横浜シュタイナー学園〒226-0016

横浜市緑区霧が丘3-1-20

TEL&FAX 045-922-3107

gakuen-info@yokohama-steiner.jp

http://yokohama-steiner.jp

松田朋子
この記事を書いた人
松田朋子ライター
神奈川県逗子市在住。約12年間、猛烈サラリーマンを経験。出産を機に仕事以外への視野が広がり縁あって森ノオトライターに。ワークライフバランス、子どもの教育、食や健康に興味あり。趣味はヨガと海。
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