つながるローカルメディア(1)港北区「えがお」本間克之さん
港北区内の公共施設や回覧板で配られている“プラチナ世代”向けのフリーペーパーがあります。制作から配布、広告営業、読者の居場所づくりまでほぼ1人手がけているのは、元介護士の本間克之さん。コミュニティカフェ「大倉山ミエル」で月2回開いているというカレーランチにお邪魔して、お話を聞いてきました。(写真・文 齊藤真菜)

“アクティブシニア“になる手助けを

——「えがお」の創刊経緯を教えてください。

 

2017年の9月まで10年弱介護士の仕事を続けていましたが、国の介護保険制度の範囲では、このおばあちゃんのために介助を行っているから、横でおじいちゃんがよろよろしていても助けちゃいけないとか、これは手伝っていいけどこれはいけないとか、制限がたくさんあるんですね。もっと十分な介護がしたいという気持ちが強くて、介護保険外介護の事業をやろうと最初は考えていました。ただ、それだと私が每日活動し続けても一カ月に60人くらいの支援が精いっぱい。そんなときに、知人に宮城県仙台市の高齢者向け情報誌『みやぎシルバーネット』のことを教えてもらい、情報誌なら100倍の方の幸せにアプローチできる、と考えて起業しました。

 

最初は横浜市や神奈川県といった大きな括りにしようと思いましたが、リサーチのために大豆戸町(港北区)の地域ケアプラザに行ったら、そこだけですごい情報量があってびっくりしちゃったんですね。お年寄りの行動範囲はだいたい2、3駅分、1区の中で動いているので、それで地元の港北区限定にしました。2017年12月の創刊準備号は4,000部でしたが、少しずつ増やして現在は1万5,000部発行しています。

毎月15日発行の『えがお』。タイトルや枠のトーンカラーは、毎号表紙で紹介する人の雰囲気や服装に合わせている

——取材対象は、これまでのお仕事のつながりなども生かして探されているんですか。

 

そうですね。区役所や区民活動支援センターの方たちもすごく協力してくださって、顔を出すと「いい人が今来てるから」といって紹介されたり、電話をくれたりします。1面には地域の輝くお年寄り、2面には取材してきたイベントなどの様子、3面は文芸、4面は情報コーナーにサークルやイベント情報を山ほど載せています。

 

僕のいう高齢者はいわゆる後期高齢者の75歳以上くらいの方を指しますが、港北区は3万人強が75歳以上なんですね。全部とはいかなくても、その半分くらいに届いたらすごい媒体になるかなと。まずはサークル活動などに参加している“アクティブシニア”に知ってもらって、段階を追ってアクティブでないシニアにも届けたいと思っています。高齢者のことを知っているのは高齢者同士なので、最近同級生の〇〇さん出てこないな、と思ったら、『えがお』を持って誘いに行ってもらうようにしたいんです。一度外に出ると気分が良くなって動き出すので、次の人を誘ってくれる。そこまでの活動を支えたいと思っています。文芸コーナーは家にいながら応募できるので、膝を壊しちゃった人でも参加できますし。

 

 

足で稼ぐネットワークが財産

 

——配布もすべてご自分で廻られているそうですね。

 

3日かけて、区役所や区民活動支援センターのほかに、地域ケアプラザや老人ホーム、生協、各地の町内会、これまで取材させてもらったサークルのリーダーの方のお宅など、計約250カ所に配布しています。町内会は、回覧板の数だけお渡しして回覧してもらうところもあれば、全戸配布のところもあります。

配布時に前月分を回収するので、どこでどれだけ手に取られているかも把握しています。

子どもの頃から地域のボランティア活動に参加していたという本間さん。「お年寄りとの接点は人生に潤いを与えますね」と話します

 

——媒体としてポリシーにしていることはありますか。

 

(港北区の南部に位置する)菊名に住んでいると、どうしても(港北区の北部の)日吉や高田の情報が薄くなるので、あちらに行く回数を増やすようにしています。それでも得られる情報量はやっと同じくらいですね。妙蓮寺、仲手原方面の人も、次号の表紙でやっと取り上げます。

 

表紙は男女交互に出てもらっていますが、男性の多いイベントをなるべく取材することも心がけています。自分も男性の立場で日中まちを移動していると、やはりどこへ行っても女性のほうが多くてアクティブなイメージがあるんですね。働いているときはそんな余裕はなかったけど、70代になって地域デビューした、というような男性が多いです。

 

それと、これまでは必要なときだけ取り上げるようにしていたんですが、せっかく専門なので、認知症について学ぶコーナーを毎回入れることにしました。これも僕の個性だなと。

 

——紙面発行に加えて講座などの学びの場もたくさん企画されていますね。

 

認知症サポーター講座は毎月どこかでやっています。スマホ講座を開催しているのは、川柳や短歌はファックスで応募する方がほとんどだからというのもあります。スマホでメール送信を覚えてもらえれば、僕も楽になりますしね。文章講座は、上達したいというよりは、文章に触れていたい方向けです。ゆくゆくは地域特派員を置いて記事を作ってもらいたいので、まずは文章を書いてみたり、読んで意見を出し合ったりしています。いずれは、僕は広告や印刷に専念したいと思っていいます。講座の参加者は上は82歳、多いのは60〜70代ですね。

 

今年の1月から始めた「えがおdeプラチナFASHION塾!」というコーナーでは、樽町在住の倉屋勇治先生という本物のファッションデザイナーさんと一緒におしゃれな人に会いに行って、先生にその人の良いところを書いてもらっています。今は私が写真を撮っていますが、そのうちカメラマンさんと先生2人で行って、原稿を作ってくれる形にできたらなと思っています。

 

「えがおの仲間」というプラチナ世代同士で集まる企画会議の場も設けています。前回はとにかくおしゃれして出かける場がほしいよねという話になったので、じゃあ見つけて皆で行きましょうと。

大倉山ミエルで第2第4水曜に開催しているえがお主催の「カレーの日」は誰でも参加OK。本間さんに介護に関する相談をする人も

 

港北区外に広がる「えがお」

 

——そのほか課題や困りごとはありますか。

 

この活動をしていると、社会福祉関連の情報や相談が本当によく入ってくるんですね。僕としては、ボランティア魂がとても潤うし、やりがいがあるのですが、あとは広告の売り上げとのバランスですね。

 

広告収入とは違いますが、都内の葬儀会社の社長さんから声をかけていただき、フランチャイズのような形で今年の1月から江東区版の『えがお』を発行しています。まったく同じつくりで、文芸コーナーだけはまだあちらで集めきれないので港北区版と同じものを使っていますが、そのほかの中身はすべてあちらで独自に制作したものです。高齢者とのネットワークをしっかり築いていきたいということで、自社の広告も入れられますしね。老人クラブ連合会の全面バックアップもあり、初号から2万部刷っています。

 

——すごく良い形で広がってきているんですね。

 

それまでは私の個人事業でしたが、昨年8月に、その社長さんと私、『エール』というシニア向け季刊誌の編集長の3人が理事となって、えがお運営母体の一般社団法地域コミュニティ振興協会を立ち上げました。江東区版も、よほどのことがなければ口出しはしませんが、原稿は必ず私も目を通していますし、私も困ったときは2人に相談しています。

 

実は短歌の先生が3月に亡くなられて、代わりに選歌をお願いできる方もいなかったので、この機会に短歌コーナーをやめることもできるけどどうしようかと話し合ったんです。載せたい情報が多くてとにかくスペースが足りないので。でもこれは絶対やめないほうがいいという結論になり、編集部選として続けることにしました。自分の作品が載ると、載ったよと周りの人に配ってくれるんですね。少しでも多くの方の作品と名前を載せることで、高齢者にプライドを持ってもらいたいんです。

本間さんご夫婦が仕込んだ美味しいカレーをいただきました。編集後記にたびたび登場するノロケ話が読者との話のきっかけになることも多いそう

 

——今後の展開として考えていることはありますか。

 

まずは部数を2万にはしたいですね。それでもまだアクティブな人止まりだと思います。「彩りあふれる豊かな生活をもう一度取り戻す」がテーマなので、その先に届くようにしていきたい。商店街の紹介や、読者同士の投稿コーナー、相談コーナーなどやりたいことはたくさんあるんですが、とにかくスペースが今はいっぱいなんです。地域特派員が置けるようになったら、ページを増やしたいですね。

 

——ありがとうございました!

 

※この記事は、神奈川県の「かながわボランタリー活動推進基金21」の助成を受けて実施している「ローカルメディア事業」の連載企画として制作しています。

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